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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)69号 判決 1992年3月25日

静岡市小鹿2丁目24番1号

原告

矢崎化工株式会社

原告代表者代表取締役

矢崎敦彦

原告訴訟代理人弁理士

山名正彦

大阪市東住吉区杭全7丁目9番1号

被告

株式会社辰巳

被告代表者代表取締役

辰巳慶二

被告訴訟代理人弁理士

藤本昇

主文

1  特許庁が、同庁平成1年審判第18044号事件について、平成3年1月24日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「包装袋入り大型ごみ袋」とする考案(以下「本件考案」という。)に係る実用新案登録第1690970号(昭和53年5月19日出願、昭和57年12月13日出願公告、昭和62年8月11日設定登録)の権利者である。

原告は、平成元年10月24日、被告を被請求人として、右実用新案登録を無効にすることについて審判を請求し、特許庁は、同請求を平成1年審判第18044号事件として審理し、平成3年1月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は、同年3月6日、原告に送達された。

2  本件考案の要旨及び本件審決の理由の要点は、別紙平成1年審判第18044号審決写理由欄記載のとおりである。なお、本件考案については、別紙本件考案図参照。

3  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、本件考案の構成が、第1引用例記載の考案と実質同一であるにもかかわらず相違していると誤認し、また、本件考案が奏する作用効果も格別なものであると誤認し(取消事由1)、第2引用例記載の考案の認定を誤ったために、本件考案が第1引用例及び第2引用例の各記載に基づいて容易に考案することができたものとは認められないと判断した(取消事由2)結果、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできないと誤って判断したものであるから、違法として取り消されなければならない。

(1)  取消事由1

本件審決は、本件考案と第1引用例記載の考案とを対比すると、「本件考案は、大型ごみ袋を対象とするもので、長尺袋連続体を紙管を用いずして長手方向に巻いて横断面扁平渦巻形態とした巻取袋連続体を扁平筒形状の包装袋に収納したのに対し、第1引用例記載の考案は、対象とする袋については定かでなく、長尺袋連続体を比較的大きな内径でロールに巻き、ロールから抜き出してこれを扁平に押し潰した横断面扁平形態の巻取袋を、2つ折りに丸めて収納できるフィルム体の横幅方向と平行となった取出口を有する角袋形状の包装袋に収納した点」の構成が相違すると認定している。

しかし、この認定、判断は下記の理由で誤っている。

<1> まず第1に、第1引用例記載のフィルム製袋の用途が明示されていなくとも、第1引用例の出願当時、既にこの種フィルム製袋の種々な用途の中に「ごみ袋」が含まれ、それが当業者に周知されていたことは、例えば第2引用例の第4欄第17行目に「廚介物収容袋」の用途が記載されていることから明白である。また、袋が大型であれ、小型であれ、両考案とも、長尺袋連続体を長手方向に沿って二つ折り以上に折重ねて細巾とし、かつこれを長手方向に巻く技術的思想において正に共通する。

したがって、「袋」の用途及び大小に関して、本件審決が、「本件考案は、大型ごみ袋を対象とするもので」、「第1引用例記載の考案は、対象とする袋については定かでなく」として構成の相違点に挙げたことは、認定、判断を誤ったものである。

<2> 第2に、第1引用例記載の考案のように「長尺袋連続体を比較的大きな内径でロールに巻き、ロールから抜き出し」たものも「横断面渦巻形態」である。そして、前記「渦巻形態」を扁平に押し潰したものは正に「横断面扁平渦巻形態」に相違ないから、この点で両者の「巻取袋連続体」の構成は同一である。

したがって、本件審決が、本件考案は「長尺袋連続体を紙管を用いずして長手方向に巻いて横断面扁平渦巻形態とした巻取袋連続体であるのに対し、第1引用例記載の考案は、長尺袋連続体を比較的大きな内径でロールに巻き、ロールから抜き出してこれを扁平に押し潰した横断面扁平形態の巻取袋」であるとし相違点に挙げたことは誤っている。

さらに、本件審決は、「本件考案においては、紙管を用いずして巻取りされるため巻取り後のごみ袋連続体は横断面扁平渦巻形態であるのに対し、第1引用例記載の考案は、ロールに巻取るため巻取られた形態は真円形筒状体であり、また、ロールから巻装された形態のまま抜き出して扁平に押し潰さなければ扁平形態にはなりえず、両者は、その巻取り形態及び扁平形態の形成においてその構成が相違する」と理由付けている。

しかし、第1引用例記載の考案も、巻芯をもたない「横断面扁平渦巻形態」の巻取袋の構成に基づいて、本件考案と同様「巻取り易く、又、使用時には解き易く、細巾化と相俟って嵩張り少なく薄型に、又、出入れも容易となり、出入れに際しばらつく虞れもない」という作用効果を奏するので、結局、両者の「巻取袋連続体」は実質同一の構成と解され、この点で本件審決の認定、判断は誤っている。

<3> 第3に、本件考案の明細書によれば、「包装された大型ごみ袋を使用する場合は、包装袋5の封口片8を開いて巻取ごみ袋連続体9を取出し、第6図に示すように1枚分だけ解いて切離線3に沿って切り離し、切離後三つ折り状態を展開させて使用すればよいのである。残りの巻取りごみ袋連続体9は包装袋5の中に収めておけばよい。」と記載されている(公報第3欄17行~23行)。これは要するに、ごみ袋の使用に際しては、巻取ごみ袋連続体をいちいち包装袋から外に取出し、1枚分切り離した後再び包装袋内へ戻すのであるから、結局、本件考案における「包装袋」は、単に「巻取袋連続体を収納する入れ物」にすぎないと解される。そうすると、同じく「巻取袋連続体を収納する入れ物」である第1引用例の「外袋B」も、「入れ物」という点では本件考案の「包装袋」と構成が同一である。

したがって、本件審決が、本件考案は、前記「横断面扁平渦巻形態とした巻取袋連続体を扁平筒形状の包装袋に収納したのに対し」、第1引用例記載の考案は、前記「横断面扁平形態の巻取袋を、2つ折りに丸めて収納できるフィルム体の横幅方向と平行となった取出口を有する角袋形状の包装袋に収納した」点を構成の相違点に挙げたことは、認定、判断を誤っている。

以上のとおり、本件考案の構成は、第1引用例記載の考案と実質同一であり、本件考案が奏する作用効果も格別ではないから、本件考案は、実用新案法第3条第1項第3号の規定に該当するものである。

(2)  取消事由2

本件審決は、「第2引用例記載の考案にも前記第1引用例記載の考案と同様に本件考案の必須構成要件とする「長尺袋連続体を紙管を用いずして長手方向に巻いて横断面扁平渦巻形態とした巻取袋連続体を扁平筒形状の包装袋に収納した」の点の構成は、一切開示も示唆もされていない。」と認定している。

しかし、第2引用例に記載されている「箱体4の横幅に応じた幅に折畳んだ上、第1図Aに示すが如く、ロール状に巻いて、これを扁平に圧した………形状」(公報第2欄22行~26行)の「巻取袋連続体」も「横断面扁平渦巻形態」の構成であり、また、第2引用例に記載されている「箱体4」も、「入れ物」としては実質同一の構成であり、本件考案と同様の作用効果を奏する。

したがって、本件考案は、実用新案法第3条第2項の規定に該当するものである。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1及び2の事実は認め、同3の主張は争う。

2  本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。

(1)  取消事由1について

<1> 本件審決が「本件考案は大型ごみ袋を対象とするのに対し、第1引用例は対象とする袋については定かでない」として構成上の相違を認定した点について、原告は、第1引用例の出願当時、フィルム製袋の用途の中に「ごみ袋」が含まれ、それが当業者に周知であったこと並びに両考案とも長手方向に巻く技術思想が共通するから、前記の点を構成の相違と認めたことは審決の誤りであると主張する。

しかしながら、本件考案は大型ごみ袋を嵩張り少なく薄型且つ小型に包装袋内にコンパクトに収納することを課題とするところから、本件考案にとって大型ごみ袋を対象とする構成は極めて重要な構成要件であるため、大型ごみ袋について開示されていない第1引用例とは明らかに構成上の相違があり、これを相違点として認定した本件審決には何ら違法がない。

原告主張のように「ごみ袋」が周知であったとしても本件考案と第1引用例記載の考案との構成対比において、「大型ごみ袋」は重要な構成上の相違点である。

また、原告は、両考案とも長手方向に巻くので大型、小型の如何は問題とならないと主張するが、「問題とはならない」の意味が不明であり、かつ問題となるか否かと構成の相違があるか否かとは別問題である。

いずれにしても、本件考案と第1引用例記載の考案とは、構成上、大型ごみ袋を対象とするか否かに相違点があることは明らかである。

<2> 原告は、本件審決が「本件考案においては、紙管を用いずして巻取りされるため巻取り後のごみ袋連続体は横断面扁平渦巻形態である」と認定、判断したことは、自然法則を誤認した結果であると主張するが、本件考案は、「紙管を用いずして長手方向に巻いて横断面扁平渦巻形態」としたことを要旨の一部とするものであるため前記審決の認定は何ら違法ではない。

また、原告は、紙管の有無に関係なく長尺袋連続袋を普通に巻き取れば、その巻取り形態は真円形筒状体になるのが自然の法則であると主張するが、第1引用例記載の考案のようにロール状の紙管に巻取れば真円形にはなるが、本件考案のように紙管を用いずして巻くことにより扁平形態にすることとは明らかに相違するため、紙管の有無に関係なく真円形に巻取られるとの原告の主張は不当で事実に反する。

さらに、原告は、本件考案の「紙管を用いずして巻取りされるため」と「巻取り易く」という作用効果の因果関係も不自然であると主張するが、本件考案の「巻取り易く」の作用効果は、本件考案の「多数枚の大型ごみ袋を相互に切離可能に連続させてこれを長手方向に二つ折り以上に折重ねて細巾とする」構成から得られる効果であって、原告主張のような「紙管を用いずして巻取りされる」構成から得られる効果ではなく、かつ原告主張のような記載は本件考案の明細書にはない。

次に、原告は、第1引用例記載の考案も紙管をもたない横断面扁平渦巻形態の巻取袋連続体で、本件考案と同様の作用効果を奏するため実質同一の構成であると主張する。

しかし、第1引用例記載の考案を示す甲第3号証の2の明細書第4頁3行ないし10行には「連続フィルム体Aは比較的内径が大きくなるよう巻胴の外径が比較的大きいロールに連続して所定量巻取られる。……そしてロールに所定量巻取られた連続フィルム体Aはロールから巻装された形態のまま抜き出され扁平に押し潰され」と明示されているとおり、明らかに第1引用例記載の考案はロールに巻取り、扁平化するために積極的に押し潰す構成であり、本件考案とその構成が相違することは一見明白であるため、原告の前記主張は全く理由がない。

したがって、本件考案の構成である「紙管を用いずして巻取りされるため巻取り後のごみ袋連続体は横断面扁平渦巻形態」と第1引用例記載の考案の「ロールに巻取るため巻取られた形態が真円形筒状体で且つロールから巻装された形態のまま抜き出して扁平に押潰されなければ扁平形態とはなりえないもの」とは、明らかにその巻取り形態及び扁平形態の形成においてその構成が相違するものである。

よって、この点に関する本件審決の認定には何ら違法はなく取り消されるべき理由は存在しないのである。この点に関する原告の主張は失当である。

<3> 原告は、本件考案の包装袋も第1引用例の外袋も「入れ物」として共通するため構成が同一であると主張する。

しかし、この原告の主張は、実用新案に対する基本的思考に誤りがある。すなわち本件考案の一方の特徴として扁平なごみ袋連続体を扁平筒形状の袋に収納することによって嵩張り少なく薄型且つコンパクトに収納できる作用効果があるため、その登録請求の範囲に袋の形態が扁平筒形状の包装袋として特定されているのであり、同様に第1引用例においても連続フィルム体を円滑に2つ折りに丸めることができる寸法の角袋形状として外袋の形態が特定されているのである。

したがって、この両者の特徴ある構成を単に上位概念から「入れ物」として共通すると認定すること自体暴論で、考案の生命を失なわさせる不当な主張である。

(2)  取消事由2について

原告は、第2引用例に記載された「巻取袋連続体」も本件考案と同じ「横断面扁平渦巻形態」であり、「箱体」も「入れ物」として「包装袋」と実質同一の構成であると主張し、本件考案は実用新案法第3条第2項の規定に該当すると主張するものである。

しかし、第2引用例記載の考案は、押出機により連続押出形成した中空状の筒状物を扁平に圧した上、シール面を付設して、次に切込み線を刻設し、その後所望枚数の連鎖をもって切断し、これの横幅を縮小するよう二つあるいは三つ折り等にして箱体に収納するために折畳んだものである。

したがって、第2引用例記載の考案は、箱体に収納されるよう二つあるいは三つ折りしてなるものであって、決して本件考案のように横断面扁平渦巻形態とした巻取ごみ袋連続体を扁平筒形状の包装袋に収納してなるものではなく、かつ紙管を用いずして長手方向に巻いて横断面扁平渦巻形態とする技術思想や具体的構成は一切開示も示唆する記載もないのである。

以上のとおり、第1引用例及び第2引用例記載のいずれの考案を組み合わせても本件考案とはその構成において主要な相違があり、かつその作用効果において相違がある以上、本件審決の認定、判断に何ら違法な点はない。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

1  請求の原因1及び2の事実(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び本件審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

2  本件考案について

成立に争いのない甲第2号証によれば、本件明細書には、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(1)  本件考案の技術的課題(目的)

本考案は、大型サイズのプラスチツクフイルム製ごみ袋を使用、収納、携帯するのに便利良く、また簡単に包装できるようにした包装袋入り大型ごみ袋に関する。

従来、プラスチツクフイルム製ごみ袋のうちでも小型サイズのもの……は、……使い易いのであるが、これが大型サイズのごみ袋(横650mm、縦800mm程度のもの)になると、そのように全てが都合よく行かず、この大型ごみ袋を所要枚数、小型の包装袋に包装するに際しては、1袋、1袋を四つ折りして1つの小型包装袋の中に所要枚数、積重ね状に入れるか、あるいは所要枚数積重ねたものを―に四つ折りしてこれを小型包装袋の中に入れるかしなければならず、前者の方法では1袋ずつを四つ折りするのに多くの手数と時間がかかり、後者の方法では前者よりも包装手数の点では能率的であるが、使用に際しては1袋ずつ取出すことができないたあ、その都度全部のごみ袋を取出して1袋を抜取り、再度包装袋の中に戻さなければならず、このとき積重ね状態にあるごみ袋の1枚、1枚が滑って崩れ、ばらつき易く、入れなおしに多くの手間がかかるという難点があった。

本考案は従来の大型ごみ袋における上記問題点を改善すべくなされたものであ……る。(甲第2号証第1欄21行~第2欄18行)

(2)  本件考案の構成

実用新案登録請求の範囲記載の構成(本件考案の要旨に同じ)の採用

(3)  本件考案の作用効果

本考案は上記実施例の如き構成とするものであり、多数枚の大型ごみ袋4も相互に切離可能に連続させてこれを長手方向に二つ折り以上に折重ねて細巾とするものであるから、これを巻取り易く、又使用時には解き易く、しかも、これは紙管を用いずして、かつ横断面渦巻形状を扁平化するように長手方向に巻いてあるので、細巾化と相俟って嵩張り少なく薄型に、かつ小型化できて小型包装袋5にもコンパクトに納められ、又、出入れも容易となり、また出入れに際しばらつく(「ばらく」は、誤記と認められる。)虞れも全くなく、使用時には1袋ずつを容易に切り離すことができ、更に又、買物かご、保管棚などにもスペースをとることなく収納でき、野山への携帯にも便利である等の効果を奏するものである。(甲第2号証第4欄3行~16行)

3  第1引用例記載の考案について

成立に争いのない甲第3号証の2によれば、第1引用例には、第1引用例記載の考案(以下「引用考案」ともいう。)について、次のとおり記載されていることが認められる(なお、別紙引用考案図参照)。

(1)  技術的課題(目的)

引用考案は、合成樹脂製フイルム体を所定量外袋内に収納した包装品に関するもので、外袋内から所望量のフイルム体を連続して手軽に取出すこと……を目的としたものである。(甲第3号証の2第1頁15行~20行)

従来、……連続フイルム体をロールに巻装したものは、……格納状態で大きなデッドスペースが生ずる等の欠点をもっており、また連続フイルム体を単位長さに折り重ねて箱体内に収納したものおよび個々に切離されたフイルム体を積み重ねて箱体内に収納したものは、……或る程度の量の連続フイルム体を所定形態に折り重ねたり個々のフイルム体を積み重ねたりすることが極めて難かしく、……その形態を保持したまま持ち運ぶことが極めて難しい等……フイルム体を収納するまでの操作、取扱いが極めて面倒で難しいという欠点があった。

本考案は、上記した従来例における欠点を解消すべく考案された(同第2頁1行~第3頁13行)

(2)  構成

<1>  本件審決認定のとおりの構成の採用

<2>  連続フイルム体Aは引用考案における包装品を把持携帯可能なものとするため、帯幅を必要に応じて適宜幅に折込むものとする。そして、ロールに所定量巻取られた連続フイルム体Aはロールから巻装された形態のまま抜き出され偏平に押し潰されてその姿勢のまま保持される。(同第4頁6行~11行)

引用考案は、連続フイルム体Aをロールに巻装した後にロールから抜き出しそのまま押し潰して扁平形状、別の表現を用いれば、ロールから抜き出された巻装状態の連続フイルム体Aが自重によって自然にくずれてなる形状にするので連続フイルム体Aを所定の形状にする操作および所定形状(扁平に押し潰された形状)となった連続フイルム体Aの取扱いが極めて簡単となり、……面倒な操作がない。(同第8頁1行~12行)

(3)  作用効果

引用考案は、連続フイルム体Aを所定形態にする操作および取扱いさらに外袋B内への収納操作が極めて簡単で容易であり……外袋B内からの所望数のフイルム体1の取り出しは手で軽く把持して引き出すだけで簡単にかつ円滑に達成されるのでその取扱いが容易であり、さらにデッドスペースを全く生じないので効率の良い格納・運搬が達成される(甲第3号証の2第9頁1行~11行)

4  取消事由1について

(1)考案の対象について

前記2の認定の事実によれば、本件考案は、大型サイズのプラスチックフイルム製ごみ袋を使用、収納、携帯するのに便利良く、また簡単に包装できるようにした包装袋入り大型ごみ袋に関するものであって、従来技術の問題点を改善することを技術的課題(目的)としたものであるが、本件考案のかかる技術的課題は、ごみ袋や大型サイズの袋に限られるものではなく、類似の袋に共通した課題といえ、本件考案の構成、作用効果等を併せ考えると、本件考案の対象が大型ごみ袋であることに、格別の意義は認められない。

一方、第1引用例には、合成樹脂製の連続フイルム体について、その用途及び大きさについては、明記されていないが、引用考案の技術課題、構成及び作用効果に照らして、特に大型の袋を排除しているものとは認められないばかりか、相当大きな袋に適用できることを示唆する記載(前記3(2)<2>)も認められるところであつて、これらのことから、引用考案の合成樹脂製の連続フイルム体は、家庭等で広く一般に使用している各種サイズのごみ袋を含むものと認められる。

したがって、本件考案が大型ごみ袋を対象としていることに格別の技術的意義がなく、また第1引用例記載の考案の合成樹脂製の連続フイルム体は、大型ごみ袋を包含するものと認められるので、この点において、両者に実質的な差異はないものと認められる。

(2)  構成(形態)及び作用効果について

本件考案は、本件考案の要旨記載のとおり、「紙管を用いずして長手方向に巻いて横断面扁平渦巻形態とした巻取ごみ袋連続体」であるところ、本件考案が、ごみ袋連続体を紙管を用いずして長手方向に巻き取る製法を考案の要旨とするものではないから、ごみ袋連続体を芯棒あるいはロールに巻き取った後それらから抜き出した形態が長尺連続体を中心部から順次外側に巻き重ねた横断面扁平状の渦巻形状になる場合も含まれるものである。

一方、第1引用例記載の考案は、本件審決認定のとおり、「破断目を介して一列に接続された多数の合成樹脂フイルム体を比較的大きな内径でロールに巻き、ロールから抜き出してこれを扁平に押し潰した連続フイルム体」であるから、引用考案は、ロールから抜き出した巻取状態において、連続フイルム体を中心部から順次外側に巻き重ねた横断面扁平渦巻状をしているものと認められる。

巻取芯の大きさ、形状の違いや巻取方法によって、中心部の空間の大きさや巻取り時の形態に差異が生じるとしても、本件考案と引用考案は、共に長尺ごみ袋連続体(連続フイルム体)を中心部から順次外側に巻き重ねるものであって、その長尺ごみ袋連続体(連続フイルム体)は渦巻状に巻取られており、本件考案の巻取ごみ袋連続体と引用考案の連続フイルム体とは、巻取り後の形態は、いずれも横断面扁平渦巻形態であり、その形状、構造に差異はなく、この点において、両者に実質的な差異は認められなし。

なお、本件審決は、「第1引用例記載の考案は、ロールから巻装された形態のまま抜き出して扁平に押し潰さなければ扁平形態にはなりえず」と認定判断しているが、前記3(2)<2>に認定したとおり、引用考案の連続フイルム体の扁平状態は、自重によって自然に形成、保持されるものであるから、本件審決のこの認定判断は誤りである。

また、巻取ごみ袋連続体(連続フイルム体)が扁平形状であることによる作用効果にも、両者に格別の差異は認められない。

(3)  包装袋について

本件考案の包装袋について、本件明細書の実用新案登録請求の範囲には、「偏平筒形状の包装袋」とのみ記載されているにすぎず、本件明細書の考案の詳細な説明の欄の記載事項に照らしても、本件考案の扁平筒形状の包装袋は、ごみ袋等を包装する袋として従来から用いられている袋であって、特別の形状、構造をしたものとは認められず、またその機能をみても、所要枚数のごみ袋をまとめて収納するという、包装袋本来の機能以外の格別な機能は認められない。

一方、引用考案の包装袋については、実用新案登録請求の範囲には、「内部で連続フイルム体Aを円滑に2つ折りに丸めることができる寸法の角袋形状をしかつ任意個所に収納される連続フイルム体Aの軸心方向と平行となった取出口4を形成した中または硬質合成樹脂製もしくは比較的厚手の合成樹脂製の外袋」と記載されおり、また前掲甲第3号証の2によれば、引用考案の詳細な説明の欄には、「取出口4は形成当初から完全に開放した形態とするのではなく、破断目2と同様にミシン目状とするのがよい。」と記載されていることが認められるから、第1引用例記載の考案の横幅方向と平行となった取出口を有する角袋形状の外袋は、扁平形状をしたものであり、しかも携帯用のティシユペーパーの包装袋にもみられるように、合成樹脂製の包装袋として周知のものであったと認められる。

したがって、本件考案の包装袋と第1引用例記載の考案の外袋は、この種の包装袋として共に周知のものであり、またごみ袋等を収納するという機能においても差異はなく、包装袋としていずれを選択するかは、設計上の単なる選択事項にすぎないものである。

(4)  以上のとおり、本件審決が、本件考案と第1引用例記載の考案の相違点として認定判断した事項には、いずれも実質的な差異はなく、両者は実質的に同一であると認められる。

したがって、本件審決が「本件考案は、実用新案法第3条第1項第3号の規定に該当するとの理由によって、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。」と判断したことは誤りであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件審決は取消しを免れない。

5  よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 島田清次郎)

別紙 本件考案図

<省略>

別紙 引用考案図

<省略>

平成1年審判第18044号

審決

静岡市小鹿二丁目24番1号

請求人 矢崎化工 株式会社

東京都中央区八丁堀三丁目7番7号 原田ビル3階 山名国際特許事務所

代理人弁理士 山名正彦

大阪市東住吉区杭全七丁目9番1号

被請求人 株式会社辰巳

大阪府大阪市中央区南船場2丁目5番8号 長堀コミュニティビル藤本昇特許事務所

代理人弁理士 藤本昇

上記当事者間の登録第1690970号実用新案「包装袋入り大型ごみ袋」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

本件登録第1690970号実用新案(以下、「本件考案」という。)は、昭和58年5月19日に実用新案登録出願され、昭和57年12月18日に出願公告(実公昭57-58132号)がされた後、昭和62年8月11日にその実用新案権の設定の登録がされたもので、本件考案の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「プラスチツクフイルム製大型ごみ袋を相互に切離可能に連続させた長尺ごみ袋連続体を長手方向に沿つて二つ折り以上に折重ねて細巾とし、かつこれを紙管を用いずして長手方向に巻いて横断面扁平渦巻形態とした巻取ごみ袋連続体を扁平筒形状の包装袋に収納して成る包装袋入り大型ごみ袋。」

これに対して、請求人は、本件考案の出願前に日本国内において頒布された刊行物の実願昭49-95119号(実開昭51-22982号)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム(甲第4号証の2、以下、「第1引用例」という。)、特公昭46-1755号公報(甲第5号証、以下、「第2引用例」という。)、実公昭51-38941号公報(甲第6号証)及び特公昭48-32543号公報(甲第7号証)を引用し、<1>本件考案は、第1引用例記載の考案と同一であるから実用新案法第3条第1項第3号に該当しその実用新案登録を無効とするべきである。<2>本件考案は、第1引用例及び第2引用例に各記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第8条第2項に該当しその実用新案登録を無効とすべきである旨主張している。

ところで、上記各引用例には、それぞれ、次のような事項が図面と共に記載されているものと認められる。

第1引用例

破断目を介して一列に接続された多数の合成樹脂フイルム体を比較的大きな内径でロールに巻き、ロールから抜き出してこれを扁平に押し潰した連続フイルム体を、2つ折りに丸めて収納できるフイルム体の横幅方向と平行となつた取出口を有する角袋形状の合成樹脂製の外袋内に収納して成る合成樹脂フイルム体の包装品。

第2引用例

連鎖状の袋体で、押出機により連続押出形成せる薄肉状の中空筒状物を扁平に圧した上、溶着シール面を適宜間隔のもとで付設し、次いでこの下面に切込み線をそれぞれ刻設した袋体を、所望の袋数に切断し、これを二つあるいは三つ折りして箱体に収容するための包装体。

そこで、まず、請求人の前記主張<1>について検討する。本件考案と第1引用例記載の考案とを対比すると、両者は、プラスチツクフイルム製袋を相互に切離可能に連続させた長尺袋連続体を長手方向に沿つて二つ折り以上に折重ねて細巾とし、かつこれを長手方向に巻いて横断面扁平形態とした巻取袋連続体を包装袋に収納して成る包装袋入り袋で一致するが、次の点の構成で相違する。本件考案は、大型ごみ袋を対象とするもので、長尺袋連続体を紙管を用いずして長手方向に巻いて横断面扁平渦巻形態とした巻取袋連続体を扁平筒形状の包装袋に収納したのに対し、第1引用例記載の考案は、対象とする袋については定かでたく、長尺袋連続体を比較的大きな内径でロールに巻き、ロールから抜き出してこれを扁平に押し潰した横断面扁平形態の巻取袋を、2つ折りに丸めて収納できるフイルム体の横幅方向と平行となつた取出口を有する角袋形状の包装袋に収納した点。

請求人は、上記相違点を実質的同一の構成であると主張するが、本件考案においては、紙管を用いずして巻取りされるため巻取り後のごみ袋連続体は横断面扁平渦巻形態であるのに対し、第1引用例記載の考案は、ロールに巻取るため巻取られた形態は真円形筒状体であり、また、ロールから巻装された形態のまま抜き出して扁平に押し潰さなければ扁平形態にはなりえず、両者は、その巻取り形態及び扁平形態の形成においてその構成が相違するものであり、さらに、包装袋についても、本件考案は、扁平なごみ袋連続体を収納するための袋であつて扁平筒形状であるのに対し、算1引用例記載の考案は、フイルム体の横幅方向と平行となつた取出口を有しこの取出口からフィルム体を取り出すもので角袋形状であり、その構成が相違するものである。そして、上記構成の相違により、本件考案は、明細書に記載された、巻取り易く、又、使用時には解き易く、細巾化と相俟つて嵩張り少なく薄型に、又、出入れも容易となり、出入れに際しばらつく虞れもないという格別の作用効果を奏するものと認められる。従つて、本件考案は、実用新案法第8条第1項第3号の規定に該当するとの理由によつて、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。

次に前記主張<2>については、請求人は、本件考案と第2引用例記載の考案とは袋体を収容する包装器が袋と箱の相違はあるものの、その余の本件考案の構成は第2引用例に開示されている旨主張するが、第2引用例記載の考案にも前記第1引用例記載の考案と同 に本件考案の必須構成要件とする「長尺袋連続体を紙管を用いずして長手方向に巻いて横断面扁平渦巻形態とした巻取袋連続体を扁平筒形状の包装袋に収納した」の点の構成は、一切開示も示唆もされていない。

従つて、前記構成が一切開示も示唆もされていない第1引用例記載の考案と第2引用例記載の考案とを如何に組合せたとしても、前記本件考案の構成は得う ず、もとより、前記構成による「巻取り易く、又、使用時には解き易く、細巾化と相俟つて嵩張り少なく薄型に、又、出入れも容易となり、出入れに際しばらつく虞れもない。」という本件考案特有の作用効果を奏し得ないのである。

従つて、本件考案は、実用新案法第3条第2項の規定に該当するとの理由によつて、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。

また、引用した前記甲第6、7号証には、プラスチツク製連続体を長手方向に沿つて二つ折り以上に折重ねて細巾とする装置が、記載されているだけであつて、「袋連続体を紙管を用いずして長手方向に巻いて横断面扁平渦巻形態とした」の点及び「巻取ごみ袋連続体を扁平筒形状の包装袋に収納した」の点の構成については一切開示も示唆もされていない。

以上の通りであるから、請求人の主張する理由及び引用する証拠方法によつては、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。

よつて、結諭のとおり審決する。

平成8年1月24日

審判長 特許庁審判官 山本格介

特許庁審判官 水谷誠

特許庁審判官 松沢福三郎

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