東京高等裁判所 平成3年(行ケ)85号 判決 1994年2月09日
スイス連邦国
4002 バーゼル クリベックシュトラーセ 141
原告
チバーガイギー アクチエンゲゼルシャフト
代表者
ハンスーピーター シュルップ
同
ウードー ルーマン
訴訟代理人弁理士
若林忠
同復代理人弁理士
渡辺勝
同
土田五郎
同
新井克弘
訴訟代理人弁理士
高畑靖世
同
金田暢之
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
麻生渡
指定代理人
高松武生
同
田中靖紘
同
涌井幸一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が平成1年審判第11529号事件について、平成2年10月19日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文第1、第2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1981年4月29日、同年11月13日及び1982年1月18日にイギリスにおいてした各特許出願に基づく優先権を主張して、昭和57年4月28日、名称を「免疫分析用装置及びキット」とする発明について特許出願をした(昭和57年特許願第70576号)が、平成元年4月5日に拒絶査定を受けたので、同年7月4日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は同請求を、平成1年審判第11529号事件として審理したうえ、平成2年10月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成2年12月26日、原告に送達された。
2 本願第1発明の要旨
本願の特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨は、次のとおりである。
「抗原もしくは免疫グロブリンまたはそれら両方の1以上の溶液または懸濁液の分別量を多孔性支持体に直接接触させて適用することにより得られる、抗原もしくは免疫グロブリンまたはそれら両方を境界を定めて吸着させた領域のあらかじめ選択された配列を含む多孔性固体支持体で構成されることを特徴とする免疫分析用の装置。」
3 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1発明は、本願優先権主張日前に頒布された特開昭48-6589号公報(以下「引用例1」という。)、特開昭48-5925号公報(以下「引用例2」という。)及び特開昭51-101122号公報(以下「引用例3」という。)に記載された発明(それぞれ、以下「引用例発明1」、「引用例発明2」、「引用例発明3」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものと判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願第1発明の要旨、引用例1ないし3の記載内容の認定(審決書2頁17行~6頁11行)、引用例発明1、2と本願第1発明との一致点及び相違点<1>、<2>の認定(同6頁12行~8頁15行)は認める。
しかし、審決は、相違点<1>につき、引用例1、2における抗原・抗体の固定方法としての結合に「吸着」は含まれないにもかかわらず、それが不明であると誤って認定し、仮に含まれないとしても、結合に代えて吸着とする程度のことは当業者が容易になしうることと誤って判断し(取消事由1)、相違点<2>につき、引用例1、2には「あらかじめ選択された配列」につき何らの記載も示唆もないのに、複数種の抗原・抗体を一度に検査するのであるから、これを予め選択して配列することは当然自明のことであると誤って判断し(取消事由2)、引用例発明1、2と本願第1発明との対比において、本願第1発明が、同一支持体上に抗原の固定領域と抗体の固定領域との両方が存在する場合も含むものであるのに対し、引用例発明1、2が抗原と抗体のどちらか一方のみを固定するものである点で異なるにもかかわらず、この相違点を看過し(取消事由3)、以上の相違点があるために、本願第1発明は、引用例発明1ないし3に対し優れた効果を奏するものであるにもかかわらず、これを看過し(取消事由4)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(相違点<1>についての認定判断の誤り)
(1) 引用例発明1、2における抗原・抗体の固定方法である「結合」は「化学的反応を利用した結合」であり、本願第1発明の「吸着」は含まれない。
「吸着」とは、一般に、固体、液体、気体の分子、原子、イオンが、固体又は液体の表面に保持される現象として理解されている。本願第1発明は、この吸着という現象を利用したものであるが、その特徴とするところは、抗原・抗体が固定される担体として「多孔性支持体」を選択し、吸着のさせ方として「抗原もしくは免疫グロブリンまたはそれら両方の1以上の溶液または懸濁液の分別量を多孔性支持体に直接接触させて適用する」方法を採用したことにある。
これに対し、引用例1、2には、抗原・抗体の固定方法につき、実施例の記載を含めグルタルアルデヒド等の固化剤を用いた結合についての記載(甲第5号証5欄1~8行、甲第6号証5欄18行~6欄3行)しかなく、不溶性支持体として濾紙を用いた場合においても固化剤を利用している(甲第5号証5欄13~18行、甲第6号証5欄18行~6欄3行)。この固定方法は、化学的反応を利用して抗原・抗体を固定する方法であり、本願第1発明の「吸着」を利用した固定方法ではない。引用例1、2には、吸着を利用した固定方法についての記載は一切なく、引用例発明1、2が化学的結合による固定のみを意図し、吸着による固定方法を用いることは全く考慮していない。
審決が引用する引用例1、2の「不溶性支持体に抗原(抗体)が直接結合しうる場合にはそのまま結合させてもよい」旨の記載(甲第5号証5欄9~10行、甲第6号証6欄3~5行)は、上記の理由から、固化剤を介さない化学的結合のみを指し、「吸着」を指すものでないことが明白である。
(2) 審決は、「抗原抗体反応を用いた分析・測定方法において、不溶性支持体に結合剤を介して化学結合あるいは共有結合させるか、または、不溶性支持体に吸着させることにより、抗原または抗体を固相化させることは周知のところであり、特に、上記引用例3には、不溶性支持体として多孔性支持体を用いた場合、抗体を該多孔性支持体に吸着または共有結合で結合させることが記載されて」いる(審決書9頁8~15行)ことを理由に、引用例1、2における「『結合』に代えて『吸着』とする程度のことは、当業者であれば格別の創意を要することなく容易になし得ることと認められる」と判断するが、誤りである。
上記周知技術及び引用例3の記載事項の認定は認めるが、引用例1、2においては、上記のとおり、吸着についての示唆が全くなく、引用例3における吸着は、本願第1発明の「吸着」とは異なるものであり、引用例3における吸着を引用例発明1、2の固定方法に適用しても、本願第1発明に至ることはできない。
分子等が固体等の表面に保持されるという吸着の一般的意味において、引用例発明3と本願第1発明の吸着は同じである。しかし、引用例3の吸着は、過剰量の抗体溶液に多孔性支持体を長時間浸漬してから、余剰な抗体を洗浄により支持体から除去することによって行われるものであるから、支持体全面に均一に抗体が吸着される。これに対して、本願第1発明の「吸着」は、前示のとおり、抗原・抗体の「溶液又は懸濁液の分別量を支持体の所定領域に直接接触させて適用すること」により行われ、スポット状やドット状の境界を定めた吸着領域が形成されるのである。この吸着操作は、所定量の溶液を支持体の所定の位置に直接接触させて付着させるという極めて簡便な方法で、安定した固定が達成され、これらの固定領域の予め選択された配列も容易となるのであり、引用例3の極めて煩雑な上記の操作を不要とする利点を有する。引用例1ないし3のような従来技術の下では、スポット状やドット状等の境界を定めた抗原・抗体の安定した固定のためには、化学的結合を用いるのが常識であって、短時間の直接接触による吸着操作では安定した固定化状態が得られないと一般的に考えられていたのである。
被告は、免疫分析の分野では、一般的に結合は吸着を包含するとし、吸着と化学的結合法は当業者が適宜選択できるものであると主張する。しかし、被告がその根拠とする文献「酵素免疫測定法」(乙第1号証の1~5)記載の方法は、その支持体を多孔性支持体とするものではなく、プラスチックビーズとするものであるから、結合の一般的意味を示す証左とはならない。また、同文献には、固定した抗体の安定性に関する記載はない上、「物理的吸着」を利用したとき結合がうまくいかなかったことが記載され(同号証の3、139頁本文5~7行)、多孔性支持体であるペーパーディスクを用いたときにも化学的結合が利用されている(同9~14行)。すなわち、同文献では、吸着と化学的結合とを同列に扱っておらず、吸着では安定した固定状態が得られないと考えられ、吸着よりも化学的結合を採用することが明示されているのである。しかも、同文献には「境界を定めて固定する」ことについての言及もないから、被告の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点<2>についての判断の誤り)
審決は、引用例1、2には、本願第1発明の「領域のあらかじめ選択された配列を含む」との要件の直接の記載がないことを認めながら、「同一支持体上に複数種の抗原あるいは抗体を固化させておくと、1度の検査で種々の抗体あるいは抗原を調べることができる」との記載があることを理由に、「これらの引用例に記載された発明において、複数種の抗体あるいは抗原を1度に検査するためには、その複数種の抗原あるいは抗体の配列をあらかじめ選択して配列しておかなければ複数種の検査が1度にはできないことは当然自明のことである。」とし、本願第1発明の上記要件は、格別の創意を要したものとは認められないと判断した(審決書11頁18行~12頁11行)が、誤りである。
本願第1発明の「あらかじめ選択された配列」とは、意図された免疫学的分析の目的のために役立つように、抗原・抗体の輪郭形状及び配列を予め選択すること、すなわち、<1>どの抗原・抗体がどこの位置に配置されているかが分かるようにしておくだけでなく、<2>各固定領域の形状及び位置関係を、意図する免疫分析に適した簡単な構成の経済的にも有利な分析装置が得られるように調整しておくことである(甲第2号証の2、25頁1~6行、29頁12~15行)。固定領域の形状としては、スポット状、ドット状、線状等があり、本願明細書には、症状のみによって区別することが困難な呼吸ウイルス感染の診断を効率良く行えるように、11種のウイルス抗原を所定の順番で配列した例が挙げられ(同99頁14行~103頁2行)、本願願書添付図面(同号証の3)には、円形スポット状の複数種の抗原の吸着領域を直線状に所定の順番で配列した例が示されている。
これに対し、引用例1、2には、複数種の抗原・抗体を一度に検査する旨の記載から上記<1>の示唆はあるといえるが、これに加えて、<2>の固定領域の形状及び位置関係を調整することについての記載や示唆はない。
これを自明とし、格別な創意を要したものと認められないとした審決の判断が誤りであることは明らかである。
3 取消事由3(相違点の看過)
審決は、本願第1発明が、同一支持体上に抗原の固定領域と抗体の固定領域との両方が存在する場合も含むものであるのに対し、引用例発明1、2が抗原・抗体のどちらか一方のみを固定したものである点で異なるものであるにもかかわらず、この点(相違点<3>)を看過した。
この相違点<3>に係る本願第1発明の構成は、抗原・抗体の双方を同一支持体に吸着固定しても、これらが互いに干渉し合わずに、正確な分析が可能であるという従来技術では予測し得なかった知見に基づいてなされたものであり、後述するように、例えば定量分析を行う上で有用なものであり、本願第1発明の特徴を構成する重要な点の一つである。
引用例発明1、2は同一発明者によるものであるが、抗原のみを固定する場合(引用例1)と抗体のみを固定する場合(引用例2)とをわざわざ分けて出願していることからみても、これら引用例には、「抗原と抗体とを同一支持体に固定する」ことについての記載も示唆もないばかりか、その発想すらないのである。
4 取消事由4(効果の看過)
本願第1発明は、相違点<1>ないし<3>に係る構成を有することにより、引用例発明1ないし3に対し、下記の優れた効果を奏する。
(1) 化学的結合を用いる引用例発明1、2では、固定されるべき抗原・抗体の固化剤や固定化のための化学反応に対する適性を予め調査しておく必要があり、固定化による活性の低下が生じる場合もあり、用いる抗原・抗体の種類が制限される。
本願第1発明では、このような問題を考慮する必要がなく、したがって、抗原・抗体の種類が制限されることがなく、広範な各種混合物溶液、単離あるいは精製されたものではない混合物、組織、細胞、菌体及び生体自体等を固定できる。また、抗原・抗体は、吸着により、他の溶液に浸漬しても溶出せず安定して固定される。
(2) 化学的結合を用いる従来の方法では、固定化反応に必要な十分な濃度と量の抗原・抗体を用意しなければならず、反応時間も十分取る必要がある。
本願第1発明は、これらの問題点を解決したものであり、抗原・抗体の溶液又は懸濁液(以下、「溶液」と略称する。)の濃度及び使用量を大幅に低減でき、反応時間も要しない。
(3) 化学的結合を利用する場合には、抗原・抗体の溶液の濃度を下げると、溶液が支持体上で広がりやすくなり、例えばスポット状に固定する場合、その径を小さく抑えることは不可能となり、固定領域の高密度化を図るには限界がある。しかも、スポットの広がりは、固定領域の単位面積あたりの抗原・抗体の濃度を低下させ、それが測定感度の低下を招くこととなる。
本願第1発明では、例えばスポット状の吸着領域の径を1mm未満(ドット)、特に0.5~0.3mm程度(ミクロドット)程度と小さくすることが可能である。その結果、抗原・抗体の溶液を多孔性固体支持体に適用した際に、適用点付近に集中的に吸着され、点状等として高濃度高密度の吸着領域が得られ、感度の良い測定が可能となり、抗原・抗体を節約できるだけでなく、支持体自体の節約も可能となる。
(4) 引用例発明1ないし3は、いずれも抗原・抗体の一方のみしか固定していない。また、化学的結合では、抗原・抗体の支持体への実際の有効な固定量は反応条件によって異なるから、予め反応条件と固定量との関係を把握するという煩雑な作業を経なければ正確な定量分析ができない。また、グルタルアルデヒド等の2官能性の固化剤の場合、抗原・抗体の分子同士の重合が生ずる結果、支持体の上に不均一な重合体高分子の層が形成され、このような重合体は所望の抗原・抗体としての活性を失っている場合が多く、同様に正確な定量分析ができない。
これに対し、本願第1発明では、抗原・抗体の溶液の分別量を多孔性支持体に付与して吸着領域を形成するという極めて簡便な操作により抗原・抗体を固定するので、抗原の吸着領域と抗体の吸着領域とを同一支持体状に境界を定めて形成でき、固定量が正確かつ容易に把握でき、正確な定量分析が可能となる。
(5) 引用例発明3では、溶液を浸漬するという方法が取られているので、多量の抗体が必要である上、余剰量の抗体を洗浄除去する必要がある。これでは、除去される量を正確に把握することが困難であり、その結果、固定量を正確に把握できず、精度の良い定量分析を行うことができない。
本願第1発明では、少量の抗原・抗体で安定した固定領域が得られ、抗原・抗体を節約でき、精度の良い定量分析を行うことができる。
審決は、本願第1発明の以上の優れた効果を看過したものであり、その誤りは明らかである。
第4 被告の主張の要点
審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1について
引用例1、2には、審決認定のとおり、免疫分析用装置について、抗原・抗体を支持体に「固化剤を用いて結合させるか、または、直接結合しうる場合にはそのまま結合させる」と記載されており、「吸着」につき明確には記載されていない。しかし、「結合」が「化学的結合」に限定される旨の記載はなく、一般に、免疫分析の分野では、「酵素免疫測定法」(昭和53年12月医学書院発行、乙第1号証の1~5)に「インスリンをモルモットに免疫して得た抗インスリン血清を用い、物理的吸着法またはグルタールアルデヒド処理法のいずれかによって至適量をプラスチックビーズに結合させた」(同号証の2、99頁下から2~1行)と記載されているとおり、「結合」といえば、「吸着」、すなわち、分子等が固体等の表面に保持されることを含むものとして理解されており、また、上記の記載から明らかなように、物理的吸着と化学的結合とは同列の手段として、当業者が所望に応じて適宜選択できるものとされている。
原告は、多孔性支持体とプラスチックビーズとの差をいうが、免疫分析の支持体という点で両者は同じであり、抗原・抗体を固定する手段としての結合を両者でことさら別異に解する理由はない。
以上のとおり、引用例1、2には吸着についての記載があるに等しいともいえるほどであり、仮に、吸着が結合に含まれないとしても、審決が述べるとおり、結合に代えて吸着を適用することは、周知技術、特に引用例3の記載から、当業者であれば容易に想到できることである。
原告の主張は理由がない。
2 同2について
引用例1、2には、同一支持体上に複数種の抗原・抗体を固化させておくと、一度の検査で種々の抗原・抗体を調べることができる旨の記載がある。複数種の抗原・抗体を同一支持体に固定することにより、これを一度に検査するためには、どの抗原・抗体がどの位置に固定されているかが分かるようにしておく必要があることは自明のことであるから、本願第1発明の「領域のあらかじめ選択された配列を含む」とした点に、格別の創意を要したものとは認められない。
原告は、意図する免疫分析に適するように各固定領域の位置関係等の配列を選択することが、本願第1発明の特有の構成である旨主張するが、この選択も当業者が操作能率等を勘案して適宜考慮すべき事項である。
審決の相違点<2>に関する認定判断に誤りはない。
3 同3について
本願第1発明は、「同一支持体上に抗原領域と抗体領域との両方が存在する場合」に限定されていないことは明らかである。したがって、限定されていることを前提とした原告の主張は理由がない。
4 同4について
本願第1発明の効果として原告の主張する(1)の点は、固定化のための技術として周知である吸着を適用したことにより自ずと生ずる効果にすぎず、当業者が予測できる程度のものである。また、(4)の点は、本願第1発明の要旨に基づかない効果である。
その余の原告主張の効果は、いずれも引用例発明1ないし3の効果に比べて格別顕著なものと認められず、当業者が当然予測できる程度のものにすぎない。
第5 証拠関係
本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、当事者間に争いはない。)。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由1について
「吸着」の一般的な意味が、分子等が固体等の表面に保持される現象をいうことは当事者間に争いがない。
この事実と、前示本願第1発明の要旨、甲第2ないし第4号証により認められる本願明細書の「抗原または抗体の不可逆結合は、十分理解されてはいない疎水力による多孔性材料への吸着によつて達成される。・・・抗原または免疫グロブリンは前記の固体支持体に直接接触させて適用される。直接接触とは任意の機械または手による移送、例えば毛細管またはピペツトまたは注射器を用いるか、またはスプレーのような液体あるいは気体発射薬によつて、例えば適当な方向性のある空気流または気体流による・・・移送を意味する。試料は適当な幾何図形、即ち形成される吸着領域が点(dots)、はん点(spots)または線の形態、または適当な任意の他の配置を与えるように適用される。」(同第2号証28頁3行~29頁15行、同第4号証、補正の内容2)との記載からすれば、本願第1発明の要旨にいう「吸着」の意義は、抗原・抗体の溶液の分別量を多孔性支持体に直接接触させて適用することにより、抗原・抗体を支持体に不可逆的に結合させることをいうものと認められる。
一方、甲第5号証によれば、引用例1には、不溶性支持体に抗原を結合させることについて、「固化剤例えばグルタルアルデヒド・・・等で抗原を結合すればよい。また、不溶性支持体に抗原が直接結合しうる場合にはそのまま結合させてもよい。」(甲第5号証5欄2~10行、甲第6号証6欄2~5行)と記載され、甲第6号証によれば、引用例2には、不溶性支持体に抗体を結合させることについて、同旨の記載があることが認められ、この前段のグルタルアルデヒド等の固化剤を用いる結合が原告のいう化学的結合であるのに対し、後段の「直接結合」が抗原・抗体と支持体とを固化剤を用いずに結合する意味であることは、その文脈上明らかである。
そして、甲第7号証によれば、引用例3には、「本発明の臨床検査資料は、抗体を結合させた毛細管の作用をなす多孔質担体から成り、例えば吸着または臭化シアンあるいはグルタールアルデヒドのような物質により公知の方法により共有結合で抗体に結合させた多孔質の毛細管の作用を利用することを特徴とするものである。」(同号証1頁右下欄12行~2頁左上欄1行)との記載があり、「毛細管担体における吸着による抗体の不溶化」の実施例(同3頁左上欄2~12行)として、多孔質担体を溶液に浸漬させて吸着させる結合方法が例示されていることが認められ、このグルタルアルデヒド等の固化剤を用いた共有結合が化学的結合であるのに対し、吸着による抗体の多孔質担体への結合が固化剤を用いない結合を指すことは明らかである。
さらに、乙第1号証の1ないし5によって認められる「酵素免疫測定法」(昭和53年12月医学書院発行)には、「インスリンをモルモットに免疫して得た抗インスリン血清を用い、物理的吸着法またはグルタールアルデヒド処理法のいずれかによって至適量をプラスチックビーズに結合させた」(同号証の2、下から2~1行)と記載され、物理的吸着法は、化学的結合法であるグルタールアルデヒド処理法と並んで、一般的に行われている方法であることが示されている。
引用例3及び上記文献の記載によれば、引用例1、2における直接結合が吸着による結合を指していることは、明らかといわなければならない。
原告は、本願第1発明の吸着とは、抗原・抗体の溶液の所定量を多孔性支持体に直接接触させるという限定された吸着方法であり、「境界を定めて」固定するものであることを強調するが、引用例発明1、2における「スポット状に1濾紙上に固化する」が、本願第1発明における「多孔性支持体に直接接触させて適用する」の一種に他ならないとの審決の認定(審決書7頁12~15行)は、原告の認めるところであり、また、本願第1発明と引用例発明1、2とが、「抗原または免疫グロブリンを境界を定めて含む多孔性固体支持体で構成される」点で一致するものであるとの審決の認定(同8頁3~5行)も、原告の認めるところである。
そうすると、引用例1、2には、抗原・抗体を支持体に結合させる手段として、抗原・抗体の溶液の所定量を多孔性支持体に直接接触させて適用するという本願第1発明にいう吸着が開示されているというべきであり、この開示に基づき、当業者がこれを採用し、これにより「抗原もしくは免疫グロブリンまたはそれら両方を境界を定めて吸着させた多孔性支持体」を得ることに格別の困難性はないことが明らかである。
その他、原告が取消事由1において主張するところは、以上の説示に照らし、いずれも採用できない。
2 同2について
相違点<2>に係る本願第1発明の「あらかじめ選択された配列」との構成につき、本願特許請求の範囲第1項には、それ以上の具体的な配列内容の開示はなく、本願明細書の発明の詳細な説明において、「本発明の装置上に形成される配列に関して使用された『あらかじめ選択された(preselected)』なる語は吸着された抗原または免疫グロブリンの領域の外面的形態(geometry)が意図された免疫学的分析の目的のために役立つようになつていることを意味するものである。」(甲第2号証25頁2~6行)、「試料は適当な幾何図形、即ち形成される吸着領域が点(dots)、はん点(spots)または線の形態、または適当な任意の他の配置を与えるように適用される。その配列は多数の抗原を含むものでも、または少数、または単一の抗原を含むものでもよい。」(同29頁12~15行)と説明されているが、やはり配列内容を限定する記載はないことが認められる。
原告は、この配列につき、<1>どの抗原・抗体がどこの位置に配置されているかが分かるようにしておくだけでなく、<2>各固定領域の形状及び位置関係を、意図する免疫分析に適した簡単な構成の経済的にも有利な分析装置が得られるように調整しておくことである旨主張し、引用例1、2には、複数種の抗原・抗体を一度に検査する旨の記載から上記<1>の示唆はあるといえるが、これに加えて、<2>の固定領域の形状及び位置関係を調整することについての記載や唆はないと述べる。
しかし、本願明細書の上記記載と、引用例1に示された「濾紙片に抗原を結合させる場合には、1濾紙片に1抗原を固化してもよいが、それよりは何種類かの抗原をスポツト状に1濾紙上に固化させておくと、この数種の不溶性抗原一つでその抗原に対応する夫々の抗体を標識しておけば一度の検査で数種の抗原をしらべることができる」(甲第5号証6欄10~16行)との記載(この記載の「抗原」を「抗体」とした同旨の記載が引用例2にある。甲第6号証7欄4~9行)とを対比すると、その述べる趣旨において差異があるとは認められない。単一の抗原(抗体)を固定する場合に、本願第1発明と引用例発明1、2とにおいて、その配列に差異が生ずることは考えられず、複数の抗原(抗体)を固定する場合、意図された免疫学的分析の目的のために役立つように、予め検討して配列しておく程度のことは、当業者として格別の創意を要せずに実現できる事項であることは明らかである。
審決の相違点<2>に関する判断に誤りはない。
3 同3について
本願第1発明は、その要旨の「抗原もしくは免疫グロブリンまたはそれら両方の1以上」という構成に示されているように、抗原・抗体のいずれか一方を固定する場合を含むものであるから、抗原のみを固定する場合には、引用例発明1と、抗体のみを固定する場合には、引用例発明2とそれぞれ対応することが明らかである。
したがって、抗原・抗体のいずれか一方を固定する場合につき、引用例発明1、2と対比して、本願第1発明の特許性の有無を検討すれば十分であり、審決に原告主張の相違点の看過はない。
4 同4について
化学的反応を利用しない吸着法を採用すれば、これを利用する化学的結合法と異なり、固定されるべき抗原・抗体の種類や固化剤に対する反応適性等、固定化のための化学的反応に由来する種々の制約を考慮する必要がないことは自明というべきであり、これが吸着法自体の持つ効果であることは明らかである。また、抗原・抗体の溶液の濃度、使用量及び反応時間を大幅に低減でき、吸着領域を高密度化できることは、限られた領域に溶液を直接接触させ吸着させる構成を採用することにより、当然に奏される効果であることも明らかである。
原告が相違点<3>に基づく効果として主張する点は、前示説示に照らし、本願第1発明の要旨に基づかない効果をいうものといわなければならず、上記認定事実からすると、その他原告の主張する効果は、いずれも引用例発明1ないし3の有する効果、あるいは、これらから当然に予測できる効果と認められる。
5 以上のとおりであるから、原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決には、これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担、上告のための附加期間につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 木本洋子)
平成1年審判第11529号
審決
スイス連邦国 4002 バーゼル クリベックシュトラーセ 141
請求人 チバーガイギー アクチエンゲゼルシャフト
東京都港区赤坂1丁目9番20号 第16興和ビル8階 若林国際特許事務所
代理人弁理士 若林忠
昭和57年特許願第70576号「免疫分析用装置及びキット」拒絶査定に対する審判事件(昭和58年1月19日出願公開、特開昭58- 9070)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
Ⅰ. 本願発明の要旨
本願は、昭和57年4月28日の出願(優先権主張 1981年4月29日、同年11月13日および1982年1月18日イギリス国)であって、その発明の要旨は昭和63年12月7日付け手続補正書および平成1年8月3日付け手続補正書により補正された明細書及び願書に最初に添付された図面の記載からみて、特許請求の範囲の第1項、第27項及び第39項に記載されたとおりの「免疫分析用装置」、「免疫分析用装置を有するキット」及び「特異抗原または特異抗体またはこの両者を検出及び定量するための方法」にあるものと認められるところ、その第1項に記載された発明(以下、「第1発明」という。)は、次のとおりである。
「抗原もしくは免疫グロブリンまたはそれら両方の1以上の溶液または懸濁液の分別量を多孔性支持体に直接接触させて適用することにより得られる、抗原もしくは免疫グロブリンまたはそれら両方を境界を定めて吸着させた領域のあらかじめ選択された配列を含む多孔性固体支持体で構成されることを特徴とする免疫分析用の装置。」
Ⅱ. 引用例記載の発明
当審で平成2年5月18日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭48-6589号公報(以下、「引用例1」という。)には、「不溶性支持体に抗原を結合させた診断用不溶性支持体」の発明が図面とともに記載されており、さらに次の乃至
<a>不溶性支持体の例としては、濾紙、プラスチックフィルム、セルロース、イオン交換樹脂、セルロースイオン交換体例えばDEAE・セルロース、CM-セルロース等、セルロース澱粉、デキストラン等の多糖類およびその誘導体例えばセファデクスなど、プラスチック及びその他の高分子化合物、ナイロン、絹、羊毛、グロムアセチルセルロース等があげられ、これらの中で臨床検査に用いるためには濾紙が特に望ましいこと。(第2頁右上欄10~20行目)
<b>不溶性支持体に抗原を結合させて不溶性抗原とするには、固化剤で抗原を結合すればよく、また、不溶性支持体に抗原が直接結合しうる場合にはそのまま結合させてもよいこと。(第2頁左下欄1~10行目)
<c>濾紙片に抗原を結合させる場合には、1濾紙片に1抗原を固化してもよいが、それよりは何種類かの抗原をスポット状に1濾紙上に固化させておくと、この数種の不溶性抗原一つでその抗原に対応する夫々の抗体を標識しておけば一度の検査で数種の抗原を調べることができるので、特に臨床検査などの諸種の検査を同時に行うところでは望ましいこと。(第2頁右下欄10~17行目)
同じく引用された特開昭48-5925号公報(以下、「引用例2」という。)には、「不溶性支持体に抗体を結合させた診断用不溶性支持体」の発明が図面とともに記載されており、さらに次の<d>乃至<f>の事項が記載されている。
<d>不溶性支持体の例としては、濾紙、プラスチックフイルム、セルロース、イオン交換樹脂、セルロースイオン交換体例えばDEAE・セルロース、CM-セルロース等、セルロース澱粉、デキストラン等の多糖類およびその誘導体例えばセファデクスなど、プラスチック及びその他の高分子化合物、ナイロン、絹、羊毛、グロムアセチルセルロース等があげられ、これらの中で臨床検査に用いるためには濾紙が特に望ましいこと。(第2頁左下欄7~17行目)
<e>不溶性支持体に抗体を結合させて不溶性抗体とするには、固化剤で抗体を結合すればよく、また、不溶性支持体に抗体が直接結合しうる場合にはそのまま結合させてもよいこと。(第2頁左下欄18~右下欄6行目)
<f>濾紙片に抗体を結合させる場合には、1濾紙片に1抗体を固化してもよいが、それよりは何種類かの抗体をスポット状に1濾紙上に固化させておくと、この数種の不溶性抗体一つで、一度の検査で種々の抗原を調べることができるので、特に望ましいこと。(第3頁左上欄4~9行目)同じく特開昭51-101122号公報(以下、「引用例3」という。)には、「毛細管作用をなす多孔質担体物質に抗体を結合させた条片より成る免疫化学的定量用臨床検査資料」の発明が記載されており、該臨床検査資料は、抗体を結合させた毛細管作用をなす多孔性担体から成り、吸着または公知の方法により共有結合で結合させた、多孔質の毛細管の作用を利用するものであることが記載されている。(第1頁右下欄12行目~第2頁左上欄1行目)
Ⅲ. 本願発明と引用例記載の発明との対比
前項の引用例1及び2の記載事項<a>乃至<f>から明らかなごとく、上記引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とは、不溶性支持体に結合させるものが一方は抗原であり、他方は抗体である点以外では同一である。
そこで、本願の第1発明と上記引用例1記載のの発明及び引用例2記載の発明(以下、「引用例1及び2記載の発明」という。)とを対比すると、引用例1、2の記載からみて、引用例1及び2記載の発明における「不溶性支持体」は、本願の第1発明における「多孔性固体支持体」に相当し、引用例2記載の発明における「抗体」は、本願発明における「免疫グロブリン」に相当するものであることは明らかである。
また、本願明細書第29頁2~20行目には、本願の第1発明における「直接接触」とは毛細管またはピペットまたは注射器による移送を意味し、試料は適当な吸着領域が点(ドット)またははん点(スポット)を与えるように多孔性表面に適用される旨記載されているから、引用例1及び2記載の発明における「スポット状に1濾紙上に固化する」は、本願の第1発明における「多孔性支持体に直接接触させて適用する」の一種に他ならず、またそのことにより、「抗原または免疫グロブリンの分別量を境界を定めて含ませる」ことになることも当然自明のことである。
してみると、本願の第1の発明と、引用例1及び2記載の発明とは「抗原もしくは免疫グロブリンの1以上の溶液または懸濁液の分別量を多孔性支持体に直接接触させて適用することにより得られる、抗原または免疫グロブリンを境界を定めて含む多孔性固体支持体で構成されることを特徴とする免疫分析用の装置。」である点で一致し、次の<1>および<2>の点で相違している。
<1>多孔性固体支持体に含まれる抗原または免疫グロブリンが、本願の第1発明においては「吸着させた」ものであるのに対し、引用例1及び2記載の発明では「結合された」ものである点。
<2>本願の第1発明においては、「領域のあらかじめ選択された配列を含む」としているのに対し、引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明には領域の配列については直接記載するところがない点。
Ⅳ. 当審における判断
1. 上記相違点<1>について;
引用例1及び2には、「抗体または抗原を固化剤を用いて結合させるか、または、直接結合しうる場合にはそのまま結合させる」と記載されているだけで(上記記載事項<b>、<e>参照)、「結合」とはいかなる結合であるかが明記されていないから、これだけの記載では、引用例1及び2記載の「結合」には「吸着」が含まれるか、あるいは、引用例1及び2における「結合」は化学的な結合だけを意味しており「吸着」は含まれないか、は不明である。
ところで、抗原抗体反応を用いた分析・測定方法において、不溶性支持体に結合剤を介して化学結合あるいは共有結合させるか、または、不溶性支持体に吸着させることにより、抗原または抗体を固相化させることは周知のところであり、特に、上記引用例3には、不溶性支持体として多孔性支持体を用いた場合、抗体を該多孔性支持体に吸着または共有結合で結合させることが記載されており、該引用例記載の多孔性支持体は、本願の第1発明における「多孔性固体支持体」および引用例1及び2記載の発明における「不溶性支持体」に他ならない。
してみれば、引用例1及び2記載の「結合」には「吸着」は含まれないと解しても、該「結合」に代えて「吸着」とする程度のことは、当業者であれば格別の創意を要することなく容易になし得ることと認められる。
これに対し、請求人は、意見書において、引用例3記載の発明と本願の第1の発明とは、吸着させる方法で異なって、すなわち、引用例3記載の発明は、その実施例3に記載されている如く、多孔性支持体を抗原または抗体の溶液中に浸漬するものであるのに対し、本願の第1発明では「抗原もしくは免疫グロブリンの1以上の溶液または懸濁液の分別量を多孔性支持体に直接接触させて適用することにより得られる、抗原または免疫グロブリンを境界を定めて含む」ものである点で異なっており、本願発明では「吸着させる」ことにより「抗原または免疫グロブリンの溶液または懸濁液の分別量を境界を定めて含む多孔性固体支持体で構成された免疫分析用の装置」が得られるものである、旨主張している。
しかしながら、前述のごとく吸着により抗原または抗体を不溶性支持体に固化することが周知である点、及び、引用例3には不溶性支持体として多孔性支持体を用いた場合に吸着により抗体を固化させることが記載されており、該引用例記載の多孔性支持体は引用例1及び2記載の多孔性固体支持体に他ならない点、とを考慮すれば、「抗原もしくは免疫グロブリンの1以上の溶液または懸濁液の分別量を多孔性支持体に直接接触させて適用することにより得られる抗原または免疫グロブリンを境界を定めて含む」点で本願発明と一致している引用例1及び2記載の発明において、その固化手段である「結合」に代えて「吸着」を採用しても、「抗原もしくは免疫グロブリンの1以上の溶液または懸濁液の分別量を境界を定めて含む多孔性固体支持体」が得られることは、当業者であれば容易に予期し得ることと認められる。
2. 上記相違点<2>について;
引用例1及び引用例2には、同一支持体上に複数種の抗原あるいは抗体を固化させておくと、1度の検査で種々の抗体あるいは抗原を調べることができるとの記載があり(上記記載事項
よって、「領域のあらかじめ選択された配列を含む」とした点に、格別な創意を要したものとは認められない。
3. 以上のごとく、相違点<1>及び相違点<2>のいずれも、当業者が引用例1乃至3に記載された発明及び当該技術分野における周知事項に基づいて容易になし得る程度のものにすぎず、また、これらの相違点によって引用例1乃至3に記載された発明と比較して格別優れた効果を奏しているものとすることもできない。
Ⅴ. むすび
以上のとおり、本願の第1発明は、引用例1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本願の特許請求の範囲第27項および第39項に記載された発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成2年10月19日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
請求人 のため出訴期間として90日を附加する。