大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京高等裁判所 平成3年(行コ)133号 判決 1992年9月24日

控訴人(原告) 中澤末昭

被控訴人(被告) 茨城県建築主事

訴訟代理人 池本壽美子 井上邦夫 ほか四名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人に対し、平成二年六月二五日付第一号でした建築基準法第六条の規定による適合しない旨の処分を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「第二事案の概要」(原判決二枚目表四行目から三枚目裏終わりから二行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表末行の次に、改行して、次のとおり加える。

「(一) 被控訴人は、本件建物を建築するには、都市計画法二九条の許可が必要であるとの実質的判断をして、本件処分をしたものである。すなわち、被控訴人は、控訴人に対する本件処分の通知書(甲第六号証)の理由欄に、「都市計画法第二九条に抵触する」と記載しているが、被控訴人が本件確認申請に当たり、開発許可権者が同条の開発許可が必要と判断しているかどうかという形式的な審査をしたのであれば、本件処分の理由として、右許可を得るようにとの通知をするはずである。また、被控訴人は、本件建物の建築は、同条の規制の対象となる旨主張し、その証拠(乙第五、第六号証)を提出して立証しようとしている。更に、被控訴人は、茨城県建築審査会の審査においても、本件確認申請には、同条の許可が必要であると判断したことを自ら認め(甲第一号証の5項(2))、許可権者の判断は、被控訴人の判断の一資料にすぎないことを認めている(甲第七号証)。

(二) 都市計画法二九条の開発許可の要否についての実質的判断権は、被控訴人にある。同法施行規則六〇条及び建築基準法施行規則一条七項は、法律の下位の法規であるから、これらを開発許可の要否の判断権者がだれかの根拠とすることはできないし、右各規則は、開発許可を必要としている場合において、単に開発を許可する旨の書面について規定しているにすぎない。

(三) 仮に、開発許可の判断権が被控訴人にないとしても、本件建物を建築するについて、都市計画法二九条の許可が不要とされれば、被控訴人が本件確認申請を認めない理由がなくなるのであるから、右許可の要否について判断されるべきである。」

第三証拠<省略>

理由

第一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の「第三争点に対する判断」(三枚目裏末行から六枚目表一行目まで)と同一であるから、これを引用する。

一  原判決四枚目裏八行目の「建築基準法施行規則一条六項」を、「建築基準法施行規則一条七項」と訂正する。

二  原判決六枚目表一行目の次に、改行して、次のとおり加える。

「控訴人は、被控訴人は、都市計画法二九条の許可が必要であるとの実質的判断をして、本件処分をしたと主張する。

しかし、被控訴人が、本件確認申請の審査に当たり、接道の関係で、本件土地上に本件建物を建築するには都市計画法二九条の規定に基づく開発行為の許可が必要ではないかとの疑義が生じたため、竜ヶ崎土木事務所の担当者にこの点の照会をし、担当者から右許可が必要である旨の連絡を受けたうえ、本件処分をしたことは、前記認定のとおりであるから、被控訴人は、本件建物の建築について、開発許可権者が都市計画法二九条の開発許可を必要と判断しているかどうかの形式的な審査をしたにすぎないものというべきである。被控訴人の控訴人宛の本件処分の通知書(甲第六号証)の理由欄には、「都市計画法二九条に抵触する」との記載があり、右記載は、建築基準法施行規則一条七項により要求される、都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面の添付がないことを表示するものとして正確性を欠くが、右記載のみから、被控訴人が、同条の許可が必要であるとの実質的判断をして本件処分をしたとまでいうことはできない。また、控訴人は、被控訴人は、本件建物の建築は、同条の規制の対象となる旨主張し、その証拠を提出して立証しようとしており、被控訴人は、茨城県建築審査会の審査においても、本件確認申請には、同条の許可が必要であると判断したことを自ら認め、許可権者の判断は、被控訴人の判断の一資料にすぎないことを認めていると主張するが、乙第五号証、同第六号証及び甲第一号証によっても、被控訴人の主張するような事実を認めることはできない。

次に、控訴人は、都市計画法二九条の開発許可の要否についての実質的判断権は、被控訴人にあるところ、同法施行規則六〇条及び建築基準法施行規則一条七項は、法律の下位の法規であるから、これらを開発許可の要否の判断権者がだれかの根拠とすることはできないし、右各規則は、開発許可を必要としている場合において、単に開発を許可する旨の書面について規定しているにすぎないと主張する。

しかし、都市計画法上の開発行為の規制における土地の区画形質の変更は、それが建築行為に係わるものであっても、人口の増加、公共的又は公益的施設の整備等の都市計画的観点から定めることを要する事項であり、個々の建築物の安全又は衛生の維持を目的として定められたものではなく、これを目的として定められている建築基準法六条等の当該建築物の敷地についての規制とはその趣旨及び目的において異なるものであり、都市計画法は、前記のような観点から定めることを要する開発行為の規制に関する権限について、その二九条において知事にあることを規定しているが、建築主事についてはなんらの規定を設けていないのであり、このことから見ると、右各規則の規定をまつまでもなく、都市計画法自体から開発許可権限は専ら知事にあることが明らかであり、同法施行規則六〇条及び建築基準法施行規則一条七項は、知事に開発許可権限があることを前提として、密接な関係にある都市計画法と建築基準法との斉合性を確保するため規定されたものと解されるのであって、右各規則から、都市計画法上の許可権限が建築主事にあり、その証明行為を知事が行うものとは到底解されない。

更に、控訴人は、開発許可の判断権が被控訴人にないとしても、本件建物を建築するには、都市計画法二九条の許可が不要とされれば、被控訴人が本件確認申請を認めない理由がなくなるのであるから、右許可の要否について判断されるべきであると主張する。

しかし、被控訴人の権限が形式的、外形的な審査にとどまる以上、本件処分の違法性を判断するには、開発許可の要否についての判断は必要ではなく、かつ、これをすることができないものというべきである。」

第二  以上のとおり、控訴人の本訴請求は理由がないものというべきであるから、これを棄却した原判決は相当であり、したがって本件控訴は理由がないものというべきである。

よって、控訴費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田保幸 白石悦穂 長野益三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例