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東京高等裁判所 平成3年(行コ)134号 判決 1992年9月24日

控訴人(原告) 太洋物産株式会社

被控訴人(被告) 日本橋税務署長

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  申立て

1  控訴人

(一)  原判決を次のとおり変更する。

(二)  被控訴人が控訴人の昭和六〇年一〇月一日から昭和六一年九月三〇日までの事業年度の法人税について昭和六二年七月三一日付けでした更正のうち所得金額三億〇五二〇万四八七四円、納付すべき税額一億一六九二万七一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨。

二  主張、証拠

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(なお、当審において審判の対象となっているのは、被控訴人のした本件更正及び本件決定のうち、売上値引きに関する部分のみである。)。

1  原判決三丁裏八行目「(1)」を「(2)」に、「(2)」を「(3)」に改める。

2  同四丁表二行目の次に行を変えて、次のとおり加える。

「(1) 控訴人と中国製鋼株式会社(以下「中国製鋼」という。)との関係等

控訴人は、昭和一一年に太洋物産合資会社として設立され、昭和一六年に株式会社に改組された商事会社(資本金は三億四〇〇〇万円、発行済株式総数は六八〇万株、本店の所在地は東京都中央区)であり、鉄鋼、機械、繊維、化成等の各分野の取引を営んでいる。

控訴人の関連会社である中国製鋼は、昭和四五年一二月に設立された会社で、広島県福山市に本社を置き、棒鋼の製造業を営んでいるが、本件事業年度末における資本金は九七五〇万円(発行済株式総数は一九万五〇〇〇株)で、発行済株式総数の四四パーセントに当たる八万五八〇〇株を控訴人が保有し、五〇・三パーセントに当たる九万八一五〇株を控訴人の代表取締役である柏原弘及びその親族並びに中国製鋼の代表取締役である尾城友次及びその親族が保有している同族会社であって、控訴人の代表取締役柏原弘が中国製鋼の取締役を、中国製鋼の代表取締役尾城友次が控訴人の専務取締役をそれぞれ兼任しているほか、中国製鋼の取締役は全部控訴人の取締役が兼任している。

中国製鋼が棒鋼の製造に使用する原料のビレットは、全て控訴人が商社から仕入れて中国製鋼に販売する形式を取っているが、実際の仕入れ業務は、中国製鋼が仕入先との間で直接に行っており、控訴人は、単に仕入代金支払のための手形を振り出しているに過ぎず、これを仕入額と同額で中国製鋼に販売している。

なお、中国製鋼においては、業績が悪化し、昭和六一年六月三〇日現在の残高試算表で一億二九七六万三〇〇〇円の、同年七月三一日現在の残高試算表で九三二〇万円の、各赤字が見込まれるに至っていた。」

3  同四丁表三行目「(1)」を「(2)」と、同四行目から五行目にかけての「中国製鋼株式会社(以下「中国製鋼」という。)」を「中国製鋼」と、同裏一行目「(2)」を「(3)」とそれぞれ改める。

4  同五丁裏末行「いること」の次に「及び同(二)の(1)の事実」を加える。

5  同六丁表四行目「(1)」を「(2)」と、同六行目「(2)」を「(3)」と、同七丁目表二行目「原告自身」から同三行目「回避するため」までを「控訴人が金融機関からの与信を継続して受けられなくなるという被控訴人にとって死活にかかわる危機を回避するため」とそれぞれ改める。

理由

一  当裁判所も、本件更正及び本件決定のうち売上値引きに関する部分の取消しを求める部分の控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決八丁表三行目「五億〇五二〇万四八七四円」を「三億〇五二〇万四八七四円」と改める。

2  同八丁表八行目から同九丁表五行目までを「(一)被控訴人の主張1の(二)の(1)の事実は当事者間に争いがない。」と改める。

3  同九丁裏三行目「甲第一二号証」の前に「原本の存在及び成立に争いがない」を、「同第二七号証」の前に「原審証人菅野文治の証言により原本の存在及びその真正な成立が認められる」を、同四行目「乙第五号証」の前に「原本の存在及び成立に争いがない」をそれぞれ加え、同六行目から九行目までを削る。

4  同一〇丁裏二行目「その負担をしなければ」の次に「その者との密接な関係からして」を、同四行目の「場合」の次に「、その経済的利益の供与につき経済取引として十分首肯し得る合理的理由がある場合に」を加え、同一一丁表二行目の「定めている」を、「、と、同九―四―二が「法人がその子会社等に対して金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸し付けた場合においても、その貸付けが例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するために緊急に行う資金の貸付けで合理的な再建計画に基づくものである等その無償又は低い利率で貸し付けたことについて相当な理由があると認められるときは、その貸付けは正常な取引条件に従って行われたものとする。」と定めている」と改め、同三行目「甲第七〇号証」の前に「成立に争いのない」を、同末行「甲第四四号証」及び同裏六行目「甲第四六号証」の前にそれぞれ「原本の存在及び成立に争いのない」を加える。

5  同一三丁表三行目「前記のとおりである。そうすると」を「前記のとおりであるが」と、同四行目の「解し得ない」から同五行目までを「解し得ないというべきである。」と改める。

6  同一三丁表六行目から同裏七行目ないし八行目の「認められない。」までを、次のとおり改める。

「もっとも、法人が債権の放棄等を行う場合であっても、例外的に、実質的にみると経済的利益の無償供与とはいえない場合があり得ることは前記のとおりである。しかし、原審証人菅野文治及び後藤一男の各証言によれば、本件値引きが行われた当時、中国製鋼の業績は悪化していたものの、倒産や解散が差し迫っているというような危機的状況が切迫した状態にまでは至っていなかったと認められ、右業績の悪化により控訴人自体の経営、信用にも重大な支障が生ずることが懸念される状況にあったことはうかがわれるものの、本件全証拠によっても、その時点で本件売上値引きを行わなければ、控訴人の死活にかかわるような経営、信用の危機に陥る切迫したおそれが明らかに存したとまでは到底認められず、また本件売上値引きにつき経済取引として十分首肯し得る合理的理由があったとは認められない。」

7  同一三丁裏末行から同二〇丁表五行目までを削る。

8  同二〇丁表八行目「いうべきであるが、」から同一〇行目「結局、」までを、「いうべきであり、」と、同末行「金三万円に」を「金三万円を」と、同裏八行目「限度では」から同九行目までを「限度で適法というべきである。」と、それぞれ改める。

二  以上の次第で、本件更正及び本件決定のうち本件売上値引きに関する部分の取消しを求める部分につき控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菊池信男 吉崎直彌 大谷禎男)

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