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東京高等裁判所 平成3年(行コ)80号 判決 1992年6月29日

控訴人 久保佳子 ほか一名

被控訴人 横須賀税務署長

代理人 若狭勝 神谷宏行 ほか二名

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

(甲事件)

2  被控訴人が、控訴人久保佳子に対して昭和六〇年一二月二七日付でした昭和五八年分所得税の更生処分(以下「本件更生一」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定一」という。)は、これを取り消す。

3  被控訴人が、控訴人久保佳子に対して昭和六一年三月二四日付でした昭和五八年分所得税にかかる更生の請求につき更生をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分一」という。)は、これを取り消す。

(乙事件)

4  被控訴人が、控訴人久保正雄に対して昭和六〇年一二月二七日付でした昭和五八年分所得税の更生処分(以下「本件更生二」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定二」という。)は、これを取り消す。

5  被控訴人が、控訴人久保正雄に対して昭和六一年三月二四日付でした昭和五八年分所得税にかかる更生の請求につき更生をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分二」という。)は、これを取り消す。

6  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

第二本件の争点

原判決「第二 本件の争点」記載のとおりであるから、これを引用する。

第三事案の概要等

以下のとおり、付加、訂正するほか、原判決「第三 事案の概要等」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決八枚目表九行目の「本文」の次に「(昭和六三年法律第四号による改正前のもの)」を加える。

二  同九枚目表一一行目の「措置法」の次に「(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)」を加える。

三  同一〇枚目表一〇行目の「過少申告加算税の」を「過少申告加算税三万六五〇〇円を課したものであり、本件」に改める。

四  同一三枚目表一〇行目の「正雄」の次に「は」を加える(編注・原判決をもって訂正処理済み)。

五  同一七枚目裏一行目の「受け」を「得」に改め、同一一行目の「措置法」の次に「(昭和六三年法律第四号による改正前のもの)」を加える。

六  同一九枚目表三行目の「措置法」の次に「(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)」を加える。

七  同二〇枚目表三行目の「過少申告加算税の」を「過少申告加算税一二万四五〇〇円を課したものであり、本件」を加える。

第四当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人らの本件各通知処分の取消しを求める訴えを却下し、その余の請求をいずれも棄却した原判決を相当と判断するものであって、その理由は、次のとおり、付加訂正するほか、原判決「第四 争点に対する判断」のとおりであるから、これを引用する。

一  <略>

二  同二四枚目裏二行目の「計上する、」の次に「低廉な価格による譲渡が否定され、時価による譲渡としての課税がなされるのを避けるため、」を加える。

三  同二五枚目表六行目の「ある」を「あり、利息の約定もされず、実効性のある債権確保の方法も講じられなかった」を加える。

四  同二六枚目表一行目の「正雄」の次に「(原審)及び控訴人佳子(当審)」を、同三行目の「供述するが、」の次に「同時に、控訴人正雄(原審)は、『売買代金はもらうということだったか。』との問いに対し『会社が再建さえすればいい。』と、控訴人佳子(当審)は、『代金をもらうよりは会社の再建を優先に考える。』とも供述して、代金を受け取る考えはないかのように思われる態度も表明している。」をそれぞれ加える。

五  同二六枚目裏二行目の「正雄の」を「正雄及び控訴人佳子の代金の返済を受けるつもりであった旨の前記各」に改め、同四行目の「なって」の次に「い」を加える。

六  同二八枚目表三行目の「措置法」の次に「(昭和六三年法律第四号による改正前のもの)」を加え、同六行目の「ついて、は」を「ついては、」に改め(編注・原判決をもって訂正処理済み)、同八行目の「一項」の次に「一号」を加える。

七  同二八枚目裏七行目の「被告の本訴主張額」を「控訴人佳子にかかる右認定の長期譲渡所得金額」に改め、同九行目の冒頭に「本件賦課決定一は、」を加える。

八  同二九枚目表三行目の「から」を「ものとして」に改め、同三行目の「同法」の次に「(前記法律による改正後のもの)」を加え、同四行目の過少申告加算税」から同五行目の「である」までを「過少申告加算税三万六五〇〇円を賦課するものであるが、本件賦課決定一に何ら違法な点は認められない」にそれぞれ改め、同六行目の「原告佳子は」から同一〇行目の「理由がない。」までを次のとおり改める。

「控訴人佳子は、本件更正一は、同控訴人のした本件係争年分の納税申告の更正の請求に対し、未だ応答のなされていない時期に増額更正の処分を行ったもので手続的に瑕疵があって違法であり、また本件通知処分一には理由の記載がなく違法であると主張する。

しかし、通則法二三条四項の規定に基づく更正をすべき理由がない旨の通知処分は、更正の請求に対し、税務署長が調査のうえ応答としてなす処分であり、他方、同法二四条に基づく更正処分は、提出された納税申告書について、税務署長が独自の調査のうえ、職権でなす処分であって、両処分は同一の納税義務にかかわり内容上関連するところがあるとはいえ、手続上別個独立の関係にあり、どちらを先に行うかは法令上別段の定めがなく、税務署長の判断に委ねられており、本件のように、更正の請求に対する応答に先立って増額更正処分をすることも許されると解される。なお、同法二三条四項は、更正の請求をした納税者の権利保護のため、税務署長に更正の請求をした者に対する応答の義務を負担させるに止まり、増額更正の処分に先立ち、前記通知処分をすることまでを求める趣旨を含むものとまでは解されない。また、本件通知処分には理由の記載がないが、更正の請求に対しなされる更正すべき理由がない旨の通知処分に理由を付することは法令上要求されていないから、理由の付記がないからといって、右処分が違法となるものではない。」

九  同三〇枚目表一行目の「措置法」の次に「(昭和六三年法律第四号による改正前のもの)」を加える。

一〇  同三〇枚目裏五行目の「被告の本訴主張額」を「控訴人正雄にかかる前記認定の長期譲渡所得金額」に改め、同七行目の冒頭に「本件賦課決定二は、」を加える。

一一  同三一枚目表一行目の「から」を「ものとして」に改め、同行の「同法」の次に「(前記法律による改正後のもの)」を加え、同二行目の「過少申告加算税」から同三行目の「である」までを「過少申告加算税一二万四五〇〇円を課したものであるが、本件賦課決定二に違法な点は認められない。」にそれぞれ改め、同四行目の「原告正雄」から同八行目の「理由がない。」までを次のとおり改める。

「控訴人正雄は、本件更正二は、同控訴人のした本件係争年分の納税申告の更正の請求に対し、未だ応答のなされていない時期に増額更生の処分を行ったもので手続的に瑕疵があって違法であり、また本件通知処分二には理由の記載がなく違法であると主張する。この点については、控訴人佳子の同様の主張に対し前記判示したのと(第五(甲事件)三)同一の理由により控訴人正雄の主張は採用できない。」

一二  同三一枚目表一〇行目の冒頭から同三二枚目裏二行目の末尾までを次のとおり改める。

「本件各通知処分の取消しを求める訴えの適法性について、本件各通知処分の取消しを求める訴えが本件更正一及び二の各増額更正処分の取消しを求める訴えとどのような関係に立つのかという観点から検討する。まず、通則法二四条に規定する更正処分の性質、効果をみると、右処分は、納税者の提出した納税申告書(修正申告書を含む。)について、税務署長において、課税標準、税額等が、その調査した結果と異なる場合に、徴税権者の立場から、右課税標準、税額等を更正する処分であるが、調査により得た資料等に基づき、課税の要件にかかる事実を全体的に見直し、申告された税額をも含め、納税義務の総額を確定することを目的とするものである。即ち、増額更正処分は、単に申告税額に対し更正された税額との増差税額を追加するだけのものではなく、申告により一応確定した税額を変更し、申告された税額を含めて納税者の納税額の総額を確定するものと解される。他方、通則法二三条四項に規定する更正の請求に対する更正の理由がない旨の通知処分は、納税者の申告による税額等の減額を求める更正の請求に対し、右税額等の減額を拒否する処分であり、通知処分により、申告された税額等について減額を認めないことを確定させる効果を持つものである。右通知処分と増額更正処分とは、このように、手続的には別個独立の処分であるけれども、同一の所得税の納税義務にかかわり、相互に密接な関連を持つものといえる。そして、以上のとおり、右両処分は所得税の納税義務の確定にかかる処分であるが、通知処分は、申告税額の減少のみにかかわるのに比し、増額更正処分は、納付するべき税額全体にかかわり、実質的には申告税額等を正当でないものとして否定し、これに増額変更を加えて税額の総額を確定するものであるから、増額更正処分の内容は、減額更正をしない旨の通知処分の内容を包摂する関係にあるといい得るものである。したがって、両処分がなされた場合は、税額等を争う納税者は、増額更正処分に対し取消し訴訟をもって争えば足り、これと別個に通知処分を争う利益や必要を有しないものと解するべきであり、このように解するのが、同一の所得税の納税義務にかかわる両処分の訴訟が別個に係属することにより生じる審理判断重複の抵触を避けるためにも相当であるといえる。なお、このように解するとしても、増額更正処分の内容は、通知処分の内容を包摂する関係にあるのであるから、前者に対する取消訴訟の中で、通知処分における減額更正をしない旨の判断に存する違法を主張して、申告税額等を下回る額にまで増額更正処分の取消しを求めることもできるものと解される。

したがって、本件通知処分一及び二の取消しを求める訴えは、取消しを求める利益又は必要がなく、不適法というべきである。」

第五以上、控訴人らの本件通知処分一及び二の各取消しを求める訴えをいずれも却下し、その余の請求をいずれも棄却した原判決は正当であるから、本件控訴は理由がないものとして棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤滋夫 宗方武 水谷正俊)

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