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東京高等裁判所 平成3年(行コ)99号 判決 1992年3月26日

千葉県市川市真間一丁目九番五号

控訴人

三葵合資会社

右代表者無限責任社員

本多安仁

右控訴代理人弁護士

浜田脩

加藤祐司

千葉県市川市北方一丁目一一番一〇号

被控訴人

市川税務署長 大西幸策

右指定代理人

田口紀子

三浦正敏

中野百々造

安井和彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和六三年一〇月二七日付けでなした、控訴人の昭和六一年一二月一日から昭和六二年一一月三〇日までの事業年度の法人税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分はこれを取り消す。控訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者の主張は、次のとおり訂正するほかは原判決の「第二 当事者の主張」(原判決二丁表七行目から一〇丁表七行目まで。)と同一であるから、これを引用する。

原判決七丁裏三行目の「従来建物」を「従前建物」に、同八丁表八行目の「定めるところによるとの被告の主張は認めるが、」を「定めによるとしても、」にそれぞれ改める。

三  証拠については、当審及び原審記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、原審の判断は相当であると思料する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の理由(原判決一〇丁表一一行目から一三丁裏六行目まで。)と同一であるから、これを引用する。

原判決一一丁表三行目から同一三丁表三行目までを次のとおりに改める。

「 成立に争いがない甲第四号証、乙第一号証(原本の存在とも。)、原審における控訴人代表者尋問の結果により原本の存在及び成立が認められる甲第五号証、第六号証、原審における証人高村幸雄の証言により成立が認められる甲第一〇号証(原本の存在とも。)、第一一号証の二、右証言、右代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨に前記争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。

控訴人と高村間の前記建物明渡請求訴訟における裁判所の和解勧告に対しては、控訴人は、高村に高額の立退料を支払うことができず、二〇〇万円程度が限度という姿勢で臨み、一方、高村は高齢(大正一一年生)で少額の立退料を貰って居宅から退去することもできず、賃貸借の継続を求めたため、高村が控訴人からその所有にかかる賃貸マンションの一室を代替の建物として提供を受け、従前建物(平家建居宅、現況八〇.九九平方メートル)から退去する方向で訴訟上の和解が具体化した。高村は現行の賃料一万七八〇〇円を大きく上回る賃料を負担できず、かつ、短期間で代替建物の賃貸借が終了する事態を避けたいという希望を持っていたことから、控訴人との間で、賃料及び賃貸期間につき協議した結果、控訴人から賃料、期間につき具体的な提案がなされ、新規に賃借した場合に比して高村が受ける利益の内容につき説明がなされた。

そして、昭和六二年一一月六日、両名間に本件和解が成立した。その要旨は、従来の賃貸借を合意解除し、高村は同年一二月二八日までに従前建物を明け渡す、控訴人は高村に翌六三年一月一日から代替建物(ママハイム一〇六号室)を期間の定めなく賃貸し、当初の賃料及び管理費を月額二万円とし、順次これが増額され、最終の賃料等(昭和七七年一二月三一日までの分)は月額六万円と定め、昭和七八年一月以降の賃料等についてはその時点で別途協議することとされた。また、本件和解において、右賃料等の定めは、右代替建物に高村及びその妻が居住することを前提とした特段の定めであることが確認され、和解条項に定めるほか何らの債権債務がないことも確認された。

そこで、高村は、昭和六二年一一月八日に代替建物の鍵を控訴人から渡され、入居の準備を始め、同年一二月二四日ころ入居を完了し翌年二月に、控訴人との間で代替建物につき賃貸借契約書(甲第一一号証の二)を作成した。その内容は、賃貸期間は、本件和解において賃料が順次増額されることとなっていたため、とりあえず一年間とするが、和解条項により定まったところに従って賃料等を改訂して更新するもの(更新料不要)とされ、控訴人からの予告解除ができないこととされ、敷金、礼金等の賃借人から支払われる金員の定めがないなど本件和解の趣旨に沿うものであった。控訴人と高村の間で、本件和解で定められた期間内に代替建物の賃貸借が終了した時に、控訴人から高村に何らかの金銭を支払う旨明示された書面は作成されなかった。

以上のとおり認められ、右認定に抵触する証拠はない。

3 控訴人は、本件和解が高村に立退料二〇〇〇万円を支払う合意を前提に、その支払方法を定めたものであり、高村が本来支払うべき代替建物の正常賃料等と和解で支払う旨合意した賃料等の金額との差額や敷金、礼金等の合計が二〇〇〇万円になり、これらを右立退料の支払に充て、高村はこれを支払わないことになったものであると主張する。

しかし、前掲証拠によっても、控訴人と高村の間で、代替建物について、賃料、敷金、礼金、更新料が控訴人の提案(甲第五、第六号証に記載の内容)どおりに決定された事実は認められない。かえって、前記の和解の経緯及びその内容、その後の控訴人と高村間の賃貸借契約の内容等の認定事実からすると、控訴人と高村の間では、和解条項に記載の内容の賃料額、期間で代替建物の賃貸借が合意されたにすぎない。したがって、両名が立退料を二〇〇〇万円と合意し、控訴人が右債務を負担し、高村が控訴人に支払うべき敷金や更新料等や合意賃料と実際支払賃料との差額の合計金とを相殺したとは認められない。すなわち、本件和解の過程において、高村が代替建物に和解で合意した期間居住を続けた場合、高村の受ける利益が、新規に代替建物を賃借し、控訴人主張のような賃料等の増額がなされた場合に比して計算すると、約二〇〇〇万円に及ぶことが控訴人から示され、それを参考として代替建物について賃貸借の条件が話し合われたというにすぎず、両名間で立退料での合意がなされ、それと正常賃貸借の締結による高村の債務とが差引計算されたものではない。結局、控訴人代表者尋問の結果中の立退料の合意があったことに沿う部分は、前記和解につき右と異なる解釈を述べるものにすぎず採用の限りではない。

控訴人は、昭和六二年一〇月五日、控訴人と高村間で、覚書(甲第三号証)を取り交わし、立退料を二〇〇〇万円にする合意ができ、これを踏まえて本件和解において控訴人主張の立退料を支払う旨の合意が成立したと主張する。しかし、前掲高村の証言、控訴人代表者尋問の結果によれば、右覚書は、建物明渡しの訴訟が継続し、訴訟上の和解が進行しているにもかかわらず、代理人に選任された双方の弁護士が立ち会うことなく交わされたものであって、内容も立退料を二〇〇〇万円とし、支払方法は別途協議するというだけのものであって、代替建物についての賃貸条件に触れるものではなく、和解の場にも提出されず、話題にもされなかったものであって、本件和解の内容からするとその前提とされたとはいいがたい。また、右覚書が、本件和解以前に作成されたとの主張に沿う前掲証人高村、控訴人代表者の各供述は、これと矛盾する乙第七号証中の供述記載と対比して採用しがたい。したがって、控訴人と高村間で右覚書が作成されたことも前記認定の妨げとなるものではない。当審における証人岩井俊郎の証言中には、控訴人が昭和六三年二月一日確定申告をするに際し、損金として経理処理をすべき立退料があり、昭和六二年一二月に、税理士である岩井が控訴人代表者から右覚書等の資料の提供を受けていたとか、それにもかかわらず岩井の過誤により立退料を損金として申告しなかったとの控訴人の主張に沿う部分があるが、損金として経理処理をしなかったことについて合理的な説明がつくものではなく、ひいては右覚書が本件和解以前に作成され、右覚書に沿う合意があったことを認めさせるに足るものということはできない。」

二  以上によれば、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石忠生 裁判官 白石悦穂 裁判官 犬飼眞二)

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