東京高等裁判所 平成4年(う)178号 判決
被告人 荒木雅宣
〔抄 録〕
本件の窃盗被害については、当初、学校長から一括して被害総額を現金合計四三万一三三〇円とする被害届が出されたが、その後の取調べにおいて、個々の被害者である前記鈴木らから金額及び金種について一部訂正がなされ、最終的には総額四二万円余の現金の被害にあった旨の供述がなされている。これらの被害届あるいは右供述にかかる現金被害額を被告人の前記所持金と対比すると、その総額における若干の相違はともかくとして、その金種においては著しい不一致が認められるのである。すなわち、当初の被害届による現金の金種は、一万円札三四枚、五千円札一一枚、千円札三三枚、五百円硬貨二個、百円硬貨二二個、一〇円硬貨一二個、五円硬貨一個、一円硬貨五個であるのに、被告人の所持していた現金の金種は、一万円札及び五千円札各二三枚、千円札七二枚、五百円硬貨一個、百円硬貨一〇個、五十円硬貨四個、十円硬貨一〇個、五円硬貨一個、一円硬貨二個であることが認められ、その後、被害届にかかる金額、金種については、被害者らから一部訂正がなされているが、なお、不一致やあいまいな点が残されているのである。被害者らの申述するところと被告人が所持していた現金との間に、このような不一致が認められる以上、第一審としては、これらの被害者を証人として尋問するなどし、右不一致の原因、被害届の内容の正確性等を明らかにするのが相当であり、更には、被告人の所持する現金が、被告人の弁解するように、日々の労働の対価として被告人が取得した紙幣であるとするならば、これらの紙幣から相当数の被告人の指紋が採取されてもよいと考えられるが、その点はどうか、などの点について、審理を尽くす必要があるといわなければならない。
以上のとおりであるから、原判決には、窃取現金の金額、金種の点につき十分に審理を尽くさないままに、被告人において現金約四〇万円を窃取した旨認定した審理不尽の違法があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。
(早川 小田部 仙波)