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東京高等裁判所 平成4年(う)574号 判決 1992年9月21日

本店所在地

東京都大田区大森西三丁目三二番一七-一〇〇四号

株式会社第一工業

右代表者代表取締役

楠田

本籍

同都大田区羽田二丁目六番地の一一

住居

同区大森西三丁目三二番一七-一〇〇四号

フラットフォーレスト

会社役員

楠田

昭和二二年六月七日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成四年三月二七日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らからそれぞれ控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官小谷文夫出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人薄金孝太郎、同飯田数美及び同鈴木秀一連名の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官小谷文夫名義の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一(法令解釈適用の誤りの主張)について

所論は、要するに、法人税法一五九条一項により処罰される逋脱額は、あくまでも当該申告当時における逋脱額に限られるべきであって、法人税確定申告後、青色申告承認の取消処分により遡って否認される特別償却費は右逋脱額算定の基礎となる所得金額に含まれないものと解すべきところ、これを含めて被告会社の各事業年度における所得金額を算定した原判決は右条項の解釈適用を誤ったものであり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。

しかしながら、青色申告の承認を受けた法人の代表者がある事業年度において法人税を免れるため逋脱行為をし、その後その事業年度に遡ってその承認を取り消された場合におけるその事業年度の逋脱額は、青色申告の承認がないものとして計算した法人税額から申告にかかる法人税額を差し引いた額であると解すべきである(最高裁判所昭和四九年九月二〇日第二小法廷判決・刑集二八巻六号二九一頁、同裁判所同年一〇月二二日第三小法廷判決・裁判集刑事一九四号三一頁、同裁判所昭和五〇年二月二〇日第一小法廷判決・裁判集刑事一九五号三七一頁参照)ところ、大森税務署長は、本件各法人税確定申告書提出後の平成三年九月二日、被告会社に対する青色申告の承認について、昭和六二年八月一日から同六三年七月三一日までの事業年度以後右承認を取り消したことが記録上明らかであるから、所論が指摘する青色申告取消益(特別償却費)を本件所得金額に含めて計算し、被告人株式会社第一工業(以下「被告会社」という。)につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項を、被告人楠田均(以下「被告人」という。)につき、同法一五九条一項をそれぞれ適用して処断した原判決は正当として是認することが出来、その法令の解釈適用に誤りがあるものとは到底考えられない。

次に、所論は、法人税法一五九条一項は故意犯を処罰する規定であることが明らかであるから、違反者が、申告書提出の時点で、不正の行為により免れようと認識していた税額についてのみ逋脱犯が成立するものと解すべきところ、被告人は、本件各過少申告を実行した時点においては、将来、青色申告の承認が取り消されることなどは全く予想していなかったのであるから、右取消により遡って否認されることとなった特別償却費(いわゆる青色申告取消益)を所得金額に算入することは、罪刑法定主義・刑罰法規不遡及の原則を規定した憲法三一条、三九条に違反する、と主張する。

しかしながら、青色申告承認の制度は、納税者による自主的な申告納税制度の下において、適正な課税を実現するため、大蔵省令の定める帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存する納税者に対して特別の青色申告書による申告を承認し、納税手続上及び所得計算上の特典を与えるものであるから、当該帳簿書類に取引の一部を隠蔽又は仮装して記載するなどして所得金額を過少に申告するが如きは、青色申告承認の制度とは根本的に相容れないものであって、税法上の特典を享受する余地のないことはもとより、かかる行為の結果として後に青色申告の承認を取り消されることは、行為当時から、当然認識出来るところである(前掲第二小法廷判例参照)。

これを本件についてみるに、関係証拠によれば、被告人は、被告会社の代表取締役として、その業務全般を統括していた者であるところ、好景気が反映して、被告会社の利益が急激に伸びたため、これを納税に回すことが惜しくなり、脱税して自由に出来る裏金を捻出しようと考え、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上や雑収入の一部を除外し、あるいは外注工事費を架空計上するなどの方法により所得を秘匿した上、その旨を記載した法人税確定申告書をそれぞれ提出して、被告会社の本件各法人税を免れたものであること、しかも、本件各申告当時、青色申告制度の趣旨、脱税した場合には、その承認が取り消されるばかりでなく、右承認による特典も受けられなくなることを十分承知していたが、所得を秘匿しても発覚することはないだろうと安易に考え、本件各犯行に及んだものであること、大森税務署長は、平成三年九月二日、被告会社に対し、「昭和六二年八月一日から昭和六三年七月三一日までの事業年度において、被告会社と取引した事実のない山本組に対して昭和六二年一〇月三〇日に外注工事費五九〇、〇〇〇円を支払ったように総勘定元帳の外注費科目に架空計上したのをはじめとして、総額一八、七二一、八〇〇円の架空外注費を計上し、これによって得た資金により千代田証券大森支店において楠田均名義で得た株式を取得(昭和六三年七月三一日現在残高一六、二九七、六六五円)していたこと」の事実が存し、これが法人税法一二七条一項三号に該当するとして、青色申告の承認を昭和六二年八月一日から昭和六三年七月三一日までの事業年度以後取り消し、その旨の通知をしたことが認められる(被告人は、原審及び当審公判廷において、青色申告が取り消されることを本件各法人税確定申告当時知らなかった旨所論に副う供述をしているが、右の各供述は、被告人の捜査段階における供述に対比し、にわかに信用することが出来ない。)。

以上のような諸事情に徴すれば、被告人は、本件各法人税確定申告書をそれぞれ所轄税務署長に提出した時点において、被告会社の法人税を免れる目的で、その所得金額を虚偽過少に記載した各法人税確定申告書を提出したことが明らかであって、その事柄の性質上、後に青色申告の承認が取り消されるであろうことを当然認識し得たばかりでなく、現実に認識していたことが認められるから、所論はその前提を欠くものといわざる得ない。所論憲法三一条、三九条違反の主張は理由がない。

なお、所論は、法人の業種によっては青色申告の承認により受けられる特別償却費等に極めて大幅な差異があるため、右承認の取消しによる青色申告取消益についても大幅な差異が生じ、その結果、確定申告時に免れた法人税額が同額であっても、たまたま青色申告取消益の多い違反者はこれが少ない違反者と比べて所得金額が多いとされてより重く罰せられることになるが、これは公平の観念に反するばかりか、刑罰の均衡をも失し不当であるから、青色申告取消益を所得金額に含めるべきではない旨主張する。しかしながら、すでに説示したとおり、青色申告取消益が法人税法一五九条一項の所得金額を構成し、これに基づいて逋脱額が算出されるのであるから、青色申告取消益が多い場合には、逋脱額が多額になることは当然であり、所論のいう「確定申告時に免れた法人税額が同額」という前提そのものが誤りである。したがって、その逋脱額に応じて重く処罰されることがあっても、そのことが公平の観念に反しないことは勿論、何ら刑罰の均衡を失するものではないというべきである。

法令適用解釈の誤りに関する論旨は総て理由がない。

控訴趣意第二(量刑不当の主張)について

所論は、要するに、被告人らに対する原判決の量刑がいずれも重過ぎて不当であるというのである。

そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、本件は、建築請負、建築機械等のリース業等を目的とする被告会社の代表取締役として、その業務全般を統括している被告人が、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、所得を秘匿した上、被告会社の三事業年度にわたる法人税合計一億三一七四万二九〇〇円を免れた事案であって、その逋脱額が多いことはもとより、逋脱率もかなり高率(昭和六三年七月期は約八九パーセント、平成元年七月期は約八七パーセント、同二年七月期は約七二パーセントであって、三事業年度を通じてみても約八一パーセントに達している。)であること、被告人が本件犯行に至った動機は、建築ブームに乗って被告会社の利益が急激に増加するや、これを納税に回すのが惜しくなり、自由に出来る裏金を捻出し、あるいは建築業界の不況に備えて資金を蓄積しようとしたものであって、いずれも私利私欲に基づくものであり(この点につき、所論は、被告人が被告会社のためを思って行ったことであって、私利私欲に基づくものではない旨主張するが、たとえ被告会社のためにしたものであっても、本件逋脱による利益は被告会社、ひいてはその大口出資者である被告人に帰属するのであるから、私利私欲に基づくものといって妨げない上、本件逋脱により得た金員を被告人自身が私的に費消したものもあることなどに鑑み、右主張の理由がないことは明らかである。)、特に酌むべきものが認められないこと、しかも、平成元年一二月には税務当局による税務調査が実施されて、外注工事費の支出が多い旨指摘されたにもかかわらず、脱税が発覚しなかったことに気を許し、安易にもそのまま犯行を継続したこと、その態様たるや、ダミー会社八社を仕立てて、被告会社の売上に応じた外注工事費を事細かく計上したのをはじめとし、臨時労務費及び運賃等の工事原価をも架空計上したほか、売上除外、雑収入(高速道路利用券の換金収入、自動販売機設置のリベート収入、保険解約返戻金収入、地代収入、パーティ券売却収入等)除外、給料手当及び旅費交通費の架空ないし水増計上、各種保険料の繰上過大計上等、その手段方法が多岐にわたっているばかりでなく、その内容が極めて計画的、かつ、甚だ巧妙悪質であること、被告人の納税意識が著しく低下していること、以上の諸点に照らすと、被告人らの刑責はいずれも重いといわなければならない。

してみると、被告会社において、昭和六二年七月期から平成二年七月期までの四期にわたる法人税につき修正申告をして、その本税一億三三二六万一五〇〇円(法人事業税等の地方税の本税及び延滞税をも含めると合計二億〇四四五万六二〇〇円となる。)を納付したこと、更に、原判決後法人税の附帯税合計二五〇〇万円を納付し、残余についてもその納付に鋭意努力しているほか、新たな税理士と顧問契約を締結し再び過ちを繰り返さないようにしたこと、また、被告人は、原判決を厳粛に受け止めて深く反省しており、前科前歴もないこと、近時におけるこの種事案との刑の権衡等所論が縷々指摘する被告人らに有利な諸般の情状を十分斟酌しても、被告会社を罰金三五〇〇万円(逋脱額の約二六・五六パーセント相当)に、被告人を懲役一年六月に処した上、被告人に対しその刑の執行を四年間猶予した原判決の量刑はやむを得ないものであって、被告会社の罰金額のみならず、被告人に対する執行猶予期間の点をも含めて、いずれも重過ぎて不当であるとまでは考えられない。量刑不当に関する論旨はいずれも理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 半谷恭一 裁判官 新田誠志 裁判官 浜井一夫)

○ 控訴趣意書

被告会社 株式会社第一工業

(右代表取締役 楠田)

被告人 楠田

右被告人らに対する、法人税法違反被告事件につき、平成四年三月二七日、東京地方裁判所刑事第八部が言い渡した判決に対し、弁護人らから申立てた控訴の理由は、次のとおりである。

平成四年六月九日

右弁護人

弁護士 薄金孝太郎

同 飯田数美

同 鈴木秀一

東京高等裁判所

第一刑事部 御中

原審裁判所は、被告会社株式会社第一工業に対し、「罰金三五〇〇万円に処する。(求刑罰金四〇〇〇万円)」、被告人楠田均に対し、「懲役一年六月に処する。この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。(求刑懲役一年六月)」旨の判決を言い渡した。

しかしながら、右判決は、法令の解釈適用を誤ったばかりか、その量刑は重きに失し不当であり、到底破棄を免れないものと思料する。以下その理由を述べる。

第一 事実関係

一 本件公訴事実及び原審裁判所が認定した事実の要旨は、

1 昭和六二年八月一日から同六三年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が、八六三六万五四三〇円であったのにかかわらず、同年九月三〇日、大森税務署長に対し、その所得金額が、一一三一万六一八五円で、これに対する法人税額が三七五万五六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、同会社の右事業年度における正規の法人税額三五二七万六一〇〇円と右申告税額との差額三一五二万〇五〇〇円を免れ

2 昭和六三年八月一日から平成元年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が、一億四四九六万九四九三円であったのにかかわらず、同年九月三〇日、大森税務署長に対し、その所得金額が、二〇八一万五九八八円で、これに対する法人税額が七六四万三二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、同会社の右事業年度における正規の法人税額五九七七万四八〇〇円と右申告税額との差額五二一三万一六〇〇円を免れ

3 平成元年八月一日から同二年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が、一億六七九一万三九二六円であったのにかかわらず、同年一〇月一日、大森税務署長に対し、その所得金額が、四七六八万〇九五八円で、これに対する法人税額が一七九七万五八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、同会社の右事業年度における正規の法人税額六六〇六万六六〇〇円と右申告税額との差額四八〇九万〇八〇〇円を免れたものである。

ということである。

4 なお、参考までに、右三事業年度分の金額だけを取り上げて明記すると以下のとおりである。

<1> 昭和六三年七月期(第七期)

所得金額

実際額 八六三六万五四三〇円

申告額 一一三一万六一八五円

差額 七五〇四万九二四五円

法人税額

実際額 三五二七万六一〇〇円

申告額 三七五万五六〇〇円

差額 三一五二万〇五〇〇円

<2> 平成元年七月期(第八期)

所得金額

実際額 一億四四九六万九四九三円

申告額 二〇八一万五九八八円

差額 一億二四一五万三五〇五円

法人税額

実際額 五九七七万四八〇〇円

申告額 七六四万三二〇〇円

差額 五二一三万一六〇〇円

<3> 平成二年七月期(第九期)

所得金額

実際額 一億六七九一万三九二六円

申告額 四七六八万〇九五八円

差額 一億二〇二三万二九六八円

法人税額

実際額 六六〇六万六六〇〇円

申告額 一七九七万五八〇〇円

差額 四八〇九万〇八〇〇円

前記三事業年度における、所得金額の差額分

<1> 昭和六三年七月期(第七期) 七五〇四万九二四五円

<2> 平成元年七月期(第八期) 一億二四一五万三五〇五円

<3> 平成二年七月期(第九期) 一億二〇二三万二九六八円

右合計

三億一九四三万五七一八円

前記三事業年度における、法人税額の差額分合計分

<1> 昭和六三年七月期(第七期) 三一五二万〇五〇〇円

<2> 平成元年七月期(第八期) 五二一三万一六〇〇円

<3> 平成二年七月期(第九期) 四八〇九万〇八〇〇円

右合計

一億三一七四万二九〇〇円

(ほ脱率 八一・七パーセント)

二 被告会社が、法人税をほ脱していたことは、争いのない事実であったため、被告会社及び被告人は、裁判の早期解決を望み、原審において、あえて事実関係を争わなかったのであるが、本件に関しては、原審の弁論要旨の第一、三、2の後段(弁論要旨八頁)において、弁護人らが指摘したように、事実関係を厳格に解すれば、前記公訴事実及び原審裁判所が認定した事実記載中の、「法人税確定申告書提出時における各修正された所得金額及びほ脱金額」は、後述のとおり、本件各犯行後、事後に行政処分上の税務処理に基づいて、国税当局により一方的に、しかも強制的に修正された修正金額を前提として、過去の各税務申告時に遡って増額されたものであって(即ち、この修正金額は、被告会社の意思に基づかず、税務調査の結果に基づいて加算されたもので、被告会社は、国税当局の呈示した修正された金額に対して、深い反省心から、あえて異議の申立てをしなかったにすぎない。)、各犯行時(各法人税確定申告書の提出時)を基準とすれば、事実に反するものである。

三 被告会社は、平成三年九月二日付けで、所轄の大森税務署長から青色申告承認の取消処分を受け、昭和六三年七月期(第七期)に遡って、青色申告の特権を失った(弁第四号証)ため、右課税所得のうち、各税務申告をした当時には、特別償却費として経費処理のできた

<1> 昭和六三年七月期(第七期) 一九七九万三一八七円

<2> 平成元年七月期(第八期) 四二二八万八九四〇円

<3> 平成二年七月期(第九期) 四七九〇万一一二〇円

右合計

一億〇九九八万三二四七円

が、平成三年九月二日付けで、三事業年度に遡って否認されてしまった。

本件公訴事実及び原審裁判所が認定した事実によれば、前記各事業年度における否認された特別償却費(青色申告取消益)を含んでいることは、証拠上明らかである。

四 ところで、本件の処罰の適用根拠となる法人税法第一五九条一項の規定を見れば、「偽りその他不正の行為により、同法所定の法人税の額につき法人税を免れた場合には、法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者でその違反行為をした者は、処罰する。」と明記されているところ、かかる規定の方法からすれば、法人税のほ脱犯は、故意犯を処罰するものであることは明白である。

従って、本件における故意の要素としては、違反者が、当該税務申告時に、偽りその他不正な行為により、法人税を免れようと認識して、虚偽の法人税確定申告書を提出するなどの行為により、当該法人税を免れたことが必要であり、違反者が当該税務申告時に、免れようと認識していた法人税額が違反の対象とされるべきである。

1 ちなみに、被告会社において、本件で対象とされている昭和六三年七月期(第七期)から平成二年七月期(第九期)までの三年間、各事業年度の税務申告時に、正規に税務申告していたと仮定するならば、別紙「ほ脱税額計算書」のとおりであった。その主な内容を明記すると以下のとおりである。

<1> 昭和六三年七月期(第七期)

所得金額

実際額 六六五七万二二四三円

申告額 一一三一万六一八五円

差額 五五二五万六〇五八円

法人税額

実際額 二六九六万三一〇〇円

申告額 三七五万五六〇〇円

差額 二三二〇万七五〇〇円

<2> 平成元年七月期(第八期)

所得金額

実際額 一億〇五五〇万八一五一円

申告額 二〇八一万五九八八円

差額 八四六九万二一六三円

法人税額

実際額 四三二〇万一九〇〇円

申告額 七六四万三二〇〇円

差額 三五五五万八七〇〇円

<3> 平成二年七月期(第九期)

所得金額

実際額 一億二八八八万一六八一円

申告額 四七六八万〇九五八円

差額 八一二〇万〇七二三円

法人税額

実際額 五〇四五万四一〇〇円

申告額 一七九七万五八〇〇円

差額 三二四七万八三〇〇円

2 従って、前記三事業年度における、

所得金額の差額分合計分

<1> 昭和六三年七月期(第七期) 五五二五万六〇五八円

<2> 平成元年七月期(第八期) 八四六九万二一六三円

<3> 平成二年七月期(第九期) 八一二〇万〇七二三円

右合計

二億二一一四万八九四四円

法人税額の差額分

<1> 昭和六三年七月期(第七期) 二三二〇万七五〇〇円

<2> 平成元年七月期(第八期) 三五五五万八七〇〇円

<3> 平成二年七月期(第九期) 三二四七万八三〇〇円

右合計

九一二四万四五〇〇円

が、被告会社において、被告人の認識のもとで不正行為により、各法人税確定申告書の提出時に隠された所得金及び免れた税金の合計となる(ちなみに、ほ脱率七五・六パーセント)。(控訴審において立証予定)

五 しかるに、本件では被告人が、当該各違反行為を実行した時点(昭和六三年七月期は、同年九月三〇日・平成元年七月期は、同年九月三〇日・平成二年七月期は、同年一〇月一日)において、全く予想もしていなかったところの、違反行為時に遡って行われた青色申告承認の取消処分および右取消に伴う特別償却費の否認により、各事業年度における所得額を増額して修正申告させられ、その増額された所得に基づいて算出された法人税を免れたとして、各犯行時の遡って違反があったものと見做されて、公判請求され、原審において事実認定されているのである。

しかしながらこれは、行政処分として税法上、当該違反した事業年度に遡って行われる青色申告承認の取消処分行為と、当該各犯行時における違反行為を処罰するという刑事処分とを混同したもので、刑法上の大原則である罪刑法定主義に反するもので、ひいては憲法第三一条及び第三九条に違反するものである。憲法第三九条では、実行の時に適法であった行為は、刑事上の責任を問われないと刑罰法規の不遡及を明言している。

即ち、刑事処分においては、当該犯行時における、違反者の故意の要素である認識していた違反行為を処罰するものであって、違反者が、当該違反行為時に全く認識もしていなかった、しかも過去に遡る行政処分上の見做し違反行為(青色申告取消益分)を含めるべきでないことは、あきらかである。

このため当該事業年度の違反行為を処罰することができる対象は、あくまでも当該税務申告時に、虚偽の法人税確定申告書に基づいて違反したほ脱額に限られるべきであって、刑法理論上からみれば、原審は、法令解釈を誤った結果、原審が認定した事実は、真実に反するものと云わなくてはならない。

そうでなくては、ほ脱した事業者の業種によって、青色申告の承認によって受ける特別償却費等の青色申告取消益について極めて大幅な差異があり、極端な例を挙げれば、隠匿した所得額よりも青色申告取消益が遙に多い場合には、偶々青色申告取消益が少なかった違反者に比べて、確定申告時に免れようとした法人税額が同額であったとしても、前者のほうが、遡って否認された結果、ほ脱額が多いとされて、より重く処罰されてしまうことは、公平の観念に反するばかりか、違反者に対しては、平等に処罰すべきであるとする刑事法の大原則に反するものであって、刑罰の均衡を失するものと云わざるをえず不当である。

例えば、脱税容疑で査察を受けた甲株式会社と乙株式会社があり、その三事業年度の違反内容が左記の場合、

<省略>

において、甲株式会社の代表者Aと乙株式会社の代表者Bとは、確定申告時においては、いずれも総額二〇〇〇万円分の脱税をしているとの認識のもとに違反行為を為していたにもかかわらず、査察後に遡って青色申告取り消し処分を受けた結果、甲株式会社の方は、所得合計一億四〇〇〇万円分に対する修正申告をさせられるだけになる。

その結果、甲株式会社は、ほ脱税額が多く悪質だとして、国税庁から刑事告発されて刑事処分を受けることになるのに対して、乙株式会社は、ほ脱税額合計が刑事告発の基準未満であるとして、国税庁から刑事告発されることなく済むということが起きてくる。

犯行時においては、全く同じ違反をしていたにもかかわらず、業種別による青色申告取消益の多寡によって、刑事処分の有無まで異なるということは、不公平であるばかりか、まことに不自然極まりなく、何ら法的な合理性は見いだせない。

六 本件では、前述のとおり、三事業年度における隠された所得金合計二億二一一四万八九四四円であるのに対して、同事業年度分の否認された特別償却費合計一億〇九九八万三二四七円が遡って加算されており、この青色申告取消益の増加分が、約四九・七パーセントもの高い比率を示していることからも明らかなように、極めて均衡を失しており、重く処分されることは不当である。

弁護人らは、行政処分と刑事処分とを混同したかかる検察官の公判請求が不当なものと認識していたが、これを是認する最高裁判決(昭和四九年九月二〇日第二小法廷判決、刑集第二八巻第六号二九一頁)が存在しているため、原審においては、あえて事実関係を争わず、かかる不当な増額分(青色申告取消益)については、量刑上の事情として斟酌するよう求めたものであるが、控訴審においては、犯行時の故意に基づかない青色申告取消益を過去の税務申告時に遡って加算するというような不当な刑事処理方法が違法であることにつき、十分ご勘案のうえ、本件の量刑上、ご考慮願いたい。

第二 原審判決後の事情

一 被告会社においては、平成三年八月一日以降の売上が減少し、殊に同年一一月からの新規の受注が激変したため、売上総利益が大幅に減少した。

ちなみに、平成三年七月三一日現在の売上総利益は、三億三八八九万六五四四円(半期に換算すると、一億六九四四万八二七二円となる。)であったの対して、平成四年一月三一日現在の中間決算における売上総利益は、六八六四万三九四二円にまで減少してしまったため、全体として、二六五九万八二一八円もの欠損が発生し、同年二月一日以降、今日までの売上も減少し続けており、被告会社の経済情勢は、極めて劣悪で危険な状態にあるといえる(控訴審において立証予定)。

二 被告会社は、欠損が発生し経済的余力がほとんど皆無であるにもかかわらず、未納付の国税のうち(弁第七号証)、原審判決後に、既に合計一五〇〇万を納付したほか本年六月三〇日に支払期限のくる五〇〇万円についても是が非でも支払うべく鋭意努力中である(控訴審において立証予定)。

従って、現段階においては、納税額合計二億七三五四万二五〇〇円のうち、これまでに既に、二億一九四五万六二〇〇円(納付率八〇・二パーセント)を納付したことになり、控訴案終了時までには少なくとも五〇〇万円を納付する予定になっているので、この分を合わせると納付率は、八二パーセントを超えることになる。

なお、原審裁判終結時においては、修正申告後の納税予定額は、当初、合計二億七九五二万八五〇〇円(弁第一号証)とされていたが、その後、地方税に関しての補正がなされ、右のとおり納税額合計二億七三五四万二五〇〇円と減額され、この分についても国税と同様に分納して支払うことが認められ、被告会社は、未払いの税金を納税すべく鋭意努力中である(控訴審において立証予定)。

三 被告人は、原判決の重みを厳粛に受け止め、納税義務の重みを実感として再認識し、更に反省心を深めて、企業努力に精励し、この苦境を何とか乗り越えようと必死であるところ、本件は、被告人において、景気の変動により浮き沈みの激しい土木建設業界において、企業防衛の気持ちから、やむなく脱税という違反行為を敢行したものであり、しかも違反歴が浅く、その動機は弁論要旨で詳述したように、事業家としてまことに同情すべき余地が多分にあり、個人が自己の私利私欲のために犯した所得税法違反とは、その犯情が全く異なるものである。

被告会社は、バブル経済の崩壊という近年にない苦境の中、売上が激減し欠損を出しながらも、しかも多額の銀行借り入れをしてまでも、被告人の改悛の情を表すためにも納税の努力を続け、二億円を越える既払分を納税し、右未納の税金について最大限の努力中である。

また未納の税金だけではなく、本件が確定すれば、相応の罰金をも支払わなくてはいけないことは当然であるが、被告会社の現状からすれば、誠に苛酷この上ないものといえる。

控訴審においては、以上のような諸事情をできるだけ御理解の上、被告会社及び被告人に対する量刑を可能な限り減刑願いたい。

第三 本件は、同種の税金ほ脱事犯の判決結果と比べても不当に重く失当である。

本件では前述のとおり、原審裁判所が認定した事実によれば、三事業年度のほ脱税額合計は、一億三一七四万二九〇〇円(ほ脱率は、約八一・七パーセント)とされるが、控訴審において弁護人らが主張する青色申告取消益外後の三事業年度のほ脱税額合計は、九一二四万四五〇〇円(ほ脱率は、約七五・六パーセント)に過ぎない。

そこで、最近の税金ほ脱事犯の判決の内、ほ脱金額、ほ脱率もしくは求刑が、原判決で認定された事実及び弁護人らの主張にかかる青色申告取消益除外後の事実に類似する例を調査した結果は、別紙「量刑調査表」のとおりである(控訴審において立証予定)。

一 まず、被告会社の量刑について

1 原審裁判所は、被告会社に対して、罰金四〇〇〇万円の求刑に対して、わずかに五〇〇万円を減額しただけの罰金三五〇〇万円に処する旨宣告したが、これは罰金の減刑率(求刑に対して減額された額の占める割合)が、一二・五パーセントにすぎず、類似の事例に対する判決に比べ、不当に重く失当である。

仮に原審裁判所が認定した事実を基準と考えると、「量刑調査表」の番号2、3、8、16、21、25の裁判結果が極めて類似するといえるが、この罰金の量刑からみれば、求刑四〇〇〇万円に対して、判決では、おおむね三〇〇〇万円とみるのが相当であると考えられ、原判決の結果が、被告会社および被告人の情状を無視して、いかに量刑上の均衡を欠いているか明白である。

特に番号13、14の例は、本件判決の直後、同じ東京地方裁判所刑事八部が宣告したものであって、私利私欲に基づくしかもバブル経済に乗じた破廉恥な所得税法違反ですら、大幅な減額をしているのであるばかりか、同部が、平成三年一一月二九日に宣告した、元国会議員に対する判決では、総額一七億〇二八七万円のほ脱事件であったにもかかわらず、多額の罰金の求刑に対して、実刑判決とはいえ、罰金刑を併科しなかったり、また平成四年四月二七日に宣告した、実業家に対する判決では、約三三億九〇〇〇万円ものほ脱事件であったにもかかわらず、やはり実刑判決とはいえ、七億円の求刑に対して、五億円の罰金に減額している(控訴審において立証予定)。

後者の二例は、いずれも私利私欲が動機になっている事犯であるうえ、ほ脱額が極めて多額で、本件とは、犯情において比べものにならないほど悪質な事犯であるにもかかわらず、罰金刑に関しては、相当有利に考慮しており、本件とは対象的であり、極めて刑の均衡を失するものといえる。

2 ちなみに弁護人ら主張の青色申告取消益除外の場合を基準と考えると、番号6、7、10、20の裁判結果が極めて類似するといえ、この罰金の量刑からみれば、求刑三〇〇〇万円に対して、判決では、おおむね二五〇〇万円とみるのが相当であると考えられる。

3 弁護人らは、前述のとおり、公訴事実及び原審裁判所の認定した事実は違法であると解しているので、控訴審においては、認定事実を減縮するなり、量刑においては、右裁判例の量刑を参考にご検討願いたい。

二 被告人の量刑について

1 原審裁判所は、被告人に対して、懲役一年六月の求刑に対して、求刑どおりの懲役一年六月に執行猶予を付したものの、執行猶予期間が四年である旨宣告したが、この四年間の猶予期間は、「量刑調査表」の結果からみても明らかで、懲役一年六月に対する執行猶予としては、異常に重きに失して不当であることは明白である。

本件においては、被告人に対して、執行猶予期間を通常の事例に比べ特段に重くすべき事情は、皆無であり、何故に重くしなくてはいけなかったのか不可解極まりなく、弁護人らとしては、誠に理解に苦しむところである。

2 ちなみに弁護人ら主張の青色申告取消益除外の場合を基準と考えると、番号6、7、10、20の裁判結果が極めて類似するといえ、この量刑からみれば、求刑懲役一年二月に対して、判決では、おおむね懲役一年に執行猶予とみるのが相当であると考えられる。

3 本件において、被告人は、長年にわたって税金をほ脱していたわけではなく、ほ脱を始めてから強制査察を受けるまでの期間が僅かであることは証拠上も明白であるうえ、被告人は、前述のとおり、本件を深く反省して改悛の情も極めて顕著で、未払いの税金についても全額支払うべく鋭意努力中であり、再犯の虞が全くないことを御考慮願えれば、懲役一年六月の刑をさらに減刑の上、執行猶予期間もできるだけ短縮されるよう要望する。

第四 結語

以上の理由により、被告会社および被告人に対する原判決は、法令の解釈適用を誤り、その誤りは、判決に影響をおよぼすことが明らかであるばかりでなく、その量刑において極めて重きに失し不当であるから、原判決を破棄のうえ、さらに相当の裁判求めるため本件控訴に及んだ次第である。

量刑調査表

<省略>

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

会社名 株式会社第一工業

(1)自 昭和62年8月1日

至 昭和63年7月31日

<省略>

(2)自 昭和63年8月1日

至 平成元年7月31日

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

会社名 株式会社第一工業

(3)自 平成元年8月1日

至 平成2年7月31日

<省略>

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