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東京高等裁判所 平成4年(う)862号 判決 1992年11月13日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年三月に処する。

原審における未決勾留日数中六〇日を右刑に算入する。

押収してある報告票一通(当庁平成四年押第三〇二号の1)の偽造部分を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人安田修が提出した控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は量刑不当の主張であるが、所論に対する判断に先立ち、職権をもって調査すると、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり破棄を免れない。

すなわち、原判決は、「確定裁判」の欄において「平成三年一一月一日水戸地方裁判所下妻支部で道路交通法違反、有印私文書偽造、同行使罪により懲役一年(三年間執行猶予、付保護観察)、平成三年一一月一六日確定」と判示した上、「法令の適用」欄において、原判示第一及び第二の各罪(いずれも平成三年八月一一日の犯行)と右確定裁判を経た罪とが刑法四五条後段の併合罪関係に立ち、同第三及び第四の各罪(平成四年三月一一日及び同月一四日の犯行)についてはこれと別個に同法四五条前段の併合罪関係に立つものとして、被告人に対し、二個の主刑を言い渡している。

しかし、検察事務官作成の前科調書及び調書判決書(平成三年一一月一六日付、謄本)によれば、被告人には、原判示の確定裁判に加え、平成三年七月九日小山簡易裁判所で窃盗罪により懲役一年(三年間執行猶予、保護観察付)に処せられ、同月二四日に確定した確定裁判があるところ、原判示の確定裁判の各罪は、いずれも同年四月一〇日の犯行であって、同年七月二四日確定の確定裁判の余罪にほかならず、このような余罪の確定裁判は、併合罪の数を決する基準となるものではないと解すべきであり、右余罪の確定裁判をその基準とした原判決は同法四五条の適用を誤ったもので、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はすべて破棄を免れない。

そこで、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従いさらに判決することとし、原判決が認定した各事実に、法令を適用すると、原判示第一、第三及び第四の各所為はいずれも道路交通法一一八条一項一号、六四条に、同第二の所為のうち有印私文書偽造の点は刑法一五九条一項に、偽造有印私文書行使の点は同法一六一条一項、一五九条一項にそれぞれ該当するところ、同第二の有印私文書偽造とその行使との間には手段結果の関係があるので、同法五四条一項後段、一〇条により一罪として犯情の重い偽造有印私文書行使罪の刑で処断することとし、同第一、第三及び第四の各罪について所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い同第二の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で処断することとする。

本件は、被告人が、(1)平成三年八月一一日に無免許で普通乗用自動車を運転し(原判示第一の事実)、(2)同日、道路交通法違反で警察官の取調を受けた際、無免許運転の発覚を免れようと企て、報告票の自認書氏名欄に友人の名前を冒書、指印して私文書一通を偽造した上、これを提出して行使し(同第二の事実)、さらに、(3)平成四年三月一一日(同第三の事実)及び(4)同月一四日(同第四の事実)の二回にわたって無免許で普通乗用自動車を運転した、という事案である。これらの犯罪はいずれも軽視し難いものである上、右(1)の犯行は遠く仙台市まで無免許運転をしていること、被告人は、前記のとおり平成三年七月及び同年一一月の二回にわたり、いずれも保護観察付執行猶予の付された懲役刑に処せられ、これらの各執行猶予期間中に、再び安易な動機から右(3)及び(4)の各犯行を繰り返したもので、しかも、いずれの際にも物損事故を起して無免許運転が発覚しそうになるや、偽名を用いてその責任を免れようとしていること、被告人は、平成三年七月ころ、運転免許もないのに本件自動車を購入し、以後日常的にこれを運転していて本件犯行にいたったものであることなどを併せ考えると、被告人の法規範無視の態度は著しく、その罪責には重いものがあるといわなければならないが、他方、被告人が本件を真摯に反省し、免許を取得するまでは絶対に自動車を運転しない旨固く誓っていること、本件により前記二個の執行猶予が取り消され、本件の刑と併せて服役することになること、その年齢、家族の状況等被告人のため酌むべき諸般の事情も認められるので、これらの諸事情をも総合考慮して、被告人を懲役一年三月に処し、刑法二一条を適用して原審における未決勾留日数中六〇日を右の刑に算入し、押収してある報告票一通(<押収番号略>)の偽造部分は原判示第二の偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成したもので、何人の所有をも許さない物であるから、同法一九条一項一号、二項本文を適用してこれを没収し、原審及び当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項但書を適用して全部これを被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官近藤和義 裁判官安廣文夫 裁判官髙麗邦彦)

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