大判例

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東京高等裁判所 平成4年(ネ)1683号 判決

二国以上に跨がって裁判管轄が生じる場合において、訴えを提起された国に裁判権があるからといって直ちに裁判管轄を認めることは、二国間に移送制度のない現状においては、原告の選択が優先し、訴えを提起された国の裁判管轄が固定されるため、当事者間に著しい不公平を生じたり、訴訟の適正、迅速な処理を妨げる結果を生じることが避けられない。

そこで、複数の国に跨がって裁判管轄が生じる場合に、適正にこれを振り分ける必要があるところ、これを定めた法規、条約、慣習等明確な基準がないから、国内における裁判管轄の定めに準じて、当事者間の公平と裁判の適正、迅速な処理を期するという理念により条理に従って決定するのが相当である。

これを本件についてみるに、証拠(甲第七、第九号証、乙第三号証の一、二、第四号証及び弁論の全趣旨。)によると、被控訴人は永年にわたってドイツ国内に居住し、フランクフルト市を本拠として営業活動をしていること、本件契約は、被控訴人が欧州各地から自動車を買い付けて控訴人宛てに送り出すことを内容とするもので、主として被控訴人のドイツにおける営業活動に属するものであること、本件契約は控訴人がフランクフルト市に赴いて締結されていることの各事実が認められる。右事実からすると、被控訴人の普通裁判籍がフランクフルト市にあるばかりでなく、本件契約はドイツ国内の取引に密接に関連するものであり、契約に関する紛争は、主としてドイツ国内の取引に関するものになることが予想されるから、ドイツ国内の裁判所で審理することが、財産権上の訴えは被告の住所地に提起するのが当事者の公平に合するという管轄の基本(普通裁判籍)の理念に合し、契約の際の当事者の意思にも合するものであり、かつ、裁判の適正、迅速にも適するものと考えられる。

他方、民法あるいは商法の義務履行地に関する前記各規定により特別裁判籍を無制限に認めると、わが国に現住する者からの財産権上の給付請求の訴えは、特定物の引渡しの場合を除いて、義務履行地について特約のない限り、すべてわが国に裁判管轄を生じることになるところ、地域が限られ、移送制度のある国内の裁判管轄と異なり、国際裁判管轄においてこのように広範な原告優先の裁判管轄権を認めることは、被告となる者に一方的な苦痛を強いるもので、公平の理念にそわない場合を生じるものというべきである。したがって、損害賠償のように、被害者について配慮すべき場合はともかくとして、契約上の債務の履行を求める訴訟において、義務履行地としてわが国に裁判管轄が認められるためには、当事者間において、契約上の義務履行地をわが国内とすることが明確に合意されている場合に限られるものと解するのが相当である。証拠を検討しても、本件契約において義務履行地をわが国内とする旨の合意がなされたことを認めるに足りる証拠はない(準拠法を日本法とする旨の黙示の合意があったからといって、義務履行地をわが国内とする旨の合意があったものと認めるのは前記趣旨に照して相当でない。)。

(川上 谷澤 今泉)

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