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東京高等裁判所 平成4年(ネ)2569号 判決 1994年2月24日

控訴人(被告) 株式会社木屋製作所

右代表者代表取締役 水村晃

右訴訟代理人弁護士 後藤徳司

同 日浅伸廣

同 森本精一

被控訴人(原告) 水村淑恵

被控訴人(原告) 水村常人

被控訴人(原告) 水村重人

右三名訴訟代理人弁護士 新井岩男

同 上柳敏郎

同 小島延夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方の主張は、以下のとおり補足するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(控訴人)

1. 商法二八〇条ノ五第一項所定の通知について

被控訴人らは、控訴人会社が、同社の株主で、新株の引受権を有する被控訴人らに、商法二八〇条ノ五第一項所定の新株発行についての通知をしなかったことを、本件新株発行の無効事由として主張する。しかし、控訴人会社は、以下のとおり、被控訴人らに対して右法所定の通知をしている。

(一)  控訴人会社は、被控訴人淑恵に対して、昭和六三年一一月二三日ころ、本件新株発行及びその引受権に関する「増資のお知らせ及び発行済み株券の回収について」と題する書面(甲第四号証)を発送し、被控訴人淑恵はそのころ右書面を受領した。控訴人会社は、当時被控訴人淑恵と同居していた同人の子である被控訴人常人及び同重人に対しても同内容の書面を発送し、同人らはこれを受領した。仮に、被控訴人常人及び同重人に対して右書面が発送されなかったとしても、被控訴人らはその有する株式を控訴人会社の前代表者亡水村哲也(被控訴人淑恵の夫であり、被控訴人常人及び同重人の父である。以下「哲也」という。)から相続により取得したもので、同株式についての遺産分割協議の結果は控訴人会社に通知されていないから、控訴人会社との関係では右株式は被控訴人らの共有というべきであり、被控訴人淑恵に対する本件書面の到達は被控訴人常人及び同重人に対しても効力がある。

(二)  被控訴人淑恵は、前記書面(甲第四号証)に記載された事項により、本件新株が発行されること、同人が株主として引受権を有すること及びその申込期間を知り、新株を引き受ける意思で、本件書面に記載されたところに従って、その所持にかかる株券を控訴人会社に提出した。このことからすると、右書面は、新株引受権を有する株主に対してこれを行使する機会を保障するとの商法二八〇条ノ五第一項所定の通知としての趣旨を充分満たしたものということができる。本件で、被控訴人らが新株を引き受けることができなかったのは、被控訴人らが前記のとおり旧株券を提出したにとどまり、正式な引受の申込をしなかったからに過ぎない。

2. 本件新株発行無効事由があるとの被控訴人らの主張に対する反論

(一)  仮に、前記甲第四号証の書面が、商法二八〇条ノ五第一項所定の通知として割り当てるべき株数や引受申込期間等その要件に不備な点があったとしても、前記1のとおり右書面により被控訴人らは新株が発行されることを知ったこと、本件新株発行に際しては埼玉新聞紙上に新株引受について記載した公告が記載されていること、また、被控訴人らの持株総数は、後記(二)のとおり計三万四三三三株で発行済み株式総数二〇万株の一部に過ぎず、結局右要件不備の通知がされたのは一部の株主に過ぎないことからすれば、右要件不備の通知がされたことに本件新株発行を無効とするほどの重大な瑕疵があるとはいえない。

(二)  被控訴人らの持株総数

被控訴人らは、被控訴人らは控訴人会社の株式一二万五三一五株を控訴人会社の前代表者哲也から相続により取得したものであるところ、哲也は、右一二万五三一五株のうち八万一三四〇株は前々代表者水村三郎(以下「三郎」という。)から買い受け、その余は父亡水村善太郎(三郎の前代表者、以下「善太郎」という。)から相続により取得したと主張する。しかし右八万一三四〇株は、控訴人会社がその所有の土地と右株式を三郎と交換し、取得したもので、哲也が買い受け取得したものではないから、被控訴人らが相続により取得することはありえず、また、その余の善太郎から相続取得したとする株式は三万四三三三株に過ぎないから、結局、被控訴人らの持株総数は三万四三三三株である。

(被控訴人ら)

控訴人の主張は争う。

三、証拠関係<省略>

理由

一、当裁判所も、被控訴人らの本件新株発行無効確認請求は理由があるものと判断するが、その理由は、以下に補足するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1. 被控訴人らが控訴人会社の株式を保有していることは、三万四三三三株の限度では当事者に争いがなく、被控訴人らが控訴人会社の株主として本件新株発行の無効を求めることのできる地位を有することは明らかである。

2. 被控訴人らは、本件新株発行手続において、被控訴人らに対し、商法二八〇条ノ五第一項所定の通知がされなかったことを本件新株発行の無効事由として主張し、控訴人は、「増資のお知らせ及び発行済み株券の回収について」と題する書面(甲第四号証、以下「本件書面」という。)を被控訴人らに送付したことにより、右法所定の通知をしたと主張するので、以下、この点につき若干補足する。

(一)  控訴人会社並びに本件書面の記載事項及び同書面送付の経過等

成立に争いのない甲第一号証、第三号証、第四号証、原審における被控訴人淑恵本人尋問の結果、原審及び当審における控訴人会社代表者本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く一部)、当審における証人水村ふじの証言(前同)、前記引用にかかる原判決認定の事実、弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができ、これを覆すに足る証拠はない。

(1)  控訴人会社は、水村善太郎が昭和一九年設立した農機具の製作及び販売を業とする会社で、善太郎が設立当初から代表取締役に就任し、善太郎が昭和四二年死亡した後はその弟三郎が、三郎退任後は善太郎の長男哲也が、哲也が昭和五四年死亡した後はその弟晃が、それぞれ代表取締役に就任し、その発行済み株式も、善太郎の妻水村ふじ(以下「ふじ」という。)、哲也の妻と子である被控訴人ら、及び晃において保有する水村一族の同族会社である。

(2)  本件書面は、昭和六三年一一月二三日付けの「増資のお知らせ及び発行済み株券の回収について」と題する控訴人会社からふじ宛の書面であり、その本文は、「当社は、昭和六三年一一月一五日の取締役会で資本金を一〇〇〇万円から二〇〇〇万円に増資することを決定しましたので、お知らせします。又、発行済み株券については、新たに株券の印刷を行い交換することとしたので、昭和六三年一二月一五日までに旧株券を提出していただくようお願いします(旧株券と引き換えに株券預かり証を発行するので、新株券発行の際に持参願います。)。なお、旧株券については、新株券発行とともに無効となるので、了承願います」と記載された書面である。なお、本件書面には、株主が引受権を有する株式の額面無額面の別、種類及び数、一定の期日までに新株引受の申込みをしないときは引受権を失うことについての事項は記載されていない。

(3)  控訴人会社は、本件書面を、昭和六三年一一月二三日、宛名人ふじ宛に送付せず、ふじの長男哲也の妻である被控訴人淑恵の住所宛に郵送し、同人はそのころこれを受け取った。一方、控訴人会社は、これと同じころ、本件書面と同一の事項を記載した被控訴人淑恵宛の書面をふじの住所宛郵送し、ふじはこれを受け取った。本件新株発行に関して控訴人会社が被控訴人淑恵及びふじに発送した書面は、右各書面のみであった。被控訴人淑恵は、本件書面の記載内容を読み、控訴人会社が増資すること及び新株を発行すること、ついては所持する株券を全部控訴人会社に提出されたいとの記載があることを理解したが、同書面の宛名人がふじになっていたことから、この際自己並びに被控訴人常人及び同重人の所持する株券により、発行される新株を取得する意図のもとに、ふじに電話で連絡し、株券の所在を聞き、その提出等について相談し、その措置を依頼したところ、ふじは、これを受けて、自宅の蔵に保管していた株券を自己の分とともに被控訴人らの分を一緒に、本件書面に記載された昭和六三年一二月一五日ころまでに控訴人会社方へ娘の由子に持参させ、もって、ふじ及び被控訴人らの所持する株券全てを控訴人会社に預けた。その直後、被控訴人淑恵は由子から被控訴人らの株券も持参した旨の報告を受けた。

(4)  他方、控訴人会社は、昭和六三年一一月二五日、同日発行の埼玉新聞に次の事項を掲記した公告をした。すなわち、「当社は、昭和六三年一一月一五日の取締役会において資本の額一〇〇〇万円を二〇〇〇万円に増資することを決議し、昭和六三年一一月二五日現在の株主に対し持株一株につき一株の割り当てを行う。なお、左記期日等において手続が行われない場合には、その権利を放棄したものとみなす。

申込期間 昭和六三年一一月二五日から同年一二月一〇日まで

払込期日は申込期間の最終日とする。

払込銀行 埼玉銀行本川越支店」

(5)  被控訴人らは、埼玉新聞に右公告が掲載されたことには、特に控訴人会社からも公告についての報告はなかったこともあり、それには気付くことなく、しかも、本件書面の前記記載文言に従い旧株券を提出したことにより、当然新株を取得できるものと考えていたので、新株発行手続についての控訴人会社の対応を待っていた。ところが、控訴人会社は、前示の経緯のもとに、被控訴人らが所持していた旧株券全てを新株発行と引き換えるとの名目でこれを一旦回収して預かり、前記公告に記載された新株の申込期限である昭和六三年一二月一〇日に至るや、前記預かった旧株券に対する新株引受の措置について被控訴人らに一切連絡することもなく、被控訴人らの無知に乗じて、同期日までに控訴人会社代表者水村晃以外の株主からの申込みがないので、被控訴人らを含む他の株主は新株引受権を喪失した扱いとしたうえ、直ちに、控訴人会社代表者水村晃にのみ発行予定の新株二〇万株全てを割り当てる措置を講じ、同人はこれを引き受ける手続を履践した。

(二)  以上にみた事実のもとで、本件書面が商法二八〇条ノ五第一項所定の通知といえるかをみるに、本件書面には、旧株券を提出さえすれば新株を取得できる旨記載されており、被控訴人淑恵はその記載を信じて、旧株券を提出することにより、新株引受の申込み手続を履践したものと考えて、控訴人会社の対応を待っていたところ、控訴人会社は本件書面に前記のように記載されているのに、右旧株券の提出を新株の申込みとして扱わなかったばかりか、被控訴人らがそれ以上の行為に出なかったことを捉えて、先に株券提出により預かった旧株券に対応する新株券の割り当てについては何らの応答もしないで、公告にかかる申込み期間が経過するや即座に、期日までの新株引受の申込みがなかったとして、被控訴人らの新株引受権を喪失せしめる扱いをしたものであること、また、本件書面に旧株券提出の期限として記載されている日付は、控訴人会社の前記公告に記載されたそれより五日も後であり、被控訴人らが右公告に記載された期間の経過後に引受申込みをした場合、それが本件書面に記載された期間内であっても期間内の申し込みがなかったとして引受権を喪失したものと扱われる可能性が高いといえることが察せられるのである。してみると、本件書面は、実質的にみて、被控訴人ら株主の新株引受権の行使を保障するための法所定の通知としての要件を具備したものということができず、右書面は、かえって、ふじ及び被控訴人らの分として保有している株券を提出させ、控訴人会社の手元において総株式数を把握したうえ、旧株券の提出により新株券をその分取得できると信じさせ、待機させている間に、前記被控訴人らの関知しない公告により、新株発行手続を完結してしまったものであって、新株引受権の行使を妨害する意図のもとに作成、送付されたと疑う余地すらあるということができるのである。

3. 控訴人は、仮に本件書面が、商法二八〇条ノ五第一項所定の通知として割り当てるべき株数や引受申込期間等その要件に不備な点があったとしても、①被控訴人らは本件書面により新株が発行されることを知ったこと、②本件新株発行に際して控訴人会社は前記公告をしたこと、③被控訴人らの持株総数は計三万四三三三株で発行済み株式総数二〇万株のうち約一七・二パーセントの割合を占めるに過ぎないから、結局右要件不備の通知がされたのは一部の株主に過ぎないことからすれば、右要件不備の通知がされたことに本件新株発行を無効とするほどの重大な瑕疵があるとはいえないと主張する。

しかしながら、前示2でみた本件新株発行の経緯、すなわち、被控訴人らの株券預託、それに対する控訴人会社の対応、さらに申込期間の徒過等の事情によれば、被控訴人らが本件書面により知った内容は前示2の程度に止まるものであって、本件書面及び前記公告により、控訴人会社が被控訴人らに新株引受権を行使できるようにその要件を知らしめたということはできない。

また、前記引用にかかる原判決説示のとおり、被控訴人らの持株総数は、被控訴人淑恵が四万一七七五株、同常人及び重人がそれぞれ四万一七七〇株の合計一二万五三一五株であると認められる。当審において、控訴人会社代表者及び証人水村ふじは、右一二万五三一五株のうち八万一三四〇株は被控訴人らの被相続人哲也(控訴人会社の前代表者)が三郎(控訴人会社の前々代表者)から買い受けたものではなく、控訴人会社がその所有の土地と交換に三郎から取得した旨供述するが、乙第一号証(哲也と三郎との間に交わされた右株式八万一三四〇株の譲渡に関する覚書と題する書面)の第一項には「水村三郎氏が所有する株式会社木屋製作所額面株式八万一三四〇株を時価四一三円にて水村哲也氏が買い取る事」と明確に記載されていること、前記覚書に立ち会い人として署名している控訴人会社の顧問税理士平山邦雄は、原審で証人として、哲也が善太郎から相続した分と前記覚書によって哲也が三郎から買い取った分を足して一二万株あった旨証言していることに照らして、前記当審における証人水村ふじ及び控訴人会社代表者の供述部分は、にわかに採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると、控訴人会社の発行済み株式総数二〇万株のうち約六二・七パーセントにあたる一二万五三一五株を有する株主に対して、実質的にその新株引受権の行使を保障するための申込期間等法所定の要件を具備した通知がされなかったものであり、本件新株発行は右株主の引受権を無視したものということができる。

4. 以上みたところによれば、被控訴人らに対して商法二八〇条ノ五第一項に定める要件を具備した通知がされなかったことは、本件新株発行には法令に違反し、その発行を無効とすべき重大な瑕疵があるといわなければならない。

二、よって、被控訴人らの本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 伊藤瑩子 福島節男)

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