大判例

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東京高等裁判所 平成4年(ラ)100号 決定

(一) 当事者間に有効に成立したものと認められる昭和六〇年六月一日付店舗賃貸借契約書第一二条には、本件契約に関し紛争を生じ、「万一訴訟等生じた時は貸主の住所地内の裁判所にすることを双方合意した。」旨の規定があり、抗告人の住所は東京都にあるので、右管轄の合意により、東京地方裁判所に管轄を生じることは明らかである。右管轄の合意が専属的な管轄を定める趣旨かどうかが問題となるところ、右契約の文言自体からは、他の裁判所の管轄を一切排除する趣旨が明らかとは、必ずしも言い難い。このような場合においては、当事者の意思の推測により、それが専属的管轄を定めることにより他の法定管轄のすべてを排除する趣旨であるか、或いは、単に提訴の便宜上、法定管轄以外の管轄を付加する趣旨に過ぎないかを判断するべきものであるが、一般に、競合する法定管轄裁判所のうちの一つを特定して管轄裁判所とする合意は、特段の事情がない限り、専属的な管轄を定める趣旨と解されるが、そうでない場合は、競合的管轄を定める趣旨と解するのが相当である。

(二) 本件訴訟における法定管轄裁判所を見ると、被告である相手方の住所地を管轄する大阪地方裁判所がこれに当たることは明らかである。

また、本件賃料債務の履行の場所については、本件賃貸借契約第三条において、賃料を貸主である抗告人の許に持参して支払う旨定めるとともに、賃料振込先を「幸福相互銀行千林支店高岡茂樹名義普通預金総合口座 口座番号二〇四五七」とする特約がある。右特約は、本件契約の内容全体に照らすと、賃料債務の履行場所については、抗告人の住所への持参払いを前提としつつ、抗告人の住所から遠隔地に居住する賃借人である相手方による賃料支払いの確実さや便宜を図るため、支払方法として、相手方の住所近くの銀行の口座へ振込みを特に定めたものであり、これによって抗告人の住所地への持参払いの約定を変える趣旨ではない(仮に、履行場所を定める特約と解するとしても、抗告人の住所が履行場所であることを変える趣旨ではない)ものと解される。したがって、本件賃料債務の履行場所である東京地方裁判所も、義務履行地として法定管轄を有することになる。

(三) そこで、前示の基準により、本件管轄の合意が専属的な管轄の合意を定めたものか否かについて検討するに、本件賃貸借契約に関する紛争の法定管轄については、種々の内容の請求が考えられるところ、法定管轄裁判所は請求により異なるものであり、請求(例えば、賃料の請求)によっては。競合する法定管轄裁判所の一つである抗告人の住所地の裁判所に管轄を限定する働きをする場合もあるが、例えば、賃貸人による賃借人に対する建物明渡請求の法定管轄は、不動産所在地又は賃借人の住所地である大阪市を管轄する裁判所であるから、賃貸人の住所地である東京都を管轄する裁判所には管轄を生じる余地がなく、右管轄の合意により始めて管轄が生じることとなる。結局、本件管轄の合意は、本件賃貸借契約に関して予想される請求のうち、本来は、抗告人の住所地に法定管轄を生じない請求について管轄を生じさせる意味を持つものであって、競合する法定管轄裁判所のうちの一つである抗告人の住所地の裁判所を特定して専属的管轄裁判所と定め、他の法定管轄裁判所のすべてを排除する趣旨のものとは見難く、むしろ、本来、抗告人の住所地の裁判所に管轄がない場合において、抗告人の提訴の便宜上、法定管轄裁判所に付加して抗告人の住所地の裁判所にも管轄を生じさせる趣旨を含むものであるから、以上を総合考慮すると、本件管轄の合意は競合的管轄を定める合意と解するのが相当である。

(伊東 宗方 水谷)

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