東京高等裁判所 平成4年(ラ)149号 決定
(抄録)
「二 当裁判所の判断
1 本件訴訟は、Xが、学習塾運営に必要なノウハウ等を保有するYから助言及び指導を受けて学習塾を開設し、その対価として開設資金三七〇万円のほか毎月の月謝収入の一定割合を支払う旨の学習塾加盟契約(以下「本件契約」という。)をYとの間で締結し、栃木県芳賀郡○○町大字○○一四五に学習塾(以下「X塾」という。)を開設したところ、Yは、X塾と競合する他の学習塾加盟契約を締結しないとの契約条項に反して、X塾と競合する同系列の学習塾(以下「系列塾」という。)を同町大字△△二一一の一に開設させたため、X塾に生徒が集まらず一年足らずで経営を止めざるを得なくなり、社会的信用を失うなどしたとして、Yに対し、債務不履行による損害賠償(学習塾開設資金三七〇万円、名誉棄損等による精神的損害二〇〇万円、以上合計五七〇万円)の支払を求め、選択的に、YはX塾の地区においては学習塾の経営が困難であることを当初から知りながら、かつ、Xの経営に協力する意思がないのにかかわらず、Xに対し、Yと本件契約を締結して経営すれば毎月二五万円の純収入が見込めるなどと虚偽を述べて欺罔し、開設資金を騙取したとして、不法行為(詐欺)による損害賠償の支払を求めるものである。
2 Yは、本件契約に関する訴訟については、Yの本店所在地を管轄する広島地方裁判所の専属管轄とする合意が成立しているとして、同裁判所への移送を申し立てた。
そして、本件契約書二四条によると、右申立てのような専属的合意管轄の合意が成立しているものと一応認められる。
3 しかしながら、専属的合意管轄が成立している訴訟が他の法定管轄裁判所に提起された場合であっても、少なくとも著しい訴訟の遅滞を避けるために必要があるときには、民事訴訟法三一条の法意に照らし、専属的合意管轄裁判所に移送しないで法定管轄のある受訴裁判所において審理することが許されると解するのが相当である。
そこで検討するに、本件契約の前記内容からすると、その審理においては、まず本件契約締結の経過が問題になるのが通常であるところ、記録によれば、本件契約は宇都宮市在住のXと東京都新宿区大久保二丁目五番二二号所在のY東京支社(支社長A、担当社員B)との間で締結され、その話合い等も宇都宮又は東京で行われたことがうかがわれる。また、Yの債務不履行又は不法行為の成否の審理に当たっては、系列塾開設の有無のみならず、X塾の経営状況、系列塾の開設及び経営の状況、○○町における生徒数の動向や学習塾利用の見込みなど広範な事情を明らかにする必要があると判断される。そして、Xは、今後の立証として、X本人のほか、証人としてXの従業員であったC、Y東京支社の前記A及びB、Yとの学習塾加盟店契約に基づき系列塾を開設したSを予定し、更に○○町の実情を熟知した経営コンサルタントによる鑑定申請をも検討しているというのであり、Yの争い方によって、これらの人証がいずれも必要となる可能性が否定できない。
しかるところ、これらの者はいずれも宇都宮市若しくは東京都又はその近郊に居住しているものであり、訴訟準備、出頭確保等の点において受訴裁判所である宇都宮地方裁判所において審理することにより迅速、円滑な審理が実現できることは明らかである。他方、広島市は、Yの本店所在地であるというだけで、本件訴訟の内容たる事実と具体的関連性があると認めるべき資料は何も提出されておらず、もし広島地方裁判所で審理するとなれば、事実上関係者の出頭困難、期日間隔の長期化等を来し審理に相当の遅延をもたらすおそれがあるものといわなければならない。
以上の事実関係によると、本件訴訟については、法定管轄のある受訴裁判所である宇都宮地方裁判所で審理することが著しい遅滞を避けるために必要であると認めるべきであり、専属的合意管轄のある広島地方裁判所に移送しないで審理することが許されるものと判断される。」