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東京高等裁判所 平成4年(ラ)153号 決定 1992年9月14日

抗告人

ニューホームクレジット株式会社

右代表者代表取締役

龍興恭平

右代理人弁護士

田口哲朗

抗告人

(特別清算会社)株式会社ユーコム

右代表者清算人

関口國彦

右両名代理人弁護士

西村孝一

右抗告人承継人

蛇の目ミシン工業株式会社

右代表者代表取締役

奥村正巳

右代理人弁護士

吉村節也

相手方

株式会社ナナトミ

右代表者代表取締役

江川明

右代理人弁護士

岩崎精孝

石井和男

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人ら及び抗告人承継人の負担とする。

理由

第一抗告の趣旨及び理由

抗告人は「1 原決定を取り消す。2 平成三年一〇月一六日の債権者集会において可決した別紙記載の条件による和議は不認可とする。」との裁判を求めた。抗告の理由は別紙記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

抗告理由に即して順次判断する。

一議決権行使の額について

本件記録によれば、平成三年一〇月一六日開催された債権者集会において、相手方が提供した和議条件について採決したところ、議決権を行使することができる届出債権者の債権額四五九億五五三六万七〇四円の四分の三以上に当たる三五八億三三〇五万一一一五円を有する債権者が同意して本件和議が可決されたので、原裁判所は、同年一一月六日、和議を認可する決定をしたことが認められる。

抗告人らは、飛島建設株式会社(以下「飛島建設」という。)他五名の債権者が議決権を行使することができるとされた債権額は、弁済すべき債権額を大きく上回るのに、抗告人ニューホームクレジット株式会社(以下「ニューホーム」という。)は弁済すべき債権額(一一一億四六三六万八五六〇円)の二分の一(五六億二三五七万一九七三円)しか議決権の行使を認められなかったのは、議決権を行使することができる債権額を不当に算定したものであり、不公正である、と主張する。

しかし、議決権を行使することができる債権額は、弁済すべき債権の額を基に定めるのではなく、届出のあった和議債権額を基に、異議の有無等によりその権利の確実性を勘案して和議裁判所が定めるべきものである。本件記録によれば、右抗告人の届け出た和議債権については、その存否をめぐって右抗告人と相手方との間で訴訟が係属しており、裁判所はこのことを考慮して議決権を行使することができる額を二分の一としたものであることが認められるのであって、原審裁判所が議決権を行使することができる債権額を二分の一とした判断に違法があるとは認められない。抗告人らの主張は、議決権を行使することができる債権の額を定めるに際しての判断の基準を誤解するものという他なく、採用することができない。

二飛島建設が特別の利害関係を有する者に当たるとの点について

抗告人らは、飛島建設が相手方と特別の利害関係を有する者に当たるとする理由をるる主張し、このような利害関係を有する飛島建設に議決権を行使させたことは違法であると主張する。

しかし、本件記録によれば、本件和議申立当時の相手方の株主の持ち株割合は、相手方の会長であった安田正幸が四一パーセント余り、同人が実質上経営を支配していた千島興産株式会社が二五パーセント(両者を合計すると六六パーセント余り)であるのに対して、飛島建設自身は相手方の株式を有しているわけではなく、飛島建設の代表取締役社長である飛島章及び副社長鈴木譲が相手方の株式をそれぞれ四〇株ずつ(持ち株割合でいえば、それぞれ五パーセント)有していたに過ぎないと認められるから、飛島建設を相手方の株主と同視することはできず、このことから飛島建設を本件和議の成否に特別の利害関係を有する者に当たるということはできない(確かに、本件記録によれば、飛島建設は、相手方の設立に当たって役員を送り込むなど密接な関係を持っていたことや、その後も資金面で援助するなどの協力関係を保っていたことは認められるが、だからといって飛島建設が本件和議の成否に特別の利害関係を有することになるとはいえない。なお、飛島建設が本件和議に際して他の債権者に対して相手方の支払いを保証するものとされていることは、他の和議債権者が和議条件に従って支払いを受ける上で有利にはなっても、飛島建設が本件和議の成立によって特別の権利を得るものではないから、このことをもって飛島建設が特別の利益を得る利害関係人であることの根拠とすることはできない。抗告人らの主張は、総じて推測の域を出ないものであって、採用することができない。)。

三本件和議条件は、飛島建設に特別の利益を供与するものである、との点について

抗告人らは、飛島建設が、本件和議認可決定を条件として、いわき物件の底地に割り付けられた別除権の額につき、株式会社磐城グリーンヒルズ(以下「新会社」という。)から免責的債務引受を得たことが、和議条件によらずに第三者が特定の債権者に特別の利益を供与する行為に当たると主張する。

しかし、本件記録によれば、抗告人らのいういわき物件の底地については飛島建設自身が別除権を有するものとされているのであるから、その被担保債権については、別除権の範囲では和議手続きとは別に権利を行使することができるのであるし、抗告人承継人蛇の目ミシン工業株式会社(以下「蛇の目」という。)の別除権が裁判上認められ、その別除権の行使により飛島建設の被担保債権の満足が得られないことになる結果、和議債権となるような場合には、飛島建設はその権利を行使しないことを約束していることが認められるから、いずれにしても飛島建設が特別の利益を受けることになるわけではない。抗告人らの主張は採用することができない。

四本件和議は和議債権者の一般の利益に反する、との点について

抗告人らは、相手方と新会社間の契約によると、売買の対象となっている土地に設定されている担保権のうち、北陸銀行、日本リース、三銀モーゲージサービス及び飛島建設以外の担保権は、相手方の責任と負担で抹消するものと定められており、蛇の目の別除権が存在するものと裁判上確定されてその被担保債権額三〇〇億円につき別除権を行使した場合には、新会社がその額につき相手方に物上保証人として求償権を行使することになるし、蛇の目が別除権を行使しても満足を得られない額があれば、その額につき蛇の目が和議債権として権利を行使することになり、いずれにしても、和議債権額が三〇〇億円増加することとなって、相手方の和議条件の履行ができなくなる、と主張する。

しかし、本件記録によれば、相手方と新会社間の前記契約においても、相手方の負担により担保権を抹消する詳細については、相手方と新会社が別途協議するものと定められていること、また、右契約は蛇の目の別除権は裁判上否定されるであろうことを予想してなされたものであると認められることからすると、もし蛇の目の別除権が裁判上認められたような場合には、別途協議して解決することが予定されているものと解すべきところ、蛇の目の別除権が裁判上認められたときには、新会社は相手方に求償権を行使しないことを約束していることが認められるから、仮に蛇の目の別除権が裁判上認められても、相手方の和議条件の履行に影響を及ぼす恐れは少ないとみることができる。また、本件記録によれば、蛇の目の別除権(その被担保債権)の存否が本件和議条件の履行の成否に影響することは整理委員においても当然認識し、その存否について調査を行ったうえで、その経過及び蛇の目の権利は存在しないと判断したことを意見書で明らかにし、管財人の報告書でも、この点の不確定要素があることを明らかにした上で提案された和議条件が適法妥当であるとしていることが認められ、本件和議の可否につき議決権を行使した債権者も、このことを認識した上で議決権を行使したもの、すなわち、蛇の目の別除権の存否については争いがあり、将来の裁判の結果如何によっては和議条件の履行に影響があり得ることも総合判断して議決権を行使したものというべきである。したがって、将来、蛇の目の別除権(その被担保債権)の存在が裁判上確定されたために、仮に相手方の和議条件の履行に影響が生ずることがあるとしても、そのことをもって和議債権者の一般の利益に反するということはできない。

抗告人らの主張は採用することができない。

五以上のとおりであって、抗告人らの主張はいずれも採用することができず、記録を検討しても、他に原決定を違法とする理由は見当たらない。

よって、本件抗告は、いずれも理由がないものとして棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官上谷清 裁判官滿田明彦 裁判官高須要子)

別紙抗告の理由

原決定には左記のような違法がある。

一、抗告人らは、前記和議開始申立事件において左記のとおり債権届出をなした相手方の債権者である。

抗告人ニューホームクレジット株式会社

一一二億四七一四万三九四七円

同株式会社ユーコム

四四億二五八九万七六八〇円

二、議決権を行使させる債権(以下議決権行使債権額という)の額の不当な算定

1、平成三年一〇月一六日に開催された債権者集会における議決権の内容は次のとおりであった。

届出債権の総額

三五二〇億三二〇五万二九一四円

議決権行使債権の額

四五九億五五三六万七〇四円

右の四分の三の額

三四四億六六五二万五二八円

そして、出席者五六名のうち五五名、その債権額合計三五八億三三〇五万一一一五円の賛成により本件和議が可決されたというのである。法定の決議要件とされる債権額を上回ること僅かに一三億六六三五万五八七円、比率にして議決権行使債権額の七八パーセントという際どい議決であった。

2、ところで、右債権者集会で陳述された平成三年一〇月一六日付届出債権に関する調査報告書によると、議決権行使債権の額が右債権者集会における算定額と同額の四五九億五五三六万七〇四円とされているが、同じく右債権者集会で陳述された同日付管財人報告書によれば弁済すべき和議債権のうち債権届出済みの債権総額は三三七億一二八九万四九〇九円とされており(同報告書添付和議対象額一覧表・別紙(五)の二参照)、実に一二二億四二四六万五七九五円もの差額が存在する。この金額は、議決権行使を認められた債権額の約二七パーセントにも達するものである。抗告人が不審に思い、右調査報告書添付の債権額一覧表と管財人報告書添付の和議対象額一覧表を対照し、両者で債権額の異なるもののみを抜き出して整理したのが末尾添付の債権額対照表である。これを見ると、整理委員および管財人が弁済すべき和議債権とする債権額を上回る議決権行使を認めた債権者の主立った者は次のとおりであることが明らかとなる。

地銀生保住宅ローン 約一二億円

北銀リース 約七億円

商工組合中央金庫 約二三億五千万円

日本リース 約一三億円

飛島建設 約八五億円

北陸銀行 約三一億円

3、もとより当該債権の存否・内容、和議条件策定等をめぐる諸事情から、弁済対象とする和議債権額と、和議の議決における議決権行使債権額との間に差異が生ずること自体を否定するわけではない。しかし、右に指摘した議決権行使額の認容の仕方は余りにも異様というほかはない。例えば、商工組合中央金庫は弁済すべき和議債権の額は〇とされているにもかかわらず、約二三億五千万円もの議決権行使を認められており、また相手方の北青山物件、いわき物件の開発に巨額の資金を投下してきた飛島建設・日本リース・北陸銀行などの特別な債権者について、弁済すべき和議債権の額を合計で約一三六億円も超過する金額での議決権行使を認めているのである。その一方で、抗告人ニューホームクレジットに対しては、その算定方法に何の合理的根拠があるのか全く不可解であるが、弁済すべき和議債権額の約二分の一についてしか議決権行使を認めていないのである。

4、本件和議の債権者集会における議決が、法定の要件を僅か一三億六六三五万五八七円上回っただけの賛成によって成立していることを考えれば、この様な議決権の算定が公正なものとは到底思われず、抗告人らの意向を封じるため、相手方と特別の利害関係を有する関係者の議決権行使を優遇した、極めて恣意的な裁量によるものであると言わざるを得ない。この様な議決権行使債権額を前提としてなされた本件債権者集会の決議は、和議法五一条一号に該当することが明らかである。

三、特別利害関係人に対する議決権行使を認めた違法

1、和議債権者集会においても、破産法一七九条二項に準じ、和議債務者の提供する和議に関して特別の利害関係を有し、その結果和議の認否について決議に加わることが和議手続きの公正を害する恐れがあると認められるものについての議決権の行使は認められない(昭和九年二月一〇日大審院決定・民集一三巻二号一二四頁)。たとえば、和議債権者であると同時に和議申立会社の株主である者については、それだけで特別の利害関係を有し、議決権を行使することは許されないとされている(昭和一二年二月一二日大審院決定・法律新聞四一〇九号一一頁)。

2、本件和議において、飛島建設は和議に関して特別の利害関係を有するものに該当する。その理由は次のとおりである(以下に述べる事実関係は、すべてダイヤ監査法人が平成三年三月九日付けにて整理委員に提出した調査報告書―以下報告書という―に記載されている)。

(1) 飛島建設の代表取締役飛島章および同社元副社長鈴木譲は相手方の株式のうち合計八〇株、一〇パーセントの持株比率の株主である。飛島建設のように同族色の濃い企業の代表者が株主であるということは、会社自身が株主である場合に準ずる関係であるといってよい。

(2) しかも、飛島建設は相手方の単なる債権者ではなく同社の経営そのものに深く関与し、これを支配してきた。

① そもそも相手方は飛島建設が昭和五八年三月、大阪天満の物件を開発する目的で天満開発株式会社として設立した会社であり、発起人・出資者はすべて飛島建設の経営陣であった。その代表者に就任した安田正幸も飛島建設の社員であり、取締役・監査役等の役員もすべて飛島建設の社員であった。

その後安田は飛島建設を退職し、相手方の社長業に専念するようになったが、飛島建設との密接な関係に変わるところはなかった。昭和六二年九月以降も相手方の経営者および幹部職員はほとんどが飛島建設出身者で占められていた。その経営内容についても、報告書は「昭和六一年三月以降、相手方は飛島建設の特殊な関係により、同社の債務保証を受け莫大な借入を行うとともに、不動産、有価証券の値上がりによる独自の借入も増やしていった」(報告書一一頁)との事実を指摘している。

② 光進・小谷グループと相手方の関係は、同グループと飛島建設との係わりをめぐって形成されてきたものである。安田は飛島建設の工事の受注・土地の取得、光進による飛島建設株式の買い占め等について小谷と密接に接触し、飛島建設の便宜を計るための介在的業務に、相手方代表者として継続的に従事していた。昭和六一年三月における相手方の光進に対する貸付残高一〇〇億円は、主に飛島建設に対する光進の貢献への謝礼として実行したものとされている(報告書一三頁)。

③ 蛇の目ミシン工業株式の取引をめぐっても、飛島建設は自己が買い集めた株式五七四万四千株を株価の値上がりを待って合計八三億八三〇〇万円で相手方に売り渡した。この時期に、相手方が独自にかかる巨額の買受け資金を準備することは困難であったところから、飛島建設の保証によって資金調達したものと見られている(報告書三一頁)。

④ さらに飛島建設は、相手方の北青山物件、ハワイゴルフ場、新富町物件等の取得資金およびいわきナナトミクラブの建設資金等の調達のために総額で一四九七億五四〇〇万円にものぼる、想像を絶する巨額の債務保証を実行している。この金額は届出債権額の二分の一弱に達するものであるが、金融機関でもない飛島建設がかかる莫大な額の信用供与を相手方に与えているということは、飛島建設が相手方と密接な利害共同の関係を結んでいたことを如実に示している。

⑤ 今回の相手方からの和議の提供につき、飛島建設は和議債権支払の原資について四五億四三五〇万一〇〇〇円を限度として連帯保証をなすほか、和議の履行確保のためと称して種々の譲歩条件を受け入れている。債権者である飛島建設がこの様な異例の和議債権の支払保証措置を講じている事実こそ、同社が単なる債権者ではなく、本件和議の成否について実質的に相手方と利害を共通にする、特段の利害関係を有していることの証左である。

(3) 以上の諸事実に照らすならば、飛島建設は単なる相手方の一債権者ではなく、相手方経営の中核的部分を左右するほどの決定的な影響力を行使してきたことが明らかであり、法的にはともかく経済的には相手方の巨額債務超過の責任の一端を担うべき立場にあると言うべきである。また、この様な両者の関係からするならば、飛島建設は相手方の財務状況について、他の債権者の知りえない内部情報にも精通しており、かつ和議条件の策定やその履行についても相手方と一体ともいうべき特別な影響力を行使しうる立場にあるものである。

3、この様な場合、本件和議の議決にあたっては、飛島建設を特別利害関係にある債権者としてその議決権行使を制限することが、和議手続の公正を期するうえで不可欠の措置であると言わなければならない。しかるに本件債権者集会では、先にも指摘したとおり、飛島建設の議決権行使を否定するどころか、同社に和議対象債権額約三二億六三三五万円を八五億円近くも上回る約一一七億五千万円もの議決権行使を認めているのである。この様にしてなされた本件議決が和議法四九条一・二項、破産法一七九条二項に抵触し、和議法五一条一号に該当して違法なものであることは明らかである。

四、本件和議条件は一部債権者に対する特別の利益を供与した違法がある。

本件和議認可決定を停止条件として株式会社磐城グリーンヒルズ(以下新会社という)と相手方間で締結されたいわきナナトミクラブの売買契約(以下いわき物件売買契約という)において、飛島建設は、同物件の底地に割り付けられた別除権額の全額を、新会社が免責的に債務引受する旨の合意を得ている(同契約第4条①項)。

しかし、飛島建設の有している別除権は、管財人の平成三年一〇月一六日付上申書でも触れられているとおり、蛇の目ミシン工業株式会社が主張している別除権が裁判上確定した場合には、その抵当権の被担保債権の一部が和議債権となる性質のものである。このことを踏まえて飛島建設は、後述する平成三年一〇月九日付確認書と題する整理委員・管財人宛文書において、この和議債権となった部分の債権については請求を放棄する旨の確約をしているのである。

しかるに右いわき物件売買契約においては、前述のとおり飛島建設の別除権対応債権の全額が新会社に免責的に債務引受されているため、蛇の目ミシン工業の別除権が確定した場合においても、飛島建設は本来であれば和議債権たるべき当該被担保債権の別除権超過部分について、和議条件によらずその全額の支払を得ることができるのである(免責的債務引受を得ているのであるから、相手方に対して請求を放棄する対象となる債権はそもそも存在していない)。これは明らかに「和議条件によらずに第三者が特定の債権者に特別利益を供与する行為」であり、和議法四九条二項、破産法三〇四条・三〇五条に抵触し、和議法五一条一号、三号、四号に該当するものというべきである。

五、本件和議は和議債権者の一般の利益に反する違法がある。

1、本件和議の提供に際しては、和議債権の履行を確保する前提措置として、

① 蛇の目ミシン工業の別除権が確定した場合でも、飛島建設がこれによって和議債権となる抵当権被担保債権については相手方に履行を請求しないこと

② 抗告人ニューホームクレジットを除くその余の和議債権者の和議債権総額が一七三億一四三六万八四四〇円を超過した場合、飛島建設はその超過相当額について相手方に履行請求しないこと

の二つの条件が付されており、平成三年一〇月九日付で飛島建設から基本的にこの趣旨を承諾する旨の確認書が提出されている。相手方はこの二つの確約によって、たとえ蛇の目ミシン工業の別除権が裁判上確定した場合であっても、抗告人ニューホームクレジットを除く現実に支払わなければならない和議債権の額が一七三億一四三六万八四四〇円に固定されるので、飛島建設の連帯保証と相俟って和議条件の履行は確実であるとするのである。

2、しかし、前記いわき物件売買契約書第4条④によれば、同物件を構成する土地について設定された担保物件のうち、北陸銀行、日本リース、三銀モゲージサービス、及び飛島建設以外の担保物件は相手方の責任と負担で抹消するものとされている。即ち、蛇の目ミシン工業の別除権が裁判上確定された場合には、その負担は相手方が全て負うこととされているのである。それ故、この場合に、もし蛇の目ミシン工業が別除権の行使によって債権三〇〇億円全額の満足を得たときは、新会社は物上保証人の求償権を当然相手方に行使することとなる(飛島建設は別除権に相応する債権全額を既に新会社に免責的に債務引受させているのであるから、この場合に和議債権として放棄すべき相手方に対する債権などそもそも発生する余地がない)。この求償権は和議債権となるため、相手方の弁済すべき和議債権は三〇〇億円増加する結果となる。この様な場合右1の②によって飛島建設はその増加分相当額については自己の和議債権について相手方に履行請求しないとしているが、同社の和議弁済対象債権額は約三二億六〇〇〇万円にとどまるのであるから、その全額の請求放棄を受けたところで支払を要する和議債権が結局は約二七〇億円も増大する結果、本件和議条件に基づく15.96パーセントの弁済率の確保など到底不可能な状況に立ち至るのである。

また仮に蛇の目ミシンが別除権の行使によって債権全額の弁済を得られなかった場合には、同社が残債権部分を和議債権として相手方に請求し、別除権行使部分については新会社が求償権を和議債権として請求することで結局和議債権額が合計で三〇〇億円増加することとなって、右と同様の結果に帰着する。

3、この様な事態になるのは、前記いわき物件売買契約において飛島建設が、蛇の目ミシン工業の別除権が確定した場合でも自己の抵当権の被担保債権全額を新会社に免責的に債務引受させるという得手勝手な債権処理を行っていること、また同契約において蛇の目ミシン工業の別除権処理が相手方のみの責任として残され、当該売買条件の中で蛇の目ミシン工業を含む別除権にかかる債権全額を処理して、相手方に和議債権の負担が増大することのないようにする配慮が全くなされていないことによるものである。結局本件和議条件は、右1に記載した飛島建設の①・②の確約によってあたかもその履行が確実であるかのごとく説明されてはいるが、実は蛇の目ミシン工業の別除権の帰趨にその履行の可能性すべてが依存するという極めて不確定的なものでしかないのである。この様に現に継続中の訴訟の結論に和議条件の履行の可否が完全に左右されるということ自体、和議条件としての適正を根本的に欠くものと言わなければならないが、本件和議の議決に際してはそのことの説明が事前にも、債権者集会の場でも全くなされず、それどころか和議債権者は飛島建設の「確認書」なるもので和議条件履行の確実な担保がなされたかのごとく幻惑されたまま議決に臨んでいるのである。

この様にして成立した和議が、和議債権者一般の利益に反するものとして和議法五一条四号に該当して違法とさるべきは当然の事理である。

以上の各事実によれば、原決定の違法は明らかであるからただちにこれを取り消し、和議不認可の決定をなされるよう本申立てに及ぶ。

なお、本件は負債総額が約三〇三四億円にものぼる大型和議事件であり、その事件処理の帰趨は抗告人らのみにとどまらず利害関係者に甚大な影響を及ぼすことが明らかであるので、本件の審理にあたっては是非抗告人ら及びその他の利害関係人の審訊をなされるよう希望する次第である。

別紙和議条件

一、和議債権者は、和議債権に対する本件和議申立ての日以降の利息及び損害金を免除する。

二、和議債務者は、和議債権者に対し、右和議債権額の15.96パーセントを和議認可決定確定の日より一年後に支払う。但し、ニューホームクレジット株式会社に対する支払予定額については、和議債務者の同社に対する後記約束手形債務の存否に関する訴訟(東京地方裁判所平成三年(ワ)第七四六五号事件)が判決又は和解により確定するまでその支払を留保する。

三、和議債務者は、前項の訴訟の判決又は和解により後記約束手形債務が存在することが確定した場合は、その確定した債務額の15.96パーセントをニューホームクレジット株式会社に支払う。

四、和議債務者は、和議債務者のニューホームクレジット株式会社に対する後記約束手形債務が存在しないことが判決又は和解により確定した場合は、確定日より三ケ月以内に支払義務の存在しないことが確定した金額に対する15.96パーセント相当分を各和議債権者に対し和議債権額に按分比例して支払う。

五、飛島建設株式会社は、和議債務者の本件和議条件に基づく支払につき金四五億四三五〇万一〇〇〇円の限度において和議債務者と連帯して保証の責に任ずる。

六、和議債務者が遅滞なく右支払を完了したときは、和議債権者はその余の和議債権を免除する。

(後記約束手形の表示)

①額面金一一六億円

支払期日 平成三年五月二二日

支払地 東京都中央区

支払場所 株式会社北陸銀行東京支店

振出地 東京都千代田区

振出日 平成二年一一月二二日

振出人 株式会社ナナトミ

受取人 ニューホームクレジット株式会社

②額面金一二〇億円

支払期日 平成三年五月二四日

振出日 平成二年五月二五日

他の手形要件は①と同様

③額面金五〇億円

支払期日 平成三年五月三一日

振出日 平成二年六月一四日

他の手形要件は①と同様

④額面金四九億円

他の手形要件は③と同様

別紙債権額対照表<省略>

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