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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)103号 判決 1993年3月17日

埼玉県川越市大字萱沼2607番地5

原告

佐藤善祐

訴訟代理人弁理士

西郷義美

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

指定代理人

田中照雄

長澤正夫

涌井幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、昭和59年審判第3898号事件について、平成4年3月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年12月23日、別紙(1)のとおり、「MEIJI」の欧文字(大文字)を横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を、第10類「理化学機械器具その他本類に属する商品」(平成3年政令第229号による改正前の商標法施行令1条による区分、以下同じ。)として商標登録出願した(昭和56年商標登録願第106815号)が、昭和58年12月23日、拒絶査定を受けたので、これに対し不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を昭和59年審判第3898号事件として審理し、原告は、平成2年5月10日、指定商品を「理化学機械器具 その他本類に属する商品 ただし、医療機械器具、ならびにその部品および付属品(他の類に属するものを除く)を除く。」と補正したところ、同月22日、出願公告の決定を受けたが、同年12月6日、訴外明治製菓株式会社(以下「訴外会社」という。)から商標登録異議の申立てがされ、特許庁は、平成4年3月26日、異議申立てを理由があるとする決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月30日、原告に送達された。

2  審決の理由

別添審決書記載のとおり、審決は、訴外会社の「Meiji」の欧文字(小文字)からなる商標は、本願商標の登録出願時において既に、日本国内において訴外会社の業務に係る商品を表示するものとして、取引者、需要者間に広く認識されていたものと判断されるところ、本願商標は、訴外会社の商標と大文字、小文字の差はあるものの、その構成文字の綴りを同一にし、本願商標の指定商品は、訴外会社の業務に係る「医薬品、医療用機械器具」と使用の時期や場所を同じくする場合も多く、密接な関連を有しているから、本願商標の使用は、取引者、需要者をして商品の出所につき混同を生じさせるおそれがあり、商標法4条1項15号により登録することができないと判断した。

第3  原告主張の審決取消事由

審決の理由中、本願商標の構成及び指定商品の認定は認める。

しかしながら、審決は、何らの証拠に基づかずに訴外会社の商標の使用状況を認定し、その結果、同商標の周知性について誤った判断をし(取消事由1)、本願商標の指定商品が訴外会社の指定商品と競合しないにもかかわらず、商品の出所について混同を生ずるおそれがあると誤って判断した(取消事由2)違法があるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1(引用商標の周知性の認定判断の誤り)

(1)  審決は、登録異議申立人(訴外会社)は、「菓子を初めとする各種の食品、飲料のみならず医薬品等の製造、販売を業とするこの種業界有数の企業であって、『Meiji』の欧文字よりなる商標を永年に亘って前記各商品について使用してきた」と認定したが誤りである。

訴外会社が菓子の製造、販売を業とするこの種業界有数の企業であること及び拒絶理由通知書に記載された登録第1451592号(商公昭55-22288号)及び登録第1529295号(商公昭56-52765号)各商標の商標公報から、第10類の指定商品中、「医療機械器具並びにその部品及び附属品(他の類に属するものを除く)」の製造、販売を目指す企業であることは理解できるが、資料がないため、各種の食品、飲料の製造、販売を業とするこの種業界有数の企業であるとの認定は困難であり、また、上記のような「この種業界において」、「Meiji」の商標を永年にわたって使用してきたとは、到底理解できない。

(2)  ことに、訴外会社は、「Meiji」の欧文字からなり別紙(2)の構成からなる登録第1523963号商標につき、指定商品を第10類「理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)光学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具(電子応用機械器具に属するものおよび電気磁気測定器を除く)医療機械器具、これらの部品および附属品(他の類に属するものを除く)写真材料」とする防護標章登録出願をし、これが昭和62年5月6日に出願公告された(商公昭62-29305号)事実があり、商標法64条の防護標章登録制度の要件からすれば、上記第10類の防護標章に係る指定商品は、公告時点である昭和62年5月6日に初めて、訴外会社の業務に係る商品として周知・著名なものと判断されたものである。したがって、その公告より前の本願商標の登録出願時において、既に第10類の全指定商品が日本国内において訴外会社の業務に係る商品を表示するものとして、取引者、需要者間に広く認識されているものとは考え難い。また、訴外会社が医薬品等の製造、販売を業とする旨の証拠は異議申立書に添付されたが、医療機械器具を除く第10類のその他の指定商品の製造、販売を業とすることを確証付ける証拠は不十分であり、防護標章の指定商品との間に齟齬を生じている。

2  取消事由2(商品出所の混同のおそれについての判断の誤り)

審決は、本願の指定商品は、訴外会社の業務に係る「医薬品、医療用機械器具」と使用の時期や場所等を同じくする場合も多く、密接な関連を有しているから、原告が本願商標をその指定商品に使用するときは、商品の出所について混同を生じさせるおそれがある旨判断しているが、誤りである。

(1)  原告は、拒絶理由通知書に掲げられた登録第1451592号(商公昭55-22288号)及び登録第1529295号(商公昭56-52765号)各商標の指定商品を除外すべく上記第2の1記載のとおりの補正をし、これにより、本願商標の指定商品に含まれる「実験用ガラス器具、生物顕微鏡、精密測定機械器具、自動調節機械器具等」については、訴外会社の指定商品との競合を回避しえたものとして出願公告の決定を受けたと理解している。

訴外会社の登録防護標章の指定商品中、本願商標と競合する指定商品は、上記のとおり、昭和62年5月6日に初めて訴外会社の業務に係る商品として認定されたものであるから、本願商標が商標法4条1項12号に該当する商標であるとすると、後願のものが先願のものを拒絶する状態となり、同法8条の先願主義からすれば理解できない防護標章登録制度の濫用というべきである。

さらに、「Meiji」の欧文字、「明治」の漢字又は「メイジ」の片仮名文字を使用する例としては、訴外会社以外にも、例えば「明治商会」、「明治大学」、「明治薬科大学」、原告が経営する会社の親会社である「明治図書出版」など多数あり、業務内容が重複する会社も多々あり、訴外会社の「Meiji」の商標だけに防護標章登録を認めた行為は、同様に防護標章登録制度の濫用である。

(2)  本願商標は、原告が代表者を勤める「メイジテクノ株式会社」の要旨をなす部分であり、同会社は会社規模が小さく、代表者個人と略同一人格と目される現状にあるほか、本願商標を使用した教育用顕微鏡及び工業用顕微鏡は、国内外において広く知られ、需要者に信頼を得ており、訴外会社の業務とは極めて異なる距離にある。

原告は、約10年の長きに亘り平穏無事に業務を遂行してきたことからも、商品の出所につき、訴外会社のそれと混同のおそれを生ずることはありえないものというべきである。

第4  被告の主張

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1  取消事由1について

審決は、商標登録異議申立において提出された資料及び職権調査による資料を総合し、訴外会社が食品業界及び医薬品業界において、我が国有数の企業であるとの事実を認定したもので、その認定に何らの違法はない。

原告は、第10類の全指定商品が訴外会社の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者間に広く認識されるに至ったのは、昭和62年5月6日の時点であると主張するが、審決は、本願商標が商標法4条1項15号に該当するものと判断し、その前提として、訴外会社が「Meiji」の商標を各種食料品、飲料、医薬品等の商品について永年に亘り使用してきた結果、これらの商品について周知性を獲得した旨認定しているのであり、第10類の全指定商品について、上記商標を使用した結果、同指定商品につき周知性、著名性を獲得した旨認定しているものではないから、原告の主張は、その前提において失当である。

また、防護標章登録出願をいつ、どの類に出願するかは、商標権者の意思によるところであって、昭和62年5月6日の時点というのは、訴外会社が所有する登録第1523963号商標について、昭和58年4月25日に出願した商品区分第10類の防護標章登録出願につき、その時点で出願公告された事実を示すにすぎない。

防護標章登録制度の趣旨は、商標権者がその指定商品には使用しないが、他人が使用することにより出所の混同を生ずるおそれがある商品について、防衛のために登録することにあるから、当該商標の指定商品と登録防護標章の指定商品との間に相違があることも当然である。

2  同2について

(1)  商品の出所の混同の防止は、他人の商標権との関係における商標法4条1項11号との関係ばかりでなく、その総括条項である同法4条1項15号との関係からも考察されなければならないところ、原告が手続補正によって解消できたと主張する商品の混同のおそれは、第10類における他人の商標権との関係に係る同項11号について、抵触を免れたと判断されたにすぎず、その後、異議手続において、同項15号に該当することが明らかとなった結果、審決は、同号に該当するものと判断したものであり、その判断に違法はない。

また、審決は、本願商標が登録防護標章と同一であり、その指定商品を同一であることを理由とする商標法4条1項12号を適用したものではなく、上記のとおり、同項15号を適用したものであるから、後願が先願を排除し、防護標章登録制度の濫用であるとする原告の主張は、その前提を欠いており失当である。

さらに、第三者が訴外会社と同一の商標を使用しているとしても、訴外会社の商標については、防護標章登録異議の申立もなく登録されており、防護標章登録制度の濫用であるとの原告の主張は何らの根拠がない。

(2)  訴外会社は、昭和53年から医療機械器具である点滴用電子式輸血制御装置の生産、販売を開始する一方、海外の特色ある医療機械について技術導入を予定し、さらに経営の多角化を図っている。

そして、訴外会社の業務に係る「医薬品、医療機械器具」と、本願商標に係る実験用ガラス器具、生物顕微鏡、精密測定機械器具、自動調節機械器具等の商品とは、病院、薬局等、使用の時期や場所を同じくする場合の多い密接な関連を有している商品であるから、訴外会社の商標と、称呼、観念において類似する本願商標を使用して原告が上記商品を製造、販売するときは、あたかも経営の多角化を意図している訴外会社又はこれとの関連を有する者の商品であるとして、需要者、取引者に商品の出所混同を生じさせるおそれがあるものといわざるをえない。

よって、この点を理由として、本願商標が登録できないものとした審決の判断は相当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

甲第4、第5号証、乙第1ないし第9号証によれば、訴外会社は、大正5年に創設された東京菓子株式会社を前身として、大正13年社名を「明治製菓株式会社」に変更し、当初はキャラメル、チョコレート等の菓子類の製造販売を主たる事業としていたが、昭和2年から清涼飲料水の販売を開始し、その後、各種缶詰類の販売を行うようになり、また、昭和21年には医薬品製造を開始し、主としてペニシリン等の抗生物質を中心とする各種医薬品の製造、販売をも行って今日に至っていること、その事業範囲は、上記の菓子、食品、医薬品のほか、食菌、養殖、医療機械器具、理化学機械器具、宝石等に拡大され、内外に二十数社の関連会社を抱える企業であって、我が国における製菓会社の最大手で菓子、食品業界の代表的企業であるとともに医薬品部門においても相当規模の事業を行っていること、訴外会社は、永年に亘り、同社の各種商品に「Meiji」の欧文字を横書きしてなる別紙(2)の商標をはじめ、「Meiji」の欧文字を構成要素とする別紙(3)の各商標及びこれらと類似の商標を使用し、その結果、「Meiji」の欧文字からなる商標が訴外会社の業務に係る商品を表示するものとして、本願商標の出願時までに、我が国内の取引者、需要者間に広く認識されるに至っていることが認められる。

原告は、防護標章登録制度の要件からして、別紙(2)の商標が、昭和62年5月6日より前に、第10類の全指定商品につき周知であったとはいえない旨主張するが、訴外会社の防護標章登録出願につき原告主張の日に出願公告された事実は、それ以前における当該商標の周知性を否定する根拠となるものでないことはいうまでもなく、その他前示認定と同旨の審決の認定を争う原告の主張は理由がない。

2  同2について

原告が取消事由2(1)において主張する事実は、審決が本願商標を拒絶すべき理由とした商標法4条1項15号該当性を覆す理由とならないことは明らかであるから、その余につき判断するまでもなく、失当である。

原告は、本願商標を使用する原告商品である教育用顕微鏡及び工業用顕微鏡は、訴外会社の業務とは極めて異なる距離にある商品であり、国内外において需要者に広く知られているから、商品の出所につき、訴外会社と混同を生ずるおそれはないと主張する。

しかしながら、訴外会社は、菓子、食品等のほか、医薬品の製造、販売を行う企業として、我が国において広く知られた企業であり、関連会社も少なからず存在し、医療機器及び理化学機械器具を含む機械の分野においても事業を行っていること、訴外会社は、永年に亘り、同社の各種商品に「Meiji」の欧文字を横書きしてなる別紙(2)の商標をはじめ、「Meiji」の欧文字を構成要素とする別紙(3)の各商標及びこれらと類似の商標を使用し、その結果、「Meiji」の欧文字からなる商標が訴外会社の業務に係る商品を表示するものとして、本願商標の出願時までに、我が国の取引者、需要者間に広く認識されるに至っていることは、上記1に認定のとおりである。

そして、本願商標と「Meiji」の欧文字からなる訴外会社の商標とは、大文字であるか頭文字以外が小文字であるかの違いを除き、同一綴りの欧文字を横書きしてなる構成を有し、いずれの商標からも「メイジ」との同一の称呼が生ずること、さらに、両商標からは、いずれも「明治天皇朝又はその時代」の共通の観念が生じ、両者は類似するものであることが明らかである。

これらの事実によれば、原告が本願商標を使用して教育用顕微鏡及び工業用顕微鏡を製造販売する等本願商標をその指定商品に使用するときは、その商品に接した取引者、需要者において、あたかも訴外会社の業務に係る商品若しくは訴外会社と関連を有する者の商品であるかのような誤認が生じ、商品の出所につき、混同を生ずるおそれがあるものと認められる。

原告は、甲第8号証の1ないし8、第9号証の1ないし22を提出し、上記混同のおそれがないことを立証しようとするが、同号各証により認められる各証明書は、本願商標との関連が何ら記載されていないから、これをもって、上記認定を覆すことはできない。

原告の取消事由2の主張も理由がない。

3  以上のとおり、原告の主張は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵も見当たらない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 三代川俊一郎)

別紙

<省略>

昭和59年審判第3898号

審決

埼玉県川越市大字萱沼2607-5

請求人 佐藤善祐

東京都千代田区神田小川町2丁目8番 西郷特許ビル

代理人弁理士 西郷義美

昭和56年 商標登録願 第106815号拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願商標は、「MEIJI」の欧文字を横書きにしてなり、第10類「理化学機械器具その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和56年12月23日に登録出願されたものであるが、その後、指定商品については、当審において、平成2年5月10日付け差出の手続補正書により、「理化学機械器具その他本類に属する商品、ただし、医療機械器具、ならびにその部品および付属品(他の類に属するものを除く)を除く。」に補正されたものである。

これに対し、登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、「本願商標は、商標法第4条第1項第12号及び同第15号に該当する」旨述べ、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第8号証を提出している。

よって按ずるに、申立人が提出した全証拠及び職権をもって調査した事項を総合して勘案するに、申立人は、菓子を初めとする各種の食品、飲料のみならず医薬品等の製造、販売を業とするこの種業界有数の企業であって、「Meiji」の欧文字よりなる商標を永年に亘って前記各商品について使用してきた結果、該商標は、本願商標の登録出願時において既に、日本国内において申立人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者間に広く認識されるに至っていたものと判断するのが相当である。

しかして、本願商標は、申立人がその業務に係る商品に使用して、取引者、需要者間に広く認識されている商標「Meiji」と大文字、小文字の差はあるものの、その構成文字の綴りを同一にするものであるばかりでなく、本願の指定商品に含まれる「実験用ガラス器具、生物顕微鏡、精密測定機械器具、自動調節機械器具」等は、申立人の業務に係る「医薬品、医療用機械器具」と使用の時期や場所(例えば、病院、薬局)等を同じくする場合も多く、密接な関連を有しているとみられるものである。

してみれば、請求人(出願人)が、本願商標をその指定商品に使用するときには、これに接する取引者、需要者をして、恰かも申立人の業務に係る商品または申立人と何等かの関係にあるものの業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ない。

したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当し、登録することができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成4年3月26日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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