東京高等裁判所 平成4年(行ケ)122号 判決 1993年7月29日
ドイツ連邦共和国
フランクフルト・アム・マイン・リュッセルスハイメルストラーセ 22
原告
ブラウン・アクチエン ゲゼルシヤフト
代表者
ロルフ・アインゼレ
同
ギュンター・バウツ
訴訟代理人弁護士
牧野良三
同弁理士
矢野敏雄
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
麻生渡
指定代理人
足立光夫
同
田辺隆
同
田辺秀三
主文
特許庁が昭和62年審判第10205号事件について平成4年1月23日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1984年7月4日にドイツ連邦共和国においてした意匠出願に基づく優先権を主張して、昭和59年12月25日、意匠に係る物品を「電気かみそり」とする意匠(以下「本願意匠」という。)につき意匠登録出願をしたところ、昭和62年1月22日に拒絶査定を受けたので、同年6月11日に審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第10205号事件として審理した結果、平成4年1月23日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をした。
2 審決の理由の要点
(1) 本願意匠は、意匠に係る物品を「電気かみそり」とし、その形態を別紙第1に示すとおりとしたものである。
これに対して、引用意匠は、昭和55年5月16日に出願し、昭和57年1月29日付で拒絶査定がなされ、その後その査定が確定した昭和55年意匠登録願第19404号に係り、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「電気かみそり」とし、その形態を別紙第2に示すとおりとしたものである。
(2) そこで、本願意匠と引用意匠を比較検討すると、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態については、次のとおりの共通点及び差異点が認められる。
すなわち、両意匠は、基本的な構成態様について、全体を縦長で扁平な略直方体状のものとし、頭頂部に横長で略半円弧状の外刃部を設け、正面の中央上方寄りに略方形状の大きなスイッチ部を設けた点が共通し、その具体的な態様についても、全体の高さと横幅の比率がほぼ共通しており、両側面の正面側から頭部を経て背面側に至る稜部に幅広の面取り状を形成した点、外刃部は、横幅を全体の横幅よりやや短い幅のものとし、その両側を両側面の上端部が挟む態様に形成され、外刃のほぼ全面を細かい網状に形成した点、スイッチ部の横幅を全体の横幅よりやや短い幅のものとして左右に余地を設け、スイッチ部のほぼ全面に細かい横縞状の凹凸部を形成した点、スイッチ部上方にわずかな凹状の余地を設けた点、そして、全体の略4分の3の高さの部位の全周にわたつて頭部と本体部を区分する分割線を形成した点の各態様が共通しているものである。
一方、両意匠は、具体的な態様のうち、主として、<1>本願意匠が、頭部正面側の外刃部の下辺をわずかに突出させて際剃り刃基台部を形成し、その上縁に外刃部の横幅と同じ長さの細帯状の際剃り刃部を正面方向にごくわずかに突出させて際剃り部を設けているのに対し、引用意匠は、外刃部の下辺を平滑面とし、際剃り部を設けていない点、<2>両側面の正面側及び背面側の稜部の面取りについて、本願意匠が、ごく細い溝状の縁取りを有する斜状面に形成しているのに対し、引用意匠は、丸味をもった面取り状に形成している点、<3>頭部両側面の態様について、本願意匠が、頭部両側面のほぼ中央及び下方寄りの部位に間隔を置いて細かい横縞状の凹凸部を形成しているのに対し、引用意匠は、ほぼ中央に小円を現わしている点に差異がある。
(3) 以上の共通点及び差異点を総合して、両意匠を全体として観察すると、両意匠において共通しているとした基本的構成態様は、両意匠の形態についての骨格的要素であり、共通しているとした各部の具体的な態様と相まって、意匠的なまとまりと特徴を形成し、かつ形態全体の大部分を占めるものであり、看者の注意を最も強く引くところであるから、共通しているとしたこれらの態様は、両意匠の類否判断を左右する要部と認められる。
これに対して、差異点のうち<1>については、際剃り部の有無ということのみでは大きな差異ということができるものの、本願意匠のものは、際剃り刃基台部の突出した厚みがごくわずかなもので、その部位のみを観察した場合に目立つ程度のものであり、また、際剃り刃部の態様もこの種の意匠の分野においては一般的なもので格別な態様のものではなく、看者の注意を特に引く程の特徴とは認められないものであるから、引用意匠が際剃り部を有しないものであっても、その差異は、看者に別異の意匠を構成したという印象を与える程のものとはなり得ない微弱なものというほかなく、両意匠の類否判断の要素としてはそれほど高く評価することができない。次に、差異点の<2>については、本願意匠のものは、縁取りを有する斜状面に形成したものであるが、縁取りはごく細い筋状のものであって、それほど目立つものではなく、結局は、幅広の面取り状とした部位が斜状であるかわずかに曲面状であるかの微細な差異であり、両意匠の全体的な観察の際に看者の注意を引く程のものとはなり得ない微弱なものであって、両意匠の類否判断の要素としてはほとんど評価することができない。そして、差異点の<3>については、頭部両側面の稜部の内側の狭い部分における差異であって、しかも、本願意匠の凹凸部は細かい横縞状で格別な態様のものではなく、看者の注意を引く程の特徴とは認められないものであるから、その差異が両意匠の全体的な観察の際に与える影響も微弱であって、両意匠の類否判断の要素としてはほとんど評価することができない。結局、各差異点は、いずれも類否判断を左右する要部とは認められない。
以上のとおりであるから、類否判断を左右する要部において共通している両意匠は、前記のような差異があっても、全体として類似するものというほかない。
(4) したがって、本願意匠は、引用意匠に類似するものであり、意匠法9条1項に規定する最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないものであるから、意匠登録を受けることができない。
3 審決の取消事由
審決の理由の要点(1)は認める。同(2)のうち、引用意匠は外刃部の下辺を平滑面とし、際剃り部を設けていないとの点は否認し、その余は認める。同(3)のうち、差異点<1>、<3>についての判断、並びに両意匠は、要部において共通し、全体として類似している旨の判断は争うが、その余は認める。同(4)は争う。
審決は、本願意匠には審決認定の要部の他に要部があり、それらの要部において引用意匠との間に大きな差異があるのに、これを看過し、本願意匠は引用意匠に類似する旨誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1)<1> 本願意匠の正面形状は、際剃り刃基台部と本体部、すなわちスイッチ部上方のわずかな凹状の余地(以下「スイッチ部上方の余地」という。)、スイッチ部及び下部パネル(本体部正面)からなるが、この際剃り刃基台部と本体部は、スイッチ部上方の余地を除いて、本体部両側面部及びヘッドフレーム両側面部から、さらには稜部の面取りから段差をなして突出していて、一体として本体部両側面部及びヘッドフレーム両側面部上に装着された1つの凸状プレートのごとき印象を与える。また、稜部の面取りと下部パネルの両者が底面部へ移行する部分は、斜状面を形成していてアーチ形をなしていない。さらに、本願意匠は全体としてゴツゴツした男性的な印象を与える。
以上の点は、最も強く看者の注意を引く部分であって、全体として顕著な特異性を具有し、本願意匠の要部をなすものである。
<2> これに対し、引用意匠は、正面形状において本願意匠と次のように相違している。すなわち、
引用意匠では、外刃部の下辺にあるヘッドフレーム正面パネル、可動際剃り刃(帯状体)、スイッチ部上方の余地、スイッチ部、スイッチ部の上辺・下辺の帯状の縁取り及び下部パネルを、ヘッドフレーム正面パネル、可動際剃り刃及び本体部の厚さ(奥行き)と同じ厚さ(横幅)を有するヘッドフレームの両側面部及び本体部の両側面部で挟み込むかたちで、上記両側面部の厚さ(横幅)と本体部及び頭部の厚さとを同一となるようにしている。したがって、引用意匠では、頭部及び本体部の正面側及び背面側と頭部及び本体部の左右側面部との当接面は面一をなしていて(スイッチ部上方の余地を除く。)、本願意匠に見られる段差が全くない。
また、引用意匠において、頭部の正面形状はH型であり、本体部は変則H型である。可動際剃り刃はヘッドフレーム正面パネルの下部に位置していて、本願意匠の際剃り刃が外刃部の下辺に位置しているのと顕蓍に異なっている。本体部の変則H型も本願意匠と異なり、特にスイッチ部の上辺及び下辺を並行に走る細長い帯状の縁取りは本願意匠には見られないもので、この点も引用意匠の特異性をなすものである。
さらに、引用意匠の本体部は正面部と背面部及び円弧状の底面部とからなるU字状である。
引用意匠の外観は、全体として穏やかであり、女性的である。
なお、審決は、引用意匠は際剃り部を設けていないと認定しているが、甲第8号証の1(引用意匠は意願昭51-46505号の意匠に類似しているとの拒絶理由通知を受けたことに対してした、引用意匠の出願人の昭和56年12月16日付け意見書)及び同号証の2(同意見書に添付された「外刃ホルダー部及び本体ケース部対比図」)によれば、引用意匠には可動式の際剃り刃が設けられているのであるから、審決の上記認定は誤りである。そして、この引用意匠の際剃り刃はヘッドフレーム正面パネルの横幅と同じ長さで、外刃ホルダーの下部に設けられていて、本願意匠の「スイッチ部上方の余地」とほぼ対比される位置にあるのに対し、本願意匠では際剃り刃基台部の上縁に外刃部の横幅と同じ長さの細幅状の際剃り刃部を正面方向にごくわずかに突出させて設けているのと顕著な差異を示し、また機能的にみても引用意匠の際剃り刃が使用時に水平の位置まで可動するのに対し、本願意匠のかみそりは使用時にも水平の位置まで可動することがない点でも両者間に大差がある。
<3> このように、両意匠間には上記の諸点において顕著な差異があり、したがって、本願意匠は引用意匠に比べて顕著な特異性を有するものというべきであるから、審決認定の要部以外の差異は微弱な差異にすぎないとした審決の判断は誤りである。
(2) 本願意匠のスイッチ部は新規・独創的なものであり、看者の注意を強く引くところである。
本願意匠のスイッチ部には、そのほぼ全面に粗い横縞状の凹凸部が形成され、かつ、その長さ方向の略3分の1のところに上下に鮮明な分割線が走っており、スイッチ部が左側と右側に明確に区別されている。スイッチ部の向かって左側3分の1の部分は際剃り部用スイッチであり、向かって右側3分の2の部分は外刃部用スイッチとなっている。スイッチ部上方の余地には、「-」と「0」の符号が暗調子の本体上に鮮明に印字され、各スイッチ部の下部に「〓」と「〓」の標識が表示されている。
ところで、「-」は、標識〓に従ってスイッチ部の左側3分の1の部分を上方に押し上げると際剃り刃が作動を開始することを示す符号であり、「0」は、〓の標識に従ってスイッチ部の右側3分の2の部分を上方に押し上げると外刃が作動を開始することを示す符号である。したがって、「〓」と「〓」は、これらを上方に押し上げると際剃り刃及び外刃がそれぞれ作動することを指示するものである点で、視覚を通じて特定の観念を引き起こすものということができるから、標識に該当する。これに対し、「-」と「0」は、はじめて本願意匠に係る電気かみそりを見る者にとって、何を意味するものであるかを知ることができないものであって、これらは視覚を通じて特定の観念を引き起こすものでない点で符号であり、その意味で「-」及び「0」は本願意匠の構成要素をなすものである。そして、「-」と「0」とは、本願意匠の構成要素たるのみならず、看者の注意を強く引く点で、スイッチ部の形状と相まって本願意匠の要部をなすものである。
以上のとおりであって、スイッチ部を二分し、各部分に上記のような符号と標識を配置した本願意匠のスイッチ部は看者の注意を強く引き、一見して顕著な特異性を感得せしめるところであるから、本願意匠の要部をなすものである。
そして、上記の点は、引用意匠のスイッチ部と比べて顕著に相違しており、全体として引用意匠に対して顕著な特異性を有するものである。しかるに審決は、これらの点を看過したものである。
(3) 本願意匠の底面部には段差、合わせ目線、スリットを有する円形ボタン及びプラグコネクター孔がみられるとともに、底面は平らである。
これに対し、引用意匠には、本願意匠の底面部にみられる段差、合わせ目線、スリットを有する円形ボタン及びプラグコネクター孔が存在しない。また、底面はアーチ状である。
したがって、両意匠における上記差異は、全体として本願意匠の顕著な特異性を際立たせるものであり、本願意匠の上記各特徴は本願意匠の重要な要素をなすものである。
(4) 本願意匠の頭部両側面部には、ヘッドフレームの両側面部のほぼ中央及び下方寄りの部位に間隔を置いて横縞状の凹凸部が形成されていて、この凹凸部の両端は合わせ目線に突き当って終わっており、他方、際剃り刃直下には際剃り刃基台部が稜部のなす面から突出して見えているのであって、これら各部に頭部正面側の外刃部下辺から突出する際剃り刃部を併せて全体として観察するとき、看者に対し強い印象を与える点で、本願意匠の頭部もまた意匠の要部たるを失わない。
これに対し、引用意匠の頭部には本願意匠の段差に相当するものは全く見られない。際剃り刃は、本願意匠のそれが頭部正面側の外刃部の下辺に固定されているのに対し、頭部正面側の下部に幅広の帯状をなして頭部のH型フレームの一部を構成する可動式際剃り刃である点で、本願意匠と隔絶した外観を呈する。全体としては、やはり女性的外観を呈し、頭部両側面には本願意匠の凹凸部がなく、上部に小丸の模様が見られるのみである。
以上のとおりであるから、本願意匠の底部及び頭部は引用意匠の底部及び頭部に比べて顕著な差異があるものであるから、上記(1)及び(2)の本願意匠の要部と相まって、全体として引用意匠に対して顕著な特異性を有するものである。しかるに審決は、本願意匠の頭部の意匠について事実を誤認したため、両者の差異は微細な差異にすぎないとの誤った判断に達し、また底部については事実認定を怠ったものである。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1、2は認める。同3は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 原告が要部であると主張する点はいずれも、以下述べるとおり、形態を構成する個々の要素や形態における部分に着目してその態様を論じているにすぎないもの、あるいは意匠の構成要素と認められないものであり、形態全体としてみた場合は、審決において共通するとした態様の中でみられる微弱な差異、あるいは限られた部位における微弱な差異とみるのが妥当なもので、両意匠の類否判断を左右する要素としては評価することができないものである。したがって、審決の認定判断に誤りはない。
(1)<1> 原告は、本願意匠における際剃り刃基台部、スイッチ部及び下部パネルは、段差をなして稜部の面取りから突出していると主張するが、原告のいう「段差」は、形態全体としてみた場合、稜部の面取り状とした部位に形成したごく細い溝状(極小段状)の縁取りととらえるのが妥当な態様のものである。すなわち、本願意匠は、「両側面の正面側から頭部を経て背面側に至る稜部に幅広の面取り状を形成した」ものであり、その面取り状とした部位の正面側及び背面側の周縁をごく細い溝状の縁取りに形成したものである。そして、この種の電気かみそりにあっては、本体の稜部にごく細い溝状(極小段状)の縁取りを形成することは一般的になされていることであり、この溝状の縁取りの有無に関する差異は、稜部のあやとしてその態様が格別のものでもない限り、視認性に乏しく、類否判断にそれほどの影響を与えるものではない。そして、頭部正面側についてみると、その態様は、外刃部の下辺全体を外方にわずかに突出させて際剃り刃基台部を形成したもので、その厚みもごくわずかなものであり、看者の視覚に訴えるほどの対象といえず、形態上の特徴を現す要素としては微弱なものとみるのが妥当であり、この種の電気かみそりにあっては、本願意匠と同様にその頭部の外刃部下辺付近をわずかに突出させて際剃り刃基台部を形成することが、かなり以前からなされていることであることからすると、本願意匠もそのためのわずかな変形で、この点に関しては本願意匠特有の態様とすることはできない。
原告は、引用意匠では頭部及び本体部の正面側及び背面側と頭部及び本体部の左右側面部との当接面は面一をなしていて本願意匠に見られる段差が全くない旨主張する。
しかし、引用意匠の基本的な構成態様は審決において摘示したとおりであって、その具体的態様において、両側面の正面側から頭部を経て背面側に至る稜部に幅広の面取り状を形成したものであり、これらの態様は、本願意匠と共通している点でもある。そして、原告のいう「当接面」は、幅広の面取り状とした部位の正面側及び背面側の周縁に当たるものであり、本願意匠は、この周縁をごく細い溝状の縁取りに形成したものであって、原告のいう「段差」はこの溝状の縁取りに当たる。したがって、この差異は、幅広の面取りについて、本願意匠がごく細い溝状の縁取りを有する斜状面に形成しているのに対し、引用意匠は丸味をもった面取り状に形成している点の差異に帰するものである。そして、これら稜部の周縁における溝状の縁取りについての差異は、その態様が形態全体に影響を与えるほどの格別のものでもない限り、類否判断を左右する要素とはならない。
<2> 原告は、本願意匠において稜部の面取りと下部パネルの両者が底面部へ移行する部分が、斜状面を形成していてアーチ状をなしていない点は、本願意匠の要部であり、本体部が正面部と背面部及び円弧状の底面部とからなる引用意匠と著しく異なる旨主張する。
しかし、本願意匠の底面の正面側及び背面側の稜部は、両側面の稜部と連続する態様でごく細い溝状の縁取りを有する斜状面に形成したものであるが、この部位は、電気かみそりの使用目的からみれば二次的な部分であり、しかも縦長で扁平な略直方体状の態様からみれば、形態を構成する底面における部分の正面及び背面側の稜部というごく限られた一部位でもあり、まして、電気かみそりの形態全体としてみれば、その性質上意味のある大きな視覚的要素として取り扱われる部分とはいえない。また、本願意匠のように底面の正面側及び背面側の稜部を両側面の稜部と連続する態様で斜状面に形成することは、本願意匠の意匠登録出願前から一つの形式として普通に見受けられるため、格別のものということはできず、まして、本願意匠独自の態様とすることはできないものである。そして、引用意匠の底面の正面側及び背面側の稜部も底部と連続する態様で丸味をもった面取り状に形成したものであり、両意匠は、同じ部位を面取り状とした点では共通しており、結局は、底面が角張ったものであるか丸味をもったものであるかの差異に尽きるのであるのであるが、底面部は、電気かみそりの形態全体からみれば下方部位であり、看者の注意を引く度合いは、他の部位に比べれば相対的に低い箇所であり、意匠の要部になり得ないところである。両意匠の底面部における態様の差異の程度では、類否判断に何ら影響を及ぼすものではない。
<3> 原告は、スイッチ部の上辺及び下辺を並行に走る細長い帯状の縁取りは本願意匠には見られないもので、引用意匠の特異性をなすものである旨主張する。
原告が縁取りであると指摘した部位は、願書に添付の図面で見る限りでは、スイッチ部の上辺及び下辺の細幅の余地ととらえられるものであるが、本願意匠のスイッチ部の下辺にもこれに相当する細幅の余地があり、この点では両意匠は共通しているものであり、さらに、両意匠は、略方形状のスイッチ部の表面のその余のほぼ全面の左右いっぱいに同程度の細かい横縞状の滑り止めの凹凸部を形成している点において共通しているものである。結局、スイッチ部における余地についての差異は、共通するとした態様の中で捨象される程度のものである。
<4> なお、原告は、甲第8号証の1・2を根拠として、引用意匠は可動式の際剃り部を設けているものである旨主張する。しかし、出願に係る意匠の形態は、当該願書及び願書に添付された図面の記載又は添付された図面代用写真に現された意匠により認識、把握されなければならないところ(意匠法6条、24条)、引用意匠について提出された願書に添付の図面には、際剃り部として認識し、把握することができる程度に際剃り刃などが現されておらず、また、願書にも際剃り刃として可動する旨の記載もないのであるから、引用意匠は際剃り部を設けていないとした審決の認定に誤りはない。そして、際剃り部の有無や変形についての差異は、一般的に、形態全体に影響を与えるほどのものとはなり得ない微弱なものと判断されるのが普通であって、類否判断を左右する要素としてそれほど評価することはできないものである。したがって、差異点<1>についての審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は、本願意匠のスイッチ部には、そのほぼ全面に粗い横縞状の凹凸部が形成され、その長さ方向の略3分の1のところに上下に鮮明な分割線が走っており、スイッチ部が左側と右側に明確に区別されている旨主張する。
しかし、この分割線は、具体的な構成態様において際剃り部を付加したことにより必然的に生じるスイッチ部の分割線で何ら意匠的価値はない。分割線は願書に添付の図面代用写真で見られるとおり、一体状のスイッチ部に極めて細い幅の直線状に現れているものであって、全く目に付きにくいものであり、これを標識により機能面を説明すべく補っている。むしろ、意匠的にはスイッチ部の一体性を現している点で、引用意匠のそれと本質的には変わりのない処理である。意匠的な観点からは特に取り上げて評価するほどのものではなく、類否判断に何ら影響を及ぼすものではない。また、標識が意匠的価値を有しないことはいうまでもない。
次に、本願意匠に現された「-」、「0」を観察すると、ごく普通の符号や文字と認められるものを極めて小さく現したものであり、かつ模様としての工夫や装飾は何ら見出し得ないものであるため、意匠の定義にいう模様とは解されないものである。したがって、本願意匠に現された「-」、「0」は意匠の構成要素をなすものでなく、これらを意匠の構成要素をなすものであるとする原告の主張は失当である。
原告は、「-」と「0」とは、本願意匠の構成要素たるのみならず、看者の注意を引く点で本願意匠のスイッチ部の形状と相まって本願意匠の要部をなすものである旨主張する。
しかし、符号「-」、「0」は、意匠の定義にいう模様とは解せられないもので意匠の構成要素をなすものではなく、また、スイッチ部の分割線の態様も形態全体としてみた場合は、スイッチ部の一体性を損なうものではなく、したがって、類否判断の要素として評価する対象となり得ない符号が、この分割線を有するスイッチ部と相まったとしても、意匠的な観点からは価値がなく、看者の注意を引くところとはなり得ないものである。
(3) 本願意匠の底面部の態様については、審決は特に触れていないが、審決における認定は、類否判断への影響の度合いを勘案して必要な程度においてすればよく、原告が底面部について主張する点は、以下のとおり、意匠の要部をなすものではなく、類否判断に何ら影響を及ぼすものではない。すなわち、原告が段差であると指摘する箇所は、電気かみそりの形態全体としてみた場合は、底面の正面側及び背面側の稜部の面取り状とした部位に形成されたごく細い溝状(極小段状)の縁取りととらえるのが妥当な態様のものであり、また、合わせ目線も極めて細い筋状のものであって、何ら特徴とするところがない。プラグコネクターの取付態様や底部を平滑状とした点も、意匠的には重要視されない部分におけるもので、この種の電気かみそりにあっては一般的に採用される手法のものであり、類否判断の要素として評価するに足りないものである。
本願意匠と引用意匠を形態全体として比較すると、底面部において角張った態様に形成しているか丸味をもった態様に形成しているかの差異がある程度であるが、この部位における差異は、電気かみそりの形態全体としてみると、限られた部位における軽微な差異であり、さらに本願意匠の態様も格別のものではないことから、類否判断の要素として取り上げて評価するほどのものではない。審決は、決して底面部における差異を看過したものではない。
(4) 本願意匠は、頭部両側面のほぼ中央及び下方寄りの部位に間隔を置いて細かい横縞状の凹凸部を形成したものであるが、この種の電気かみそりにあっては、この部位に機能上(滑り止め)の凹凸部を形成することが一般的であり、かつ本願意匠のものは、格別の態様のものではないため、何ら新規性がなく特徴とはならないものである。そして、この部位における態様の差異があっても、一般的に類否判断を左右する要素とならない。本願意匠と引用意匠の頭部両側面の態様についての差異は、頭部両側面の稜部の内側の狭い部分におけるものであり、しかも、本願意匠のものは格別の態様のものではなく特徴とはならないものである。
次に、本願意匠は、頭部正面側の外刃部の下辺をわずかに突出させて際剃り刃基台部を形成し、その上縁に外刃部の横幅と同じ長さの細帯状の際剃り刃部を正面方向にごくわずかに突出させて際剃り部を設けたものであるので、際剃り刃基台部の両側辺を見ると、原告のいうように面取りの縁に対して段差がある。これに対して、引用意匠は、外刃部の下辺を平滑面とし、際剃り部を設けていないものである。両意匠を比較すると、この段差や際剃り刃部の有無に関する差異は、結局、電気かみそりの頭部の正面側に際剃り部を設けているか否かの差異に帰するものである。この点については、際剃り部の態様が格別のものでもない限り、際剃り部の有無や変形についての差異は、一般的に、形態全体に影響を与えるほどのものとはなり得ない微弱なものと判断されるのが普通であって、類否判断を左右する要素としてそれほど評価されないことは前記のとおりであり、したがって、審決の認定判断に誤りはない。
以上のとおりで、原告主張の点は、いずれも意匠の要部をなすものではない。さらに、両意匠の比較において原告が主張する差異も、形態全体としてみた場合は、いずれも両意匠の類否判断を左右する要素としては評価することができないものである。
第4 証拠
証拠関係は書証目録記載のとおりである(甲第10号証の1及び第11号証の1の存在及び成立、その余の甲各号証及び乙各号証の成立はいずれも当事者間に争いがない。)。
理由
1 請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、審決取消事由の当否について検討する。
(1) 本願意匠と引用意匠はいずれも意匠に係る物品を「電気かみそり」とするものであること、本願意匠の形態は別紙第1に、引用意匠の形態は別紙第2にそれぞれ示すとおりであること、両意匠は、審決摘示の基本的構成態様及び具体的構成態様において共通していること、両意匠の差異点が審決摘示のとおりであること(但し、引用意匠は際剃り部を設けていないとする点を除く。)、両意匠において共通しているとした基本的構成態様は、両意匠の形態についての骨格的要素であり、共通しているとした各部の具体的な態様と相まって意匠的なまとまりと特徴を形成し、かつ形態全体の大部分を占めるものであり、看者の注意を最も強く引くところであるから、共通しているとしたこれらの態様は、両意匠の類否判断を左右する要部であること(但し、原告は、これらの態様以外にも意匠の要部が存在する旨主張している。)、審決摘示の差異点<2>は、両意匠の類否判断の要素としてはほとんど評価することのできないものであることは、いずれも当事者間に争いがない。
(2) 前記争いのない(1)の事実、本願意匠の形態を示すものであることについて争いのない別紙第1の図面及び甲第2号証(本願意匠の意匠登録願書)によれば、本願意匠は、具体的構成態様において、頭部正面側の外刃部の下辺を突出させて際剃り刃基台部を形成し、その上縁に外刃部の横幅と同じ長さの細帯状の際剃り刃部を正面方向に突出させて際剃り部を設けているが、際剃り刃基台部の下方に、スイッチ部上方の余地を隔てて形成されている略方形状のスイッチ部及びその下方に形成されている略方形状の下部パネル(本体部正面)も、稜部の面取りの正面側周縁と段差をなして正面方向に突出していること、上記段差自体はそれ程高いものではないが、それが正面部と側面部間に斜面状に形成された稜部の面取り状の部位の正面側に細長く設けられているため、実際の段差以上に、正面側の面積の大部分を占める際剃り刃基台部、スイッチ部及び下部パネルが、全体として厚みをもって、縦長で扁平な略直方体状のかみそり器本体に装着されたような印象を看者に与えること、本願意匠のスイッチ部には、際剃り部用のスイッチと外刃部用のスイッチを区分するためのものとして、長さ方向の向かって左側から略3分の1のところに上下方向に溝(原告主張の分割線)が現されており、暗調子のスイッチ部上方の余地には、際剃り部用のスイッチ、外刃部用のスイッチにそれぞれ対応して「-」、「0」の各符号が白色で印字され、スイッチ部の下部には、上記「-」、「0」に対応して「〓」、「〓」の各標識が表示されていること、本願意匠の稜部の面取りが底面部に移行する部分は斜状面をなしているが、底面部は平滑状となっていることが認められる。
これに対し、前記争いのない(1)の事実、引用意匠の形態を示すものであることについて争いのない別紙第2の図面及び甲第6号証(引用意匠の意匠登録願書)によれば、引用意匠は、外刃部の下辺を平滑面とし、際剃り部を設けておらず、したがって際剃り刃基台部もなく、また、スイッチ部及びその下方に形成されている下部パネル(本体部正面)は、正面方向に突出しておらず、かみそり器本体の正面側は扁平に形成されていること、スイッチ部には、本願意匠におけるような溝や符号・標識は存在しないこと、引用意匠の底面部は頭頂部の外刃部と同様に略半円弧状に形成されていて、平滑な部分はないことが認められる。
なお、原告は、甲第8号証の1・2を根拠として、引用意匠は可動式際剃り部を設けているものであるから、際剃り部を設けていないとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし、意匠法6条、24条によれば、出願に係る意匠の形態は、当該願書及び願書に添付された図面又は図面代用写真に現された意匠により認識し、把握することが必要であると解すべきところ、引用意匠について提出された意匠登録願書(甲第6号証)に添付された図面には、際剃り部が存在するものと認識し、把握することができる程度に際剃り刃が現されておらず、また、願書に可動式際剃り刃が設けられている旨の記載もないから、引用意匠は際剃り部を設けていないとした審決の認定に誤りはなく、原告の上記主張は採用できない。
(3) ところで、両意匠に係る物品である電気かみそりの外形形状は、一般的に、意匠としてのまとまりと特徴を形成するものとして、看者の注意を強く引くところであることは明らかである。そして、電気かみそりの需要者は、機能的な面をも考慮して購入の選択等をするものと考えられるから、機能と不可分の関係にある形状等も、それが新規もしくは特徴的なものであるならば、意匠の要部となるものと認めるのが相当である。
前記のとおり、本願意匠においては、看者の目につきやすい正面側の面積の大部分を占める際剃り刃基台部、スイッチ部及び下部パネルが稜部の面取りの正面側周縁と段差をなして正面方向に突出していて、これらの部材が、実際の段差以上に、全体として厚みをもって、縦長で扁平な略直方体状のかみそり器本体に装着されたような強い印象を看者に与え、かかる構成と底面部が平滑状であることとが相まって、外形形状において、重厚さと安定感を醸出しているものと認められる。これに対し、引用意匠の正面側は扁平に形成されている上、頭頂部の外刃部と底面部が上下対称的に略半円弧状に形成されているために、外形形状において、均整のとれた軽快な印象を与える点が特徴的であると認められる。
しかして、看者の注意を強く引く部分である外形形状における上記差異は、全体的な観察においても微弱なものとはいい難く、両意匠の類否判断に当たって十分評価するべき要素であると認めるのが相当である。
次に、本願意匠において、際剃り部用のスイッチと外刃部用のスイッチを区分するためのものとして現された前記溝は、電気かみそりの機能と不可分の関係にある構成というべきところ、この溝は正面側のスイッチ部に現されており、その上下には「-」、「0」の各符号と「〓」、「〓」の各標識が表示されているため、必然的に看者の目を捉え、その結果上記溝に注目させることは否定し得ないところである。加えて本件全証拠によるも、際剃り部用のスイッチと外刃部用のスイッチを区分するためのものとしてスイッチ部に溝を設けた態様の電気かみそりは本願意匠登録出願前には存在しなかったことが認められることからしても新規のものであるといってよく、「-」、「0」の各符号と「〓」、「〓」の各標識自体は意匠の構成要素とはいえないとしても、上記溝は看者の注意を強く引く特徴部分であると認めるのが相当であり、スイッチ部にこのような溝を設けていない引用意匠との差異は、全体的な観察においても微弱なものとはいい難く、両意匠の類否判断に当たって十分評価するべき要素であると認めるのが相当である。
(4)<1> 被告は、上記段差は形態全体としてみた場合、稜部の面取り状とした部位に形成したごく細い溝状(極小段状)の縁取りととらえるのが妥当な態様のものであり、この種の電気かみそりにあっては、本体の稜部にごく細い溝状(極小段状)の縁取りを形成することは一般的になされていることであるから、類否判断にそれほど影響を与えるものではない旨主張する。
しかし、上記段差は、実際の高さ以上に、正面側の面積の大部分を占める際剃り刃基台部、スイッチ部及び下部パネルが全体として、厚みをもって、かみそり器本体に装着されたような強い印象を看者に与えるものであることは既に述べたとおりであり、その点は本願発明の外形形状における特徴的なものとして認識することができるのであるから、上記段差が類否判断に影響を与えないものとは認め難い。また、被告が、電気かみそり本体の稜部にごく細い溝状(極小段状)の縁取りを形成することは一般的であるとして援用する乙第13号証(登録第356109号意匠公報)、第14号証(登録第356109号の類似1意匠公報)には、本体の稜部の面取りにごく小さな段状の縁取りを形成した電気かみそりが記載されていることが認められるが、この形状が公知であるからといって、前記段差が本件両意匠の類否判断に影響を与えるものではないとすることは相当ではなく、しかも、上記各号証に記載のものは、上記縁取りによって構成部材が正面方向に特に段差をなして突出しているものとしては現されていないから、その点で本願意匠とは相違している。同じく乙第10号証の1・2(登録第376999号意匠公報と図面代用写真)に記載されている電気かみそりは、本体の側面部に縁取りを形成したものであって、稜部の面取りに縁取りを設けた本願意匠のものとは相違しているから、同各号証は、前記段差が本件両意匠の類否判断に影響を与えるものでないことを裏付けるものとは認め難い。
したがって、被告の上記主張は採用できない。
<2> 被告は、本願意匠の際剃り刃基台部は厚みもごくわずかなものであり、看者の視覚に訴えるほどの対象といえず、形態上の特徴を現す要素としては微弱なものであり、この種の電気かみそりにあっては、本願意匠と同様にその頭部の外刃部下辺付近をわずかに突出させて際剃り刃基台部を形成することがかなり以前からなされていたことからすると、この点は本願意匠に特有の態様とすることはできない旨主張する。
本願意匠の際剃り刃基台部の厚さそれ自体は確かにわずかなものであり(この点は当事者間に争いがない。)、乙第1号証(登録第167999号意匠公報)、第2号証の1・2(登録第308928号公報と図面代用写真)、第27号証(登録第567877号意匠公報)、第28号証(登録第440260号意匠公報)によれば、頭部の外刃部下辺付近をわずかに突出させて際剃り刃基台部を形成することが、本願出願前から公知であることが認められる。しかし、前記のとおり、本願意匠においては、際剃り刃基台部のほか、スイッチ部、下部パネルが稜部の面取りの正面側周縁と段差をなして正面方向に突出していて、正面側の面積の大部分を占めるこれらの部材が全体として厚みをもって、縦長で扁平な略直方体状のかみそり器本体に装着されたような強い印象を看者に与え、その形態に意匠的特徴があるのであるから、正面方向に突出している部位のうち際剃り刃基台部の形状のみを取り出して対比の対象とする被告の上記主張は当を得たものとは認め難い。
<3> 被告は、底面部において角張った態様に形成しているか、丸味をもった態様に形成しているかの差異は、電気かみそりの形態全体としてみると、看者の注意を引く度合いの低い箇所における軽微な差異であり、本願意匠の態様も格別のものではないから、類否判断の要素として取り上げて評価するほどのものではない旨主張する。
確かに、電気かみそりの底面部自体は、看者の注意を引く度合いが他の部位に比べて相対的に低い箇所であると考えられるが、意匠としてのまとまりと特徴を形成する外形形状の一端を担う部位である以上、全体的な観察による類否判断においては、その要素として取り上げる必要があるものというべきである。しかして、本願意匠においては頭頂部の外刃部が略半円弧状で、底面部が平滑状であるのに対し、引用意匠においては頭頂部の外刃部、底面部とも半円弧状として上下対称的な形状としているものであるから、電気かみそりの底面部を平滑状とすること自体は一般的に採用されるものであるとしても、上記外形形状の差異は、両意匠の全体的な観察においても軽微なものということはできない。
したがって、被告の上記主張は理由がない。
<4> 被告は、本願意匠におけるスイッチ部の溝は際剃り部を付加したことにより必然的に生じるものである上、極めて細い幅の直線状に現れているものであって、全く目につきにくく、何ら意匠的価値はない旨主張する。
前掲甲第2号証によれば、上記溝は、看者の目につきやすい正面中央上方寄りにあるスイッチ部に鮮明に現されていることが認められ、しかも、スイッチ部の上下には暗調子の本体上に白色で前記符号、標識が表示されているから、これらに対する認識を通じて、スイッチ部に注意が引かれるものと推認され、全く目につきにくいということはないものと考えられる。
ところで、意匠は、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に係るものであるが、当該意匠に係る物品に機能的工夫が加われば、それに応じて形状等も変化し、機能的な部分に関心を持てば、自然その機能と不可分の関係にある形状等にも着目することになるのであって、その場合、機能的工夫により生じた形状等に意匠的価値が生じることがあることは否定し得ないところであり、このような形状等をもって、必然的に生じるものにすぎないとして意匠の類否判断の要素としないことは相当ではないというべきである。しかして、本件全証拠によるも、本願意匠に係る電気かみそりのように正面側のスイッチ部を外刃用スイッチと際剃り刃用スイッチに二分した形態のものが、本願意匠登録出願前に存在したことは認められず、したがって、この形態は新規のものと推認されるところ、この機能的工夫に伴って現されるに至った上記溝も意匠的価値を有するものとして、意匠の類否判断の要素となるものと認めるのが相当である。
したがって、被告の上記主張は採用できない。
(5) 以上のとおりであるから、前記(3)で述べた本願意匠と引用意匠の外形形状における差異、及び本願意匠には、引用意匠のスイッチ部にはない、スイッチ部に外刃用スイッチと際剃り刃用スイッチを区分するための溝が現されているという差異は、両意匠の類否判断を左右する要部における差異というべきである。そして、両意匠を全体的に観察すると、これらの差異は、審決が両意匠の要部において共通しているとした基本的構成態様及び具体的構成態様によってもたらされる美感を凌駕し、別異の美感をもたらすものと認めるのが相当であって、本願意匠は引用意匠に類似していないものというべきである。既に検討した被告提出の乙号証以外の乙号証も上記判断を左右するものではない。
したがって、本願意匠は引用意匠に類似するものであるとした審決の判断は誤りであり、審決は違法として取消しを免れない。
3 よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 田中信義)
別紙図面1
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別紙図面2
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