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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)212号 判決 1994年2月15日

アメリカ合衆国、カリフォルニア州、アーバイン、

スーツ200、メイン・ストリート2355

原告

ディスコビジョン アソシエイツ

同代表者

デニス・フィシェル

同訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

布施田勝正

河野哲

中村俊郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

犬飼宏

橘昭成

奥村寿一

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90Bと定める。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  特許庁が平成3年審判第4882号事件について平成4年5月14日にした、平成2年9月20日付けの手続補正を却下するとの決定を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、出願公告決定されないまま拒絶理由通知を受けたため手続補正をしたところ、その手続補正を却下するとの決定を受けた原告が、その決定は、当初明細書及び当初図面記載の技術内容を誤認した結果誤った結論を導いたものであって違法であるから、取り消されるべきであるとして、手続補正却下決定の取消を請求した事案である。

一  判決の基礎となる事実

(特に証拠(本判決中に引用する書証は、いずれも成立に争いがない。)を掲げた事実のほかは当事者間に争いがない。)

1  特許庁における手続の経緯

(この項の認定は争いがない事実と甲第2号証による。)

原告は、昭和56年7月15日、名称を「ビデオ・ディスク」とする発明(以下「本願発明」という。)について、1973年(昭和48年)10月15日アメリカ合衆国に対してした特許出願による優先権を主張して、昭和49年特許願第117248号を原特許出願として特許法44条1項に基づき特許出願(昭和56年特許願第109531号)したところ、平成2年3月20日拒絶理由通知を受け、同年9月20日手続補正書を提出して手続補正(以下「本件補正」という。)したものの、同年12月18日拒絶査定を受けたので、平成3年3月18日査定不服の審判を請求し、平成3年審判第4832号事件として審理されたが、平成4年5月14日「平成2年9月20日付けの手続補正を却下する。」との決定(以下「本件決定」という。)があり、その謄本は平成4年7月6日原告代理人に送達された。

2  本願発明に係る願書に最初に添附した明細書(以下「当初明細書」という。)記載の本願発明の特許請求の範囲

衝突する光ビームに依って検知されるのに適切な形状の情報であって、トラック状に配列されているものを担持するディスク状レコードに於いて、情報保持層が実質的に平坦な第1表面と離隔する第2表面とを有しており、前記情報保持層の前記第1表面は、該第1表面の平面からずれて位置づけられた不連続部の1本の線として前記情報を保持しており、各不連続部は半径方向に一定寸法と前記表面に対し垂直方向に一定寸法とを持ち、円周方向における各不連続部の長さ、あるいは、円周方向における隣接する不連続部の距離は記録された情報を表わし、金属層が、前記表面不連続部とそれに隣接する前記平面の平坦領域間の光学的コントラストを高めるために、前記情報保持層に完全にかぶさっていることを特徴とするビデオ・ディスク

3  本件補正の要旨

本件補正は、願書添付の明細書中、発明の名称を「ビデオ・ディスク」から「光ディスク」に改め、特許請求の範囲を次のように補正するものである。

「光ビームによって光学的に読み取り可能な情報を担持する情報担持面を有する光ディスクにおいて、前記情報担持面には、ほぼ円形あるいはらせん形の清報トラックが配置されており、該情報トラックには、平坦な表面平坦部と、光ディスクの半径方向に一定幅を有し隆起状あるいはくぼみ状の表面変形部と、が交互に形成されており、前記表面変形部は、前記表面平坦部に対し垂直方向に一定間隔をもって配置されたほぼ平坦な頂面あるいは底面と、前記表面平坦部に連続し且つ前記頂面あるいは底面に連続している傾斜した壁面とから構成され、前記表面平坦部と頂面あるいは底面との垂直方向の間隔は、表面変形部が光の干渉のほぼ最大効果を生ずるように設定されており、前記情報担持面は、金属層により被覆されていることを特徴とする光ディスク」

4  本件決定の理由の要点

本件補正の要旨は前項記載のとおりである。

上記特許請求の範囲には、ビデオ・ディスクの不連続部を構成する表面変形部を「表面平坦部に対し垂直方向に一定間隔をもって配置されたほぼ平坦な頂面あるいは底面と、前記表面平坦部に連続し且つ前記頂面あるいは底面に連続している傾斜した壁面とから構成する」点が新たな構成要件として加えられている。

しかしながら、当初明細書又は願書に最初に添附した別紙図面(以下「当初図面」という。)には、ビデオ・ディスクの不連続部を構成する表面変形部を「表面平坦部に対し垂直方向に一定間隔をもって配置されたほぼ平坦な頂面あるいは底面と、前記表面平坦部に連続し且つ前記頂面あるいは底面に連続している傾斜した壁面とから構成する」点について記載されておらず、またこの点は当初明細書又は当初図面に記載された事項の範囲内のものとも認めることができない。

すなわち、当初明細書には、

「本願の出願人は、値の異なる電気信号を発生させるため、光の分散及び光の反射を利用する読取り技術が採用されるシステムを開発中であり、こうしたシステムにおいては、『バンプ』又は『くぼみ』は、プレーヤー装置から与えられた光を反射するというよりも、むしろ分散させる作用があり、隣接するバンプ又はくぼみの間の表面は、平面反射体として作用し、実質的に全ての光を、プレーヤーの光学的システムに戻す事が分った。

別の設計例では、位相コントラスト光学が採用してある。この場合には、各反射面の間隔を、nλ/4(ここでλは再生輻射の波長、『n』は奇数)とし、それにより、一方の表面から反射した光を役立つように干渉させ、かつ他方の表面からの光を役立たないように干渉させるのが望ましい事が明らかになっている。」(5頁6行ないし6頁2行)と記載されているが、これは、「バンプ」又は「くぼみ」の光を分散させる作用を利用したり、又は光の干渉による位相コントラストを利用するそれぞれ別個の信号読取り方法を開示しているにすぎず、光の分散及び干渉を同時に利用する信号読取り方法、又はこの信号読取り方法に使用される表面変形部の形状を開示するものとは認められない。

さらに、当初図面(別紙第1図ないし第3図、第5A図、第5B図、第6図ないし第9図参照)には、卵を半分にしたような形状の「バンプ」及び「くぼみ」が概念的に示されているにすぎず、本件補正によって補正された表面変形部の具体的な形状が図示されているとは認められない。

そして、本件補正と同時に提出した意見書によれば、光ディスクの表面変形部の形状を上記のとおり特定することによって、この表面変形部においては、傾斜した壁面での光の散乱(拡散)により反射光量の低下が促進されるという新たな作用効果を生じるようになったものと認められる。

してみれば、本件補正は、明細書の要旨に重要な意味をもつものであって、しかも当初明細書又は当初図面に記載された事項の範囲内のものとは認められないから、明細書の要旨を変更するものである。

したがって、本件補正は、特許法159条1項により準用される同法53条1項により却下すべきである。

5  当初明細書に記載された本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果

(この項の認定は甲第2号証による。)

(1) 本願発明は、マスターマトリックス(母型)に基づいて設計されたビデオ・ディスクを大量に生産するたに使用する製造用金型に関する(2頁2行ないし4行)。

本願発明は、サブマトリックス(副母型)を生産するのに使用でき、かつ当該サブマトリックスをもって順次サブ金型を生産することのできる主金型を提供すること(2頁5行ないし8行)を技術的課題(目的)とするものである。

(2) 本願発明は、前記技術的課題を解決するために前記2記載の構成(1頁4行ないし19行)を採用した。

(3) 本願発明は、前記構成により、サブマトリックスを生産するのに使用でき、かつ当該サブマトリックスをもって順次サブ金型を全く正確に作成するのに使用できるビデオ・ディスク製造用金型を提供でき、また、金型内で鋳込まれたレプリカは、該金型内で重合可能組成物である表面層と、レプリカ自体に構造上の完全性を与えるために該表面層に接合されているポリエステルの基板を含んでおり、更にディスクを摩耗及び損耗から保護するために反射金属層及び清浄なプラスチック材で作成される別の表面コーティングを施すことができる(18頁3行ないし15行)という作用効果を奏するものである。

6  争点に関係する当初明細書のその余の記載

(この項の認定は争いがない事実と甲第2号証による。)

(1) 「本願の出願人は、値の異なる電気信号を発生させるため、光の分散及び光の反射を利用する読取り技術が採用されるシステムを開発中であり、こうしたシステムにおいては、『バンプ』又は『くぼみ』は、プレーヤー装置から与えられた光を反射するというよりも、むしろ分散させる作用があり、隣接するバンプ又はくぼみの間の表面は、平面反射体として作用し、実質的に全ての光を、プレーヤーの光学的システムに戻す事が分った。

別の設計例では、位相コントラスト光学が採用してある。この場合には、各反射面の間隔を、nλ/4(ここでλは再生輻射の波長、『n』は奇数)とし、それにより、一方の表面から反射した光を役立つように干渉させ、かつ他方の表面からの光を役立たないように干渉させるのが望ましい事が明らかになっている。」(5頁6行ないし6頁2行)

(以下この記載を「記載1」という。)

(2) 「上記においては、情報の確認のために光の拡散を利用するビデオ・ディスク・システムについても述べて来たが、こうしたシステムにおいて、本願発明の金型は、元のマスター(母型)から作成することが出来る。反射平面nλ/4(ここで、λは点滅する輻射の波長、nは奇数の整数)の垂直距離だけ分離されており、容易に複製出来る。」

(16頁18行ないし17頁5行)

(以下この記載を「記載2」という。)

二  争点

原告は、本件決定は、当初明細書及び当初図面に記載された技術内容を誤認した結果、本件補正が当初明細書及び当初図面に記載された事項の範囲内のものでなく、明細書の要旨を変更するものであるとの誤った結論を導いたものであり(取消事由1及び2)、違法であるから、取り消されるべきであると主張し、被告は、本件決定の認定判断は正当であって、本件決定に原告主張の違法はないと主張している。

本件における争点は、上記原告の主張の当否である。

1  取消事由1

本件決定は、本件補正が要旨を変更するものであるとの結論を導く前提として、当初明細書の記載1を示したうえ、「これは、『バンプ』又は『くぼみ』の光を分散させる作用を利用したり、又は光の干渉による位相コントラストを利用するそれぞれ別個の信号読取り方法を開示しているにすぎず、光の分散及び干渉を同時に利用する信号読取り方法、又はこの信号読取り方法に使用される表面変形部の形状を開示するものとは認められない。」と認定判断している。

確かに、この記載1中、第一文は、光の分散(散乱)及び光の反射を利用する読取り技術(以下「散乱法」という。)に関するものであり、「バンプ」又は「くぼみ」を利用して光を分散(散乱)させ、バンプ又はくぼみの間の平面反射体を利用して光を反射させて、光の入射位置に基づいて光強度に強弱を持たせ、情報を読み取る技術を開示し、第二、第三文は、位相コンストラスト光学により情報を読み取る技術(以下「位相コンストラスト法」という。)に言及して、各反射面から反射した光を干渉させて光強度に強弱を持たせて情報を読み取る方法を示しており、第二文に「別の設計例では」との表現があるため、一見すると散乱法と位相コンストラスト法はそれぞれ独立の技術と思われる可能性がある。

しかしながら、記載1の第二文の「別の設計例では」なる表現は、やや誤解を招きやすい記載であるが、その真に意味するところは、「上記記載1にある発明者が当時開発中の散乱型システムにおける別の実施例では、」の意味に解するのがもっとも妥当な解釈というべきである。この解釈は、次の二つの理由から裏付けられる。したがって、上記の本件決定の認定判断は誤りであり、この認定判断を前提とする結論も誤っている。

<1> 記載1の第三文に、「この場合には、各反射面の間隔を、nλ/4(後略)」として、いきなり「各反射面」という表現が出現するが、これは、「上記散乱法における『バンプ』の頂面あるいは『くぼみ』の底面とそれらの間の平坦面をそれぞれ反射面と考えた場合における各反射面」と読むのが最も自然な解釈である。したがって、記載1の第二、第三文は、全体としては散乱法を利用しつつも、これに位相コントラスト法を採用した複合技術を開示していると見るのが妥当である。

<2> 当初明細書の記載2には、別の周知例、すなわち変形例が記載されており、「散乱法において反射平面をnλ/4の垂直距離だけ分離する」ことが示され、散乱法と位相コントラスト法とを組み合わせる技術が開示されている。

2  取消事由2

本件決定は、本件補正が要旨を変更するものであるとの結論を導く前提として、また、「さらに、当初図面(第1図ないし第3図、第5A図、第5B図、第6図ないし第9図)には、卵を半分にしたような形状の『バンプ』及び『くぼみ』が概念的に示されているにすぎず、本件補正によって補正された表面変形部の具体的な形状が図示されているとは認められない。」と認定判断している。

しかしながら、願書添附の図面の役割は、明細書に文章で記載された発明の理解を助けるためにその補助として使用されるべきものであり、したがって、図面に開示された何らかの形態が発明を具体的に表現したものか、概念的に表現したものかは、明細書における文章の記載との関係を考慮して初めて的確に判断される。このように図面の役割を考慮して、本願発明に係る図面を明細書の開示に照らして解釈すると、当初図面には本件手続補正書により追加された発明の要素が明確に開示されている。

すなわち、本願発明は散乱法と位相コントラスト法の両方を同時に使用する技術を要旨とするものであるが、散乱法を使用する場合には、散乱効果を十分ならしめるために傾斜した斜面がバンプ又はくぼみに存在することが十分条件である。傾斜した壁面が存在すれば、決定が認定したように、「光ディスクの表面変形部の形状を上記のとおり特定することによって、この表面変形部においては、傾斜した壁面での光の散乱(拡散)により反射光量の低下が促進されるという新たな作用効果を生じる」からである。したがって、当初図面の第3図、第5A図、第5B図、第6図ないし第9図に描かれたバンプ又はくぼみの壁面を示すなだらかに傾斜した曲線(決定にいわゆる「卵を半分にしたような形状」)は、散乱に寄与する傾斜壁面を意図して描かれていると解するのが妥当であり、これを単に概念図にすぎないとする決定は失当である。そうすると、「前記表面平坦部に連続し且つ前記頂面あるいは底面に連続している傾斜した壁面」が存在することは、当初図面の第3図、第5A図、第5B図、第6図ないし第9図及び当初明細書に開示されているといわなければならない。

一方、本願発明は位相コントラスト法も同時に使用しており、この方法を使用する場合にはバンプ又はくぼみが平坦な頂点あるいは底面を有する必要がある。すなわち、位相コントラスト法においては、表面変形部の頂面あるいは底面を反射平面とし、その反射平面と表面平坦部間の反射平面との高さの差をほぼnλ/4に設定して光の干渉効果を起こさせ、情報を読み取ることが必要であることは当初明細書の記載から容易に理解することができる。

したがって、当初図面の第3図、第5A図、第5B図、第6図ないし第9図に描かれたバンプの頂面又はくぼみの底面を示すほぼ水平な直線は、平坦な頂面又は底面を意図して描かれていると解するのが妥当であり、これが単に概念図にすぎないとする上記本件決定の認定判断は誤りであり、この認定判断を前提とする結論も誤っている。

なお、当初明細書において、当初図面を参照して記載された実施例は散乱法に基づくものであるが、別紙第3図、第5A図、第5B図、第6図ないし第8図にはバンプの頂面又はくぼみの底面は平坦に形成されているから、上記のとおりいうのに何ら差支えはないといわなければならない。

第三  争点に対する判断

一  取消事由1について

1  記載1中、第一文が散乱法に関するもので、「バンプ」又は「くぼみ」を利用して光を散乱させ、光の入射位置により光強度に強弱を持たせて情報を読み取る技術を開示し、第二、第三文が位相コンストラスト法に関するもので、各反射面から反射した光を干渉させて光強度に強弱を持たせて情報を読み取る方法を開示していることは、原告も自認するところであり、記載1の文理からも明らかである。

そして、前記第二の一6(1)において認定したとおり、記載1の第一文に続く第二、第三文には、「別の設計例では、位相コントラスト光学が採用してある。この場合には、各反射面の間隔を、nλ/4(中略)とし、(中略)干渉させるのが望ましい事が明らかになっている。」と記載されていて、「別の設計例では」との文言が使用されており、また、作用についても位相コントラスト光学のものだけが記載されているのであるから、この位相コンストラスト法に関する第二、第三文は、第一文の散乱法とは全く異なる別の設計例に関することが明らかである。

2  原告は、記載1の第三文に「各反射面」という用語がいきなり出現することを根拠にこの語を、「上記散乱法における『バンプ』の頂面あるいは『くぼみ』の底面とそれらの間の平坦面をそれぞれ反射面と考えた場合における反射面」と読むのが自然であるから、記載1の第二、第三文は、全体としては散乱法を利用しつつもこれに位相コントラスト法を採用した複合技術を開示していると見るのが妥当である、と主張する。

しかしながら、前記のとおり、第二、第三文には位相コントラスト法という第一文に明記された散乱法と別の技術が明示されているのに技術の複合使用を示唆する記載はない。殊に、原告指摘の「各反射面」という語に何らかの修飾語が付されていれば、僅かなりとも複合使用が示唆されているというべき可能性が出てくるが、この語には修飾語が一切付されていない。そして、この「各反射面」とは、位相コントラスト法を利用する場合の二つの反射用平面のことであると解して何の無理もないのであるから、原告主張のように解釈する根拠はなく、原告の主張は失当である。

3  また、原告は、記載2には、別の周知例、すなわち変形例が記載されており、「散乱法において反射平面をnλ/4の垂直距離だけ分離する」ことが示され、散乱法と位相コントラスト法とを組み合わせる技術が開示されていることを根拠に、本件決定の認定判断を誤りである、と主張する。

前記第二の一6(2)における認定事実によれば、記載2の第一文は、これまで散乱法を利用するシステムについて述べてきたが、このシステムによると本願発明の金型は元の母型から作成できるということを説明していることが明らかであり、また、その第二文は、文章として不完全であるが、反射平面に関して説明しようとするものであると推測することはできる。しかし、当業者の立場に立って甲第2号証の当初明細書の全体から精査しても、第二文は不完全であって、文言として上記以上に何を説明しようとするのかは判明せず、また、第一文の記載とどのような関係にあるのかを窺い知ることもできない。そこで、甲第2号証から別の証拠に目を転じてみると、乙第1号証によれば、特許法44条1項による本件出願において原特許出願とされた昭和49年特許願第117248号に係る昭和50年特許出願公開第68102号公報には、「同様にして、本発明は、情報の確認のため光の拡散を利用するビデオ・ディスク・システムの観点から説明して来たが、プロセス工程は同様に、位相コントラスト記録、再生システムに適用することが出来る。こうしたシステムにおいては、金型は元のマスターから作成することが出来る。反射平面はnλ/4(ここで、λは点滅する輻射の波長、nは奇数の整数)の垂直距離だけ分離されており、容易に複製出来る。この型式の再生に対しては、、比較的堅牢なレプリカが望ましいように思える。」(5頁右下欄2行ないし12行)との記載があることが認められ、本願発明に係る分割前の出願明細書において、散乱法を利用するもののプロセス工程は、位相コントラスト法を利用するものにも適用でき、散乱法と位相コントラスト法とは交換的ないしは代替的に適用される技術であって同時に使用される技術でないことが記載され、その適用の場合に記載2におけると全く同一の数式を示した反射平面に関する記載があることが明らかである。

記載2の第二文の記載は、分割前の出願明細書の上記記載より不完全であるが、分割前の出願明細書の上記記載と同様の技術的見地に立っていると推認することができ、その推認に反する証拠はないから、上記第二文の記載も、やはり、散乱法と位相コントラスト法とは交換的ないしは代替的に適用される技術であって同時に使用される技術でないことを前提に、位相コントラスト法を適用する場合に前記の数式による反射平面のものが複製されることを記述しているにすぎない、と認められる。

したがって、上記の原告の主張も理由がない。

4  そして、他に記載1が散乱法と位相コントラスト法とを同時に組み合わせて利用する複合技術を示唆していることを示す証拠は全くない。

そうすると、取消事由1は、失当であり、この点に関する審決の認定判断は正当である。

二  取消事由2について

1  前記第二の一3の認定事実によれば、本件補正後の本願発明の特許請求の範囲に記載された表面変形部の形状は、<1>表面平坦部に連続している傾斜した壁面を有しており、<2>傾斜した壁面に連続した頂面あるいは底面が、ほぼ平坦であり、かつ、表面平坦部と頂面あるいは底面との垂直方向の間隔は、光の干渉のほぼ最大効果を生ずるように設定されていることが明らかである。そして、<2>のうち垂直方向の間隔を光の干渉のほぼ最大効果を生ずるように設定するとは、その間隔をほぼnλ/4に設定することと技術的に同義であることは、原告が自認するところである。

2  1の<1>の点は、一応当初図面に記載されているとみる余地がある。

そこで、1の<2>の点が当初図面に記載されているかどうかを検討する。

甲第2号証によれば、当初図面のうち別紙第1図ないし第3図、第5A図、第5B図、第6図ないし第9図に、卵を半分にしたような形状のバンプ又はくぼみが示されていること、しかし、それ以上に、傾斜した壁面に連続した頂面あるいは底面が、ほぼ平坦であり、かつ、表面平坦部と頂面あるいは底面との垂直方向の間隔を光の干渉のほぼ最大効果を生ずるように、すなわちほぼnλ/4に設定することは、当初図面のどこにも、明記されておらず、また、当初図面自体にはそれらのことを示唆する記載もないことが、明らかである。

そして、当初明細書において当初図面を参照して記載された実施例が散乱法に基づくものであることは、原告において自認するところである。ところが、記載1が散乱法と位相コントラスト法とを同時に組み合わせて利用する複合技術を示唆していないことは前記一において検討したとおりであり、他に、当初明細書にこの二つの技術を同時利用することを示唆する記載があることについての主張立証はない。

したがって、当業者であっても、当初図面を見て、1の<2>の点が記載されていると理解することはできないというべきである。

3  そうすると、当初図面には、本件補正によって補正された表面変形部の具体的な形状が図示されているとはいえないから、取消事由2は理由がなく、この点に関する審決の認定判断は正当である。

三  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙

<省略>

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