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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)54号 判決 1995年2月07日

広島県府中市元町77番地の1

原告

株式会社北川鉄工所

代表者代表取締役

北川一也

訴訟代理人弁理士

忰熊弘稔

石川泰男

米田潤三

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

指定代理人

柳和子

渡邉順之

市川信郷

関口博

吉野日出夫

主文

特許庁が平成2年審判第1706号事件について平成4年1月9日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「生コンクリート類の製造装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について、昭和56年4月3日、特許出願をした(昭和56年特許願第50850号)が、平成元年11月13日、拒絶査定を受けたので、平成2年2月16日、審判を請求した。特許庁は、この請求を平成4年審判第1706号事件として審理した結果、平成4年1月9日、上記請求は成り立たない、とする審決をし、その審決書謄本を平成4年2月20日、原告に送達した。

2  本願発明の要旨

「水タンクからの水を計量する一次水計量器及び二次水計量器を備えた水計量手段と、添加剤タンクからの添加剤を計量する添加剤計量手段と、前記水計量手段からの一次水及び他の混合材料を予め先行して混練する一次混練ミキサ、及び該一次混練ミキサの後段へ直列となして配設し、前記水計量手段からの二次水及び前記添加剤計量手段からの添加剤ならびに残余の混合材料を後行して再び混練する二次混練ミキサとから構成され、且つ一次混練ミキサとは別異な動力源によって駆動されると共に該一次混練ミキサよりも低速域で駆動される二次混練ミキサ構造に形成されている生コンクリート類の製造装置。」(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  昭和54年特許出願公開第60321号公報(以下「引用例」といい、引用例記載の発明を「引用発明」という。別紙図面2参照)には、以下の<1>ないし<5>等の記載がある。

<1> 「基礎5上に置かれた機台50の一側には1次混練機1が設けられ、該1次混練機1の上方には細骨材(砂等)計量機11とセメント計量機12とが配設され、これらの計量機11、12において計量された原材料が上記1次混練機1に投入され、流量計13を具備した配管14から所定量の水が添加された条件下において混練が行われる。」(12頁左上欄11行ないし18行)、

<2> 1次混練機1は横型ドラム式のものであって横軸1εが横架され、該横軸18に配設された撹拌翼を駆動することによって横型ドラム内に収容されたセメントと細骨材を効率的に撹拌する。斯かる1次混練機1の 部から機台50の中間部に設定された2次混練機2の~」(12頁左下欄7行ないし13行)

<3> 「2次混練機2においては横軸22が横架され、モータ36によって駆動されることは1次混練機1におけると同様であるが、その装入口に施された蓋24に対しては分散剤計量機25と遅延剤計量機26および流量計28を有する注水管27とが夫々配設されていてそれらの添加剤及び補充水を注加するように成っている。」(12頁右下欄17行~13頁左上欄3行)

<4> 「1次混練時と2次混練時における混練速度は適当に変更することが好ましく、殊にプレパックド法によらない場合には砂利等の粗骨材が2次混練に際して添加されることよりして2次混練のための負荷が1次混練時より大となるが、このような関係を適切に充足するためには変速機をモータと混練機構との間に配設し、夫々の場合において好ましい速度及び負荷条件を形成する。」(14頁左上欄12行~末行)

<5> 「即ち2次混練された調整混練物は順次に搬ばれて来る型枠内に供給されて成形することが可能であり、場合によっては現場施工に利用されても強度的に優れたコンクリートを得ることができる。」(14頁右上欄19行~左下欄3行)

(3)  本願発明と引用例記載(上記<1>ないし<5>及び第5図、第6図等の関連記載を含む。)の発明を対比すると、

a 本願発明では、「一次水及び他の混合材料を予め先行して混練する一次混練ミキサ、及び該一次混練ミキサの後段へ直列となして配設し、~二次水及び前記添加剤計量手段からの添加剤ならびに残余の混合材料を後行して再び混練する二次混練ミキサとから構成され」てなるものであるが、これらの構成は、前掲<1>~<3>のとおり、引用発明でも備えている。

b 本願発明では、一次水及び二次水は「水計量手段からの」ものであるとし、また添加剤を「添加剤計量手段からの」ものであるとしているが、引用例でも、その一次水は、前記<1>のとおり「流量計13を具備した配管14から所定量」添加され、またその二次水(補充水)及び添加剤は、前記<3>のとおり、それぞれ「流量計28を有する注水管27」及び「分散剤計量機25と遅延剤計量機26」を介して注加されるものであるから、両者はこれらの点についても異ならないものである。

c そして、一次、二次水及び添加剤を本願発明のように水タンク及び添加剤タンクから供給するようにすること、また本願発明のように二次混練ミキサを一次混練ミキサとは別異な動力源によって駆動されるようにすることは、ともに引用発明でも適宜採用される事項であるにすぎないから、本願発明は、引用発明の技術に対し、次の2点で相違している。

ア 本願発明が「生コンクリートの製造装置」であるのに対し、引用発明は「コンクリートの製造装置」である点

イ 本願発明では「一次混練ミキサよりも低速域で駆動される二次混練ミキサ構造に形成されている」のに対し、引用例にはこの点に関する明示の記載がない点

d 引用例には、前記<5>のとおり、「場合によっては現場施工に利用されても強度的に優れたコンクリートを得ることができる。」等と指摘されているから、引用例の「コンクリートの製造装置」が本願発明のように「生コンクリートの製造装置」としても構成し得ることは既に引用例自体に示唆されているものであるし、また、引用例には、前記<4>のとおり、一次混練時と二次混練時の混練速度は、両者における負荷の差等を考慮して適当に変更すべき旨指摘されているから、本願発明における相違点イに相当する構成は、当業者であれば前記指摘の枠内で適宜設定し得るものと認められる。

そして、本願発明で得られるという効果も引用発明のそれに比べて格別のものではない。

e したがって、本願発明は、引用発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の認定判断のうち、審決の理由の要点(1)及び(2)は認める。同(3)のa、bは争う。同(3)のcのうち、相違点ア、イについては認めるが、その余は争う。同(3)のd、eは争う。審決は、本願発明の水計量手段及び添加剤計量手段についての技術的理解を誤った結果、この点に関する一致点を誤認して相違点を看過し、また、各相違点の判断を誤り、さらに本願発明の顕著な作用効果を看過し、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法であり、取消しを免れない。

(1)  一致点の誤認(取消事由1)

審決は、本願発明と引用発明は、水計量手段及び添加剤計量手段に関する構成において一致すると認定したが、誤っている。すなわち、本願発明の実施例からも明らかなように、本願発明における一次水計量器及び二次水計量器並びに添加剤計量手段は、容積計量した水ないし添加剤を貯留しておく計量槽を備えているので、計量と放出をそれぞれ独立して行うことが可能となる結果、放出時間を自由に調節することが可能となる。したがって、計量時間にかかわりなく、放出時間を自由に調節でき、短時間の放出が可能となるため、混練時間を短くすることが可能となる。

これに対し、引用発明の流量計(一次水用の流量計13、二次水用の流量計28)は単に水ないし添加剤の流量を配管の管路途中において測定しながら、混練機へ測定した水を直接供給するにすぎず、計量槽を備えていない。このため、計量しながら放出する結果、放出時間を調整することができず、放出時間が長引き、ひいては混練時間も長くなる。

したがって、本願発明と引用発明が水計量手段及び添加剤計量手段において一致するとした審決の認定は誤っている。

(2)  相違点アの判断の誤り(取消事由2)

一般に生コンクリートとは、未だ固まらない状態のコンクリートであり、練り混ぜ開始から比較的短時間内(1.5時間以内)で現場施工されるものをいう(甲第7号証参照)ことから、その供給範囲を少しでも拡大するため混練時間の短縮が要求されるものである。

本願発明の生コンクリート類の製造装置は、本願明細書の性能比較テスト表(15頁表-1)からも明らかなように、トータル混練時間が135秒又は180秒であり、この混練時間を考慮すると、トータル混練時間の短い生コンクリート(すなわち、乙第9号証487頁記載の「JIS A 5308レデーミクストコンクリート」に適合する生コンクリートに該当する。)を製造する装置であることが明白である。さらに、本願明細書の「しかるところ一次混練ミキサよりも低速域で駆動される二次混練ミキサ構造に形成することは、混練効果の向上から生コンクリート類の高品質化につながるものであり、さらに良好な混練状態を短時間で得ることができるものである。」(13頁1行ないし6行)との記載から、本願発明の生コンクリート類の製造装置においては短時間で良好な混練状態が要求されるものであることが明白である。

これに対し、引用例には、引用発明のコンクリートに関して、用いるセメントペーストは特殊なものであり、新しい幾つかの発見に立脚して製造されるセメントペーストであること(10頁右上欄18行ないし左下欄3行)、一般的なコンクリートの場合におけるW/Cが60%程度又はそれより高いものとは異なるコンクリートであって、適当な練り置き時間を採った後における第二次混練によって(さらなる混練によって)得られる相対流動性の高いコンクリートであること(前同頁左下欄6行ないし13行)がそれぞれ記載されており、上記の「適当な練り置き時間」とは、「例えばポルトランドセメントにあっては4時間前後」(前8頁右上欄7、8行)とされているのであり、これらの記載からすると、引用発明のコンクリートは、トータル混練時間が4時間以上(同8頁右上欄7行ないし10行)の特殊な生コンクリートであり、このため引用発明においては、一次混練機1と二次混練機2との間にエンドレスベルト式のコンベア20が設けられているのである。このように引用発明は本願発明とは製造時間単位を異にするものであって、これが本願発明の生コンクリートと異なることは明らかである。

以上のように、トータル混練時間が長い特殊なコンクリートを作るために用いる製造装置に係る新規な技術的思想を、トータルな混練時間の短縮化を目指すところの本願発明における生コンクリート製造装置に応用することが容易であるということはできない。したがって、審決が、両製造装置を同一視して、引用発明が本願発明の生コンクリート製造装置としても樽成し得ることは引用例自体に示唆されていると認定したのは誤りである。

(3)  相違点イの判断の誤り(取消事由3)

審決は、引用例には、一次混練時と二次混練時の混練速度は、両者における負荷の差等を考慮して適当に変更すべき旨指摘されているから、相違点イに相当する構成は、当業者であれば適宜設定し得るものと認められるとするが、誤っている。すなわち、本願発明において、二次混練ミキサが一次混練ミキサとは別異の動力源によって駆動されるとともに、一次混練ミキサよりも低速度で駆動される構成、すなわち、一次混練と二次混練における相対的混練回転数を特定したのは、一次混練ミキサで混練される混練物は必要な水量のうち一部の一次水量しか投入されていないことにより流動性が小であるのに対し、二次混練物には、前記の一次水量に加えて二次水量が更に加えられるため流動性が大となり、同じ混練速度では各材料の重量差によって分離現象が生じるので、このような分離現象を防止するために、相対的混練回転数を限定しているのであり、これによって、混練効果の向上ひいては生コンクリート類の高品質化と良好な混練状態を短時間で得られるという特有の効果を奏するものである。

これに対し、引用発明は、一次混練物と二次混練物の負荷条件の相違に基づく好ましい速度の選定を示唆しているのみである。つまり、引用発明は、大きな負荷に対しては大きなモータを付ける代わりに回転数を下げるという発想であり、決して本願発明のような混練物の性状の違いにより混練速度を下げるという技術的思想は開示されていない。また、分離現象を防止するために混練回転数を設定することが自明であるとしても、本願発明の一次混練と二次混練の相対的回転数の特定について示唆するものではないのである。したがって、引用例や前記自明事項から、相違点イの構成が適宜設定されるとする審決の判断は誤っている。

(4)  顕著な作用効果の看過(取消事由4)

本願発明は、引用発明に期待できない以下の顕著な作用効果を奏するものであるのに、審決はこれを看過したものである。

まず、本願発明の水計量手段は計量槽を具備する結果、各混練ミキサへの放出時間を自由に調節でき、短時間で良好な混練が可能となり、次に、二次混練ミキサの混練速度を「一次混練ミキサよりも低速域で駆動させる作用」によって、混練効果の向上が図られ、高品質の生コンクリートが得られ、さらに、2つの混練ミキサを直列に配列して混練状態を2段に分け、各工程における混練状態に合わせた容量のモータを個別に設けたことにより、両混練ミキサに働く力学的作用力を従来のものに比較して顕著に小さくすることを可能ならしめ、これにより、従来のものにおいて生じていた部品の破損、故障が皆無となり、また、生コンクリート類の製造能力が飛躍的に増大するという顕著な作用効果を奏するものである。しかるに、審決は本願発明の奏する上記のような顕著な作用効果を看過したものであるから、違法であり、取消しを免れない。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定判断は正当である。

1  取消事由1について

本願発明の特許請求の範囲の記載には、「水を計量する一次水計量器及び二次水計量器を備えた水計量手段と、添加剤タンクからの添加剤を計量する手段」と記載されているところ、「計量器」ないし「計量する手段」とは、流体を貯溜して計量する計量槽型の計量器のみを意味するものではなく、流量計型の計量器その他をも包含する広い概念である(乙第1号証)。そうすると、特許請求の範囲に記載の前記「計量器」ないし「計量する手段」とは、一次水と二次水を計量することのできる器具・装置を備えたものということであり、引用発明の混練装置がこのような構成を備えていることは明らかである。仮に、本願発明の「計量器」ないし「計量手段」が原告主張のように計量槽型のものに限定されているとしても、引用例の第5図、第6図には、水は流量計で計量すること、添加剤は計量槽に貯溜して計量することが開示されている。また、甲第3号証には、混和剤(添加剤と同義と解される。)の計量添加万法として、「先行計量方式」(計量槽による計量方式に相当する。)と「同時計量方式」(流量計による計量方式に相当する。)が必要に応じて採用されることが記載されている(738頁右欄下から4行ないし739頁左欄14行)。

してみると、コンクリート類の配合水や添加剤の計量手段としては、計量槽や流量計が普通に用いられるものであって、必要に応じて適宜採用し得る手段であるということができる。そして、引用発明においても、計量槽型の計量器の採用を排除するものではないのであるから、審決の一致点の認定に誤りはない。

2  取消事由2について

生コンクリートとは、「コンクリート製造工場から、まだ固まらない状態のままで需要者に配達されるコンクリート」を意味するものと解するのが相当である(乙第7ないし9号証)。

ところで、審決が摘示した引用例の「即ち2次混練された調整混練物は順次に搬ばれて来る型枠内に供給されて成形することが可能であり、場合によっては現場施工に利用されても強度的に優れたコンクリートを得ることができる。」との記載部分は、引用例の「本発明によるもののコンクリート成形は任意の手法によって実施し得る。即ち本発明における基本的な特質は前記したように本発明者等による多くの新しい発見に基づいて従来法に比すれば比較的少ない配合水量によって、しかも相対的流動性の優れた混練物を得ることにあり、それによって初期強度を短時間内に得しめながら長期強度を損なうことがないようにしたものであるからこのようにして得られた調整混練物はその後の成形操作がどのような手法、設備によって行われるとしても本発明の目的を達することができる。」(14頁右上欄9行ないし19行)との記載部分に続くものである。この記載によれば、引用発明のコンクリートは、従来の「生コンクリート」と同様のいかなる成形操作の手法、設備に対しても適用できるとされているのである。したがって、引用発明の生コンクリートは、現場へ運搬されて施工する場合を含む従来の技術の態様の範囲内のものであって、特殊なものではなく、その製造装置も「固化した固いコンクリートを商品として取り扱っている工場におけるコンクリート製造装置」に限定されるものではないから、原告の主張は失当である。そして、審決摘示の前掲引用部分は、二次混練された調整混練物は、型を運んでくる成形方法にも、型のある現場まで運んで行き製造する成形方法にも共に利用できると解すべきものであることはその文言上明らかであるし、前記の各記載からも明らかである。

したがって、引用例記載の生コンクリート製造装置が「コンクリート製造工場から、まだ固まらない状態のままで需要者に配達されるコンクリート」である生コンクリートの製造装置としても構成し得ることは明らかである。

付言するに、引用例記載のコンクリートの製造においては、「目的とする注入域との関係において・・・相対流動性を確保し得る範囲の練り置き時間を採り、2次混練したものを注入する」(8頁左上欄16行ないし右上欄3行)と記載されているように、工場外で施工する場合等その注入域等を考慮して施工場所で注入し得るような練り置き時間に調整きれるものであり、常に「水和反応がピークに達する直前まで」の練置時間を採らなければならないものではない。そして、引用例の第3図によれば、水添加混練後の経過時間が2~3時間程度では、各種のセメントについていずれの場合にも、練置時間の有無に関わらず同様の水和熱の発生状況であること、即ち硬化反応の進行の程度は相違しないことが明示されている。したがって、引用発明のコンクリートも、水添加混練後の経過時間が2~3時間程度で、練置時間のない場合と同様の施工性を有するものであって、従来の生コンクリートと同様に、運搬し施工できるものということができるのである。したがって、引用発明の生コンクリートが従来と同じように施工できる生コンクリートであることは明らかである。

また、生コンクリートを製造する際に、ミキサを一次混練ミキサと二次混練ミキサの2個を組み合わせた2段階のものとすることも本出願前周知であること(乙第11、第12号評)からすると、練置時間を必要とするコンクリートとそれを必要としないコンクリートの製造手法の間には、後者から前者への転用に関し、簡単な改変をしてまで、転用することが既に両者の間でなされているのであるから、これとは逆に前者の手段を練置時間を必要としない従前の生のコンクリートを2段階で製造する後者の手段として、そのまま採用する程度のことは格別工夫を要することではないから、原告の主張は失当である。

3  取消事由3について

混練は、被混練材料を均一に練り混ぜることにその目的があるから、被混練材料が分離するような速度を選定することはあり得ないことである。そして、コンクリート類の混練に当たっては、混練という目的を達成する範囲の混練速度に設定すること、すなわち、被混練物であるコンクリートは、一般に、水の割合が多いと流動性が高く材料の分離の傾向が大きい(乙第2号証77、78頁参照)、という性状をもっていることを考慮して混練速度を設定することは当然のことである。混練速度は、更にこれに加えて、負荷や混合効率等をも考慮して適切な条件を設定するものであり、引用発明にあっても、一次及び二次の各ミキサに適する混練速度は、負荷条件の他に被混練物の性状等を考慮して試行により解明され、設定されることはいうまでもない。よって、一次混練時と二次混練時での混練速度は適宜設定し得るものとした相違点イについての審決の判断に誤りはない。

4  取消事由4について

計量器に関して原告の主張する作用効果は、本願発明の一実施態様である計量槽を選択した場合について述べるものであって、本願発明の構成に基づくものではない。仮に、本願発明が計量槽に限定されたとしても、引用発明においては計量槽を採用する態様が排除されているものではないから、引用発明において上記態様を採用したときには当然に奏する作用効果にすぎない。また、混練したとき、材料が分離しないというのは混練の目的からしても当然の作用効果であって、格別のものとはいえない。したがって、審決に本願発明の奏する作用効果を看過した違法はない。

第4  証拠

証拠関係は書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1ないし3は当事者間に争いがない。

2  本願発明の概要

いずれも成立に争いのない甲第5号証の1(平成2年3月19日付け手続補正書)及び同号証の2(本願の当初明細書添付の図面)によれば、本願発明の概要は、以下のとおりであると認められる。

本願発明は、混練材料としてセメント、水、砂、砂利、添加剤を用い、モルタル及び生コンクリートなどの生コンクリート類を製造する製造装置に関するものであり(2頁7行ないし10行)、原告は、既に、従来の製造装置を用いた場合の3分の1ないし2分の1の混練時間で充分なコンシステンシーが得られる予備練りミキサ及び本練りミキサからなる新規な製造装置の提案を行っている(昭和62年特許出願公告第20004号)ところ、本願発明は、上記の提案に係る装置を更に改善発展させたものである(2頁11行ないし16行)。本願発明は、上記目的を達成するため要旨記載の構成を採択し(1頁5行ないし17行)、その結果、混練効果の向上による生コンクリート類の高品質化及び良好な混練状態を短時間で得ることができるとの作用効果を奏するものである(13頁3行ないし6行)。

3  取消事由について

審決は、本願発明と引用発明の相違点の一つとして、本願発明が「生コンクリート類の製造装置」であるのに対し、引用発明が「コンクリートの製造装置」である点を挙げ、この点について、引用例の「場合によっては現場施工に利用されても強度的に優れたコンクリートを得ることができる。」との記載部分を根拠に、引用発明は本願発明の特許請求の範囲にいう「生コンクリート類」の製造装置としても構成し得るとしたものであることは審決の理由の要点に照らして明らかであるところ、上記の判断部分は、引用発明の製造対象とするコンクリートが上記「生コンクリート類」の製造にも適用可能であることを根拠として、当業者は、本願発明の構成を想到する際、引用発明の構成から示唆を得ることが可能であるとしたものであることは、前記の説示から明らかなところである。

これに対し、原告は、本願発明の製造対象とする上記「生コンクリート類」と引用発明の製造対象とするコンクリートは性質を異にするから、引用発明から本願発明の構成について示唆を受けることはできないと主張するので、以下、まずこの点、すなわち、相違点アについての審決の判断の当否から検討する。

(1)  本願発明の特許請求の範囲に記載の「生コンクリート類」の意義について

前掲甲第5号証の1によれば、本願明細書の特許請求の範囲には、当事者間に争いのない前記本願発明の要旨と同様の記載があり、また、発明の詳細な説明の欄には「モルタル及び生コンクリートなどの生コンクリート類を製造する製造装置に関する。」(2頁8行ないし10行)との記載が認められるところ、上記の発明の詳細な説明の欄を精査しても「生コンクリート類」の意義について格別定義した記載を見出すことはできないので、上記記載の技術的意義は、当業者が一般的に理解するところによって決するのが相当であるから、進んで、まず、上記「生コンクリート」の一般的な意義について検討する。

成立に争いのない乙第7号証(小谷昇他3名著「コンクリートの知識」(改訂版)昭和55年3月1日技報堂出版株式会社発行)には、「設備のよく充実したコンクリート製造工場から、まだ固まらないプラスチックな状態で購入者に配達されるコンクリートを、レデーミクストコンクリート(生コンクリートまたは生コン)という。・・・中略・・・生コンにはJIS規格(レデーミクストコンクリートJIS A 5308)があり、・・・」(94頁2行ないし6行)との、同第8号証(近藤泰夫、坂静雄監修「コンクリート工学ハンドブック」昭和48年11月15日株式会社朝倉書店発行)の「11.1 レデーミクストコンクリートの要旨」の項には、「レデーミクストコンクリートはまだ固まらないコンクリートの販売を目的としたもので、わが国では生コンクリートと呼ばれ、このほか生コン、R.M.コンクリート、レミコン等ともいい、これは従来工事現場で施工していた現場打コンクリートを他の場所で合理的に機械化整備されたコンクリート製造設備で、迅速に購入者の要求する品質のコンクリートを、所定の時間に、希望する数量を、型ワクに打込める状態のまだ固まらないコンクリートとして、特種の運搬自動車によって現場まで配達供給するコンクリートである。」との、また、「11.2 レデーミクストコンクリートの規格」の項には、「わが国のレデーミクストコンクリートの規格はJIS A 5308日本工業規格レデーミクストコンクリートとして1953年米国のASTMの規格を参照の上、わが国の実状に則して制定されたものである。まだ固まらないコンクリートの性質上工事現場ごとに品質も異なり、その上時間的予約配給のため製造即運搬配達という他の材料にみられない特質をもっており、すべての生産者はこの規格に準拠してプラントの運営にあたっている。」との各記載が認められる。

以上の各記載によれば、「生コンクリート」とは、製造設備のある工場で練り混ぜられ、まだ固まらない状態のままで工事現場に配達されるコンクリートで、JIS A 5308の定める規格に適合するものをいうものと解するのが相当である。このことは、本出願後に刊行されたものであるが、当業者が用いる実務的手引書であることがその記載内容に照らして明らかな成立に争いのない甲第7号証(建設材料研究会編「生コン経営の実務」昭和58年5月31日株式会社技術書院発行)に、「生コンは工場で練り混ぜを始めてから通常90分以内に施工されなければなりません。 (3頁下から11行ないし9行)と、後記認定のJIS A 5308の定める規格内容に適合するコンクリートであることを当然の前提とした記述がみられるところからみても明らかなところというべきである。

そこで、進んで、JIS A 5308の定める規格内容について検討すると、成立に争いのない甲第9号証(田原正邦編「日本工業規格レデーミクストコンクリート」昭和53年6月10日財団法人日本規格協会発行)によれば、上記のJISは、レデーミクストコンクリートの練混ぜについて、「7.3.1 レデーミクストコンクリートは、7.1.3に規定するミキサにより、工場内で均一に練り混ぜるものとする。」と、また、その運搬について「7.4.2 コンクリートは、練混ぜを開始してから1.5時間以内に荷卸しができるように運搬しなければならない。ただし、購入者と協議のうえ、運搬時間の限度を変更することができる。」、「7.4.3 ダンプトラックでコンクリートを運搬する場合、運搬時間の限度は練混ぜを開始してから1時間以内とする。」とそれぞれ規定していることが認められるところ、本件全証拠を検討しても、レデーミクストコンクリートにおける一般的な練混ぜ時間を的確に知ることはできないが、上記の運搬時間に関する規定及び前掲甲第5号証の1によれば、本願明細書15頁の表-1に記載された練混ぜ時間が従来装置(一次混練のみ)においては120秒、本願発明の実施例においては一次混練と二次混練を合わせて135秒及び180秒の場合が示されていることからみて、いずれにしても合計混練時間は数分程度と推認されるところであり、他にこの推認を左右するに足りる証拠はない。なお、前掲甲第5号証の1によれば、本願発明の特許請求の範囲(3)には、「前記二次混練ミキサが、練り置き時間の時間調整可能なホッパを含む構造に形成されている特許請求の範囲第1項記載の生コンクリート類の製造装置。」との、また、発明の詳細な説明の欄には、「図示のホッパ24は、バッチ方式ミキサが予め先行して混練した準混練完了物質を一時的に貯留すると共に必要に応じては練り置き時間の時間調整を実施してから連続方式ミキサへ導く働きをなすものであり、下部には流体圧シリンダで開閉度合が調整できるゲートを持っている。」(8頁下から3行ないし9頁3行)との各記載があり、これらの記載によれば、本願発明が、一次混練と二次混練の間に準混練完了物質の練置きを予定している場合を含むものであることは明らかであるが、上記の練置きがいかなる技術的必要性に基づくもので、また、どの程度の時間練り置くのかを明らかにした記載がないため、その具体的な点は不明といわざるを得ない。しかし、いずれにしても、「生コンクリート」である以上、前記認定のJISが規定する生コンクリートの運搬時間の制限内のものであると推認するのが相当であるというべきである。

さらに、前記認定のように、本願発明の特許請求の範囲には「生コンクリート類」と記載されているところ、この記載中の「類」がいかなるものを対象としているかについては前記の記載のみからは一義的に明確とはいい難いので、発明の詳細な説明を参酌すると、前記のとおり、詳細な説明の欄には「モルタル」が「生コンクリート」と共に記載されているところ、骨材を含まない「モルタル」については前記認定のJISの規格が適用されないことは明らかであるが、この「モルタル」についても特許請求の範囲の記載において前記の「生コンクリート」に「類するもの」として規定されている以上、「生コンクリート」に関するJISの前記規定中で「モルタル」にも適用可能なものについては「生コンクリート」に準じて適用があるものと解するのが特許請求の範囲の前記記載の趣旨に沿うものと解されるから、前記認定の運搬時間の制限に関する規定は「モルタル」についても適用されるものと解するのが相当というべきである。

以上によれば、本願発明が製造対象とする「生コンクリート類」とは、JIS A 5308規格にいう「生コンクリート」及びこれに準じて運搬時間の制限を受けた「モルタル」をいうものと解するのが相当である。

(2)  引用発明について

成立に争いのない甲第2号証(引用発明の特許出願公開公報)には、以下の記載がある。すなわち、引用発明の基本となった発見に関し、「ところで斯かる有効な塑性流体の注入流動性測定技術に従い本発明者等はモルタルやコンクリートの基本物質である各種セメントのペーストを基準とした混練物に関しその注水混練後の時間経過と流動性の関係について仔細に試験測定した結果、従来の定説に存しない新しい事実を発見した。蓋しこの新しい発見は添附図面第1~4図において夫々要約して示す通りであり、その第1図はセメントペーストの注水混練後の時間経過と注入流動特性の関係を示すもので、この注入流動特性値としては前記第2先願発明において明らかにされた相対初期剪断応力降伏値(Fo:g/cm2)を以て代表的に採用したが、何れにしても注水混練後或る時間まではFo値が小さくなり、即ち注入流動性が良好となることが明らかであり、これは従来注水混練後時間経過に伴い注入流動性が悪くなるものと理解されていることとは全く反した新しい事実である。」(6頁右上欄下から6行ないし左下欄13行)、「次に上記した第1図のようにペーストを用い、その注水混練後30分、60分、90分のような練り置き時間を経過して混練を加えたものを成形して得られる製品についての4週強度を測定した結果は第2図に示す通りであり、この第2図によれば点線で示すプレーンペーストの場合は練り置き時間60分程度まではその強度が次第に増大し、その後は下降することが明かであり、実線で示す分散剤添加の場合は上記のような練り置き時間による強度増大期間がプレーンの場合より長く100分程度となる。」(6頁右下欄下から4行ないし7頁左上欄7行)、また、引用発明の中心的な構成について、「即ち本発明においてはこれらの関係を利用し、具体的には少なくとも30分以上であつて、目的とする注入域との関係において前記Fo値及びΔFo(相対閉塞性)値、λ(相対流動粘度係数)値、注入速度及びプレパックドされた骨材の性状の如きより求められる相対流動性を確保し得る範囲の練り置き時間を採り、2次混練したものを注入することを提案するものであり、このような練り置き時間の下限は第1図の状態より容易に理解することができ、又その上限は第3図において示されたような各水和熱発生が最も急峻な曲線を描く直前の時点であつて、例えばポルトランドセメントにあつては4時間前後、高炉セメントにあつては斯かる条件の場合6~7時間、アルミナセメントにあつては6時間程度である。」(8頁左上欄下から5行ないし右上欄10行)との、さらに引用発明の奏する作用効果に関して、「本発明においては前記したような新発見を有機的に結合せしめることによつて2時間以内のような短時間内脱型を得しめ、しかもその圧縮強度が700~800kg/cm2或いはそれ以上に達し、その長期強度において常温下での養生と水中養生を併用したものに比し殆ど遜色がなく、時としてそれを上回る製品を的確に得ることができる。」(9頁左下欄下から6行ないし右下欄1行)との、また、引用発明の適用領域について、「特に前記したようなプレパックド工法に採用した場合において優れた作用効果を発揮し、その技術的特性を示すこととなる」(10頁右上欄下から7行ないし4行)との各記載があることを認めることができる。

以上の各記載によれば、引用発明は、注水混練後の時間経過と流動性の関係につき、従来、注水混練後は注入流動性が悪化すると考えられていたが、混練後一定時間までは注入流動性が良好となること及び混練して得られた製品の強度と練置時間の関係についても一定の練置時間を置いた方が強度が増大するとの各知見を得たことから、これらの知見を有機的に組み合わせることにより、長期強度を損なうことなく短時間内で初期強度を高め、前記記載のような2時間内という短時間内での脱型を可能ならしめるとの作用効果を奏したものであり、プレパックド工法においてこのような引用発明の技術的特徴を最も良く発揮し得るものであるということができる。

そして、引用発明において一次、二次と分割して混練を行うのは、混練の間に練置時間を置く必要からであって、その必要とする練置時間はセメントの種類に応じて異なるが、30分以上数時間に及ぶものであることは上記記載から明らかというべきである。

(3)  引用発明の技術的思想について

審決は、本願発明の構成のうち、混練を一次、二次と分割して行う構成等の審決認定の一致点については引用発明から示唆を受けることが可能であるとしたものであることは、当事者間に争いのない前記審決の理由の要点に照らして明らかである。

そこで、前記(1)、(2)で認定した本願発明及び引用発明の技術的な意義を踏まえて審決の上記判断の当否について検討する。

前項に認定したように、引用発明において混練を分割したのは、必要な練置時間を取ることにより、長期強度を損なうことなく短時間内に初期強度を高め、これにより、短時間内(例えば2時間前後)における脱型を可能とするものである。したがって、引用発明には、既に認定したJIS規格に定める「生コンクリート」の運搬時間の制限を前提として、混練を短時間内に行うとの技術的思想はないし、また、本願発明においては、長期強度を損なうことなく、初期強度を高め短時間内での脱型を可能ならしめるとの課題はないから、両発明は、課題及びこれを解決する技術的思想のいずれにおいても異なるといわざるを得ず、この意味で引用発明が、その構成の外形において類似するとしても、本願発明の課題の解決に対して技術的な示唆を与えることができるものとは認め難いといわざるを得ない。

もっとも、被告は、引用発明の理解について、引用例の「即ち2次混練された調整混練物は順次に搬ばれて来る型枠内に供給されて成形することが可能であり、場合によつては現場施工に利用されても強度的に優れたコンクリートを得ることができる。」との記載部分(14頁右上欄下から2行ないし左下欄3行)等を援用して、引用例のコンクリートは何ら特殊なものではなく、その製造装置も「固化した固いコンクリートを商品として取り扱っている工場におけるコンクリート製造装置」に限定されるものではないから、引用例記載の生コンクリート製造装置が生コンクリートの製造装置としても構成し得ることは明らかであると主張するので、以下、検討する。

被告の援用する上記記載部分は、前掲甲第2号証によれば、「本発明によるもののコンクリート成形は任意の手法によつて実施し得る。即ち本発明における基本的な特質は前記したように本発明者等による多くの新しい発見に基づいて従来法に比すれば比較的少ない配合水量によつて、しかも相対的流動性の優れた混練物を得ることにあり、それによつて初期強度を短時間に得しめながら長期強度を損なうことがないようにしたものであるからこのようにして得られた調整混練物はその後の成形操作がどのような手法、設備によって行われるとしても本発明の目的を達することができる。」(14頁右上欄9行なしい19行)との記載部分に続くものであると認めることができ、被告援用部分によれば、引用発明は工場等におけるプレパックド工法の場合以外の現場においても適用可能なものであることは明らかである。しかしながら、被告援用部分に続く上記記載部分によれば、現場において引用発明を実施する場合においても、引用発明の技術的思想は既に認定したところと何ら変わりはないのであって、必要な練置時間を取ることを必須とし、これによって長期強度を損なうことなく初期強度を高める点にあることは明らかである以上、現場施工が可能であるとの一事から、引用発明に前述したような意味において混練時間の短縮を図るとの本願発明の技術的思想があるとすることはできない。

さらに、被告は、一次混練ミキサと二次混練ミキサの2個のミキサを組み合わせて生コンクリートを製造することが本出願前周知である上、練置時間を必要とするコンクリートとそれを必要としないコンクリートの製造手法間に、後者から前者への転用に関し、簡単な改変をしてまで、転用することが既になされていることから、これとは逆に前者の手段を練置時間を必要としない後者の手段として、そのまま採用する程度のことは格別工夫を要することではないと主張する。

そこで、検討すると、被告の上記主張における練置時間を必要としない製造手法から練置時間を必要とする製造手法への簡単な改変をしているとの技術が引用発明を指すことは明らかであるところ、引用発明における2段階の混練を行う技術的な理由については既に説示したとおりであって、これが本願発明の課題の解決に示唆を与えるものでないことも既に説示したとおりである。そして、成立に争いのない乙第11号証(昭和49年特許出願公開第116115号公報)には、2台のパンタイプミキサを上下に重ね合わせて一次、二次混練するコンクリート製造装置が記載されていることが、また、同第12号証(伊東靖郎他3名「S.E.C.コンクリートの特性と展望」昭和56年4月1日社団法人セメント協会発行「セメント・コンクリート」No.410)には、S.E.C.コンクリート用ミキサとして水平2段ミキサがあることが記載されていることがそれぞれ認められるところ、これらの刊行物の発行時期や性格に照らすと、コンクリートの混練に2台のミキサを使用することは本出願前周知であったといって差し支えがない。しかしながら、以上に認定の技術水準の下で引用発明をみた場合であっても、引用発明の技術的思想が既に認定したようなものである以上、これが本願発明の構成を想到するに当たって示唆を与え得るものと解する根拠を見いだすことはできないから、被告の上記主張は採用できない。

してみると、混練を一次、二次と分割して行う構成等においてみる限り本願発明と引用発明は共通性を有するが、両者の課題及び技術的思想が異なることは明らかであるから、引用発明から本願発明の構成についての技術的示唆を受けることが可能であるとした相違点アについての審決の判断は誤りであるといわざるを得ず、取消事由2は理由がある。

(4)  そうすると、相違点アについての審決の判断は誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の取消事由について判断するまでもなく、審決は違法として、取消しを免れない。

4  よって本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)

別紙図面1

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別紙図面2

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