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東京高等裁判所 平成4年(行コ)81号 判決 1994年1月27日

埼玉県所沢市下安松一七八五番地

控訴人

児玉鉄男

右訴訟代理人弁護士

村井勝美

大久保和明

埼玉県所沢市所沢五〇〇番地

被控訴人

所沢税務署長 古平伸吾

右指定代理人

渡邉和義

時田敏彦

宮澤文雄

大前隆博

右当事者間の裁決取消等請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、昭和六〇年二月二〇日付けでした控訴人の昭和五六年分、同五七年分及び同五八年分の所得税に係る更正及び過少申告加算税の賦課決定(昭和五八年分については審査裁決により取り消された部分を除く。)を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次に記載するほかは原判決の事実摘示と同じである。

一  原判決二枚目裏末行の「同年」を「昭和六一年」と、同九枚目裏八行目の「(1)ないし(2)」を「(一)及び(二)」と、同一〇枚目表五行目の「右(一)」を「右(二)」と、同一三枚目裏八行目の「三七七二万二〇九八円」を「三七六八万六〇九六円」と、それぞれ改める。

二  控訴人の主張

1  推計課税の必要性について

所得税法は、税務職員に質問検査権限(同法二三四条)を付与し、納税者がその行使に対しこれを拒否した場合には罰則規定(同法二四二条)を設けているのであるから、被控訴人は、控訴人からの中島計司を立ち会わせてほしいとの要求に応じかねると考えた場合にも、そのことをもって調査の非協力と断定し、推計課税に着手するのではなく、調査に支障があれば、たとえば調査妨害として右権限をまず行使すべきであり、質問検査権限をなにひとつ行使することなく、調査を放棄し推計課税を行うことは不当であり、推計課税の必要性の要件を欠くというべきである。

また中島計司は、本件各更正処分の異議申立事件及び審査請求事件において、控訴人の代理人(国税通則法一〇七条)として委任状を提出し、意見を述べているのであり、被控訴人が本件調査の時点においてのみ、中島計司が第三者であることを理由として立会いを拒否したことは許されない。

2  推計課税の方法について

推計課税の必要性があっても、推計課税の方法は最も合理的なものを選択すべきところ、被控訴人は、昭和四六年、昭和五〇年、昭和五一年分の控訴人の税額について修正申告をさせており、自首申告のみにより確定したものではないから、本件における推計方法としては、本人比率法が最も合理的であり、同業者の平均所得率を用いたのは不当である。

また、被控訴人は、控訴人の収入金額につき、本件訴訟では発生主義で算定しているのに、本件各更正処分においては現金主義で算定しており、所得金額推計の基礎とした同業者の平均所得率についても、本件更正処分の時点では本件訴訟での主張とは異なる数値を用いている。本件の推計は、この点でも違法である。

3  実額反証について

事業所得の推計課税に対する実額反証の場合の立証責任は全部課税庁にあるが、特に本件の推計においては、被控訴人の主張する収入金額は推計によるものではなく、控訴人が提出した書類等から把握した実額であり、必要経費のみを推計によっているのであるから、収入金額について、実際にはそれ以上の収入があったと被控訴人が主張し、それ以上の収入がなかったことの立証責任が控訴人にあるとすることは信義則上許されず、それ以上の収入があったことの立証責任は被控訴人にある。また、必要経費についても、控訴人は実額について金額の主張をし、その証拠を提出するだけでよく、立証責任は被控訴人にあり、控訴人において、その主張の必要経費がその年度における被控訴人主張の収入金額に対応するものであることまでも立証する必要はないというべきである。

4  控訴人が必要経費の実額として従前主張した外注工賃、一般経費に一部誤りがあったので、原判決添付別表3を本判決添付別表のとおり変更する。

第三証拠

証拠関係は本件訴訟記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりである。

理由

当裁判所も、控訴人の請求は理由がないので棄却すべきものと判断する。その理由は、次に記載するほかは原判決の理由説示のとおりである。

一  原判決の訂正等

1  原判決二〇枚目裏一〇、一一行目の「変化はみられなかった。」を「みられず、その後、村山係官は、原告の妻から昭和六〇年一月一八日に第三者の立会いなしで帳簿をみせる旨の電話があったため、同日原告宅に出向いたが、原告宅には中島計司がおり、村山係官は、前同様第三者の立会いを外すように求めたが、原告らはこれを拒否したため、村山係官は原告宅から引揚げ、同日午後四時半ころ原告宅に電話を入れて、今後の調査への協力を求めたが、電話で対応した原告の妻は、第三者の立会いがなければ調査に応じることはできない旨の答えた。。」と改める。

2  同二一枚目表八行目の「原告、被告の各本人尋問の結果」を「証人村山義次の証言及び原告本人尋問の結果」と改める。

3  同二三枚目表五行目の「三七七二万二〇九六円」を「三七六八万六〇九六円」と改める。

4  同二三枚目表七行目の「一五万三五〇〇円」の次に「(甲第五四号証の一六の請求書のうち、昭和五六年一二月二五日から同月三〇日までの分)」を加える。

5  同二三枚目表末行の「一三・六六パーセント」を「一三・六九パーセント」と改める。

6  同二三枚目裏末行の「同年九月二二日請求分」を「同年九月二一日請求分(甲第五四号証の三四ないし三七)」と改める。

7  同二四枚目表二行目の「同年一〇月二一日請求分」の次に「(甲第五四号証の三八・三九)」を、同三、四行目の「五万二〇〇〇円」の次に「(甲第五五号証の二のうち昭和五七年一二月二一日、二八日分)」を、それぞれ加える。

8  同三一枚目裏九行目の「たとえば、」から三二枚目表三行目末尾までを削除する。

二  推計課税の必要性に関する主張について

所得税法二三四条は、税務署の当該職員に質問検査権を認め、同法二四二条八号で、当該職員の質問に答弁せず、又は検査を拒んだ者等に対する刑罰を定めているが、質問検査権の行使として行われる調査を納税者が拒否したために所得実額を把握できず推計課税を行うことと、右質問検査の拒否に対して刑罰権の発動をすることとは、もとより別個の問題であって、刑罰権の発動をした上でなければ推計課税をすることが許されないとはいえない。そして、前記認定事実によれば、本件については推計課税の必要性があったと認めるべきである。本件の行政不服審査手続において中島計司が控訴人の代理人に選任され、意見陳述を行ったとの事実は、控訴人の本件の調査拒否を正当なしらめるものではなく、推計課税の必要性を否定するに足りない。

三  推計課税の方法に関する主張

控訴人は、推計方法として本人比率法が最も合理的であると主張がするが、本件全証拠によるも、控訴人が昭和五六年以前の数年間の所得について帳簿書類等を整備し、これに基づき確定申告をしていた事実は認められず、その確定申告の内容が本人比率として採用すべき程度に客観的合理性と正確性を有していたとはいえないから、本人比率法による推計課税をしなかったことが不合理であるとはいえない。

また、推計の基礎とした収入金額の把握の仕方や同業者率が更正処分時と訴訟の段階とで異なっていても、そのこと自体により直ちに推計課税の違法の問題が生じることはない。そして、本件訴訟にあらわれたところによれば、被控訴人が訴訟上主張する同業者率は証拠によって裏付けられており、これを所得金額推計の基礎とすることが特段不合理であると認められないことは、原判決説示のとおりである。

四  実額反証に関する主張について

控訴人は、本件にといて被控訴人の主張する収入金額は、推計によるものではなく実額であり、その金額については当事者間に争いがないから、いわゆる実額反証としては、各年の必要経費の実額が立証されれば足り、収入金額がそれ以上にないこともしくは右主張の収入金額と必要経費実額との対応関係までを立証する必要はないと主張する。

ところで、被控訴人が本件推計課税の内容として主張する事業所得の収入金額は、調査によって把握した限りの収入金額であって、少なくともその金額の収入はあったという趣旨のものであり、それ以上の収入がなかったということまでを主張するものでないことは弁論の全趣旨により明らかであり、このような内容の推計課税を納税者が争う場合に、実額反証として立証すべき事項の範囲については、控訴人の右主張のほか様々な見解がありうるが、この点をどのように考えるにせよ、当該納税者の収支の実態が明らかにする証拠として訴訟に提出された帳簿書類等が不正確なもので信用するに足りず、これによって納税者の主張する必要経費の実額すら確認することができないときは、実額反証は成り立たず、推計を覆すことはできないというべきである。

そこで、控訴人が右証拠として提出した帳簿書類等を検討すると、控訴人が主張の必要経費実額の九〇パーセント以上を占める外注工賃については、その支払明細である仕切書控(甲第八号証の一ないし一五、第九号証の一ないし三九、第一〇号証の一ないし三九、第一一号証の一ないし二四)の中に、金額が領収書の金額や内訳金額と不一致のものなどが含まれており、外注工賃の領収書の一部(甲第一六号証の二、第二一号証の三)には支払先相手方を確認できないものもある。また、一般経費については、その資料として控訴人が提出した領収書又は請求書に家族用の支払その他控訴人の事業と関連のないものが含まれていたことは、控訴人も当審において一部認めて主張を訂正したところである。したがって、これらの証拠を正確なものと認め、これによって外注工賃や一般経費の実額を確認することは困難というほかない。

次に、控訴人が当審で提出した金銭出納帳(甲第八二号証)は、証人児玉タミ子の証言によると、事業にかかる収支の全てを洩れなく記載しているものではなく、控訴人が受領した請負代金から外注工賃当を支払った残金を控訴人の妻に渡した場合に、控訴人の妻が適宜記帳していたものであることが認められるが、その記載からみると家計費等も含まれていることが窺え、支払金額については領収書、レシート等と齟齬するものがあり、控訴人とその妻との間の金銭の授受のうち記載されていないものもあり、差引残高に連続性のない部分がある等全体として記帳の正確性を疑わしめる事情が認められるから、右金銭出納帳から控訴人の収支の実態を正確に認定することはできない。

また、控訴人が当審で提出した手帳(甲第八四号証)は、証人児玉タミ子の証言によると、仕切り書作成のため資料として記帳していたものであることが認められるが、控訴人が主張してきた外注先以外の外注先の記載があったり、何も記載のない空白期間の部分も相当あって、記載自体が正確性につき疑問を生ぜしめるものであり、また、昭和五七、五八年分については同様の手帳の提出はなく、必要経費の証拠として採用することはできない。

したがって、控訴人の提出した証拠によっては、控訴人の事業に関する収支の実態が明らかにされたとはいえず、控訴人の主張する必要経費の実額についてこれを確認するに足りる立証もないことに帰する。よって、控訴人の実額反証は結局認めることはできない。

以上によると、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 山崎潮 裁判官 杉山正士)

別表

事業所得の金額の計算

<省略>

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