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東京高等裁判所 平成4年(行コ)82号 判決 1993年3月24日

東京都港区西新橋三丁目八番三号ランデイツク新橋ビル

控訴人

株式会社ジャコス

右代表者代表取締役

栗山民毅

右訴訟代理人弁護士

槙枝一臣

高橋一嘉

篠宮晃

小林誠

東京都港区芝五丁目八番一号

被控訴人

芝税務署長 菊池衛

右指定代理人

若狭勝

津田真美

蓑田徳昭

野末英男

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度の法人税について、被控訴人が昭和六三年四月二八日付けでした重加算税の賦課決定を取り消す。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴人は、「原判決を取り消す。控訴人の昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、被控訴人が同六三年四月二八日付けでした更正処分(異議決定によって減額された後の部分)(以下「本件更正処分」という。)のうち所得金額二億七、五三二万九、一四四円を超える部分並びに過少申告加算税(異議決定によって減額された後の部分)(以下「本件過少申告加算税」という。)及び重加算税(以下「本件重加算税」という。)の賦課決定を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び当事者間に争いのない事実並びに証拠関係は、次のとおり証拠関係を加えるほかは、原判決事実及び理由欄の「第二 事案の概要」(原判決二枚目表五行目から同六枚目表七行目まで)と同じであるから、ここに引用する。

原判決六枚目表七行目の次に改行の上

「五 証拠関係

本件訴訟記録中の原審における書証目録及び証人等目録並びに当審における書証目録の各記載を引用する。」を加える。

三  争点に対する判断

1  売却された本件株式が控訴人に属するものであったかどうかについて

(一)  五八九株の購入資金は、控訴人が昭和六二年二月九日に当時の株式会社三井銀行(以下「三井銀行」という。)三田支店及び株式会社住友銀行(以下「住友銀行」という。)本店から借り受けた各五億円、合計一〇億円が充てられていること、売却された本件株式は、控訴人が三井銀行三田支店に対して右借入金の担保として差し入れた分の一部であること、その売却代金も結局は三井銀行三田支店の控訴人の当座預金口座に振り込まれたこと、以上の事実については、前記のとおり当事者間に争いがない。

右の事実によれば、本件株式は、控訴人に帰属するものであったと推認することができる。

(二)  もっとも、次の<1>ないし<3>の各前半に掲げる証拠ないし事実については、それぞれの箇所で判示するとおり右推認を左右するに足りるものとはいえない。

<1> 成立に争いのない甲第一九号証の記載中には栗山民毅(以下「栗山」という。)が昭和六二年二月九日に三井銀行に対して栗山個人の所有するマンション等について極度額を一億円、債権の範囲を銀行取引、手形債権、小切手債権とする根抵当権を設定した旨の部分があり、弁論の全趣旨によれば、同人の右抵当権の設定は本件株式の購入資金の融資を受けるためにされたものであることを認めることができるが、同号証によれば、右根抵当権の被担保債権の債務者は、控訴人であることをも認めることができ、右事実によれば、栗山は、物上保証人であって、同人が同銀行の控訴人に対する融資を当然に本件株式の購入資金に充てることはできない道理である(そのことは、控訴人の借り受ける資金が栗山個人分の株式取得にも充てられることを同銀行が承知していたか否かにかかわりのないことである。)。

したがって、同号証の右記載部分及び栗山が控訴人において同銀行から本件株式の購入資金の融資を受けるために同銀行に対して栗山個人の所有物件を担保に供したことは前記推認を妨げるものであるということができない。

<2> また、五八九株のうち七三株が江頭毅(以下「江頭」という。)の名義で、二株が栗山の名義で購入されたことについては前記のとおり当事者間に争いがないが、他方において、江頭が同月一二日に控訴人に対して取得価額に相当する金員を送付して取得したのは五八九株のうち二三株であることについても前記のとおり当事者間に争いがないから、本件においては株式の購入名義人がすなわちその帰属者を示すものであるということはできない。

したがって、五八九株のうちの一部が江頭及び栗山の名義で購入されたことをもってしても前記推認を妨げる事実であるということはできない。

<3> さらに、五八九株のうち江頭名義で取得された七三株中の五〇株が新日本証券株式会社(以下「新日本証券」という。)に対して栗山名義に書換え請求の代行依頼がされたこと、五八九株のうち一一〇株を控訴人名義で新日本証券で買い付けたことについては前記のとおり当事者間に争いがなく、原審における証人宮永鐵郎(以下「宮永」という。)の証言によれば、右一一〇株のうち五〇株も新日本証券に対して栗山名義に書換え請求の代行依頼がされたことを認めることができる。

しかしながら(株式の名義書換えによって名義人になるべき者が本件においてはその株式の帰属者であることを徴ひょうするものでないことは後に判示するとおりであるが、その点をひとまず措く。)、売却された本件株式が控訴人において三井銀行三田支店に対して五億円の借入金の担保として差し入れた五八九株のうちの二八三株の一部であることについては前記のとおり当事者間に争いがないところからすれば、本件株式は右各五〇株、合計一〇〇株とは別の株式であるといわざるを得ない。

したがって、新日本証券に対して右一〇〇株について栗山名義に書換え請求の代行依頼がされたことをもって右推認を妨げる事実であるということもできない。

(三)  ところで、前記推認に反する以下(1)、(2)の各証拠も、それぞれの箇所で判示するとおりいずれも採用することができない。

(1) 原審における証人宮永の供述中には、甲第一ないし第四号証、第六号証の二、第一一号証、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一ないし三及び第二四号証を総合すると、栗山は、五八九株のうち一〇〇株を自己の持ち株であるとして控訴人総務部長の宮永に対してその売却を指示したこと、しかし、うち一七株は新日本証券に対して名義書換え請求の代行を依頼していたため住友銀行に対しては新日本証券の発行した株券保護預り証が担保として差し入れられていて売却ができなかったので、三井銀行三田支店から控訴人が担保として差し入れていた八三株の返還を受け、栗山が控訴人からそれを借り受けて売却したというかの如き部分がある。

しかしながら、右原審における証人宮永の供述部分は、次の<1>ないし<4>の事実に照らして信用できない。すなわち、

<1> 成立(甲第五号証の三は、原本の存在とも)に争いのない甲第五号証の三、第九号証、原審における証人笹川康彦(以下「笹川」という。)の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に成立したものと認められる乙第一ないし第五号証及び右証言によれば、新日本証券本店第三企業部に勤務し、控訴人及び栗山との取引を担当していた笹川は、昭和六二年二月二七日、控訴人総務部長の宮永から、控訴人名義で売却するということで本件株式を預り、控訴人の口座に保護預りとして入品し、同年三月二日、本件株式を右口座から持ち出して売付けを成立させ、その代金二億二、一二四万八、八四〇円を三井銀行三田支店の控訴人の口座に振り込む予定でいた。ところが、笹川は、同日夕方か翌三日朝、宮永から、本件株式を栗山名義で売却したことに変更するように頼まれた。そこで、笹川は、同月三日、栗山名義で株式委託売付注文伝票を起案するとともに控訴人名義で起票していた株式委託売付注文伝票を破棄した上、右振込みを取り消し、同月五日、本件株式を持ち帰っていったん栗山の口座に入れた形を取った後、それを売り付けた代金として新日本証券本店から現金二億二、一二四万八、八四〇円を持ち出し、三井銀行日本橋支店に運んで栗山の名義で同銀行三田支店の控訴人の当座預金口座に振り込むことを依頼した(笹川が同日本件株式の右売却代金を現金で受領し、それを栗山名義で控訴人の当座預金口座に入金したことについては、前記のとおり当事者間に争いがない。)ことを認めることができること。

<2> 控訴人が右入金をもって同月七日付けで会計帳簿上控訴人が栗山に貸し付けていた金員の返済であるとの処理をし、同月二九日付けで会計帳簿上五八九株中一〇〇株分の取得価額に相当する額一億六、九七九万四、六五四円を控訴人が栗山に貸し付けたという処理をしたこと(右事実については、前記のとおり当事者間に争いがない。)。

<3> 原審における証人宮永の証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人はコンピューター及びその周辺機器の製造・販売・賃貸等を目的とし、正社員だけで一〇〇余名を擁する株式会社であることを認めることができるところ、そのような規模の株式会社であるにもかかわらず、栗山が控訴人から本件株式を借り受けたことを客観的に裏付けるに足りる証拠は全く存在しないこと。

<4> 原本が存在しかつ官署作成部分については成立に争いがなく、その余の作成部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一号証、官署作成部分については成立に争いがなく、その余の作成部分については弁論の全趣旨により真正に作成したものと認められる甲第二二号証の一、三、第二三号証の一、三、第二四号証、弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に成立したものと認められる甲第二、第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二二号証の二、第二三号証の二及び原審における証人宮永の証言によれば、かえって、栗山は、控訴人ら名義で五八九株を取得した当初からそのうちの一〇〇株については自己の株式であると認識していたことが認められること。

(2) また、甲第四号証の記載中には控訴人が同年二月一三日に栗山に対してNTT株式一〇〇株の購入資金として一億六、九七九万四、六五四円を貸し付けた旨の部分があり、甲第一〇号証の記載中にも控訴人が同月一〇日に栗山に対してNTT株式一〇〇株の購入資金として右と同額の金員を貸し付けた旨の部分がある。

そこで検討するに、原審における宮永の証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、右証言及び弁論の全趣旨によれば、甲第四号証は前記宮永が栗山との連絡のために作成していたとするノートであるが、その記載内容は右の連絡のために作成したものとしては網羅的とはいえず、かつ精粗があるばかりでなく、問題の同月一三日の貸付けの記載は、他の記載とは形式が異なり、その日の記載について目を通した後に栗山が記載するとするその指示の記載の後に頁を異にして記載されていること等その記載の外形に不審な点が多々あるものであり、甲第一〇号証は控訴人の昭和六三年一月二五日に開催された取締役会の議事録であるが、右の取締役会が開かれた日は、被控訴人が控訴人の本件事業年度の法人税の確定申告に対して調査に入った後の日であって、同号証はつまりは右調査後に作成されたものであることを認めることができるから、甲第四、第一〇号証の右各記載部分はともに採用することができないものである。

(四)  前記(一)の右推認に加えて、次の事実を認めることができる。

原審における証人宮永の証言及び弁論の全趣旨によれば、栗山は、控訴人の代表者であり、株式の六〇パーセントを所有しているところから控訴人の代表者としての地位と個人としての立場を混同し、いうなれば控訴人を私物化していることが認められる。

しかし、そうだからといって、栗山が五八九株のうち一〇〇株を真実自己の持ち株であるといえるためには、前記のとおり、単に自己がそのように認識していたというだけでは足りないのであって、少なくとも右一〇〇株を取得したことを法的に認めるに足りる客観的な事実が存在することを要するというべきである。

ところが、五八九株の購入資金が控訴人の住友銀行本店及び三井銀行三田支店からの借入金であることは前記のとおりであり、また、弁論の全趣旨によれば、栗山は、右八三株が売却された時点までに五八九株のうち一〇〇株を取得するに必要な資金の調達その他の手当てをした形跡は全く認められないから、栗山が右時点までに五八九株のうち一〇〇株を取得する余地はなかったといわなければならない。

以上(一)ないし(四)を総合すれば、売却された本件株式は、控訴人に帰属するものであったと見ざるを得ない。

2  本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定が適法かどうかについて

以上の次第で、本件株式の売却益は控訴人に帰属することになるから、控訴人の本件事業年度の所得金額は三億五、五六四万八、四二二円であり、本件更正処分における所得金額と同額であって、本件更正処分は適法にされたものであるということができる。

被控訴人は、本件更正処分をしたことに伴い、昭和六二年法律第九六号による改正前の国税通則法六五条一項及び昭和五九年法律第五号による改正後の同条二項の規定に基づいて、本件更正処分により納付すべきこととなった法人税額九九四万円(同法一一八条三項の規定により一万未満の端数切捨て。)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額四九万七、〇〇〇円を本件事業年度にかかる過少申告加算税として賦課決定したものであるから、本件過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

3  本件重加算税について控訴人に仮装隠蔽の意図があったかどうかについて

(一)  被控訴人は、控訴人は本件株式についてその法人取引を栗山の個人取引に仮装したものである旨主張する。

なるほど、控訴人が新日本証券の代行による本件株式の売付けを本件株式を取得してもいない栗山名義の口座で行ったように移し替えた上、右売付け日である昭和六二年三月二日以降の同月二九日に本件株式の取得に必要な相当額を栗山に対する貸付金として経理し、同月七日に右売却価額相当額を同人に対する貸付金を減少させる戻りの経理として処理したことは前記のとおりであり、右事実によれば、控訴人が本件株式について控訴人の売買取引を栗山の売買取引に仮装隠蔽したと推認することができるかのようである。

(二)  しかしながら、他方において、栗山が控訴人の代表者でもあり、控訴人の株式の六〇パーセントを所有していて、控訴人の代表者としての地位と個人としての立場を混同して、いうなれば控訴人を私物化していることも前記のとおりであることに加え、前掲甲第一ないし第三、第一一号証、第二二号証の一ないし三及び第二三号証の一ないし三、第二四号証及び原審における証人宮永の証言によれば、栗山は、昭和六二年二月四日の段階でNTT株を控訴人と栗山個人とで大量に買い付けるつもりでおり、その資金の融資を銀行に相談しようとしていたこと、そして、栗山は、控訴人ら名義で購入した五八九株のうち一〇〇株を自己に帰属するものであり、同年三月二日にそのうちの本件株式を売却したと思い込んでいたこと、控訴人の総務部長として経理部門も掌理していた宮永は、栗山の右のような思い込みを知っていたことを認めることができるのである。

そして、右の事実によれば、控訴人が新日本証券の代行による本件株式の売付けを本件株式を取得してもいない栗山名義の口座で行ったように移し替えた上、右売却日である同日以降の同月二九日に本件株式の取得に必要な相当額を栗山に対する貸付金として経理し、同月七日に右売却価額相当額を同人に対する貸付金を減少させる戻りの経理として処理したことも、右宮永が栗山からその認識するところの個人分の本件株式を売却するように言われてそれに合わせるためだけの趣旨で口座及び経理上の操作をしたものであると見ることもできるのである。

そうだとすると、控訴人の代表者でもある栗山に、控訴人に帰属するものをことさら栗山個人に帰属するものとして本件株式の売買取引をしたように仮装する意図ないし認識があったには無理があるといわざるを得ない。

(三)  してみれば、前記控訴人の口座移し替えや経理上の操作をもって被控訴人の主張する控訴人に本件事業年度における法人税の課税を免れるための仮装隠蔽の行為があったことを推認することは難しく、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)  したがって、被控訴人が控訴人の所為を昭和六二年法律九六号による改正前の国税通則法六八条一項に該当するとして控訴人に対して本件更正処分により納付すべきことになった法人税額三、四七一万円に一〇〇分の三〇を乗じて計算した一、〇四一万三、〇〇〇円の重加算税を賦課決定したことは違法であって、本件重加算税の賦課決定は取り消されなければならない。

四  以上のとおりであって、控訴人の本訴各請求のうち本件更正決定中の所得金額二億七、五三二万九、一四四円を超える部分及び本件過少申告加算税の賦課決定の各取消しの請求は理由がないから棄却すべきであるが、本件重加算税の賦課決定の取消しの請求は理由があるから認容すべきところ、控訴人の本訴各請求をいずれも理由がないとして棄却した原判決は、右重加算税の賦課決定の取消しの請求を排斥した限度で不当であるから、原判決を変更して右重加算税の賦課決定を取り消すとともにその余の請求を棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、九二条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下薫 裁判官 並木茂 裁判官 豊田建夫)

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