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東京高等裁判所 平成5年(う)115号 判決 1993年3月29日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中五〇日を原判決の本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人Aが提出した控訴趣意書に記載してあるとおりであるから(なお弁護人は、控訴趣意一は、事実誤認又は法令適用の誤りを主張する趣旨である旨釈明した。)、これをここに引用する。

一  控訴趣意一(事実誤認、法令適用の誤りの論旨)について

論旨は、要するに、原判決が認定した二個の窃盗は、被告人が同一の日時、場所において、継続した犯意に基づき、同一被害者から同一手段により同一の物品を窃取したもので一罪と評価すべきであるのに、原判決がこれを二罪と認めたのは、事実を誤認したか、法令の適用を誤ったものである、というのである。

そこで、検討するのに、記録によると、被告人は、(1)平成四年一一月三日午前一一時一六分ころ、原判示パチンコ店△△において、かねて廉価で購入しておいた模造コインを不正に使用して景品引換券を窃取しようと企て、右模造コイン一〇〇二枚をコイン計量用のジェットカウンター内に不正に投入して、同店支配人管理にかかる景品引換券一枚(景品交換価格二万四〇円相当)を窃取し(原判示第一の事実)、(2)右窃取に成功したことから、更に同様の方法で景品引換券を窃取しようと考え、一旦店を出て駐車場に停めてあった自分の自動車に戻り、同種の模造コイン一一〇〇枚を取り出して店内に持ち込んだ上、同日午前一一時二四分ころ、前同様の方法で景品引換券一枚(景品交換価格二万円相当)を窃取した(同第二の事実)ものと認められる。

以上の事実によると、被告人の原判示第一及び第二の各行為の間には、時間の上で約八分の隔りがある上、その間、被告人は、一旦店を出て駐車場に停めた自車から第二の犯行に使用する模造コインを取り出して店内に持ち込んでいるのであるから、右各行為を連続した一個の行為と評価することは困難である。

そして、右各行為がそれぞれ独立に窃盗の犯罪構成要件に該当することは明らかである。

右のように各行為が独立に窃盗の犯罪構成要件に該当する場合にも、各行為が(1)短時間に連続して、(2)同一の場所において、(3)同一の機会を利用して行われ、(4)被害者を同じくする、(5)同種の行為であり、(6)単一の犯意の発現たる一連の動作であると認められるような場合には、各行為を包括して一罪と評価すべきことは、最高裁判所の判例(昭和二四年七月二三日第二小法廷判決・刑集三巻八号一三七三頁)の示すところであるが、本件事案では、右判例の掲げる諸要件のうち、「同一の機会を利用した」という要件が欠けると認められる。そして、その結果、本件第一及び第二の行為を「単一の犯意の発現たる一連の動作である」と認めることにも疑問がある。

同一の機会を利用した連続的な窃盗行為の例としては、無人の倉庫から連続して多数回貨物を運び出して窃取する場合等が挙げられよう。この場合には、一定の時間、貨物の保管者等に発見されることなく容易に倉庫から貨物を運び出すことができる状態が継続し、犯人がこの状態(同一の機会)を利用したという事実が、包括一罪の成立上、重要な意味をもつと解されるのである。

これに対し、本件では、右のように犯行を容易にする特定の状態が継続し、被告人がこの同一の機会を利用したという状況は認められない。

被告人は、各行為にあたり、それぞれ、店員の監視の隙を窺い、他の客にも怪まれないよう注意して、犯行の発覚を防ぐ必要があったのであり、第一の行為が成功したから、第二の行為も成功するであろうと期待し得る状況ではなかった。現に、被告人は、第一及び第二の行為前、いずれも暫くパチスロ機の前に坐って遊客を装うなど、それぞれ発覚を防ぐ手立てを講じているのである。なお、本件被害店舗において、遊客の不正行為に対する監視が他店に比べて特に緩やかであり、被告人がこの状況を利用して本件各行為に及んだと認むべき証拠もない。

したがって、本件事案では、前記判例の掲げる諸要件のうち、「同一の機会を利用した」という要件を欠くことが明らかである。

次に、犯意の点について見ると、被告人は、第一の窃盗が成功したことから、引続き第二の窃盗を思い立ったものと推認されるので、第一の行為から「犯意を継続して」第二の行為に及んだといえないことはないが、そのことから直ちに右各行為が「単一の犯意の発現たる一連の動作」であったと認めることはできない。本件においては、犯人の主観の面でも、「同一の機会を利用する」意思を欠いていたのであるから、前記判例の趣旨に照らすと、本件各行為を「単一の犯意の発現」と認めることには疑問がある。

そうすると、被告人の本件各行為が短時間に連続して同一の場所で行われた被害者を同じくする同種の行為であるということから、直ちに、これを包括して一罪と評価すべきものとはいえない。

原判決が右各行為がそれぞれ窃盗罪に当り、両者は併合罪の関係にあると認めたのは正当である。

二  控訴趣意二(量刑不当の論旨)について<以下、省略>

(裁判長裁判官吉丸眞 裁判官木谷明 裁判官平弘行)

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