大判例

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東京高等裁判所 平成5年(う)1474号 判決

被告人 石毛義雄

〔抄 録〕

そこで、進んで、(2)の点について検討するに、関係証拠によれば、被告人は、以前宮城刑務所で服役中に吉原組組長と知り合い、同人が姜に出所後の被告人を金銭面等で支援するよう依頼したため、同人から本件の八、九年前に金銭面の援助を受けた事実があること、被告人は、平成四年三月前刑の執行を終えて刑務所を出所した後、同人に電話をかけたうえ同年四月ころ同人が金融業などを営んでいる株式会社東京商事の事務所を訪ね、同人に金銭面の援助を求めたがこれを断られたこと、そこで、被告人は同人を脅してでも金銭を入手しようと決意し、そのためには一人で行くよりも配下の者を連れて行った方が被告人の要求をのませやすいと考えて、同年六月三〇日ころ関本昌明及び秋山健二に「銭になる話」がある旨申し向けて本件犯行に誘ったこと、被告人は、姜が被告人の要求に応じないときは、同人をけん銃で脅そうと考えて真正けん銃を携帯し、同年七月一日午後三時ころ関本及び秋山を引き連れて右事務所を訪れたこと、そして、秋山を事務室に待たせたうえ、被告人と関本とで社長室に入り、被告人は同室ソファーに座って姜と対面し金銭を無心したが、同人がこれに応じようとしないので、所携のセカンドバッグの中から実包を装てんした右けん銃を取り出し引き金に指をかけて銃口をすぐ前にいる同人に向けて六、七〇センチメートルの至近距離で構え、「この前来た時頭にきたんだ。はじくぞ。金出せよ。金庫に入ってるじゃないか。一人一〇〇〇万円、三人で三〇〇〇万円出せ。三〇〇〇万円出さないと本当にはじくぞ。」などと言って、以前金銭の無心を断られたことを詰るとともに、またも金銭を要求したこと、姜は被告人にけん銃をしまうように懇願したが、被告人は、姜が動けばけん銃で撃つよう関本に命じて同人にけん銃を渡し、なおも姜に向けてけん銃を構えさせたうえ、更に右要求を続けたこと、姜は、被告人が以前けん銃強盗を犯し刑務所で服役したことを知っていたこともあって、被告人からけん銃を突きつけられたときには、金縛りにあったようになり、冷や汗が流れ、恐ろしくて生きた心地がしなかったと述べていること、そのうち、事務室が騒がしくなったので、被告人は警察に通報されたと思って直ちに関本、秋山と一緒に同事務所から逃げ出したが、なおも姜から金を取ろうとして、同日午後四時三〇分ころJR東船橋駅の公衆電話から同人に電話をかけて、警察などへ通報していないことを確認した後、「一〇〇万円できたか。四、五〇万円でも都合できないか。お前も人の子だろう。女房、子供もいるだろう。」「金を都合しなければ本当にはじくぞ。」などと言って、直前に東京商事の事務所でした脅迫をもとに更に金銭を要求したこと、被告人から右電話を受けた姜は、被告人の要求を断れば被告人がけん銃を使って自分や家族にどのような危害を加えてくるかも知れないと思い、やむなく三〇万円を出すから取りに来るようにと言ったこと、同人は警察に被害申告をすることも考えたが、被告人がどこかで見ているかも知れないし、もし警察に通報したことがわかれば、けん銃で何をされるかもわからないと思い、恐しさのため届け出をしなかったこと、そして、姜は、同月二日午後一時ころ被告人から電話で右三〇万円を振り込むべき銀行口座を指定されたので、部下の土井義夫に指示して、被告人の要求どおり、船橋市内の銀行から現金三〇万円をその指定する銀行口座に振り込ませたこと、その後数時間して被告人から金を受け取った旨の電話連絡を受けたことが認められ、これらの事実に照らせば、姜のいた社長室の隣りの事務室には東京商事の社員などがいたこと、同人が約一時間にわたって被告人らの脅迫に耐え、結局、事務所の金庫内にあった現金を交付しなかったこと、姜は、当初けん銃で撃たれると思って恐怖のどん底にあったが、腹を決めて金を出すまいと決心してからは次第に冷静さを取り戻していったことなどを考慮しても、被告人らが同人に対しけん銃を示して脅迫し金員を要求した行為は、同人の反抗を抑圧するに足りる脅迫行為と認められ、優に強盗の実行行為にあたるというべきである。

しかしながら、姜が土井に指示して現金三〇万円を被告人の指定する銀行口座に振り込ませた点については、<1>被告人らは東京商事の事務所を逃げ出した後は姜の周辺に現れていないこと、<2>被告人は同人に対する電話の中で「一〇〇万円できたか。四、五〇万円でも都合できないか。」などと言っており、そこで要求した金額は、被告人らが事務所でけん銃を使って同人を脅迫して要求した金額(三〇〇〇万円)に比べて格段に低額であること、<3>しかも、姜は右通話の中で更にそれを値切り、「三〇万円ならできるので取りに来てくれ。金を送るから送金先を連絡してくれ。」などと言っていること、<4>被告人らがけん銃で姜を脅迫したときから同人が現金を銀行口座に振り込ませるまでには二〇時間以上の時間が経過し翌日にわたっていること、<5>被告人が事務所を逃げだした後は、姜において警察官に通報しようと思えば、三〇万円を振り込むまでにいくらでも通報することはできたことなどの事実が認められ、右のようなけん銃による脅迫から金員の交付までの時間的、場所的な隔たり、同人の畏怖の程度の推移、被告人が当初要求した金額と同人が交付した金額との較差、同人が金員を送金した状況などを考慮すれば、同人が前記のとおり現金を銀行口座に振り込ませたのは、被告人からけん銃により脅迫を受けた恐怖心がまだ残存しているところに、被告人が、前示のとおり、JR東船橋駅から姜に電話をかけて重ねて脅迫したことによるもので、瑕疵ある意思に基づく交付であることは明白であるが、それと同時に、交付の時点においては、姜は被告人らからけん銃で脅迫されたときのような反抗を抑圧された状況からは既に解放されていたと認めるのが相当である。したがって、被告人らが同月一日午後三時ころから同日午後四時ころまで姜にけん銃を示して脅迫し金員を要求した行為は強盗未遂に該当し、被告人が同日午後四時三〇分ころJR東船橋駅から同人に電話をかけて脅迫し同月二日現金三〇万円を被告人の指定する口座に振り込ませた行為は恐喝に該当し、この間被告人が姜から金員を脅し取ろうとする犯意は継続していたと認められるので、右一連の行為はこれらを合わせて強盗未遂と恐喝の包括一罪と認定するのが相当というべきである。なお、所論は、姜は畏怖状態から脱して任意に三〇万円を交付したにすぎない旨主張し、被告人も、右三〇万円は姜が被告人に放免祝いとしてやると言ったのでもらった旨、これに沿う供述をするが、姜は、被告人が吉原組組長と仲違いをしたことを既に知っており、被告人に金銭面の援助をする何らの理由もなく、また、その意思もなくしていたのであり、脅迫されていたこと以外に被告人に対し金を振り込まなければならない理由は全くないのであるから、右供述は到底信用することができない。

以上のとおりであるので、原判決が、原判示第二の事実について、被告人らが姜に対しけん銃を示して脅迫し金員を要求した行為を強盗の実行行為と認定した点においては相当であるが、右行為とその後被告人が電話で同人に対し金員を要求し、これを取得した行為とを合わせて強盗一罪と認定したことは相当でなく、前者は強盗未遂に、後者は恐喝にそれぞれ該当し、その包括一罪と認定すべきであるので、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり、論旨は、右の限度で理由があるというべきである。

(早川 仙波 原)

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