東京高等裁判所 平成5年(う)742号 判決
被告人 小紫真昭 外一一名
〔抄 録〕
(一) 関係証拠を精査しても、被告人小紫、同梶浦、同鈴木であると特定できるような人物が前記集会の場にいたことを認めるに足りる証拠は見当たらず、同被告人らが右集会に出席していたことを前提とし、同被告人らが右集会の場において他の被告人らとともに被告人上羽、同池内らに同調し、本件の共謀を遂げた旨判示する原判決の事実認定には誤認があると認められる。
しかし、検察官は被告人小紫、同梶浦、同鈴木が右集会の場に居合わせて他の者らと共謀を遂げた事実が認められないとしても、同被告人らについては、本件につきいわゆる承継的共同正犯が成立すると主張するので、以下検討することとする。
(二)(1) 関係証拠によれば、二番櫓は、平成元年一〇月二一日(以下、この項においては適宜年月の記載を省略する。)午後九時前後ころから建設(増築)に取り掛かり、翌二二日午前八時ころに完成し、三番櫓は、二番櫓と同じころに構築に着手し、二二日午後二時過ぎころに完成し、四番櫓は、二二日午前一〇時ころから構築に着手し、翌二三日午前一〇時ころに完成したことが認められるところ、本件捜査に従事した司法警察員である原審証人豊田威夫の供述、同人作成の写真撮影報告書(甲一四)、その他の関係証拠によれば、右豊田警部補は補助者の安西正夫巡査とともに平成元年一〇月二二日午後〇時四四分から午後四時六分まで及び二三日午前六時三七分から午前一一時一五分までの間、本件櫓建設状況を写真撮影したこと、二二日に撮影した写真中に、被告人小紫が三番櫓及び四番櫓の構築作業に、被告人梶浦が四番櫓の構築作業に、被告人鈴木が四番櫓の構築作業に、それぞれ従事している状況が撮影されていることが認められ、少なくとも同被告人らが右写真撮影時において、本件の実行行為の一部である前記各櫓構築作業に携わったことが明らかである。
(2) ところで、本件現場に設置された各公示書は本件土地の明渡し請求権(本案)を保全することを目的とする一個の仮処分命令に基づいて右土地の現状を固定するため、右土地及びその上の構築物等について、これが執行官の占有下にあることを標示するため同一の権限に基づき、同一機会に、同一目的で設置されたものであり、本件において、個々の櫓または個々の公示書ごとに別個の封印破棄罪が成立する訳ではないから、本件土地及び二番櫓の標示を無効ならしめた行為は全体として一罪をなすものであり、このような場合には先行行為者により一部の実行行為がなされた後に、後行行為者がこれを認識し、かつ自己の犯罪遂行のため積極的に利用する意図のもとに先行行為者と意思連絡のうえ一体となって事後の行為を共同して行うときは、いわゆる承継的共同正犯として加功前の先行行為者の行為についても罪責を免れないというべきである。
(3) これを本件についてみると、次のとおりである。
ア 被告人小紫は、戦旗派の一員として東峰団結会館に常駐するなどして、同派の組織で被告人大田を責任者とする現闘団員として同派の活動に携わっていた者であること、被告人小紫は本件被告人らの中にあって被告人大田とともに本件仮処分の債務者の一人とされるものであり、本件仮処分執行の一週間程後の昭和六三年七月一三日に東峰団結会館において、右仮処分について開かれた検討会にも出席しており、その席で、出席者の中から、公示書をはがして捨ててしまおうという話もでたが、結局処罰されるとまずいから、そのままにしておいた方がよい、ということに落ち着いたという経緯があること(甲七六)などが認められ、したがって、被告人小紫は、三番櫓、四番櫓の構築作業に加わった当時、本件現場の見やすいところに設置されていた仮処分公示書の存在及び内容、東峰団結会館及びその周辺の状況等を知っていたと優に推認することができる。
イ 被告人梶浦、同鈴木は、他の共犯者らと異なり全国日雇労働組合協議会に属する者であって戦旗派に所属する者ではないが、そもそも、戦旗派においては組織内においても互いに本名を明かさないなど対外的な秘密保持に腐心していたもので、本件犯行に当たっては戦旗派の幹部や活動家らが警察官による排除活動や自己らが逮捕されるおそれもあり得ることを予測し櫓建設に携わる建設隊の他、警察力が介入した場合に備えて、これを監視したり、警察官に抵抗する役割を担った防衛隊を組織した上で本件各櫓建設を遂行したもので、右建設作業中に、同派と無縁の者が、同派の拠点であり、右各櫓が建設された同会館敷地内(なお、同会館敷地の面積はたかだか約七〇坪程度で、その周囲は高さ約三・一メートルの茶色山型鉄板等で囲まれていた。)にたやすく立ち入ること自体可能であったとは到底認めがたく、またそれらの者が、戦旗派の目的や意図するところを知らず、単に付和雷同して、同会館敷地内に入り込み櫓建設作業に加わったとも到底認めがたい(なお、かねて戦旗派の一員として同会館に常駐するなどして活動していた前記鈴木、川上らにおいても、被告人梶浦、同鈴木らを、「山谷のおじさん(被告人梶浦)」「ぎゃーさん(被告人鈴木)」などとして見知っており、川上は、デモや集会で同被告人らと一〇回位顔を合わせたというのであり、被告人梶浦、同鈴木が戦旗派所属の者としばしば行動を共にするなどしていたことが推認される)。したがって、被告人梶浦、同鈴木もまた、四番櫓の構築作業に加わった当時、本件現場の見やすいところに設置されていた仮処分公示書の存在及び内容、東峰団結会館及びその周辺の状況等を知っていたと推認するのが合理的である。
ウ そして、二番櫓は、被告人小紫、同梶浦、同鈴木において三番櫓ないし四番櫓の構築作業に加わった段階においては既に増築作業が完了していたものであるが、もともとこれら各櫓の建設は、当初から共犯者らにおいて、まず二番櫓と三番櫓の建設作業に取り掛かり、これが完成した後に、その建設に携わった者らにおいて四番櫓構築に取り掛かることが予定されていたもので、三番櫓建設が予定よりも延引し二番櫓の増築完了後も三番櫓の構築が継続していたため、二番櫓完成後被告人池内の指示により、建設中の三番櫓構築作業と平行して、二番櫓建設を終えた者らを主体に四番櫓の構築作業に着手し、三番櫓完成後は、同櫓の構築作業に携わった者らも四番櫓の構築作業に加わるなどしたもので(なお、前記写真撮影報告書の写真の撮影開始時点においては二番櫓が既に完成されていたところから、同報告書の写真中には二番櫓建設の状況は撮影されていないけれども、少なくとも被告人小紫、同前田、同岡部らが三番櫓と四番櫓双方の構築作業に従事していることが右写真により明らかであり、また、前記鈴木宏明は二番櫓ないし四番櫓すべての、川上義一は、共犯者のユキヤマ、森田等とともに二番櫓と四番櫓の各建設作業に従事したことが右鈴木、川上の供述により認められる。)、これら三つの櫓は東峰団結会館の要塞化を唱える共犯者らにおいて一体のものとして建設したものであること、二番櫓は同被告人らがその構築作業に加わった四番櫓と僅か一〇メートル足らずの至近距離に位置し、四番櫓の構築作業に従事する者は当然二番櫓の増築結果を視認できることが、前記写真撮影報告書等により明らかであることなどからすると、同被告人らにおいては、三番櫓ないし四番櫓の構築に加わった当日の午前八時ころに増築作業を終えたばかりの二番櫓について、それが本件一連の櫓構築作業の一環として建設されたものであることは優に推知し得たものと認められる。また、三番櫓の構築作業については、これに参加したと認められる被告人小紫としては、参加が作業途中の段階であったとしても、それまでの作業結果を認識できたことは明らかであるし、またこれに参加したことが証拠上認められない被告人梶浦、同鈴木についても、前記のように三つの櫓は東峰団結会館の要塞化を唱える共犯者らにおいて一体のものとしてこれらを建設したものであること、三番櫓の構築作業中に四番櫓の構築が開始されたのであり、かつ前記写真撮影報告書等によれば四番櫓の構築作業に従事する者は三番櫓の構築作業ないしその結果を視認し得ることが明らかであることなどからすると、三番櫓も本件一連の櫓構築作業の一環として建設されたものであることは優に推知し得たものと認められる。さらに、四番櫓の構築作業については、被告人小紫、同梶浦、同鈴木の参加が作業途中の段階であったとしても、同被告人らとしてそれまでの作業結果を認識できたことも明らかである。
エ 以上によれば、被告人小紫、同梶浦、同鈴木としては、本件公示書の存在及びその意味するところについての認識について欠けるところはなく、また少なくとも櫓建設作業に加わった段階においては、本件を企てた戦旗派に属する他の共犯者らの先行行為を認識し、自己の犯罪遂行のためこれを積極的に利用する意図のもとに右の者らと意思連絡のうえ、一体となって前記櫓建設の行為に及んだものと認めるに十分である。
(4) したがって、同被告人らは、いわゆる承継的共同正犯理論により、本件犯行全般につき、共同正犯としての罪責を免れることはできないと認められるから、原判決の前記事実誤認は、判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない。
(小林 中野 小川)