東京高等裁判所 平成5年(ネ)3080号・平5年(ネ)2932号・平5年(ネ)2908号 判決
主文
一 本件各控訴を棄却する。
二 訴訟費用は控訴人らの負担とする。
三 原判決の主文第一ないし第三項並びに第七ないし第九項のうち控訴人平成信用金庫及び控訴人東京商銀信用組合に対し支払いを命じる部分は、被控訴人らの請求の減縮により次のとおり変更されている。
1 控訴人平成信用金庫は、被控訴人金小禮に対し、金七三万七三八七円及びこれに対する平成三年二月二一日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人平成信用金庫は、被控訴人宋暢に対し、金四九万一五九一円及びこれに対する平成三年二月二一日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 控訴人平成信用金庫は、被控訴人宋實に対し、金四九万一五九一円及びこれに対する平成三年二月二一日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 控訴人東京商銀信用組合は、被控訴人金小禮に対し、金六六万六三九六円及びこれに対する平成三年二月二一日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 控訴人東京商銀信用組合は、被控訴人宋暢に対し、金四四万四二六四円及びこれに対する平成三年二月二一日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 控訴人東京商銀信用組合は、被控訴人宋實に対し、金四四万四二六四円及びこれに対する平成三年二月二一日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
理由
一 当裁判所も、次に記載するほか原判決と同一の理由により、被控訴人らの請求は原判決(更正決定を含む。)が命じた限度(附帯請求については被控訴人らが当審において請求を一部減縮した限度)で認容するべきものと判断する。
1 控訴人岩本の当審における主張について
控訴人岩本は、徳山秋子には収入がなく、本件各預金は控訴人岩本が徳山秋子に交付した金員を資金としてされたものであると主張する。しかし、控訴人岩本がその主張の金員を徳山秋子に交付していたとの事実を裏付ける証拠はなく、原判決挙示の証拠によれば、徳山秋子は、若い頃は夫とともに家業に従い、夫死亡後はその事業を引き継いでこれに当たり、またその後病院に住み込みで働いていたこともあったものであり、老後や万一の時に備えてその収入の中から蓄えておくこともあったものと認められる。そして、原判決別表3の預金について、これを徳山秋子の遺産としてこれを控訴人岩本、被控訴人徳山文子などの相続人間で分配する旨記載した念書(丙一)が作成されていること(控訴人岩本及び被控訴人徳山文子の供述により右念書は真正に作成されたものと認められる。)、及び徳山秋子以外の名義人として控訴人岩本の名が使われず、被控訴人ら及び長谷川学の名義が使われていること等原判決認定の諸事実をもとに判断すると、本件各預金は、徳山秋子の所有であったものと認定するべきものである。控訴人岩本が自己の所有の根拠とするその他の主張は、右に認定した事実関係に照らして、採用することができない。
控訴人岩本は、控訴人岩本及びその娘が原判決別表4の預金の払い戻しを受けた事実はないと主張する。しかし、原判決の認定するように、その預金の払い戻しを受けた者の署名は、控訴人岩本の娘の字と酷似しており、右の預金の払い戻しの当時は、徳山秋子の印鑑を控訴人岩本が所持していたものであり、同人あるいはその関係者以外に右の印鑑を利用する可能性があったとは認めがたい。これらの事実に照らすと、原判決別表4の預金を控訴人岩本が受領したとの認定を動かすことはできない。
控訴人岩本は、葬儀費用の立替金債権をもって、本件請求債権との相殺をするというが、本件請求債権は不法行為に基づく損害賠償債権であるから、これとの相殺は許されないものである(民法五〇九条)。
2 控訴人平成信用金庫の当審における主張について
徳山秋子が娘の控訴人岩本と親しい関係にあったというだけでは、預金の帰属主体を控訴人岩本と判断することはできないのであり、原判決別表2の預金の名義人が被控訴人徳山暢及び被控訴人徳山實となっていたことを考慮すると、控訴人岩本から払い戻しの請求があったときに、預金の権利関係を調査の上払い戻しに応じるべきであったことは否定できない。そして、証拠(≪省略≫、証人近藤孝志の証言)によると、原判決別表2の預金については、平成元年八月に被控訴人徳山文子の代理人弁護士から東邦信用金庫に対して、権利主張の前提となる正式の問い合わせがなされていたこと、このため、同金庫では、控訴人岩本から解約申入れを受けた際、トラブルの発生を懸念して、預金名義人である被控訴人徳山暢及び被控訴人徳山實名義の普通預金口座に入金してもらうとともに、これを自由に引き出せないようにする注意コードを設定したが、控訴人岩本から強硬に払い戻しをもとめられたため、これに応じたものであることが認められ、この経緯に照らせば、同金庫が右預金の払い戻しについて無過失であったとは到底いいがたい。したがって、この点に関する控訴人平成信用金庫の主張は、採用できない。
3 控訴人東京商銀信用組合の当審における主張について
徳山秋子の生前に控訴人岩本の娘が徳山秋子の預金を払い戻した当時は、控訴人東京商銀信用組合の担当者は預金の権利者に電話で確認して処理していたのであり、原判決別表1の預金の改印払い戻しについても同様に処理したのであれば、過失を認めることはできないが、本件の場合は、徳山秋子は死亡しており、本人確認はなかったのであるから、単にその孫に当たる人物から申出があったということのみで、十分な裏付資料なしに改印払い戻しに応じたのは、注意を尽くしたとはいいがたく、債権の準占有者への正当な弁済とはいえないものであり、控訴人東京商銀信用組合の主張は採用することはできない。
4 金銭債権の不当弁済の場合における弁済受領者に対する損害賠償請求について
債権について正当な権利者でない者が弁済を受けたときは、その弁済が債権の準占有者に対する弁済に当たらない限り、債権が消滅せずに存続する。しかし、この場合でも、正当な権利者がその債権の内容を実現するについて、裁判機関による判定を要することとなるなど、さまざまな障害が生ずることとなるのであり、また、債務者から現実に弁済を受けうることが常に保証されているものではない。そのように債権実現の可能性が低下するのは、ひとえに正当な権利がないのに弁済を受けた弁済受領者の不法行為によるのである。そして、預金債権のような通常の金銭債権については、その債権の帰属等に争いがあって債権が不当に弁済された場合に、帰属等に争いのある当事者間で、当該弁済による金銭的利益の帰属を是正するように問題が解決されれば、弁済をした債務者に重ねて履行させる実質上の理由はなく、不当な弁済を受けた弁済受領者が受領額を正当な権利者に返還することよりも、弁済をした債務者をして重ねて履行させることを常に優先させるべき理由もない。不当な弁済を受けた弁済受領者が、正当な権利者の権利主張に対し、まず本来の債務者から弁済を受けるべきことを主張して自らの責任を免れることができるとするのは、特段の事情でもない限り、合理性を欠く。以上の点を総合考慮すると、金銭債権が不当に弁済された場合には、正当な権利者は、弁済が無効とされる結果として債権が消滅しないものとされるときでも、権利なくして弁済を受けた弁済受領者を相手方として、不当に弁済を受けた額に相当する損害賠償の請求をすることを妨げられないものと解すべきである。この結果は、債務者に弁済資力があるからといって、直ちに左右されるものではない。
したがって、控訴人である金融機関の弁済が無効とされる預金については、これらの控訴人に対する預金債権の請求と、控訴人岩本に対する損害賠償請求のいずれも認容すべきものである。
二 したがって、原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却するべきである。
(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 淺生重機 杉山正士)