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東京高等裁判所 平成5年(ネ)313号 判決 1994年1月27日

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一、申立て

控訴人代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、控訴人から金四二七四万五四八四円の支払を受けるのと引換えに、別紙株券目録記載の株券(以下「本件株券」という。)を引き渡せ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二、事案の概要

本件は、被控訴人に対して譲渡担保として株式を譲渡しその株券を交付したと主張する控訴人において、被控訴人に対し、その被担保債権につき控訴人から弁済を受けるのと引換えに右株券を返還するよう求めたものである。

一、控訴人の主張

1. 昭和五五年二月一六日、被控訴人は訴外太冨士株式会社(以下「太冨士」という。)に対して金二一二五万円を貸し付け(以下「本件貸金」という。)、当時太冨士の代表取締役であった控訴人は、同日、被控訴人との間で、本件貸金を担保する目的で本件株券に係る株式(以下「本件株式」という。)を被控訴人に譲渡する契約(以下「本件譲渡担保契約」という。)を締結し、本件株券を被控訴人に交付した。同契約においては、受戻しの期間は五年を目途とするが、必要に応じ控訴人、被控訴人で協議して変更できるものとされ、受戻しについては、一株当たり一二五円として年一二パーセントの利息を付するとされていた。

2. 本件株式を受け戻すについて、控訴人が被控訴人に対し支払うべき本件譲渡担保契約における被担保債権の平成二年九月一〇日現在の額は、本件貸金元金二一二五万円及び利息二六九四万九六五〇円(昭和五五年二月一七日から平成二年九月一〇日まで)の合計額から控訴人が取得すべきであった昭和六二年から平成二年九月一〇日までの間の本件株式の配当金五四五万四一六六円を控除した四二七四万五四八四円である。

3. よって、控訴人は被控訴人に対し、控訴人から右金員の支払を受けるのと引換えに本件株券を返還するよう求める。

二、被控訴人の主張

昭和六〇年夏ころ、被控訴人と控訴人は協議し、控訴人には本件株式の受戻しの権利はなく、被控訴人から受けるべき清算金もない旨が合意され、これにより、本件株式に関する控訴人、被控訴人間の法律関係は全て解決済みとなった。

第三、判断

一、控訴人は、本件において、譲渡担保として被控訴人に移転した本件株券について、被担保債務の弁済と引換えにその返還を請求している。

しかし、債権者は被担保債務が弁済されない限り譲渡担保の目的物を返還することを要しないものであり、右債務が弁済されて初めて右目的物を返還する義務が発生するのであるから、譲渡担保においては、債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対して先履行の関係にあるものであって同時履行の関係に立つものではないというべきである。したがって、控訴人の本訴請求は失当であって、その余の点について判断するまでもなく認容する余地のないものである。

二、よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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