東京高等裁判所 平成5年(ネ)3824号 判決 1995年12月07日
東京都世田谷区用賀四丁目一〇番一号
(旧住所 東京都港区北青山一丁目二番三号)
控訴人
新キャタピラー三菱株式会社
右代表者代表取締役
佐久間甫
長崎県長崎市深堀町一丁目二番地一
控訴人
三菱長崎機工株式会社
右代表者代表取締役
松上廷次
右両名訴訟代理人弁護士
石井芳光
同
松丸渉
同訴訟復代理人弁護士
戸井田哲夫
同輔佐人弁理士
西良久
神奈川県茅ヶ崎市白浜町三番二二号
被控訴人
株式会社技奉工業
右代表者代表取締役
水野勝男
東京都中央区京橋二丁目一一番一号
被控訴人
真企機工株式会社
右代表者代表取締役
須藤猛
右両名訴訟代理人弁護士
玉井眞之助
主文
一 控訴人らの控訴をいずれも棄却する。
二 当審で拡張された控訴人新キャタピラー三菱株式会社の被控訴人真企機工株式会社に対する請求を棄却する。
三 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人株式会社技奉工業(以下「被控訴人技奉工業」という。)及び被控訴人真企機工株式会社(以下「被控訴人真企機工」という。)は、原判決別紙物件目録記載のイ号製品(チップコンベア及び無端リンクチェン)を製造し、販売し、保守修理してはならない。
3 被控訴人技奉工業は、控訴人新キャタピラー三菱株式会社(以下「控訴人キャタピラー」という。)に対し、金七一三万六七六〇円及びこれに対する平成三年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人真企機工は、控訴人キャタピラーに対し、金三九五万四五四〇円及びこれに対する平成七年六月二四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。(当審での拡張請求)
5 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
6 仮執行宣言
二 被控訴人ら
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 控訴人らの請求の原因
1 控訴人キャタピラーは、次の(一)及び(二)の特許権(以下、両者を併せて「本件特許権」といい、その各特許発明を「本件発明(一)」「本件発明(二)」という。)を有している。
(一)(1) 特許番号 第一三九〇〇七五号
(2) 発明の名称 チップコンベア
(3) 出願日 昭和五五年一一月四日
(4) 公告日 昭和六一年一二月五日
(5) 登録日 昭和六二年七月二三日
(二)(1) 特許番号 第一六一〇四一六号
(2) 発明の名称 多目的形コンベア装置
(3) 出願日 昭和五七年五月七日
(4) 公告日 平成二年五月三〇日
(5) 登録日 平成三年七月一五日
2 控訴人三菱長崎機工株式会社(以下「控訴人長崎機工」という。)は、本件特許権について独占的な通常実施権を有している。
3 本件発明(一)及び(二)の各特許出願の願書に添付した明細書の各特許請求の範囲の記載は、原判決添付の各特許公報の該当欄記載のとおりである。
4 本件発明(一)及び(二)の構成要件は、次のとおりである。
(一) 本件発明(一)
A 長短の直管、曲管、折曲管を金属加工機械群のレイアウトに応じ連結し、金属加工機内或いはその近傍を別々に順次通過する二つの蛇行管路を敷設し、
B 上記両蛇行管路の各一端部を斜め上向きにして上下に揃え、各他端部も斜め上向きにし、且つ前記一端部で下になった管路を上、上になった管路を下にして上下に揃えると主に、
C 各端部の上になった一方の管路の先方には動力で駆動される駆動ローラ、他方の管路の先方には従動ローラを配置し、
D 卵形リンクを交互に縦向き、横向きに連絡すると共に適宜の間隔で上記両蛇行管路内を移動できる大きさの円形ブレードの縁部を取付けたリンクチェンを両蛇行管路内に一連に通して無端に連結し、
E この無端リンクチェンを上記駆動ローラと従動ローラに掛けて前記両蛇行管路内でほぼ最短コース沿いに張設し、上記駆動ローラにより両蛇行管路の各端部で下に重なった管路から出て上の管路に入る様に前記無端リンクチェンを循環動させる
F ことを特徴とするチップコンベア。
(二) 本件発明(二)
A 無端状の管形通路中に、卵形リンクを交互に向きを90度変えて無端に連結し、一方向に循環駆動されるチェンを貫通し、このチェンの循環駆動により管形通路中で物質を搬送する多目的形コンベアにおいて、
B 上記管形通路を直管、曲管をつなぎ、上下、左右及びその複合方向に屈曲させて構成し、上記管形通路中には上下に揃って斜上向きに固定された上端開放の二本の直管を設けると共に、
C 上記両直管の上端の先方に、前記チェンを懸け、下側の直管の上端から出たチェンを上側の直管の上端内部に導く誘導輪を夫々配置し、
D 上記チェンにはリンクの複数個置きに、前記通路部材の管の内径よりも直径が少し小さい円板の周縁部を一個所で固定した
E ことを特徴とする多目的形コンベア装置。
5 控訴人キャタピラーは、次の意匠権(以下、「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している。
(一) 登録番号 第六一〇五三五号
(二) 出願日 昭和五六年四月六日
(三) 登録日 昭和五八年七月二九日
(四) 意匠に係る物品 搬送チェン
(五) 登録意匠 原判決添付意匠公報記載のとおり
6 被控訴人らは、イ号製品を製造し、販売し、保守修理している。
7 イ号製品の構造は、原判決別紙物件目録によれば、次のとおりである。
a 往路の蛇行管路と復路の蛇行管路とからなる搬送管路が敷設されているチップコンベアである。この往復の蛇行管路は、並行する一対の長短の直管と中途箇所でそれぞれと連設された略L状の曲管と、これらと接続されて水平に延びる直管をU字状の折曲管で連設しており、この折曲管部分を折返し部分としている。この折返し部分側の上面にはシュートが配置されており、水平に延びる直管の上面に穿設された開口部からチップ等の被搬送物が蛇行管路内に投入されるようになっている。
b この蛇行管路は、端部側を斜め上向きに立ち上がらせてから並列にして水平方向に揃えている。
c 蛇行管路の並列する端部の先方には、動力源となるモータで駆動される駆動ローラを横向きに配置している。
d 蛇行管路内には、卵形リンクを交互に縦向き、横向きに連結する無端リンクチェンを設け、このリンクチェンに適宜の間隔で上記両蛇行管路内を移動できる大きさの略円形で広面が外方に湾曲して略球面状としたバケット型ブレードをその縁部で固着している。
e このように形成された無端リンクチェンは、前記駆動ローラに掛け渡され、蛇行管路内をほぼ最短コースに張設されて循環動される。
8 次に述べるとおり、イ号製品は、本件発明(一)又は本件発明(二)の技術的範囲に属するものである。
(一) 本件発明(一)及び(二)は、蛇行するコンベアの管路内に無端リンクチェンが最短距離となるよう張設して循環動させ、チェンが管路に対して斜めに張設された場合に、ブレードのチェンとの連結部分を除く円形の外周壁が断面円形の管路内壁に衝合し、これにガイドされて、チェンを軸としてその外周方向に旋回してチェンを捻り、また捻られたチェンの復帰力でブレードが逆方向に旋回しながら管路内に案内輪や誘導輪を必要とせずにコーナーを乗り越えてコンベアの管路内を循環走行して被搬送物を搬送する点に特徴がある。この点において、イ号製品も同一の特徴を有し、蛇行管路の端部の配置とチェンの折り返し方向の点を除いて、本件発明(一)及び(二)と同一の構成を具備し、かつ、本件発明(一)及び(二)の奏する中核的な作用効果をすべて奏するものである。
(二) 本件発明(一)の構成要件B及びE、本件発明(二)の構成要件B及びCは、蛇行管路・管形通路の端部を上下に揃え、無端リンクチェンの反転を上下に行って同チェンを循環動させる構成であるのに対して、イ号製品は、蛇行管路の端部を左右に水平に揃え、無端リンクチェンの反転を左右に行って同チェンを循環動させる構成である点で差異があるが、右差異は、単なる設計上の微差あるいは均等のものである。すなわち、本件発明(一)及び(二)においては、二本の蛇行管路・管形通路の配置に当たり、一方の蛇行管路・管形通路から排出した被搬送物が他方の蛇行管路・管形通路に入らないようにする必要があるが、本件発明(一)及び(二)は、上下に揃って斜め上向きに固定された上端開放の二本の直管の端部を上下に平行に揃えて、無端リンクチェンの反転を上下に行っている。これに対して、イ号製品においては、上下に揃って斜め上向きに固定された上端開放の二本の直管を設け、上端開放の直管の端部を左右に平行に揃えて、無端リンクチェンの反転を左右に行っている。しかして、直管を斜め上向きに配置して被搬送物の逆戻りを防止しながら、一方の直管から排出された被搬送物を他方の直管に入らないようにするという技術的要請を充足する点で、本件発明(一)及び(二)の右構成とイ号製品の右構成とは変わるところがない。また、無端リンクチェンの循環動を、本件発明(一)及び(二)のように縦方向になるように下から上向きに反転させる構成を、イ号製品のように横向きに左右の一方から他方に反転させる構成とすることは、容易に推考することができ、かつ、置換可能な事項であるということもできる。
更に、イ号製品は、無端リンクチェンを横向きで反転させる構造であるから、駆動ローラから無端リンクチェンが外れやすい欠点を有するだけで、縦方向に反転する場合に比べて特段の効果がないので、本件発明(一)又は(二)を不完全利用したものにすぎない。
なお、控訴人キャタピラーは、本件発明(一)及び(二)の出願過程において、蛇行管路・管形通路を「上下」に揃える構成に補正したが、右構成は公知であって、この構成に特徴があって補正したものではなく、「左右」に揃える構成を意識的に除外するためのものではない。
(三) 本件発明(一)の構成要件Dの「円形ブレード」、本件発明(二)の構成要件Dの「円板」は、蛇行管路の内面と衝合し、チェンを軸として旋回可能となるように外周形状が円形となっていればよいところ、イ号製品のブレードは、搬送チェンとの連結部分が僅かに切り欠かれているだけで外周形状が略円形であるから、蛇行管路の内面と衝合し、チェンを軸として旋回可能であり、本件発明(一)の構成要件Dの「円形ブレード」、本件発明(二)の構成要件Dの「円板」の要件を充足する。また、イ号製品のブレードは、後面が緩やかな凸球面となっているが、これは、右の作用と有機的な関連のない付加的な構成にすぎない。
(四) 本件発明(一)の構成要件Cは、二つの蛇行管路の各端部の上になった一方の管路の先方に駆動ローラ、他方の管路の先方に従動ローラを配置して無端リンクチェンを循環させているのに対し、イ号製品は、無端リンクチェンの循環時の折り返しのために、従動ローラに代えてU字状の曲管を使用している点で差異があるが、従動ローラに代えてU字状の曲管を使用することは、本件発明(一)の特許出願時に自明で、容易に置換可能な技術である。
(五) イ号製品のその余の構造は、本件発明(一)及び(二)のその余の構成要件をいずれも充足する。
9 次に述べるとおり、イ号製品の意匠(以下「イ号意匠」という。)は、本件意匠に類似している。
(一) 本件意匠の基本的構成態様は、卵形リンクを縦向きと横向きに交互に直交して連結してなるチェンに、一定間隔毎に、少なくともチェンとの連結部分を除く外周が円形のブレードを、その広面がチェンの延出方向と直交するように起立状に配置し、そのブレードの周縁部に横向きのリンクを嵌合する嵌合凹部を一対に設けて所定の横向きのリンクをその中央で嵌合凹部に嵌込み固着して、ブレードの縁部にリンクを一体に連結した形態からなっている。
本件意匠の具体的構成態様は、ブレードがその広面を偏平面とする円板の形態となっている。
(二) イ号意匠の基本的構成態様は、卵形リンクを縦向きと横向きに交互に直交して連結してなるチェンに、一定間隔毎に、少なくともチェンとの連結部分を除く外周が円形のブレードを、その広面がチェンの延出方向と直交するように起立状に配置し、そのブレードの周縁部に横向きのリンクを嵌合する嵌合凹部を一対に設けて所定の横向きのリンクをその中央で嵌合凹部に嵌込み固着して、ブレードの縁部にリンクを一体に連結した形態からなっている。
イ号意匠の具体的構成態様は、ブレードの外周形状は底部が一部切り欠かれた略円形からなっており、このブレードの広面はそのほぼ中央がチェンの搬送方向に対して後方向へ向かって球面状に湾曲した面となっており、この切り欠かれた面に横向きの卵形リンクを嵌合する一対の嵌合凹部が設けられた形態からなっている。
(三) 本件意匠に係る搬送チェンは、パイプを繋げて任意の方向に蛇行して延びるパイプコンベアにおいて、チェンを軸としてブレードを旋回させながらパイプコンベアのコーナー部分を乗り越えて循環して走行させる技術的機能及び使用態様を有するものであり、コンベア内に張設されたチェンを牽引し、ガイドする誘導輪を設ける必要がないものである。このように本件意匠の搬送チェンは、機能上、チェンを軸としてブレードが旋回するため、ブレードの端部にチェンが連結されており、チェンとの連結部分を除くブレードの外周縁は、パイプコンベアの内壁と接して旋回できるように円形に設定されているのであって、この点に特徴があり、意匠の創作性が高く現れているのである。そして、イ号製品も同様の特徴を有するものである。
このような技術的機能及び使用態様を有する形状の搬送チェンの意匠は、本件意匠の意匠登録出願前には存在しなかったものである。
被控訴人らの援用する特開昭五二-二七一七八号公報の第3図及び第4図、特公昭五〇-四五八二号公報の第3図及び第4図に記載されている搬送チェンは、いずれもチェンを軸としてブレードを旋回させるための形状をしておらず、その使用状態において、パイプコンベア内を同一姿勢で平行して循環走行するだけである。
したがって、この種の搬送チェンを購入しようとする取引者及び需要者にとって、搬送チェンとして蛇行するパイプコンベア用に使用でき、チェンを軸にブレードを旋回させてパイプコンベアのコーナー部分を乗り越えて循環して走行できるか否かが、パイプコンベアのコーナー部分の構造として何も設けなくてよいのか、ブレード反転用の案内輪を必要とするのかということと関連するので、ここに重大な注意を払うものである。そのために、ブレードの端部にチェンが連結される配置形状とチェンとの連結部分を除くブレードの外周が円形である形状に取引者及び需要者は強く注意を引きつけられることになるのであって、本件意匠の要部は、その基本的構成態様にあるものというべきである。
そして、本件意匠とイ号意匠とは、基本的構成態様において同一である。
(四) 本件意匠とイ号意匠とは、<1>横向きのリンクを嵌合する嵌合凹部を形成するブレードの縁部が、円弧状か、直線に切り欠かれているかの点、<2>ブレードの広面が偏平面か、湾曲面となっているかの点で差異がある。
<1>の点について、使用に際しては、チェンとブレードの連結箇所の形状の差異は、作用効果上の差異をもたらすものではない。また、ブレードの端部の切欠形状は、ブレードの端部に位置しており、チェンが連結されること、特に横向きの卵形リンクが嵌合凹部に嵌め込まれてチェンが重なるため、需要者間において注意を強く引きつけられる箇所でもない。<2>について、ブレードの広面が偏平か、湾曲してバケット型となっているかの差異は、搬送チェンとしての本来の機能が果たされることを前提とした問題であって、本件意匠及びイ号意匠に係る搬送チェンの機能からすると付随的なものにすぎず、かつ、ブレードの形状が偏平であることも、球面状に湾曲した面となっていることも広く行われている周知の形状であるから、これらの形状の置き換えは取引者及び需要者の注意を強く引くものではない。
(五) 右のとおり、本件意匠とイ号意匠とは、意匠の要部である基本的構成態様において一致し、差異点は微差にすぎないから、両意匠は類似するものである。
10(一) 被控訴人技奉工業は、本件特許権(本件発明(二)については仮保護の権利)又は本件意匠権を侵害するものであることを知り、又は過失によりこれを知らないで、イ号製品を平成元年一月ころから平成二年一二月ころまでの間に、原判決添付「パイプコンベア・パイコン21販売明細一覧表(平成元年~2年)」記載の各販売先会社に対して製造販売し、それらの販売推定合計額は金一億一八九四万六〇〇〇円である。
被控訴人技奉工業がイ号製品を製造販売したことによって、控訴人キャタピラーが被った損害額は、右販売推定合計額に対して本件特許権と意匠権との平均六パーセントの実施料相当率を乗じて得られる金七一三万六七六〇円を下回ることはない。
(二) 被控訴人真企機工は、本件特許権(本件発明(二)については併せて仮保護の権利)又は本件意匠権を侵害するものであることを知り、又は過失によりこれを知らないで、イ号製品を平成三年一月ころから平成五年一二月ころまでの間に、別紙「パイプコンベア・パイコン21販売明細一覧表(平成3年~5年)」記載の各販売先会社に対して製造販売し、それらの販売推定合計額は金六五九〇万九〇〇〇円である。
被控訴人真企機工がイ号製品を製造販売したことによって、控訴人キャタピラーが被った損害額は、右販売推定合計額に対して本件特許権と意匠権との平均六パーセントの実施料相当率を乗じて得られる金三九五万四五四〇円を下回ることはない。
なお、当審での控訴人キャタピラーの被控訴人真企機工に対する損害賠償の追加請求は民事訴訟法二三二条の要件を具備するものであるから、適法な訴えの変更として許されるべきである。
11 よって、控訴人キャタピラーは被控訴人両名に対し、本件特許権及び意匠権に基づき、控訴人長崎機工は被控訴人真企機工に対し、本件特許権の独占的通常実施権に基づき、それぞれ、イ号製品の製造、販売、保守修理の差止めを求め、控訴人キャタピラーは、被控訴人技奉工業に対し、損害賠償金七一三万六七六〇円及びこれに対する平成三年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による民法所定の遅延損害金、被控訴人真企機工に対し、損害賠償金三九五万四五四〇円及びこれに対する平成七年六月二四日から支払済みまで年六分の割合による商法所定の遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否及び被控訴人らの反論
1 請求の原因1は認める。
2 同2は不知。
3 同3ないし7は認める。
4 同8は争う。
(一) 本件発明(一)の構成要件Bは、「両蛇行管路の各一端部を斜め上向きにして上下に揃え、各他端部も斜め上向きにし、且つ前記一端部で下になった管路を上、上になった管路を下にして上下に揃える」こと、また、本件発明(二)の構成要件B及びCは、「上下に揃って斜上向きに固定された上端開放の二本の直管を設けると共に、上記両直管の上端の先方に、前記チェンを懸け、下側の直管の上端から出たチェンを上側の直管の上端内部に導く誘導輪を夫々配置」することを、それぞれその必須の構成としており、いずれも、両蛇行管路又は管形通路の両端部を斜め上向きにして上下に揃える構成であるのに対し、イ号製品は、「両蛇行管路の端部を並列にし、水平方向に同一の高さで揃えている」ものであって、本件発明(一)の構成要件B、本件発明(二)の構成要件B及びCを充足しない。
なお、控訴人らは、前記相違点について、設計上の微差あるいは均等であると主張するが、本件発明(一)の特許出願が拒絶査定された後、審判請求時の補正可能期間内に補正を行い、それまで、蛇行管路の各一端部の配置関係については、特段の制限をしていなかったところ、前記のとおり「両蛇行管路の各一端部を・・・上下に揃え」ることを本件発明(一)の構成要件としたものであり、また、審判請求理由補正書において、蛇行管路の一端部を上下に揃えたことにより、「斜め上向きの上下に重なった管路の下の管路の端部から切粉を排出するため、上に重なった管路から排出する場合に排出した切粉が下の管路に入ることはありません。又、それを防止するために上の管路を下の管路よりも長く斜めに上向きに突出させる必要もありません。」として、管路の端部を上下に限定したことによる作用効果にも言及しているのであり、更に、本件発明(二)の明細書においても、右構成による作用効果を明確に述べているものであるから、控訴人らの右主張は失当である。
(二) 本件発明(一)の構成要件Cは、「各端部の上になった一方の管路の先方には動力で駆動される駆動ローラ、他方の管路の先方には従動ローラを配置」するものであるのに対し、イ号製品は、駆動ローラを横向きに配置しているが、従動ローラを配置しておらず、本件発明(一)の構成要件Cを充足しない。
(三) 本件発明(二)の構成要件Cの「下側の直管の上端から出たチェンを上側の直管の上端内部に導く誘導輪を夫々配置」するとの構成は、「夫々配置し」との記載から明らかなように、誘導輪が、一つではなく、二つ配置されるものであるが、イ号製品は、駆動ローラのみを具備しているが、このような二つの誘導輪を具備していない。
(四) 本件発明(二)の構成要件Dは、「管の内径よりも直径が少し小さい円板」であるのに対し、イ号製品のブレードは、バケット型でチェンとの連結部分を切り欠いているものであり、この要件を充足しない。
5 同9は争う。
(一) 本件意匠の卵形リンクチェンは、極めてありふれた形状であるから、本件意匠の要部は、ブレードの形状、ブレードとチェンの取付方法にある。
本件意匠のブレードは、その広面が平板な板状であるのに対し、イ号製品のバケット型ブレードは、その広面がチェンの搬送方向に対して、後方向に向かって球面状に湾曲した面となっている。また、本件意匠のブレードは円形の外周形状であるのに対し、イ号意匠は、バケット型のブレードの外周形状の一部が切り欠かれた略円形からなっている。
このように、両者は、その要部において明確に相違している。
(二) 控訴人キャタピラーは、チェンとの連結部分を縁部に設けてその連結部分を除いたブレードの外周形状を円形とする点に従来にない意匠の創作性が高く現れているといえる旨主張するが、特開昭五二-二七一七八号公報の第3図及び第4図、特公昭五〇-四五八二号公報の第3図及び第4図に示されている意匠によれば、本件意匠は、外周形状が円形で偏平な円板をブレードとして用い、かつ、そのブレードの下側の縁をチェンに取り付ける形状を組み合わせた点に特徴があるというべきである。
6 同10(一)、(二)の損害額については争う。
当審においてなされた控訴人キャタピラーの被控訴人真企機工に対する損害賠償の追加請求は、訴訟手続を著しく遅延させるものである上、審級の利益を侵害するものであるから、不適法な訴えの変更であって許されるべきではない。
第三 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりである。
理由
一 請求の原因1(控訴人キャタピラーが本件特許権を有していること)、3(本件発明(一)及び(二)の特許請求の範囲の記載)、4(本件発明(一)及び(二)の構成要件)、5(控訴人キャタピラーが本件意匠権を有していること)、6(被控訴人らが、イ号製品を製造し、販売し、保守修理していること)、及び7(イ号製品の構造)については、いずれも当事者間に争いがない。
そして、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二八号証の一・二によれば、請求の原因2の事実(控訴人長崎機工が本件特許権について独占的な通常実施権を有していること)が認められる。
二 そこで、イ号製品が本件発明(一)又は本件発明(二)の技術的範囲に属するか否かについて検討する。
1(一)本件発明(一)は、「両蛇行管路の各一端部を斜め上向きにして上下に揃え、各他端部も斜め上向きにし、且つ前記一端部で下になった管路を上、上になった管路を下にして上下に揃え」(構成要件B)、「上記駆動ローラにより両蛇行管路の各端部で下に重なった管路から出て上の管路に入る様に前記無端リンクチェンを循環動させる」(構成要件E)との構成、本件発明(二)は、「上記管形通路中には上下に揃って斜上向きに固定された上端開放の二本の直管を設けると共に」(構成要件B)、「上記両直管の上端の先方に、前記チェンを懸け、下側の直管の上端から出たチェンを上側の直管の上端内部に導く誘導輪を夫々配置し」(構成要件C)との構成をそれぞれ有するものである。
これに対し、請求の原因7及び原判決別紙物件目録に記載のとおり、イ号製品は、適宜の間隔でバケット型ブレードがその縁部で固着されている無端リンクチェンが、動力源となるモータで駆動される駆動ローラに掛け渡され、蛇行管路内をほぼ最短コースで張設されて循環し、同管路内の被搬送物を右バケット型ブレードで押しながら、端部まで搬送し、排出するものであるが、蛇行管路の端部が斜め上向きに立ち上がり、その後水平方向に並列に設置され、また、右端部の先方には、駆動ローラが横向きに配置されていて、無端リンクチェンが、水平方向に並列に設置されている蛇行管路の一方の端部から出て、他方の端部へ入るように循環動する構造となっているものである。
右のとおり、イ号製品は、蛇行管路の端部が上下ではなく、水平方向に並列に揃えて設置されていて、無端リンクチェンが水平方向に並列に設置されている右蛇行管路の一方の端部から出て、他方の端部へ入るように循環動する構造となっている点で、本件発明(一)の右構成要件B及びE、本件発明(二)の右構成要件B及びCを充足しないものである。
(二) また、本件発明(一)は、二つの蛇行管路の「各端部の上になった一方の管路の先方には動力で駆動される駆動ローラ、他方の管路の先方には従動ローラを配置し」(構成要件C)との構成を有するものである。これに対して、イ号製品の蛇行管路は、一対の直管と中途箇所でそれぞれ連設された略L状の曲管と、右一対の直管を連結するU字状の折曲管で構成され、右折曲管部分を折返し部分とし、蛇行管路の端部の先方には動力源となるモータで駆動される駆動ローラを横向きに配置する構造である。
右のとおり、イ号製品は、他方の端部がU字状の折曲管で一対の直管を連結している点で、蛇行管路の一端部に駆動ローラを、他端部に従動ローラを設置している本件発明(一)の構成要件Cを充足しないものであることは明らかである。
2(一) 控訴人らは、本件発明(一)及び(二)が、蛇行管路・管形通路の端部を上下に揃え、無端リンクチェンの反転を上下に行って同チェンを循環動させる構成であるのに対し、イ号製品は、蛇行管路の端部を左右に水平に揃え、無端リンクチェンの反転を左右に行って同チェンを循環動させる構造であるという差異について、直管を斜め上向きに配置して被搬送物の逆戻り落下を防止しながら、一方の直管から排出された被搬送物を他方の直管に入らないようにするという技術的要請を充足するという点では、右各構成に変わるところはなく、設計上の微差にすぎない旨、また、無端リンクチェンの循環動を、本件発明(一)及び(二)のように縦方向となるように下から上向きに反転させる構成を、イ号製品のように横向きに左右一方から他方に反転させる構成とすることは、容易に推考することができ、かつ、置換可能な事項である旨、更に、イ号製品は、無端リンクチェンを横向きで反転させる構造であるから、駆動ローラから無端リンクチェンが外れやすい欠点を有するだけで、本件発明(一)のように縦方向に反転する場合に比べて特段の効果がないので、本件発明(一)又は(二)を不完全利用したものにすぎない旨主張するので、この点について検討する。
まず、明細書の特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載した」(平成六年法律第一一六号による改正前の特許法三六条五項二号)ものでなければならないところ、本件発明(一)及び(二)の各特許請求の範囲には、二本の蛇行管路・管形通路の端部を上下に揃えること、及び無端リンクチェンを下の管路(直管)から上の管路(直管)に循環動させることが明記されているから、これらの点は、本件発明(一)及び(二)の各構成に欠くことのできない事項であると認められる。
そして、本件発明(一)及び(二)に係る各明細書の発明の詳細な説明には、「下に重なっている管路の管端から切粉を排出するので、上になっている管端から排出した場合に下の管端内に切粉が入ることを防止できる。」(成立に争いのない甲第二号証第五欄三行ないし六行)、「下方の通路部材2-Ⅰのチェン1及び円板3によって搬送される物質を下に重なった端部4から投棄口20に投棄し、チェン1を介して再び上方の通路部材2-Ⅱの上に重なった端部5から循環させる。これにより上に重なった端部5から投棄し、下に重なった端部4からチェン1を引込んで循環させる場合に、上に重なった端部5から投棄した物質の一部が下に重なった端部4に入ることを完全に防止できる。」(同甲第三〇号証の一第五欄三行ないし一一行)と、蛇行管路・管形通路の端部を上下に揃える構成を採用したことによる作用効果が明らかにされている。
更に、前掲甲第二号証、成立に争いのない乙第一号証及び第二号証によれば、控訴人キャタピラーは、本件発明(一)の出願公開当時の特許請求の範囲の記載において、蛇行管路の端部を上下に揃えることをその要件として記載していなかったが、拒絶査定を受けた後に審判手続において提出した昭和六一年四月一六日付け手続補正書により、特許請求の範囲の記載を現在のものに補正して、蛇行管路の端部を上下に揃えること及び無端リンクチェンを下の管路から上の管路に循環動させること等をその内容として記載し、また、同日付けの審判請求理由補充書に、「リーンクチェン3はそのほヾ全長で切粉を搬送すると共に、斜め上向きの上下に重なった管路の下の管路の端部から切粉を排出するため、上に重なった管路から排出する場合に排出した切粉が下の管路中に入ることがありません。又、それを防止するために上の管路を下の管路よりも長く斜め上向きに突出させる必要もありません。」と記載し、蛇行管路の端部を上下に揃えることによる作用効果を強調していることが認められる。また、前掲甲第三〇号証の一、成立に争いのない甲第三〇号証の二、原本の存在・成立に争いのない甲第三六号証及び第三七号証の各一・二、第三八号証、第三九号証、第四一号証によれば、控訴人キャタピラーは、本件発明(二)の特許出願後、昭和六一年六月六日付けで拒絶理由通知を受け、同年八月二九日に手続補正書を提出しているが、同補正書において特許請求の範囲の記載を補正し、管形通路の端部を上下に揃えるとの構成について、「上記チェンを通す管形通路には前記循環駆動されるチェンが露出する斜め上向き端部と、前記斜め上向き端部の上に重なり、斜め上向き端部から出たチェンが引込まれる斜め下向き端部を設けたことを特徴とする多目的形コンベア装置」と補正したこと、その後、昭和六二年二月一三日付けで再度拒絶理由通知を受けたのに対し、同年五月二五日に手続補正書を提出して、特許請求の範囲を全面的に補正し、管形通路の端部を上下に揃える構成については、特許請求の範囲の記載からすべて削除し、管形通路の端部を上下に揃える構成を本件発明(二)の構成要件とはしないこととしたが、同年八月四日に拒絶査定を受けたこと、そこで、同年九月二日、審判請求すると共に、同月三〇日付け手続補正書を提出して、特許請求の範囲の記載を現在のものに補正し、管形通路の端部を上下に揃えるとの内容を含む前記構成要件B及びCを追加したことが認められる。
以上のとおり、蛇行管路・管形通路の端部を上下に揃えること、及び無端リンクチェンを下の管路(直管)から上の管路(直管)に循環動させる構成は、本件発明(一)及び(二)において必須の要件であり、かつ、前記出願の経過から明らかなとおり、控訴人キャタピラーは、前記作用効果を奏するものとして、右構成を限定的に規定したものであるから(控訴人らは、蛇行管路・管形通路の端部を「上下」に揃える構成に補正したことは、「左右」に揃える構成を意識的に除外するためのものではない旨主張するが、本件発明(一)及び(二)が、蛇行管路・管形通路の端部を「左右」に揃える構成を含むものでないことは明らかである。)、前記差異につき、設計上の微差あるいは均等のものである旨の控訴人らの主張自体失当である。
また、イ号製品は、蛇行管路の端部を左右に水平に揃え、無端リンクチェンの反転を左右に行っているものであるから、一方の管路から排出された被搬送物を他方の管路に入らないようにするという作用効果を得るについても、本件発明(一)及び(二)とは異なる態様、技術手段によるものであることは明らかである。そして、チップコンベアのような搬送装置において、一方の管路から排出された被搬送物を他方の管路に入らないようにするために、管路の端部を上下に揃えることと左右に揃えること、あるいは、無端リンクチェンの循環動を下から上向きに反転させることと左右の一方から他方に反転させることとが、相互に転換し得る慣用的手段であること、もしくは、右置換が容易に想到し得る程度のものであることを認めるに足りる証拠はない。
次に、甲第二四号証、第二六号証、第四八号証には、イ号製品は、無端リンクチェンを横向きで反転させるため駆動ローラから外れやすいという趣旨の記載があるが、仮に、イ号製品が右のような欠点を有するとしても、また、いわゆる不完全利用論なるものを肯定するとしても、右欠点を根拠に、イ号製品が本件発明(一)あるいは(二)を不完全利用したものであるとは到底いえず、控訴人らのこの点についての主張も採用できない。
(二) 控訴人らは、従動ローラに代えて、U字状の曲管を使用することは、本件発明(一)の特許出願時に自明で、容易に置換可能な技術である旨主張するが、前掲甲第二号証によれば、本件発明(一)は、従動ローラを用いた折り返し機構を採ることにより、従動ローラ側でも切粉の搬出を可能としているものであることが認められ、これに対し、イ号製品のU字状の曲管を用いた折り返し機構においては、同曲管における切粉の搬出はできないのであるから、イ号製品は、本件発明(一)の右構成とは、明らかに作用効果を異にするものであり、控訴人らの右主張は採用することができない。
3 以上によれば、その余の構成要件の充足性について検討するまでもなく、イ号製品は本件発明(一)及び(二)の技術的範囲のいずれにも属しないものというべきである。
三 次に、イ号意匠が本件意匠に類似するか否かについて検討する。
1(一) 原判決添付意匠公報(甲第五号証)によれば、本件意匠の基本的構成態様は、卵形リンクを縦向きと横向きに交互に直交して連結して形成されたチェンに、一定間隔毎に、外周形状が円形で、広面が偏平面からなるブレードを、その広面がチェンの延出方向と直交するように起立状に配置し、ブレードの周縁部に横向きのリンクが固着した形状からなっており、右固着の具体的形態は、ブレードの周縁部に横向きのリンクを嵌合する嵌合凹部を設け、この嵌合凹部に横向きのリンクをその中央で嵌め込み、一体になるように固着しているものであると認められる。
(二) 原判決別紙物件目録によれば、イ号意匠の基本的構成態様は、卵形リンクを縦向きと横向きに交互に直交して連結して形成されたチェンに、適宜の間隔で、外周形状が底部の一部を切り欠いた略円形で、広面のほぼ中央がチェンの搬送方向に対して後方向へ向かって球面状に湾曲した面となっているバケット型ブレードを、その広面がチェンの延出方向と直交するように起立状に配置し、バケット型ブレードの周縁部に横向きのリンクが固着した形状からなっており、右固着の具体的形態は、バケット型ブレードの切り欠かれた端面に横向きのリンクを嵌合する嵌合凹部を設け、この嵌合凹部に横向きのリンクをその中央で嵌め込み、一体になるように固着しているものであると認められる。
(三) 右(一)、(二)によれば、本件意匠とイ号意匠とは、基本的構成態様において、ブレードの形状が相違している他は共通していること、ブレードの縁部とリンクとの固着の具体的形態もほぼ共通していることが認められる。
2 ところで、原本の存在及び成立に争いのない甲第三九号証に添付されている特開昭五二-二七一七八号公報(昭和五二年三月一日公開、発明の名称「チューブコンベヤ」)の第3図、第4図には、卵形リンクを縦向き、横向きに交互に直交して連結したチェンに、ブレードをその広面がチェンの延出方向と直交するように起立状に配置し、ブレードの外周形状は、上側を半円形状とし、下側をチェンの横幅とほぼ同じ長さとなるように幅狭に形成したものであり、広面は偏平状のもので、ブレードの下端を横向きのリンクに固着した形状からなる搬送チェンが記載されていること、同じく特公昭五〇-四五八二号公報(昭和五〇年二月二一日公告、発明の名称「給餌パイプ内における給餌搬送用チェーンの引き張り方法」)の第3図、第4図には、卵形リンクを縦向き、横向きに交互に直交して連結したチェンの一定間隔毎に、外周が円形で、広面が偏平なブレードを、その広面がチェンの延出方向と直交するように起立状に配置し、ブレードの直径方向二箇所の外周縁部に縦向きのリンクを取り付けた形状の搬送チェンが記載されていることが認められる。
また、成立に争いのない甲第四四号証の一の一ないし三、同号証の二の一ないし七、同号証の三の一ないし九、同号証の四の一ないし一一、同号証の五の一ないし六、同号証の六の一ないし三、同号証の七の一ないし一〇、同号証の八の一ないし四、同号証の九の、一ないし五によれば、本件意匠の意匠登録出願前、搬送チェンにおいて、ブレードの外周形状を円形としたもの、非円形のもの、広面を湾曲状としたもの、偏平状としたもの、があったことが認められる。
右認定の事実によれば、搬送チェンにおいて、卵形リンクを縦向き、横向きに交互に直交して連結したチェンの一定間隔毎に、ブレードをその広面がチェンの延出方向と直交するように起立状に配置する形状、ブレードの外周形状を円形としたもの、非円形としたもの、広面を偏平状としたもの、湾曲状としたもの、ブレードを縦向きのリンクに取り付けるもの、横向きのリンクに取り付けるもの、リンクをブレードの外周縁部の一箇所に取り付けるもの、二箇所に取り付けるものが、本件意匠の意匠登録出願時に公知であったものと認められる。
しかして、本件意匠に係る物品である搬送チェンの性質、用途の他、右のとおり、搬送チェンおいては、ブレードの形状やブレードとリンクとの取付態様に種々のものがあること、その使用時においてブレードは目につきやすい部位であることを総合すると、搬送チェンの取引者及び需要者は、卵形リンクを縦向き、横向きに交互に直交して連結したチェンの一定間隔毎に、ブレードをその広面がチェンの延出方向と直交するように起立状に配置した形状だけでなく、ブレードの形状及びブレードとリンクとの取付態様についても注意を引かれるものと認められ、したがって、これらを含めた前記基本的構成態様に意匠の要部があるものと認めるのが相当である。
3 前記のとおり、本件意匠とイ号意匠とは、基本的構成態様において、ブレードの形状が相違している他は共通しているところ、本件意匠のブレードの外周形状が円形であるのに対して、イ号意匠のそれは、底部が一部切り欠かれた略円形であることによる差異は顕著なものではなく、ブレードの外周形状自体はほぼ共通しているものといって差し支えないものと認められる。また、ブレードの縁部とリンクとの固着の具体的形態もほぼ共通しているものである。
しかしながら、ブレードの広面における差異、すなわち、本件意匠が偏平面であるのに対し、イ号意匠がほぼ中央がチェンの搬送方向に対して後方向へ向かって球面状に湾曲しているという点は、意匠の要部を形成する部位における差異であり、両意匠の全体的な観察において、前記共通点がもたらす美感を凌駕し、別異の美感を醸出しているものと認めるのが相当であって、両意匠は類似していないものというべきである。
4 控訴人キャタピラーは、本件意匠に係る搬送チェンは、機能上、チェンを軸としてブレードが旋回するため、ブレードの端部にチェンが連結されており、チェンとの連結部分を除くブレードの外周縁はパイプコンベアの内壁と接して旋回できるように円形に設定されており、このようにブレードの端部にチェンが連結される配置形状とチェンとの連結部分を除くブレードの外周が円形である形状は従来にない意匠の創作性が高く現れているものであって、本件意匠の要部が存するとした上、ブレードの広面が偏平面か、湾曲面となっているかの点の差異について、搬送チェンとしての本来の機能が果たされることを前提しての問題であって、本件意匠及びイ号意匠に係る搬送チェンの機能からすると付随的なものにすぎず、かつ、ブレードの形状が偏平であることも、球面状に湾曲した面となっていることも広く行われている周知の形状であるから、これら形状の置き換えは取引者及び需要者の注意を強く引くものではない旨主張する。
しかし、搬送チェンの意匠として、ブレードの外周形状が円形のもの、ブレードの端部にチェンが連結される形状のものは、前記のとおり公知である。また、意匠は、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起させるものをいうのであるから、意匠の類否判断において、単に機能的な側面からのみ評価して、それが付随的であることを理由として、看者の注意を引かないものとするのは相当でない。そして、ブレードの広面に偏平状のものと湾曲状のものとがあるが故に、取引者及び需要者は、そこに注意を引かれるものともいえるのである。
したがって、控訴人キャタピラーの右主張は採用できない。
四 以上のとおりであって、控訴人らの被控訴人らに対するイ号製品の製造、販売、保守修理の差止請求、控訴人キャタピラーの被控訴人技奉工業に対する損害賠償請求は、その余の点について検討するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は正当であって、本件控訴はいずれも理由がない。
また、当審において拡張された控訴人キャタピラーの被控訴人真企機工に対する損害賠償請求は、民事訴訟法二三二条の要件を具備する適法な訴えの変更として許されるものと認められるが、右請求についても、その余の点について検討するまでもなく理由がないから棄却することとする。
よって、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 渡崎浩一 裁判官 市川正巳)
パイプコンベア・パイコン21販売明細一覧表
(平成3年~5年)
<省略>
価格算出基準表
算出の対象となる費用は据付工事・電気工事・その他付帯工事を除いて、パイプコンベヤ本体価格とする。
計算式 P={L×a+n×b+m×c+d+e}×1.3
P:価格
L:機長
a:m単価 ・配管+フランジ+パッキン+ボルト
・ブレード付チェーン
・点検口・サポート数
・塗装
n:コーナ数(n=L/10+1)
1辺を10mとし少数値切上数を
コーナ数としてカウント
+1は駆動部の立ち上げ分
b:コーナ単価 ベンド管・ライナー
フランジ+パッキン+ボルト
m:ホッパー数(マシーン数×2+1)
各マシーンからの切粉出口を2ヶ所とし
+1は手投入予備分
c:ホッパー単価 500m基準
d:駆動部
e:操作盤
1.3:設計を含む諸費用・経費
<省略>