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東京高等裁判所 平成5年(ネ)3844号 判決 1994年1月27日

イギリス国 イングランド ハートフオードシヤーウエリン・ガーデン・シテイ マンデルス

控訴人

スミス クライン アンドフレンチ ラボラトリースリミテツド

右代表者取締役

アンドリユー エル スミス

右訴訟代理人弁護士

久保田穣

増井和夫

大阪府門真市松生町三番八号

被控訴人

東和薬品株式会社

右代表者代表取締役

吉田雄市

右訴訟代理人弁護士

花岡巖

新保克芳

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人の申立てを却下する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

事案の概要は、原判決三丁表九行目の次に

「三 争点

控訴人の本件特許権の存続期間か満了した場合、本件仮処分の執行により執行官が保管する本件執行物件に対する控訴人の特許法一〇〇条二項に基づく廃棄請求権は消滅するか否か」

を加える他原判決の「第二 事案の概要」と同一であるから。ここにこれを引用する。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所の判断は、原判決四丁表四行目の「その請求を貫徹する機会を奪われる旨」の次に、「(4)保全制度は、被保全権利存在の可能性のあるとき、その存否の確定は本案訴訟に委ね、ただ存在が確定された場合における権利の実現を阻害しないよう措置するものであるから、控訴人の法律的見解に少なくともある程度の合理性を認めるならば、本件仮処分決定第二項を取り酒すべきではない旨」と加え、同丁表五行目から同丁裹末行目までを次のように改める他原判決の「第三 当裁判所の判断」と同一であるから、ここにこれを引用する。

「 控訴人は、本件執行物件に対して仮処分をし、更に成立に争いのない疏乙第四号証によれば、本件仮処分の後、被控訴人に対し、書面をもつて本件執行物件の廃棄を請求していることが認められるのであるから、本件執行物件が本件特許権を侵害する行為を組成するものである限り、実体法上、控訴人の被控訴人に対する本件執行物件の廃棄請求権は確定的に発生したものといわなければならない。

問題は、そのように、いつたん確定的に発生した特定物件に対する廃棄請求権が、特許権の存続期間満了によつて消滅するか否かである。

特許法一〇〇条は、一項において特許権者等のいわゆる差止請求権を規定するとともに、二項において「前項の規定による請求をするに際し、優害行為を組成した物(略)の廃棄、(略)その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。」と規定している。右の「その他の」の語は、その語の前に規定されたものが、その語に続いて規定されたものの例示であることを表すものであるから、侵害行為を組成した物の廃棄は、侵害の予防に必要な行為の例示として規定されたものである。

したがつて、本件執行物件に対する廃棄請求権の帰趨も、それが本件特許権の侵害の予防に必要な行為として認められたものであることから考察されなければならない。

そうすると、本件特許権の存続期間が満了した後は、本件特許権の侵害ということはあり得ず、したがつて、その侵害の予防の必要性もなくなるものであるから、それ以降、新たに廃棄請求権を行使することができないことは勿論、それ以前に控訴人が廃棄を請求していたものであつても、もはやその権利を行使することはできないものといわなければならない。即ち、いつたん行使し、請求権として実体上確定した廃棄請求権も、特許権の存続期間満了により消滅するものである。

そのように解すると、廃棄請求を受けた相手方は、その請求を拒む方が、その請求に誠実に対応することよりも、廃棄を免れるという限りにおいては有利となるという事態が生ずる可能性のあることは控訴人主張のとおりである。更には、特許権者が廃棄請求権につき勝訴の確定判決を得ていた場合であつても、それに基づき強制執行をすることなく、特許期間を徒過したときは、請求異議の訴えにより執行力が排除されることになるという結論を承認せざるをえないことになる。

しかし、特許法一〇〇条二項の廃棄請求権は、同条一項の差止請求権を実効あらしめるために認められたものであつて、前記の結果が生ずることにより相手方が不当に利得したということはできない。

例えば、特許権者が相手方において特許権の侵害行為を組成した物を所持することを知らないため、差止請求をするに止め、廃棄請求をすることなく、特許権の存続期間が満了したという場合、特許権者がその後に右物件の存在を知つても、もはやその廃棄請求をすることはできないことは疑問の余地はなく、本件における控訴人と被控訴人との利害の状況は、この場合と何ら実質的に差はない。

そして、そのように解することは、決して特許権の効力を脆弱ならしめるものでなければ、特許権を侵害した者に不当な利益を与えるものでもない。

特許権の存続期間内に特許権を侵害する物を製造し又は購入することは特許権の侵害になるものであるから、例え、特許権の存続期間の満了によつてその廃棄請求ができなくなつても、そのことにより特許権者が損害を被る限り、損害賠償請求は可能であるといわなければならない。

もつとも、特許権の存続期間内に侵害物件を製造し又は購入し、特許権者からの廃棄請求に応ずることなく特許権の存続期間が満了した場合において、その後これをそのまま又は更に加工して販売したようなとき、特許権者の被る前記の損害の把握及び額の認定には困難がつきまとうことは確かである。しかし、そのことは、特許権の存続期間中に廃棄請求をしなかつた場合でも生ずる問題であり(損害賠償は、相手方が廃棄請求に応じなかつたことの故に認められるものではない。)、控訴人の主張するように、そのような困難がある故に特許権の存続期間満了後も廃棄請求権が存続することを認めるべきであるということにはならない。

したがつて、本件仮処分決定は、その原因及び必要性の消滅したことが明らかであり、事情変更による仮処分決定の取消は、このような場合に仮処分決定を維持することが、仮定的、暫定的性質を有する保全処分の趣旨に反することになることから認められたものであるから、控訴人の前記(4)の主張は理由がない。」

二  よつて、本件仮処分はその原因及び必要性が消滅したとして、事情変更によりこれを取り消した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条本文、八九条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

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