東京高等裁判所 平成5年(ネ)4735号 判決 1995年7月20日
主文
一 第一審被告東京都の控訴に基づき、原判決中第一審被告東京都敗訴部分を取り消し、右部分に係る第一審原告山本の請求を棄却する。
二 第一審原告救援センターの控訴を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審を通じて第一審原告両名の負担とする。
理由
一 第一審原告救援センターの訴えについて
当裁判所も、第一審原告救援センターは民訴法四六条所定の団体とは認められないものと判断するが、その理由は次のとおり訂正、付加するほか、原判決理由説示の「第一 原告救援センターの請求について」の記載と同一であるから、これを引用する。
1 原判決三一枚目裏五行目の「四二、証人山中」を「四二ないし四四、原審及び当審の証人山中」に改める。
2 同三二枚目裏二行目の「現在に至るまで代表者が選出されていないこと」を「後任の代表者は選出されないまま」に改め、同四行目の「選出されたこと」の次に「、平成六年二月当時、第一審原告救援センターの運営委員は三三名であつたが、実際に活動している者は一〇名であつたところ、同月六日、右一〇名中の七名が出席して運営委員会が開かれ、浅田光輝が代表者に選出され、現在その職にあること、現在も運営委員は三三名で、常任、非常任等の区別はなく、また運営委員会について定足数の定めはないが、実際の活動をしている者は右のとおり一〇名で、実際上それらの一〇名によつて年二回程度運営委員会が開かれていること、」を加え、同八行目から同三三枚目裏七行目までを次のとおり改める。
「右認定事実に基づいて検討すると、第一審原告救援センターは、団体の代表者に関する明確な規約が存在しないというばかりでなく、団体の意思決定やその執行機関、さらにその前提となる団体の構成員の資格についての明確な規約も存在しないと言わざるを得ない。もつとも、当審の証人山中は、第一審原告救援センターの構成員の運営委員であり、運営委員は第一審原告救援センターの活動の協力者やそれについて社会的な関心の強い人の中から現運営委員あるいは事務局員の推薦で、現運営委員全員の承認と被推薦者の承諾を得てなるものである旨証言する。しかしながら、同証言その他の本件に表れた全証拠をもつてしても、結局第一審原告救援センターの構成員となる者の範囲や資格は漠然としており、明確とは言いがたい。また、前示のとおり、運営委員の中にも名目だけのものと実際に活動している者があり、両者の区別は事実上のものにすぎず、運営委員会は後者のみによつて構成されているところ、そのようにして構成された運営委員会が、慣行によつて構成員(運営委員)になることの承認、団体としての意思決定あるいは代表者の選出を行つているというのでは、第一審原告救援センターが前示の民訴法四六条所定の団体としての主要な諸点が確定していると認めることはできない。
第一審原告救援センターは、第一審被告東京都は、捜索すべき場所を「救援センター」として捜索差押許可状の発付を請求するなど、従前は第一審原告救援センターの団体性を承認しており、その他のさまざまな社会的関係でも、第一審原告救援センターは団体性を承認されていると主張するが、もとより民訴法上の当事者能力は、民事訴訟の制度目的から前示のような独自の基準によつて判断されるべきものであるから、刑事手続や一般的な社会的関係と別段の取扱いをすることは何ら妨げない。また、第一審原告救援センターは、構成員各自の損害とは別に、団体固有の損害を被つている旨主張するが、第一審原告救援センターが私法上の権力能力なき社団と認められない限り、そのような主張は失当であると言わざるを得ない(このように解したとしても、仮に第一審原告救援センターの関係者が本件捜索差押等によつて被害を受けたとしたら、個人として損害賠償を請求できることは言うまでもないから、被害者の救済に何ら支障を来すことはない。)。」
二 第一審原告山本の請求について
当裁判所は、第一審原告山本の第一審被告東京都に対する請求は理由がないものと判断するが、その理由は次のとおり訂正、削除するほか、右請求に関する原判決理由説示の「第二 原告山本の請求について」の記載と同一であるから、これを引用する。
1 原判決五二枚目裏五行目から同五四枚目裏一行目までを次のとおり改める。
「ウ 本件第三押収物のうち、番号二ないし四、六、七、一〇の各物件について、第一審被告東京都は、これらが別紙二の番号一又は三に該当する旨主張する。
<証拠略>によれば、本件第三押収物の番号二のハガキ四枚及び同番号六のうちのハガキ一枚はいずれも弁護士遠藤誠から第一審原告山本あての年賀状であること、同番号三のハガキ三枚はいずれも山本卓雄及び第一審原告山本あての年賀状であること、同番号四の茶封筒は秋野正素から第一審原告山本あての郵便物に用いたものであること、同番号七のハガキ二枚はいずれも田中美恵子あての年賀状であるが、田中美恵子とは第一審原告山本のペンネームであること、同番号六のうちのハガキ一枚はいわゆる喪中あいさつ状であることが認められる。さらに、<証拠略>によれば、これらが発見されたときの状況は、第一審原告救済センター内の第一審原告山本の使用していた机の右袖の上から二番目の引出しの中に同番号九の黒色のビニール袋が入つており、その中に同番号一〇の透明のビニール袋と、同番号五の貯金通帳、同番号四の茶封筒(中身は空であつた)、同番号八の同期会名簿が入つており、更に右の透明のビニール袋の中に同番号二、三、六、七のハガキ計一一枚が入つていたものであること、捜索に当たつた田中良明ら捜査官は、その当時右各ハガキ・茶封筒に記載された差出人や、あて名の田中美恵子なる人物の身元を知らなかつたことが認められる。
ところで、右の各ハガキはほとんどは本文が印刷され又はゴム印が押されたもの(一部には添え書きが付されている)で、本文が手書きのものも含め、その体裁や内容から一見すると一般的な社交上の年賀又は喪中のあいさつ状の類ということができる。しかしながら、前示の諸事実、とりわけ、右各物件が発見されたときのそれらの保管場所やその状況、捜索に当たつた捜査官は右各ハガキ・茶封筒の差出人や田中美恵子なる人物の身元を知らなかつたこと、第一審原告山本が中核派と深い関係を持つていること、本件第一被疑事件には中核派の組織関与が推認されたこと等を総合考慮すると、田中良明ら捜索差押に当たつた捜査官において、本件第一被疑事件の共犯関係や背後関係を明らかにする必要から、右各ハガキ・茶封筒が別紙二の番号一の「革命的共産主義者同盟全国委員会(革共同前進派、通称中核派)の組織上の指示・連絡、およびこれに関する報告書類の文書」又は同三の「日記帳・手帳・ノート・名刺・金銭出納帳・住所録・同窓生名簿」に当たるものとして、本件第一被疑事件との関連性があると判断したことは、その時点においてあながち理由がないものではなかつたというべきである。また、同番号一〇の透明のビニール袋は、右各ハガキが入つていたものであるから、これらと一体をなすものとして、同様に関連性を肯認し得るものということができる。したがつて、右各物件の差押えが無限定な、関連性のない物の差押えとして違法であるとの第一審原告山本の主張は失当である。」
2 同五四枚目裏二行目の「オ」を「エ」に改める。
3 同五八枚目表末行から同裏八行目までを削る。
三 以上の次第で、第一審原告救援センターの第一審被告両名に対する訴えは不適法であるから却下すべきであり、また、第一審原告山本の第一審被告東京都に対する請求は理由がないから棄却すべきである。
よつて、第一審原告救援センターの訴えについては、原判決は相当で第一審原告救援センターの控訴は理由がないからこれを棄却し、第一審原告山本の第一審被告東京都に対する請求については、原判決中右と結論を異にする第一審被告東京都敗訴部分は失当であるから第一審被告東京都の控訴に基づきこれを取り消し、右部分に係る第一審原告山本の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 西尾 進)
裁判官 福島節男は転勤につき署名捺印できない。
(裁判官 宍戸達徳)