東京高等裁判所 平成5年(ネ)4840号 判決 1994年4月28日
控訴人
斎藤光弘
右訴訟代理人弁護士
清水徹
同
坂下毅
同
新井賢治
同
高野毅
被控訴人
興和観光土地株式会社
右代表者代表取締役
伊藤正雄
主文
原判決を取り消す。
控訴人と被控訴人との間の東京地方裁判所昭和五八年ヨ第二八五号不動産仮差押申請事件について、同裁判所が同年一月二六日にした仮差押決定を認可する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文と同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者双方の主張
当事者双方の主張は、原判決の事実(「事実及び理由」欄の「一」及び「二」の「2」)の摘示と同一であるからこれを引用する。
第三 証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 原判決の「事実及び理由」欄の「一」の各事実については当事者に争いがない。
二 そこで、本件の争点である、不動産仮差押登記の存続中仮差押による時効中断効が継続するかの点について判断する。
民法一四七条が仮差押えを時効中断事由の一つとする法意は、権利の上に眠る者の保護を拒否することを一つの理由とする時効制度に対し、その権利の上に眠っていないことを表明する行為には時効の進行を中断する効力を与えることが妥当であり、仮差押えは、右の権利の上に眠っていないことを表明する行為に他ならないからである(大審院昭和一二年オ第一五五三号同一四年三月二二日民事聯合部中間判決・大審院民集一八巻二三八頁参照)。そして、仮差押債権者は、仮差押手続に基づく仮差押登記が存続する間は右の意思を継続して表明しているものと解すべきである。仮差押登記が存続している間は消滅時効の中断効が終了しないとする旨の判例(大審院昭和三年オ第四六〇号同年七月二一日第四民事部判決・大審院民集七巻五六九頁、最高裁昭和五八年オ第八二四号同五九年三月九日第二小法廷判決・最高裁裁判集(民事)一四一号二八七頁)もこの理を前提とするものと解される。そして、このように解したとしても、債務者である被控訴人は仮差押債権者に対して、平成元年法律第九一号附則四条により改正前の民事訴訟法の該当規定に則って、本案の起訴命令(旧七四六条)、仮差押異議(同七四四条)及び仮差押取消(同七四七条)などの申立権を行使することができるから、債務者に酷な結果を強いることになるともいえない。
本件においては、控訴人の得た仮差押命令により仮差押登記がされ、それが現在も存在していることは当事者間に争いがないところ、右によれば、被控訴人の、被保全権利の時効消滅を前提とする本件仮差押異議は理由がない。
三 よって、本件仮差押命令を取り消した原判決は相当でなく、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決を取り消して本件仮差押命令を認可し、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官岩佐善巳 裁判官稲田輝明 裁判官平林慶一)