大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成5年(ラ)1077号 決定 1994年2月07日

抗告人

株式会社桃源社

右代表者代表取締役

佐々木吉之助

右代理人弁護士

野中信敬

安田修

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は、抗告人の負担とする。

事実及び理由

第一  抗告の趣旨及び理由

抗告人の趣旨は、「原決定を取り消す。原決定別紙物件目録記載の不動産の売却を許可しない。」というものであると解され、抗告の理由は、次のようなものであると解される。

一  抗告人は、昭和六二年三月一二日原決定別紙物件目録(1)及び(2)記載の土地(以下「本件土地」という。)を六五六億五六〇一万円で買い入れ、昭和六三年一二月一四日鹿島建設株式会社との間で、本件土地上に別紙物件目録(3)記載の建物(以下「本件建物」という。)を代金二一九億円で建築する旨の請負契約を締結したほか、平成二年四月一九日同社との間で、本件建物の一、二階部分の共用部内装工事を八億一〇〇〇円で行う旨の請負契約を締結し、結局本件土地、本件建物に合計八八三億五六〇一万一〇〇〇円を費やしているのに、原裁判所は本件土地の最低競売価額を二七億三七六七万円と、本件建物のそれを一九一億〇四二〇万円と著しく低額に定めた。

二  本件建物については鹿島建設株式会社がその請負代金等合計一一八億二八八三万七八二五円を被担保債権として商事留置権を主張しているところ、原裁判所はこれを全て認め、右被担保債務は本件買受人が負担すべきものとしてこれを前記評価額から差引き最低売却価額を定めたが、右商事留置権は成立していない。

三  したがって、本件競売には、民事執行法七一条六号、七号所定の売却不許可事由があるのに、これがないとしてした原決定は違法である。

第二  当裁判所の判断

一  まず第一の一の点につき検討する。

一件記録によれば、抗告人は、本件土地を取得し、本件建物を建築し、本件建物一、二階部分の共用部内装工事をするのに主張のとおり合計八八三億五六〇一万一〇〇〇円を費やしたことが認められる。

しかしながら、競売には差押不動産を所有者の意思いかんにかかわらず強制的に換価するなどの一般市場取引とは異なる種々の特殊性があることから、最低売却価額は、その特殊性を前提とした適正価格であれば足りるものと解されることからすると、抗告人主張のように最低売却価額を直ちに不動産の取得価格ないしはこれに準じた価格に定めるべきとすることはできない。そして、一件記録によれば、本件において、評価人は、本件土地の評価額は合計四一億九九八〇万円、本件建物のそれは二九五億〇八七三万円と評価したが、それは、本件土地が、JR駅に隣接し、駅前商店街の中に位置し、幅約六メートルの区道に接していること、その規模が周辺の標準的使用規模と比較して大規模であること等を考慮し、近隣の基準地の公示価格等を参考に一平方メートル当たりの更地価格を七〇〇万円としたうえで、現在の経済情勢、その市場性、収益性等による減価、建付減価、法定地上権を想定した減価等をしてこれを評価し、本件建物については、本件建物の建築代金を参考にするなどしてその再調達原価を床面積一平方メートル当たり五〇万円とし、これに本件建物の経過年数、経済的残存耐用年数、観察減価による現価率を乗じ、さらに市場性減価をしたうえで、本件建物自体の評価をし、これに法定地上権を想定した増加分を加味して評価していることが認められ、その評価の過程に不当な点は何ら認められない。

二  次に、第一の二の点につき検討する。

一件記録によれば、鹿島建設株式会社が本件土地及び本件建物を占有していることが認められる。また、一件記録によれば、抗告人は、不動産の売買、仲介及び賃貸等を業とする株式会社であるところ、本件建物建築のための請負契約は、右営業のためにしたものであるということができ、また、鹿島建設株式会社にとってはその業とする建設請負のために右請負契約を結んだものであって、右請負契約は双方にとって営業のための商行為であることは明らかであるから、鹿島建設株式会社が右請負契約に基づいて占有した本件土地及び本件建物について商事留置権が成立することはいうまでもない。

そうすると、本件土地及び本件建物については鹿島建設株式会社がその請負代金等合計一一八億二八八三万七八二五円を被担保債権として商事留置権を有しているところ、原裁判所がこの右被担保債務は本件買受人が負担すべきものとし、これを前記評価額から差引いたうえ、最低売却価額を定めた点につき何らの不当な点はない。

三  そして、他に、民事執行法七一条各号所定の売却不許可事由があると認めるに足りる資料はない。

第三  結論

よって、本件抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用の負担につき、民事執行法二〇条、民事訴訟法四一四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官三代川俊一郎 裁判官伊藤茂夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例