東京高等裁判所 平成5年(行ケ)124号 判決 1996年9月10日
東京都港区浜松町2丁目3番26号
原告
日東工業株式会社
同代表者代表取締役
林暢
静岡県三島市松本197番地の8
原告
穂高工業株式会社
同代表者代表取締役
高橋健治
原告両名訴訟代理人弁理士
大條正義
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
同指定代理人
瀧本十良三
同
木下幹雄
同
幸長保次郎
同
関口博
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
「特許庁が平成4年審判第8635号事件について平成5年6月10日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、昭和56年12月26日にした実用新案登録出願(実願昭56-195420号)(以下「本件原出願」という。)からの変更出願として、昭和59年11月13日、名称を「電子複写機用オフセット防止液供給ローラー」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(特願昭59-237477号。以下「本件特許出願」という。)をし、平成元年12月21日出願公告(特公平1-60144号)されたが、平成2年3月22日特許異議の申立てがあり、平成4年2月28日、特許異議の申立ては理由がある旨の決定とともに拒絶査定を受けたので、同年5月14日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成4年審判第8635号事件として審理した結果、平成5年6月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成5年7月12日原告らに送達された。
2 本願発明の要旨
両端壁1、2に支軸3、4を設けた中空円筒体の筒壁5の全域にわたり多数の小孔6を平均に分散配置して穿つとともに、筒壁5の少なくとも外周面の全域において、小孔6の孔端に密接して繊維層7を固定し、かつ常温で液状のオフセット防止液を筒内に収容し、繊維層7を介して定着ローラーにオフセット防止液10を供給するようにしたオフセット防止液供給ローラーにおいて、繊維層7はほぼ0.2~1.0g/cm3の範囲の密度を有し、オフセット防止液10は、正常運転時の定着用ローラーの放熱に起因する液温以下における液の静圧では繊維層7を通過しない限度において繊維層7の密度に対応する粘度を有し、前記中空円筒体の回転に起因し、あらかじめ繊維層7に含浸されている液に負荷される動圧によりその液を繊維層7から浸出させるとともに、筒壁5の内周面に位置する液に負荷される動圧によりその液を小孔6を通じて繊維層7に補給するようにした電子複写機用オフセット防止液ローラー。
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) これに対し、本件原出願明細書及び図面(本訴における甲第2号証。以下「本件原出願明細書」という。)には、本願発明の構成要件である「繊維層7はほぼ0.2~1.0g/cm3の範囲の密度を」有するとした記載は勿論のこと、オフセット防止液の粘度等の条件により左右される繊維層の密度を上記の範囲に特定することを示唆する記載も認めることができない。
すなわち、本願は、本件原出願明細書に記載された事項の範囲外の事項をその発明の要旨としている以上、本願は、適法に出願変更されたものと認めることができないので、特許法46条6項において準用する同法44条2項の規定により、本件原出願の時にしたものとすることはできない。
したがって、本願の出願日は、現実の出願日である昭和59年11月13日となる。
(3) これに対して、原審の拒絶理由となった、特許異議の決定の理由に引用された実願昭56-195420号(実開昭58-98655号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(本訴における乙第1号証。以下「引例」という。)には
「両端壁1、2に支軸3、4を設けた中空円筒体の筒壁5の全域にわたり多数の小孔6を平均に分散配置して穿つとともに、筒壁5の少なくとも外周面の全域において、小孔6の孔端に密接して繊維層7を固定し、繊維層7は、中空円筒体内に収容された常温で液体のオフセット防止液が自重で通過しない程度の密度を有してなり、中空円筒体の回転により繊維層7を通じてオフセット防止液を浸出させて定着ローラにオフセット防止液10を供給するようにしたオフセット防止液供給ローラ」が記載されているものと認める。
(4) そこで、本願発明と、引例に記載されたものを比較すると、下記の点を除いて両者は一致しているものと認める。
繊維層の密度と、オフセット防止液との関係について、
本願発明は、「繊維層7はほぼ0.2~1.0g/cm3の範囲の密度を有し、オフセット防止液10は、正常運転時の定着用ローラーの放熱に起因する液温以下における液の静圧では繊維層7を通過しない限度において繊維層7の密度に対応する粘度を有し、前記中空円筒体の回転に起因し、あらかじめ繊維層7に含浸されている液に負荷される動圧によりその液を繊維層7から浸出させるとともに、筒壁5の内周面に位置する液に負荷される動圧によりその液を小孔6を通じて繊維層7に補給するようにした」としているのに対し、
引例は、「繊維層7は、中空円筒体内に収容された常温で液状のオフセット防止液が自重で通過しない程度の密度を有してなり、中空円筒体の回転により繊維層7を通じてオフセット防止液を浸出させ」としている点
(5) 上記相違点について検討する。
引例の「繊維層7はオフセット防止液が自重で通過しない程度の密度を有する」また「中空円筒体の回転により繊維層を通じてオフセット防止液を浸出させる」との記載より勘案すれば、
繊維層を通じてオフセット防止液を浸出させるためには、繊維層の密度、オフセット防止液の使用環境下における粘度、質量、及び中空円筒体の回転に伴う遠心力等が関与しており、採用されるオフセット防止液、定着の条件が決まれば、それに対応した繊維層の密度が必然的に決まることは明らかである。
そして、このことに関して審判請求人(原告ら)は、平成2年11月1日付けの特許異議答弁書において、「オフセット防止液は採用時に決定される一定の粘度をもつこと、および液が自重や回転の遠心力で繊維層を通過したりしなかったりするのは繊維層の密度と液の粘度との双方によって左右されるものであることは自明な物理的事実である。」と主張している。
以上の検討より、上記相違点についてみると、「繊維層7はほぼ0.2~1.0g/cm3の範囲の密度を有し、オフセット防止液10は、正常運転時の定着用ローラの放熱に起因する液温以下における液の静圧では繊維層7を通過しない限度において繊維層7の密度に対応する粘度に対応する粘度を有し、」
とした構成は、採用するオフセット防止液、定着条件により、当業者が適宜決定する程度の事項にすぎない。そして上述のような構成としたことによる格別の効果も認められない。
また、「前記中空円筒体の回転に起因し、あらかじめ繊維層7に含浸されている液に負荷される動圧によりその液を繊維層7から浸出させるとともに、筒壁5の内周面に位置する液に負荷される動圧によりその液を小孔6を通じて繊維層7に補給するようにした」とした構成は、オフセット防止液の浸出、補給のメカニズムについて単に詳細に記述したにすぎず、引例に記載されたものと何ら異なるものではない。
(6) したがって、本願発明は、引例に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)は認める。同(2)は争う。同(3)ないし(5)は認める。同(6)は争う。
審決は、出願変更の要件についての判断を誤った結果、進歩性の判断を誤った違法があり、かつ、審判段階で拒絶査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に当たるから改めて拒絶理由通知の手続を履践すべきであったのに、これをしなかった手続上の違法があるから、取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(出願変更の点について)
審決は、審決の理由の要点(2)のとおり、本願は適法に出願変更されたものと認めることはできないと判断するが、誤りである。
<1> 本件変更出願後になされた手続補正の適否について
後記請求の原因に対する認否及び反論2(1)<1>(甲第11号証及び甲第20号証(全文補正)による各手続補正がいずれも手続補正の要件を満たす点)は認める。
<2> 出願変更について
(a) 本件原出願の考案(甲第2号証)と本願発明(甲第20号証)は、いずれも内部貯蔵型であり、かつ定着ローラーに直接接触するローラーの外周面に繊維層を巻回固定したオフセット防止液供給ローラーであって、その創作性はこの種の液供給ローラーでその外周面を繊維層で構成した先行技術が全く存在しない点にある。そして、本件原出願の考案(甲第2号証)及び本願発明(甲第20号証)は、「繊維密度」、「液粘度」、「液の圧力」、「液の温度」という4個の条件が互いに密接な関係をもっているという物理学上周知の事実を利用する点で共通し、複写機等の日常の生産、使用に無関係であるような極端な数値を除いては、例えば、繊維密度と液粘度とは、一方の数値を与えれば、他方の数値が実験でほとんど自動的に決定できるような性質のものであり、両者の間には、発明の同一性が認められる。
(b) 本件原出願の考案(甲第2号証)においては、液が自重で繊維層を通過しないという要件を満たす限り、液粘度も、繊維密度も、ともに自由である。100ないし5000c.s.という低粘度は、本件原出願明細書(甲第2号証)の考案の詳細な説明に出てくる実施例の数値にすぎない。このように、本件原出願の考案(甲第2号証)の技術的意義が一義的に理解できる以上、本件原出願明細書(甲第2号証)の考案の詳細な説明に記載されている実施例の「低粘度」を本件原出願の実用新案登録請求の範囲に持ち込んで考案の要旨を認定しようとすることは許されない。
(c) 本願発明(甲第20号証)において、「繊維層7はほぼ0.2~1.0g/cm3の範囲の密度を有し」との要件を付加したことは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、その補正の結果、請求範囲の拡張、変更をもたらすものではない。すなわち、上記数値要件は、実施が容易で、かつ、特許保護の効果に悪影響がない範囲に特許請求の範囲を減縮したにすぎない。
(d) 被告は、本願明細書(甲第20号証)に新たに加えられた事項は本件原出願明細書(甲第2号証)に記載された又は自明の事項を超えており、新たな作用効果の発生という技術的改善を伴っている旨主張する。
しかしながら、具体的に液粘度及び繊維密度を設定する場合、利用する自然法則、及び発明の性質に照らし、また、装置の実際の使用の際のヒーターからの受熱を考慮するのは当然であり、本件原出願明細書(甲第2号証)から自明のことである。
また、本願明細書(甲第20号証)の発明の詳細な説明中の「本発明者等は入手し得る限りの多くの各種繊維層につき実験を重ねた結果、低粘度の液を対象として、層面に沿う拡散性が良好、かつ動圧によってのみ繊維層の通過が可能であるような好ましい性能をもつ繊維層は現実には得られず、従ってその考案を実施することができなかったのである。」(8頁19行ないし9頁4行)と記載されているが、この説明は、単に本件原出願明細書(甲第2号証)の実施例に掲げた100ないし5000c.s.のような低粘度の液に対応する不織布がまだ市販されていないため、現時点では低粘度の液は使用できない、という実情を述べただけのことである。
(e) 審決も、審決の理由の要点(5)で認めているように、本件原出願(甲第2号証)における無制限の密度範囲から、「ほぼ0.2~1.0g/cm3」を選択することは、「当業者が適宜決定する程度の事項」にすぎない。そうすると、本願発明(甲第20号証)は、本件原出願の考案(甲第2号証)の単なる実施態様又は一実施例である。そして、単なる実施態様は、容易に想到し得る程度であろうとなかろうと、その発明に含まれることが明らかである。
仮に拡散性に関する新知見が本願発明(甲第20号証)の明細書中に記載されたことになったとしても、特許請求の範囲に記載されていなければ出願に係る技術思想ではない。
(2) 取消事由2(拒絶理由通知等の不存在について)
<1> 本件特許出願に対する拒絶査定(甲第18号証。以下「本件拒絶査定」という。)の理由は、本願発明は実願昭56-195420号(実開昭58-98655号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第1号証)並びに特開昭55-33136号公報(甲第15号証の4)に記載されたものに基づいて容易に発明できたものであるというものであった。
これに対し、審決の拒絶理由は、実願昭56-195420号(実開昭58-98655号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第1号証)のみを引例としている。
<2> すなわち、本件拒絶査定で引用された甲第15号証の4における繊維層(23a、23b)はローラー(24)によって繊維層に塗布される液を繊維の毛細管現象を利用して吸い上げ、定着ローラー3のところまで側方に移送するのが唯一の役割であるのに対し、本願発明における繊維層は重力と遠心力を利用して塗布ローラー内の液を表面に浸出させるものであるから、仮に甲第15号証の4の繊維密度と本願発明(甲第20号証)の繊維密度がたまたま同一であったとしても、繊維層の物性の利用の仕方が全く相違している。
審決は、甲第15号証の4を間違った引用例として採用せず、その代わりに、急転直下「当業者が適宜決定する程度の事項」との理由を採用しているものであり、本件拒絶査定時における拒絶理由と審判の拒絶理由が異なることは明らかである。
<3> したがって、審判の審理の過程において拒絶査定時と異なる拒絶理由が発見されたものであるから、審決には、特許法159条2項、50条に基づき、出願人に拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなかった手続上の違法があるといわなければならない。
<4> 被告は、異議申立てに対し意見書を提出する機会があった旨主張するが、本件における拒絶査定は、乙第1号証及び第15号証の4記載の発明から容易に発明できたことを理由とするものであり、出願審査において異議申立人の主張に係る一切の異議事由は査定の理由とみなす旨の規定は特許法に存在しないのであるから、審決が拒絶査定と異なる乙第1号証を理由として判断しようとする以上、新たに拒絶理由通知を行うべきは当然である。
<5> なお、後記請求の原因に対する認否及び反論2(2)<2>(a)の事実(異議申立理由の点)は認める。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4のうち、(2)<1>(審査段階における拒絶査定の理由と審決の理由の相違)は認め、その余は争う。
審決の認定、判断は正当であり、その手続にも違法はないから、原告ら主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1(出願変更)について
<1> 手続補正の適否
出願変更後に手続補正がある場合、変更出願は、原出願とは別の新たな出願であるから、原出願の願書に添付した明細書及び図面の記載と無関係に、変更出願の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載されている事項が基準となって、その後の手続補正の適否が判断される。
本件特許出願時の明細書及び図面の記載(甲第7号証)を基準として、平成元年3月9日付け手続補正書(甲第11号証)及び平成4年6月12日付け手続補正書(甲第20号証-全文訂正。以下「甲第20号証補正書」ともいう。)による各手続補正を検討すると、いずれも適法なものと認められる。
そして、適法な手続補正は、本件特許出願当初からその補正された内容で出願されたものとなる。
<2> 出願変更の点
そこで、本願発明(甲第20号証)と本件原出願明細書(甲第2号証)との間で、出願変更の要件の判断を行うと、原出願明細書記載の発明は、本件原出願より後において、オフセット防止液として、低粘度のものでは、「拡散性」に問題があり実施不可能であったことが判明したため、甲第20号証補正書では、高粘度のものを採用し、同時にこの高粘度に対応する繊維層の密度を0.2~1.0g/cm3に設定することで拡散性の課題を解決し、実施を可能としたものである。してみると、本願発明(甲第20号証)は、本件原出願明細書(甲第2号証)との間での出願の同一性がないこととなる。すなわち、
(a) 本件原出願明細書(甲第2号証)の実用新案登録請求の範囲には、「繊維層7はオフセット防止液10が自重で通過しない程度の密度」と記載され、防止液の粘度についての記載はない。
そして、本件原出願明細書(甲第2号証)の考案の詳細な説明には、次の事項が記載されている。
ア 「供給機構が簡素であるとともに、供給量調節の煩雑性が除去され、かつ使用寿命の長い供給手段を提供することがその目的である。」(1頁19行ないし2頁1行)
イ 「たとえば1000c.s.のシリコーンオイルからなる周知のオフセット防止液を注入収容する。筒内に収容すべきオフセット防止液の粘度は特に考慮の必要がなく、従来使用されている100~5000c.s.のシリコーンオイルを使用してよい。」(4頁18行ないし5頁2行)
ウ 「この繊維層7はオフセット防止液が自重で通過しない程度の密度をもっているので、この流出の過程において繊維層7の繊維間隙が毛細管作用により液を外方に誘導する一方、液の自重による自然流出が阻止される。また一方、筒壁5の回転により筒壁のどの部分の小孔6からも液が均等に外周面に流出するとともに、繊維層7は液を側方へも誘導する作用をもっているので、この装置を回転すれば液が筒壁5の外周面の全域において均等に行渡り、従って、この装置に密接して回転するトナー定着用ローラーの表面全域に液が平均して供給される。」(5頁13行ないし6頁4行)
エ 「この考案によれば、筒内の液の多少にかかわらず、前記のような調節は全く不要である。すなわち、繊維層には満量の液に対しても液が自重で通過できない程度の密度がある一方、液が減少した場合でも筒の回転による液圧の変化がたえず行われるため、液の繊維間細隙の通過が促進されるからである。」(6頁10行ないし16行)
オ 「この考案によれば、電子複写におけるオフセット防止液の供給にあたり、何等の供給量調節装置を設ける必要がなく、液の供給が円滑安定に保持され」(7頁2行ないし5行)
(b) これに対し、甲第20号証補正書の特許請求の範囲には、「繊維層7はほぼ0.2~1.0g/cm3の範囲の密度を有し、オフセット防止液10は、正常運転時の定着用ローラーの放熱に起因する液温以下における液の静圧では繊維層7を通過しない限度において繊維層7の密度に対応する粘度」と記載されている。
そして、甲第20号証補正書の発明の詳細な説明には、
ア 「複写機を使用しないで常温に保持されているときの液供給ローラーのローラー面からの漏液が自動的に予防されることはもちろん、特に、正常運転のヒートアップ時における運転開始および運転の一時停止後運転再開の際に発生しやすいローラー面からの漏液が同様に自動的に予防できる」(2頁10行ないし16行)
イ 「もし加熱装置を設けず、低粘度の液を採用したとすれば、不使用時においても液が浸出し、そのために複写機の各部が汚染するのを防止できない。のみならず、このローラーの被覆層はシリコーンゴムであるため、この被覆層内のオイル拡散性はどのような繊維層と較べても甚だしく不良なので、定着用ローラーへのオイル供給ムラが著しく、また気泡の大きいものしか得られていないので、用紙の紙粉により急速に目詰まりし、オフセット防止液供給手段としては実用化できないのである。」(6頁13行ないし7頁3行)
ウ 「実願昭56-195420号(実開昭58-98655公報)の技術は主として前記した漏液問題を解決するため、本願の発明者により提案されたものである。・・・筒内には100~5000c.sのような低粘度のオフセット防止液を収容して使用するものであった。そして、その提案によれば、前記繊維層はオフセット防止液が静圧時の液の自重では通過せず、前記円筒の回転により液に負荷される動圧により繊維層を通過できるような密度をもつものであった。しかしながら、定着ローラーに対するオフセット防止液供給ローラーの表層である繊維層としては、液の通過性の問題以前に層面に沿う拡散性がどうであるかという問題がある。すなわち、液が静圧では通過せず、動圧により通過するような密度の繊維層を得ることができたとしても、その繊維層の層面に沿う拡散性に乏しい場合は、定着ローラーへの給液ムラが発生するので、そのような繊維層は採用できないのである。本発明者等は入手し得る限りの多くの各種繊維層につき実験を重ねた結果、低粘度の液を対象として、層面に沿う拡散性が良好、かつ動圧によってのみ繊維層の通過が可能であるような好ましい性能をもつ繊維層は現実には得られず、従ってその考案を実施することができなかったのである。」(7頁16行ないし9頁4行)
エ 「本発明により解決すべき最重要の課題はヒートアップ時における運転開始又は運転再開の際に発生するローラー面からの漏液を自動的に予防できる手段を提供することは前記した通りであるが、前記先行技術に係るローラーの円筒体では、繊維層の密度をどのように選定しても前記漏液の予防が全く不可能で、運転開始又は運転再開の都度漏液が発生する。この先行技術によって漏液の予防が不可能であることは、本発明者が実験を行うまで予測不可能であった。すなわち本発明者は、前漏液防止の能不能が、単に繊維層の密度および密度に対応して、運転開始又は再開の瞬間において繊維層の通過が可能な粘度に関係があるのみならず、円筒体に収容されている液から繊維層への給液経路の如何に深くかかわっていることを見出したのである。概説すれば、この先行技術においては、通紙の都度消費される液と比較して数十倍から数百倍という非常に多量の液が円筒体の周面に穿たれている長い溝に貯留されており、運転開始又は再開の瞬間、動圧が溝内の液に負荷され、既に飽和状態にある繊維層に強制補給される結果、必要な消費量に対し著しく多量な余分の液量が繊維層から放出され、その結果漏液現象を引き起こすに至るのである。すなわち、液封入型のオフセット防止液供給ローラーは、ローラーに付設する加熱装置、給液量の調節装置、独立した貯液タンク等の装備が不要なため複写機全体を小型化できるとか、液の補給や給液量の調節を要しないため、操作が簡便で故障が少ないなどの利点により、オフセット防止液の供給手段として液滴下型や液誘導塗布型などのものより格段に優れていることが予見されながら、漏液による汚染の問題を解決できなかったため実用化しなかったのである。本発明はローラーの芯金である円筒の構造、被覆繊維層の密度、液の粘度三者の関係を後述のように特定したことにより、前記した漏液の問題を解決し、液封入型のオフセット防止液供給ローラーの実用化にはじめて成功したものである。」(9頁19行ないし11頁17行)
オ 「繊維層7の密度はほぼ0.2~1.0g/cm3で、この範囲を大きく逸脱しないことが必要である。密度がこの範囲未満であっては、この繊維層に補給含浸させるオフセット防止液として著しく高粘度のものが必要であり、その場合はヒートアップのための加熱装置を付設しなければ実用に適しないので、複写機の大型化や操業能率の低下などの不利益を伴う。前記した密度範囲を超える高密度の繊維層および一応これに含浸することが可能な低粘度のオフセット防止液の入手は可能である。しかしながら、現実に入手可能な繊維層にあっては、密度が前記範囲を超えて高いと層面に沿う液の拡散性が急速に不良化する。層面に沿う拡散性が不良であると定着ローラーへの塗りムラが発生し、オフセット防止機能が失われることは言うまでもない。100~1000c.s.のように低粘度の液を採用すればこのような欠点に対処できるが、その場合は液の消耗が大きいため頻繁な補給が必要となるばかりでなく、拡散性が過度に良好であるため、運転の開始、再開の際の急激な動圧の負荷により液がはじき出され、漏液を生じる。以上の実験提供事実に鑑み、この発明においては1.0g/cm3を超える高密度の繊維層およびこれに見合う低粘度の液を採用すべきでない。」(12頁16行ないし13頁19行)
カ 「つぎに、本発明によれば、オフセット防止液10は正常運転時の定着ローラーの放熱に起因する液温以下における液の静圧では繊維層7を通過しない限度において、繊維層7の密度に対応する粘度のものであることが必要である。このようなオフセット防止液の常温における粘度の例をあげれば、繊維層7の密度が1.0g/cm3であるときはほぼ3万c.s.であり、0.2g/cm3であるときはほぼ50万c.s.のものがこれに対応する。従って、繊維層7の密度が0.2g/cm3と1.0g/cm3の中間であるときは、室温で3万c.s.と50万c.s.の中間の粘度のものを採用するのであるが、液の粘度を決定するにあたっては、実験により正規の運転時においてオフセット防止に必要な給液量を超える液の浸出が起こらない限度の粘度に定める必要がある。」(13頁20行ないし14頁15行)
キ 「収容するのに適当な液の粘度は、一般的に言ってプレッシャーローラー12に密接させるものについては室温で3万~6万c.s.、ヒートローラー11に密着させるものについては室温で30万~50万c.s.が適当である。ヒートローラー11用の場合の粘度が高いのは、運転中ヒーターからの受熱により粘度の低下が著しいからである。」(15頁3行ないし10行)
ク 実施例1、2が加入補正されており、実施例1において、繊維層7の密度が「1.0g/cm3」、オフセット防止液10の粘度が「3万c.s.」、実施例2において、繊維層7の密度が「0.4g/cm3」、オフセット防止液10の粘度が「30万c.s.」との記載がある。(16頁表参照)
ケ 「複写機の運転に際しては定着用ローラーの回転に伴い、これに密接して設けたこのローラーが回転すれば、回転の遠心力による動圧を受ける筒内の液は小孔6の通過抵抗を受けつつ繊維層7に進出するが、小孔6の通路は細く、かつ繊維層7が小孔6の孔縁に密接しているので、徐々に進出するとともに繊維層7の層面に沿って拡散する。そして、このような多数の小孔6が筒壁5の全域にわたり分散配置されているため、液は層の全域に平均に補給される。一方、繊維層7はあらかじめ含浸されている液により飽和状態にあるので、繊維層7内の液に印加される動圧を受け、繊維層7からは必要量の液が徐々に浸出する。」(18頁9行ないし19頁1行)
コ 「上掲のような機能は、前記したローラー円筒体の特定構造と、0.2g/cm3~1.0g/cm3の範囲をもつ繊維層7と、この密度範囲に対応して運転時における繊維層に対する通過性が規制されている粘度をもつオフセット防止液との三者の不可分な結合によりはじめて発揮されるのであって、繊維層7の密度および液の粘度が同様であってもローラー円筒体が前記した特定構造を有しない場合はそのような機能が発揮できないのである。」(20頁17行ないし21頁5行)
サ 「液の供給量の調節が全く不要であるとともに、複写機の運転時における定着用ローラーへの液の供給および運転終了時又は運転の一時休止時の供給停止が自動的に行われ、ローラー面からの漏液による汚染が発生せず」(21頁8行ないし13行)
(c) 以上によれば、本件原出願明細書(甲第2号証)の記載によると、繊維層の密度は「オフセット防止液10が自重で通過しない程度の密度」とされているだけで、具体的な開示はされておらず、また、オフセット防止液の粘度は「特に考慮の必要がなく」、周知のもの(粘度1000c.s.)や従来使用されているシリコーンオイル(粘度100~5000c.s.)を使用するとして特に考慮の必要はないとしている。さらに、液の拡散性については、「筒壁5の回転により筒壁のどの部分の小孔6からも液が均等に外周面に流出するとともに、繊維層7は液を側方へも誘導する作用もっているので、・・・液が筒壁5の外周面の全域において均等に行渡り、・・・回転するトナー定着用ローラーの表面全域に液が平均して供給される。」としている。
これに対し、甲第20号証補正書の記載によると、「オフセット防止液の常温における粘度の例をあげれば、繊維層7の密度が1.0g/cm3であるときはほぼ3万c.s.であり、0.2g/cm3であるときはほぼ50万c.s.のものがこれに対応する。従って、繊維層7の密度が0.2g/cm3と1.0g/cm3の中間であるときは、室温で3万c.s.と50万c.s.の中間の粘度のものを採用するのであるが、液の粘度を決定するにあたっては、実験により正規の運転時においてオフセット防止に必要な給液量を超える液の浸出が起こらない限度の粘度に定める必要がある。」、「収容するのに適当な液の粘度は、一般的に言ってプレッシャーローラー12に密接させるものについては室温で3万~6万c.s.、ヒートローラー11に密着させるものについては室温で30万~50万c.s.が適当である。ヒートローラー11用の場合の粘度が高いのは、運転中ヒーターからの受熱により粘度の低下が著しいからである。」、「回転の遠心力による動圧を受ける筒内の液は小孔6の通過抵抗を受けつつ繊維層7に進出するが、小孔6の通路は細く、かつ繊維層7が小孔6の孔縁に密接しているので、徐々に進出するとともに繊維層7の層面に沿って拡散する。そして、このような多数の小孔6が筒壁5の全域にわたり分散配置されているため、液は層の全域に平均に補給される。」、「前記したローラー円筒体の特定構造と、0.2g/cm3~1.0g/cm3の範囲をもつ繊維層7と、この密度範囲に対応して運転時における繊維層に対する通過性が規制されている粘度をもつオフセット防止液との三者の不可分な結合によりはじめて発揮されるのであって」との記載がそれぞれされている。
以上によると、甲第20号証補正書により新しく加入補正された繊維層の密度及びオフセット防止液の粘度に関する事項は、本件原出願明細書(甲第2号証)におけるものと相違している。
すなわち、本件原出願明細書(甲第2号証)においては、オフセット防止液の粘度は「特に考慮の必要がなく」、周知のもの(粘度1000c.s.)や従来使用されているシリコーンオイル(粘度100~5000c.s.)を使用し、繊維層の密度は「オフセット防止液が自重で通過しない程度の密度」とされているだけで、具体的な開示はされていない。一方、甲第20号証補正書においては、各種実験を通じてオフセット防止液の粘度について、室温での粘度値とか運転中のヒーターからの受熱による粘度低下を考慮するとし、繊維層の密度について、オフセット防止液の粘度に対応してその密度を選定すべきとし、これらの観点のもとに、オフセット防止液の粘度値を当初のものと全く異なる範囲の値とし、この粘度値に対応する繊維層の密度として具体的数値の記載がされている。
このような甲第20号証補正書により新しく加入補正された繊維層の密度及びオフセット防止液の粘度に関する事項は、本件原出願明細書(甲第2号証)に記載されてなく、またその記載内容からして当業者に自明な事項とも認められない。つまり、原出願より後において、オフセット防止液として、低粘度のものでは、「拡散性」に問題があり実施不可能であったことが判明したため、甲第20号証明細書では、高粘度のものを採用し、同時にこの高粘度に対応する繊維層の密度を0.2g/cm3~1.0g/cm3に設定することで拡散性の課題を解決し、実施を可能としたものである。したがって、本願発明(甲第20号証)は、本件原出願明細書(甲第2号証)との間での出願内容の同一性がないこととなる。
<3> 原告らの主張に対する反論
原告らは、審決は、相違点として認定した点のうち、「繊維層7はほぼ0.2~1.0g/cm3の範囲の密度を有し、オフセット防止液10は、正常運転時の定着用ローラの放熱に起因する液温以下における液の静圧では繊維層7を通過しない限度において繊維層7の密度に対応する粘度に対応する粘度を有し、」との点について、本件原出願の考案と本願発明(甲第20号証)が同一の技術思想に属するという認定をしている旨主張する。
しかしながら、審決は、「当業者が適宜決定する程度の事項」との表現により、当業者であれば容易に想到し得る程度の事項と認定しているものであり、両者を同一と認めているものではない。この点は、審決の理由の要点(6)が特許法29条2項を記載していることからも明らかである。
また、審決は、本願発明(甲第20号証)は、本件原出願明細書(甲第2号証)に加えて、粘度の範囲を大幅に拡張変更した昭和57年10月1日付け手続補正書に記載の事項も含むマイクロフィルム(乙第1号証)に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認めているものである。
(2) 取消事由2(手続上の違法)について
<1> 審決での主たる引用例である乙第1号証のマイクロフィルムは、拒絶査定の理由においても主たる引用例であり、甲第15号証の4の公報は、拒絶査定では、密度範囲として従来よく知られていたものを単に例示した程度のものであるから、改めて拒絶の理由の通知を必要としないものである。
<2>(a) さらに、異議申立てにおいては、乙第1号証のみから容易に発明をすることができた旨の申立理由が記載されており(甲第15号証の1第5頁7~11行)、原告らは答弁書による意見書を提出する機会は与えられていた。
(b) そして、このような審査における手続は、特許法158条の規定により、審判においても効力を有するから、審判において同趣旨の理由を拒絶理由とする場合には、特許法159条2項において準用する同法50条の規定が設けられた趣旨に照らし、改めて拒絶理由を通知する必要はないものと解される。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(3)ないし(5)は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告ら主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 取消事由1(出願変更の点)について
<1> 請求の原因に対する認否及び反論2(1)<1>の点(甲第11号証及び甲第20号証補正書(全文訂正)による各手続補正が補正の要件を満たす点)は、当事者間に争いがない。
<2> そこで、本願発明(甲第20号証)が出願変更の要件を満たすか否かについて検討する。
(a) 甲第2号証によれば、本件原出願明細書(甲第2号証)の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明には、請求の原因に対する認否及び反論2(1)<2>(a)のとおりの記載があることが認められる。
この事実によれば、本件原出願明細書(甲第2号証)においては、実用新案登録請求の範囲において、繊維層の密度は「オフセット防止液10が自重で通過しない程度の密度」と記載されているだけで、他に何ら限定はされておらず、その考案の詳細な説明においても、オフセット防止液の粘度は「特に考慮の必要がなく」、周知のもの(粘度1000c.s.)や従来使用されているシリコーンオイル(粘度100~5000c.s.)を使用するとして特に考慮の必要はないと記載されていたものである。さらに、防止液の拡散性の点については、格別問題があったとの認識は示されていないものである。
(b) これに対し、甲第20号証によれば、甲第20号証補正書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には、請求の原因に対する認否及び反論2(1)<2>(b)のとおりの記載があることが認められる。
この事実によれば、甲第20号証補正書は、特許請求の範囲において、繊維層の密度を「ほぼ0.2~1.0g/cm3の範囲」とし、発明の詳細な説明において、オフセット防止液の粘度値を、「常温における粘度の例をあげれば、繊維層7の密度が1.0g/cm3であるときはほぼ3万c.s.であり、0.2g/cm3であるときはほぼ50万c.s.のものがこれに対応する。」、「収容するのに適当な液の粘度は、一般的に言ってプレッシャーローラー12に密接させるものについては室温で3万~6万c.s.、ヒートローラー11に密着させるものについては室温で30万~50万c.s.」と本件原明細書に記載されたものと異なる粘度数値を記載している。
このように繊維層の密度を限定し、それに対応するオフセット防止液の粘度を本件原出願明細書(甲第2号証)のものと異なるものとした理由は、繊維層の密度が0.2g/cm3未満の場合は、オフセット防止液として著しく高粘度のものが必要であり、その場合はヒートアップのための加熱装置を付設する必要があること、繊維層の密度が1.0g/cm3を超える場合は、層面に沿う拡散性が不良であり定着ローラーへの塗りムラが発生すること、100~1000c.s.のように低粘度の液を採用すればこのような欠点に対処できるが、その場合は運転の開始、再開の際に漏液の問題が生じること、並びに、運転中のヒーターからの受熱による粘度低下を考慮する必要があることが判明したことにあると認められる。
(c) そうすると、本願発明(甲第20号証)は、単に特許請求の範囲の減縮として繊維層密度の範囲を限定したものではなく、オフセット防止液の拡散性の問題を解決するために、繊維層の密度を0.2~1.0g/cm3に限定したものであり、少なくともこの点で、本件原明細書(甲第2号証)に記載された考案との間で出願内容の同一性がないと認められる。
(d) 原告らは、甲第20号証補正書において、繊維層の密度を限定する要件を付加したことは、単に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、その補正の結果、請求範囲の拡張、変更をもたらすものではない旨主張するけれども、この主張は、上記に説示したところに照らし、採用できない。
また、原告らは、本願発明(甲第20号証)は、本件原出願の考案(甲第2号証)の単なる実施態様であり、単なる実施態様は、その発明に含まれるとか、新知見は特許請求の範囲に記載されていなければ出願に係る技術思想ではない旨主張するが、これらの主張が採用できないことは明らかである。
<3> したがって、原告ら主張の取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(手続上の違法の点)について
<1> 請求の原因4(2)<1>(審査段階における拒絶査定の理由と審決の理由の相違)は、当事者間に争いがない。
さらに、異議申立てにおいては、乙第1号証のみから容易に発明をすることができた旨の申立理由が記載されており(甲第15号証5頁7~11行)、原告らは答弁書による意見書を提出する機会を与えられていたことは、当事者間に争いがない。
<2> 審判段階において拒絶査定と異なる理由を拒絶の理由とする場合であっても、異議申立ての理由として主張された理由と同趣旨の理由を拒絶の理由とする場合には、審査段階における手続は特許法158条の規定により審判段階においても効力を有するものとされ、特許法159条2項において準用する同法50条の規定が設けられた趣旨に照らし、改めて拒絶理由を通知する必要はないものと解される。
したがって、本件において、出願人に改めて拒絶理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなかったことをもって手続上の違法があると解することはできない。
これに反する原告らの主張は、採用できない。
<3> したがって、原告ら主張の取消事由2は理由がない。
3 よって、原告らの本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)