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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)171号 判決 1995年10月25日

ドイツ連邦共和国

フランクフルト・アム・マイン

原告

ヘキスト・アクチエンゲゼルシヤフト

代表者代表取締役

ウルリツヒ・テルガウ

アルブレヒト・エンゲルハルト

訴訟代理人弁理士

高木千嘉

佐藤辰男

西村公佑

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

吉田敏明

西川正俊

市川信郷

土屋良弘

主文

特許庁が、平成3年審判第17293号事件について、平成5年4月30日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1981年9月26日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和57年9月24日、名称を「ビシナルジヒドロキシアルキルキサンチン含有薬剤」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭57-165147号)が、平成3年5月13日に拒絶査定を受けたので、同年9月2日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第17293号事件として審理したうえ、平成5年4月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月23日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

別添審決書写し記載のとおりである。

(ただし、審決書2頁記載の式Ⅰを別紙記載の式に改める。以下、特許請求の範囲第7項記載の化合物の発明を「本願第1発明」、同第1項記載の気管支痙攣鎮痙作用性薬剤の発明を「本願第2発明」といい、同第1項及び第7項の式Ⅰに記載されているキサンチン誘導体を「本願発明化合物」という。)

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物であるChem.Pharm.Bull.24(6)、1384-1386(1976)(以下「引用例1」という。)及び昭和54年11月30日株式会社廣川書店発行・アメリカ医師会編・石館守三ほか監訳「医薬品の評価」(以下「引用例2」という。)の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨及び引用例1及び2の記載事項の認定(審決書2頁4行~6頁16行)、本願発明化合物と引用例1記載の「3、7-ジメチル-1-(5-オキソ-ヘキシル)-キサンチン」(BL 191)の代謝物Ⅱである「3、7-ジメチル-1-(5、6-ジヒドロキシ-ヘキシル)-キサンチン」(以下「引例化合物」という。)とが、「本願発明化合物ではR1が5、6-ジヒドロキシ-ヘキシルである場合には、R2及びR3がともにメチル基ではない点で相違している」(同7頁4~6行)との認定は認めるが、相違点の判断は争う。

審決は、引用例1及び2の記載の解釈を誤り、引例化合物が気管支痙攣鎮痙作用性を有していると誤認し(取消事由1)、また、本願発明化合物の顕著な作用効果の予測困難性の判断を誤り(取消事由2)、さらに、本願第2発明は薬剤であるから引用例1記載のものが化合物であるのとは相違する点を看過し(取消事由3)、その結果、本願第1発明及び第2発明について進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(引例化合物の作用の誤認)

審決は、引用例1の表Ⅰ(TABLE Ⅰ)に、引例化合物が「環状3’、5’-ヌクレオチド ホスホジエステラーゼ(PDE)の活性を抑制する作用を有することが記載されている」(審決書5頁14~17行)ことと、引用例2の記載(同5頁18行~6頁16行)から、「引用例1のTABLE Ⅰの上記記載は、引例化合物が気管支平滑筋を弛緩させること、したがって、引例化合物が気管支痙攣鎮痙作用性を有していることをPDE活性抑制というパラメータによって表わしているものと認められる」(同6頁17行~7頁2行)と認定しているが、以下に述べるとおり誤りである。

(1)  引用例1(甲第3号証)の論文は、その要約の項の冒頭に、「3、7-ジメチル-1-(5-オキソ-ヘキシル)-キサンチン(BL 191)及びその主な尿中代謝物を、サイクリック3’、5’-ヌクレオチドフォスフォジエステラーゼ(PDE)活性に対する阻害効果及びラット精巣上体脂肪パッドの脂肪分解に対する刺激効果について試験管内で検討した」(同号証訳文1頁本文1~5行)とあるとおり、キサンチン誘導体であるBL 191及びその主な尿中代謝物Ⅰ、Ⅱ(引例化合物)、Ⅲ、ⅣのPDE活性に対する阻害作用及びラットの精巣上体脂肪パッドに対する刺激効果について、既知のPDE阻害剤であるテオフィリンと比較して検討したものであり、引用例1には、ラットの精巣上体脂肪パッド中のPDEの活性を阻害すると、サイクリック3’、5’-アデノシンモノフォスフェート(c-AMP、CAMP)の組織濃度が増加し、トリグリセリドすなわち脂肪が分解して遊離脂肪酸が血中に増加することが示されているにすぎない。

そして、引用例1(甲第3号証)の表Ⅰ(TABLE Ⅰ)及びこれについての「BL 191及びテオフィリンはPDE及び脂肪分解に対してほぼ同じ効果を示すことが確かめられた。更に、側鎖においてオキソヘキシル基を有する代謝物Ⅰ及びⅡによって惹起されるPDE阻害及び脂肪分解応答は、BL 191によるものよりわずかに小さく、側鎖においてカルボキシル基を有する代謝物Ⅲ及びⅣは、PDE活性及び脂肪分解に対して効果を持たなかった。」(同号証訳文6頁4~10行)との記載によれば、引例化合物(代謝物Ⅱ)のPDE阻害作用は、テオフィリンあるいはBL 191より低く、代謝物Ⅲ及びⅣはPDE阻害作用を全く有しないことが分かる。

このように、引用例1はPDE活性に対する阻害効果に関する論文であって、PDE活性を阻害するとCAMPの組織濃度を増大させ、脂肪を遊離脂肪酸(FFA)に分解させることを記載しているのであり、表Ⅰの値もその趣旨でPDE活性の阻害率を示しているにすぎない。

したがって、引用例1には、引例化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有することについて、何らの記載も示唆もない。

(2)  引用例2(甲第4号証)には、「キサンチン誘導体であるtheophylline属は気管支拡張薬として用いられる」(同号証651頁右欄6~8行)あるいは「theophyllineやその誘導体はあきらかに、CAMPを代謝するphosphodiesteraseを阻害する作用がある」(同652頁右欄8~10行)と記載されているが、ここにいうtheophylline(テオフィリン)属あるいはテオフィリンの誘導体とは、テオフィリン〔1、3-ジメチルキサンチン〕のほか、引用例2の「Theophylline誘導体」の項(同661頁左欄6行~663頁右欄27行)に、具体的に挙げられているアミノフィリン、テオフィリン塩(エチレンジアミン、コリン)及びジフィリン〔7-(2、3-ジヒドロキシプロピル)-1、3-ジメチルキサンチン〕のことを便宜上総括した語にすぎないというべきである。

なぜなら、属あるいは誘導体とは、グループあるいはそれから誘導されたものという意味しかなく、化合物の薬理的性質は化合物の化学構造式から直ちに推定できるものではないことは、例えば、テオフィリンの7-位にメチル基が導入されたテオフィリン誘導体はカフェイン〔1、3、7-トリメチルキサンチン〕であるが、これが気管支拡張薬として用いられるものでないことからも明らかである。

そして、引用例2には、審決摘示の記載とともに、キサンチン誘導体であるテオフィリン属の薬物と同様にCAMPの生成を促進するとされている交感神経刺激薬の内には、メタプロテノールのように、気管支に対してはほとんど選択的に作用を示さないものがあること、エピネフィリンやエフェドリンのように、α、β受容器ともに作用し末梢血管の抵抗を増強させるものがある(同651頁右欄6行~652頁左欄3行)ことが記載されている。

これらの記載によれば、CAMPの生成を促進するいかなる化合物でも気管支拡張作用を有することにならないから、CAMPの生成を抑制するPDEの阻害作用を有する化合物が直ちに気管支拡張作用を有するとの結論にはならない。

また、仮に、PDE活性を阻害しCAMPの生成を促進させることが、平滑筋を弛緩させることを意味するとしても、平滑筋は内臓のほとんどの箇所に所在するから、気管支平滑筋を優先的に弛緩させること、すなわち気管支痙攣鎮痙作用を有しているということにはならず、まして、PDE活性抑制率が気管支痙攣鎮痙作用性のパラメータになるとは到底いえない。

(3)  このように、テオフィリン属あるいはその誘導体であれば、すべてPDE活性阻害作用があり、しかも気管支痙攣鎮痙作用を有するとすることはできないし、まして、それより範囲の広いキサンチン誘導体であれば、PDE活性阻害作用があり、しかも気管支痙攣鎮痙作用を有するとすることはできない。

したがって、キサンチン誘導体には含まれるが、テオフィリン属あるいはその誘導体には含まれない引例化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有するとした審決の認定は誤りである。

2  取消事由2(作用効果の予測困難性の判断の誤り)

審決は、「本願発明化合物と引例化合物とは、単にR2及びR3が同時にメチル基ではないアルキル基であるという点でだけ相違しているにすぎず、また、その相違に基づいて気管支痙攣鎮痙作用について予想外の技術的効果をあげたものとも認められない」(審決書9頁1~6行)と判断しているが、以下に述べるとおり誤りである。

(1)  本願発明化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有することは、引用例1及び引用例2から予想できることではない。

前記のように、引用例1には引例化合物に気管支痙攣鎮痙作用があるとの記載も示唆もない。したがって、本願第1発明が提案される以前には、R1が5、6-ジヒドロキシヘキシル基であって、R2及びR3のいずれか一方がメチル基以外の化合物が、引例化合物と比較して、気管支痙攣鎮痙作用が優れているか否か、あるいはR2及びR3のアルキル基の炭素数の違いによってその作用が変化するか否かは知る由もないのであり、審決で述べるような、R2及びR3のアルキル基の炭素数の違いにより、また、R2及びR3のいずれか一方がメチル基以外のアルキル基の化合物の気管支痙攣鎮痙作用がどのようになるか等について、技術的根拠があるはずがない。

また、このような本願出願前の技術水準の下では、R2及びR3のアルキル基の炭素数が大きく相違しないときは、その気管支痙攣鎮痙作用が相違するかどうかを当業者は考えることはできない。

そもそも、化合物の発明が許されるためには、用途発明のような厳密さを要しないが、その有用性が確認されていることが必要である。そして、化合物の物理的あるいは化学的性質は化合物の構造式からある程度は予測できるであろう。しかし、その物理的性質、具体的には気管支痙攣鎮痙作用のような性質は勿論、PDE活性阻害作用のような性質も化合物の構造式からは予測できない。このことは、前記のように、引用例1の表1のBL 191、代謝物Ⅰ~Ⅳのキサンチン誘導体のPDE活性阻害作用の値に差があることからも明らかである。

以上のとおり、本願発明化合物がPDE活性阻害作用を有することは知られておらず、また、引用例2記載のテオフィリン誘導体がPDE活性阻害作用を有するとの知見を本願発明化合物にそのまま適用することはできない(なお、本願発明の一部の化合物はテオフィリン誘導体ということができるが、他の大部分の化合物は、本願明細書の特許請求の範囲の式Ⅰの定義から明らかなようにキサンチンの1位又は3位のいずれか又は両方がメチル基以外の基で置換されているから、テオフィリン誘導体ではない。)し、まして、本願発明化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有することはとうてい予想できることではない。

(2)  本願明細書の第4表に、本願発明化合物とテオフィリン-エチレンジアミン及びジフィリンとを対比して、気管支痙攣鎮痙作用及び急性毒性についての試験結果と治療指数とが示してあり、これらの記載から、本願発明化合物がテオフィリンやジフィリンより気管支痙攣鎮痙作用が優れていることは容易に理解できるところである。

3  取消事由3(相違点の看過)

本願第2発明は、本願発明化合物を包含する気管支痙攣鎮痙作用性薬剤の発明である。

本願第2発明の気管支痙攣鎮痙作用は一種の医薬である。そして、医薬発明は病気等の治療や予防に有効であることが確認されていることばかりでなく、毒性等についても検討され、医薬として使用可能性が十分推認できてはじめて発明として完成したといいうるのである。

しかるに、引用例1には、引例化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有することは記載されておらず、また引例化合物の毒性等についても全く言及していない。

したがって、本願第2発明と引用例1記載の発明とは、本願第2発明が薬剤の発明であるのに対し、引用例1記載の発明が化合物の発明である点で相違するのに、審決はこの相違点を看過した。

第4  被告の反論

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  引用例1には、引用化合物がホスホジエステラーゼ(PDE)活性の抑制作用を有していることが記載されており、引用例2によれば、テオフィリン属やその誘導体は、PDE活性阻害作用があり、テオフィリン属の化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有していることが記載されている。

(2)  引用例2に、「テオフィリン属」として具体的に例示して記載されているのは、テオフィリン〔1、3-ジメチルキサンチン〕若しくはその塩及びジフィリンだけであることは認める。

しかし、引用例2の審決摘示の記載は、一般的な記載であって、「テオフィリン属」又は「テオフィリンの誘導体」がテオフィリン若しくはその塩及びジフィリンだけに限る趣旨で記載されているものとはいえない。

テオフィリンとジフィリンとは、同じテオフィリン骨格(骨格としての1、3-ジメチルキサンチン)を有しているとはいえ、その構造式をみれば明らかなように、かなり異なった構造を有する化合物である。このような相違があるにもかかわらず、両者がともに気管支拡張作用を有していることからすると、その気管支拡張作用を両者において異なるメチル基やジヒドロキシプロピル基に帰することはできないから、その気管支拡張作用は、本質的には共通の特徴的な骨格であるテオフィリン骨格に由来すると考えられる。「テオフィリン属」とは、文字どおりテオフィリン骨格を有する化合物とみるべきである。

引用例2の上記記載は、テオフィリン属に属する化合物、例えばテオフィリンとジフィリンがCAMPを代謝するPDE(ホスホジエステラーゼ)の活性を阻害し、かつ、そのような性質を有するテオフィリンが気管支拡張作用を有しているという認識を示しているのである。

ただし、引用例1のBL 191の代謝物Ⅲ及びⅣがキサンチン類でありながら、PDE活性の阻害作用がないか極めて低いこと、また、カフェインが気管支拡張薬でないことは認める。

(3)  PDE活性の阻害作用を有する化合物が直ちに気管支拡張作用を有するとの結論にならないことは、一般論としては認める。

しかし、「テオフィリン属」が、PDE活性の阻害作用を有すること、一般的に平滑筋弛緩作用を多少なりとも持っており、そのうちのあるものは気管支痙攣鎮痙薬として実用化されていることは技術常識である(乙第2号証・「臨床薬学と治療学〔上〕246頁「テオフィリン誘導体」の項)。

したがって、同文献及び引用例2の示す技術常識からすれば、抗痙攣鎮痙作用の医薬を開発しようとする当業者にとって、テオフィリン属のPDE活性阻害作用が、テオフィリン属の化合物の気管支痙攣鎮痙作用の主要な指標となることは当然である。

審決が、「引例化合物が気管支痙攣鎮痙作用性を有していることをPDE活性抑制というパラメータによって表わしているものと認められる」としたのは、この意味である。

2  取消事由2について

(1)  引用例1には、「引例化合物」がPDE活性阻害作用を有していることが記載されている。そして、テオフィリン属の化合物については、そのPDE活性阻害作用はその化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有していることを意味している(ただ、どの程度の気管支痙攣鎮痙作用をもっているか、また、気管支痙攣鎮痙作用のほかにどのような性質をもっているかが具体的にはわからないだけである。)。したがって、引例化合物と構造が酷似している本願発明化合物も同様に気管支痙攣鎮痙作用を有していることは容易に予想できるはずである。

そして、本願発明化合物と引例化合物とが構造的に酷似している化合物である以上、これらの化合物の気管支痙攣鎮痙作用を比較して、本願発明化合物が予想外に優れていることを示さないかぎり、本願第1発明は引用例1及び同2から当業者が容易に発明をできたものといえる。

(2)  本件で重要なことは、キサンチン類又はメチルキサンチン類(ただし、具体的にはテオフィリン誘導体だけが例示されている。)の気管支拡張作用がPDE活性抑制作用によるとの知見が技術常識であるときに、引用例1にキサンチン類ないしはメチルキサンチン類である引例化合物がPDE活性抑制作用を有していることが記載され、かつ本願発明の化合物が引例化合物と酷似しているということである。

引例化合物と引用例2に記載のキサンチン誘導体であるテオフィリン属化合物は、共にPDE活性抑制作用を有するのに、前者は非テオフィリン属、後者はテオフィリン属と異なっている。このことは、テオフィリン属とか非テオフィリン属とかで分けるよりも、次に述べるとおり、キサンチン類、その中でもとりわけメチルキサンチン類がPDE活性抑制作用を有すると解すべきであることを示している。

<1> キサンチン類、キサンチン属又はキサンチン誘導体(以下「キサンチン類」という。)は、通常の用語法では、R1、R2又はR3は特に限定されない。

<2> R1、R2又はR3のいずれかがアルキル基であるキサンチン類は、アルキルキサンチン類ということができる。また、R1、R2又はR3のいずれか二つがアルキル基であるキサンチン類は、ジアルキルキサンチン類ということができる。

<3> ジメチルキサンチンは、ジアルキルキサンチンの一例であるが、テオフィリンやテオブロミンはジメチルキサンチンの例である。すなわち、テオフィリン類とは、R1及びR2がともにメチル基であり、R3は限定されないもの(1、3-ジメチル-キサンチン)であり、テオブロミン類とは、R2及びR3がともにメチル基であり、R1は限定されないもの(3、7-ジメチル-キサンチン)である。

<4> そして、テオブロミンも平滑筋弛緩作用を有することはよく知られており(乙第3号証・「THE MERCK INDEX」)、また、引例化合物(代謝物Ⅱ)は、テオブロミン類に含まれる。

<5> 以上のことと前記引用例1及び2の記載とを総合すると、テオフィリン類とテオブロミン類とを包含する分類としてのメチルキサンチン類が、PDE活性阻害作用ないし気管支痙攣鎮痙作用を有するものと解するのが合理的である。

(3)  本願発明化合物には、テオフィリン類に属するものも、テオブロミン類に属するものも存在する。

したがって、本願発明化合物がPDE活性抑制作用ないし気管支痙攣鎮痙作用を有することを予測することに特に困難性があるとはいえない。

そして、本願明細書には、本願発明の化合物が引例化合物に比較して、PDE活性抑制作用又は気管支拡張作用において格別優れているという具体的資料は示されていないから、審決の認定に誤りはない。

3  取消事由3について

本願第2発明は、本願発明化合物を含有することを特徴とする気管支痙攣鎮痙作用性薬剤の発明である。本願第2発明は本願第1発明の化合物の薬理作用上の効果そのものである。そして、本願第1発明の化合物がその薬理作用上の効果が予想外のものでないことは上述のとおりであるから、本願第2発明もまた当業者が容易に発明をできたものといえる。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1、2について

(1)  引用例1、特にその表Ⅰ(TABLE Ⅰ)に、引例化合物(BL 191の代謝物Ⅱ)、すなわち、3、7-ジメチル-1-(5、6-ジヒドロキシ-ヘキシル)-キサンチンが環状3’、5’-ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDE)の活性を抑制する作用を有することが記載されていること、引用例2に、審決認定のとおり、「キサンチン誘導体であるtheophylline属は気管支拡張薬として用いられている」、「theophyllineやその誘導体はあきらかに、CAMPを代謝するphosphodiesteraseを阻害する作用がある」旨記載されていることは、当事者間に争いがない。

これらの記載と、本願明細書(甲第2号証の1~3)の「従来知られた気管支痙攣鎮痙剤ではホスホジエステラーゼ抑制剤として作用するキサンチン化合物が優先的地位を占める・・・。何故ならばこれらはなんらβ2-交感神経興奮性作用を有せずそしてそれゆえ慢性閉塞性呼吸道疾患に常に必要な持続治療に特に良好に適するからである。これら物質群のうち天然に存在するキサンチン誘導体テオフイリン(1、3-ジメチルキサンチン)は現在20~30年間確実に喘息治療において選択された薬剤である。」(甲第2号証の1、明細書14頁11行~5頁5行)との記載によれば、キサンチン化合物、特にテオフィリン(1、3-ジメチルキサンチン)がPDE活性抑制作用を有し、それ故に気管支痙攣鎮痙作用を有することは、本願出願前、周知の技術的常識として理解されていたことが明らかである。

したがって、審決が、引用例1及び2の記載に基づいて、キサンチン化合物である引例化合物につき、「引用例1のTABLE Ⅰの上記記載は、引例化合物が気管支平滑筋を弛緩させること、したがって、引例化合物が気管支痙攣鎮痙作用性を有していることをPDE活性抑制というパラメータによって表わしているものと認められる」(審決書6頁17行~7頁2行)と認定したことに、誤りはないといわなければならない。

そして、審決認定のとおり、「本願発明化合物と引例化合物とを比較すると、本願発明化合物ではR1が5、6-ジヒドロキシ-ヘキシルである場合には、R2及びR3がともにメチル基ではない点で相違している」(審決書7頁3~6行)ことは当事者間に争いがなく、これによれば、両者は、「単にR2及びR3が同時にメチル基ではないアルキル基であるという点でだけ相違しているにすぎず」(同9頁2~4行)、極めて近似した化合物であることが明らかである。

したがって、本願発明化合物が、PDE活性抑制作用ないし気管支痙攣鎮痙作用を有することを予測することは、一般的にいって格別の困難性はないということができる。

(2)  しかしながら、本願明細書の上記記載に続く「しかしながらそれらの臨床的に確立された作用は、非常に狭い治療範囲、胃腸、心臓脈管および腎臓範囲内ならびに中枢神経系における煩わしい副作用および水溶性の欠如によるそれらの腸のみでの使用可能性なる欠点と対立しており、このことがより治療安定性の大きい製剤に対する臨床医の要望および薬学的探究の理由となつている。」

(甲第2号証の1、15頁5~12行)との記載によれば、気管支痙攣鎮痙作用を有する化合物の分野では、単にその化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有することのみでは足らず、それが、より広い治療範囲を有すること、上記の副作用を有しないこと、水溶性を具備すること等の性質が望まれており、その薬学的探究が継続して行われていることが認められる。

この薬学的探究の例として、本願明細書には、「例えばテオフイリンエチレンジアミン(アミノフイリン)のような水溶性塩または付加化合物の調製によつて非経口的に投与しうるテオフイリン製剤を得ることも成功したのであるが、何ら云うに足る治療範囲の拡大もそして前記の望ましからぬ副作用の何らの減少ももたらさなかつた。ことにアミノフイリンにおいて溶解補助剤として働くエチレンジアミンそれ自体が心臓脈管系に対して不利な作用を及ぼす」(同15頁13行~6頁4行)ことが判明し、「それゆえ、テオフイリン分子の構造を変化させてできればより強力な気管支痙攣鎮痙作用を有するより良好に受容されうる化合物を得る試みがなされてきた」(同16頁5~8行)こと、この試み一つとしてなされた、ジフイリン〔7-(2、3-ジヒドロキシプロピル)-1、3-ジメチルキサンチン〕は、「7-位にある2、3-ジヒドロキシプロピル基がこの製剤に良好な水溶性を付与するので非経口投与での望ましからぬ溶解補助剤の使用が無用となり、そして障害となるテオフイリン様副作用も明らかに際立つて弱化するが、この長所が同時にテオフイリンと比較して気管支痙攣鎮痙作用の劇的な低下を招来する。」(同16頁9行~17頁1行、甲第2号証の2、2頁3~4行)ものであったこと、また、これらの研究を系列的に継続して、ドイツ特許出願公開公報第2716402号明細書に記載されているように、キサンチン構造の7-位にある2、3-ジヒドロキシプロピル基を保持しながら1位および3位の両メチル基をより長居アルキルと交換した7-(2、3-ジヒドロキシプロピル)-1、3-ジプロピルキサンチンが生じ、「これは良好な水溶性を有する化合物であつてテオフイリンの気管支痙攣鎮痙作用をほぼ有しておりそして同時に急性毒性がより少なくしかもよりわずかな不利な副作用しか有しないと云われている。それにも拘らずこの製剤はこれまで喘息治療に何ら採用されなかつた。その上これは前記特許出願公開公報によれば、たとえテオフイリンより明らかに弱かろうとも動揺および睡眠障害を招来しうる中枢刺激を惹き起す。」(甲第2号証の1、明細書17頁8~17行)ものであったこと、一方、「これまで研究されなかつたジヒドロキシプロピル基の延長がキサンチン構造でのその位置に関係なくこれら厳格な治療上の要求を満足する化合物を生ずることが見出された。文献中にすでに2種類のかかるキサンチン体、すなわち1-(5、6-ジヒドロキシヘキシル)-3、7-ジメチルキサンチンおよび1-(4、5-ジヒドロキシヘキシル)-3、7-ジメチルキサンチンがスレオ形およびエリスロ形で記載されている・・・が、これら化合物は全く血管治療剤ペントキシフイリン(Pentoxifyllin)の代謝産物として単離されそして同定されているのみである。それゆえこの文献中にはそれらの薬理学的性質について何らの記載もない。」(同18頁5行~19頁3行)と記載されていることが認められる。

本願明細書によれば、本願発明は、この既知の技術常識の上に立って、代表的な気管支痙攣鎮痙剤として既にその薬理学的性質の判明しているテオフイリン-エチレンジアミン及びジフイリンと、ドイツ特許出願公開公報第2716402号明細書に、良好な水溶性を有する化合物であつてテオフイリンの気管支痙攣鎮痙作用をほぼ有しており、同時に急性毒性がより少なく、よりわずかな不利な副作用しか有しないと記載されている7-(2、3-ジヒドロキシプロピル)-1、3-ジプロピルキサンチンとの比較において、気管支痙攣鎮痙作用や急性毒性等の関係で優れた治療指数を示し、また、心臓血管系(降圧活性、脳血流の低下)及び中枢神経系(例えば動揺、不眠症、めまい)における重大な副作用と結びついた治療範囲の狭小というテオフイリンの有する欠点を除去し、何ら中枢興奮性成分を有せず、逆に中枢神経系に軽い抑制作用を及ぼす本願発明化合物を提供するものであること(同95頁3行~103頁1行、甲第2号証の2、4頁2行~5頁3行)が認められる。

(3)  以上の事実によれば、上記のとおり、気管支痙攣鎮痙作用を有する化合物の分野では、単にその化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有することのみでは足らず、それが、より広い治療範囲を有すること、上記の副作用を有しないこと、水溶性を具備すること等の性質が望まれており、その薬学的探究が行われているのであるから、本願発明化合物の進歩性を判断するに当たっては、単に本願発明化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有することが予測されることに止まらず、その効果を治療範囲の広狭、副作用の有無、水溶性の具備等にわたり既知の同種化合物と比較して検討することが必要と認められる。

この見地からみると、引用例2に「テオフィリン属」あるいは「テオフィリンの誘導体」として具体的に薬理作用が記載されているのは、原告主張のとおり、テオフィリン若しくはテオフィリンの塩及びジフィリンであることは、被告も認めるところであり、このテオフィリン塩の筆頭例として引用例2に挙げられているアミノフィリン(テオフィリン-エチレンジアミン)及びジフィリンは、本願明細書に、薬理試験結果(第4表)において、本願発明化合物との対比に用いられた化合物であり、その治療指数が、本願発明化合物に劣るものとされた化合物であることが認められる。

また、引用例1(甲第3号証)によると、引例化合物(BL 191の代謝物Ⅱ)は、テオフィリンよりもPDE活性阻害及び脂肪分解応答において、わずかに小さいこと(同号証訳文6頁2~8行)が認められるから、PDE活性阻害をパラメータとする限り、引例化合物はテオフィリンより気管支痙攣鎮痙作用においても劣ることが推認され、そうとすると、気管支痙攣鎮痙作用においてテオフィリンに優る本願発明化合物よりも劣ると評価しなければならないことが明らかである。引用例1には、引例化合物につき、それ以上の薬理学的性質を示す記載はない。

そして、「テオフィリン属」あるいは「テオフィリンの誘導体」といっても、テオフィリン(1、3-ジメチルキサンチン)の7-位にメチル基が導入されたカフェインが気管支拡張作用薬ではないことは、当事者間に争いがなく、また、引用例1(甲第3号証)によると、BL 191及びその代謝物Ⅰ~Ⅳは、いずれもテオブロミン(3、7-ジメチルキサンチン)類であることが認められるところ、テオブロミン類は、一般に平滑筋弛緩作用を有するものであるとされている(乙第3号証・「THE MERCK INDEX」)にもかかわらず、代謝物Ⅲ、同Ⅳにあっては、BL 191、代謝物Ⅰ及び同Ⅱ(引例化合物)が有するようなPDE活性の抑制が認められないこと等、化合物としての骨格が同じであっても、同様な作用が認められないものがあることが認められる。

(4)  これらの事実を総合すると、審決のように、引用例1及び2の記載から、引例化合物がPDE活性阻害作用を有することと、テオフィリン及びその誘導体が一般に気管支痙攣鎮痙作用を持つとされている根拠がPDE活性阻害作用にあることの2点を結び付け、これにより、引例化合物が気管支痙攣鎮痙作用を有すると推認できるとしても、これだけでは、引例化合物の有する気管支痙攣鎮痙作用の程度は明らかでないうえ、上記のとおり、引例化合物は、その気管支痙攣鎮痙作用においても、本願発明化合物に比し劣るものと認められ、その余の薬理作用については、引用例1及び2のみならず、本件全証拠によっても、何ら確認できないものであることが明らかである。

そうとすると、本願発明化合物と引例化合物とは、単にR2及びR3が同時にメチル基ではないアルキル基であるという点でだけ相違しているにすぎないものであるとしても、新規化合物である本願発明化合物について、その効果を、単に気管支痙攣鎮痙作用についてのみ検討し、引例化合物が有するものと推認される気管支痙攣鎮痙作用が本願発明化合物よりも劣ると認められることについて考慮をせず、また、本願明細書に記載されているその他の薬理学的効果の予測可能性について何ら言及することなく、本願発明化合物の効果が引例化合物から予測できる程度のものとして、当業者が容易に発明できたものとした審決の判断は、即断に過ぎ、是認できないものといわなければならない。

なお、この点については、本願発明化合物と酷似する引例化合物を示された原告においても、両化合物における薬理効果の差異を明らかにする配慮が望まれるところである。

2  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

よって、原告の請求を理由があるものとして認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)

別紙

「1)式Ⅰ

<省略>

理由

本願は、1981年9月26日にドイツ連邦共和国にした出願に基づいて優先権を主張して、昭和57年9月24日にした出願であって、その発明の要旨は、平成3年9月2日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の第1項、第7項、第12項及び第13項に記載されたとおりのものと認められるところ、その第1項および第7項の記載は次のとおりである。

「1) 式Ⅰ

<省略>

(式中基R1、R2またはR3の1個は4-8個の炭素原子および(ω、ω-1)位または(ω-1、ω-2)位の2個のビシナルヒドロキシル基を有する直鎖状アルキル基でありそして他の2個の基はR1およびR3の位置においては12個までの炭素原子をそしてR2の位置においては4個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状アルキル基を表わし、その場合これら2個のアルキル置換基の炭素原子の合計は最高14個である。但しR1が4、5-または5、6-ジヒドロキシヘキシル基である場合はR2とR3は同時にはメチル基を意味しない)を有する化合物を含有することを特徴とする、気管支痙攣鎮痙作用性薬剤。

7) 式Ⅰ

<省略>

(式中基R1、R2またはR3の1個は4-8個の炭素原子および(ω、ω-1)位または(ω-1、ω-2)位の2個のビシナルヒドロキシル基を有する直鎖状アルキル基でありそして他の2個の基はR1およびR3の位置においては12個までの炭素原子をそしてR2の位置においては4個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状アルキル基を表わし、その場合これら2個のアルキル置換基の炭素原子の合計は最高14個である。但しR1が4、5-または5、6-ジヒドロキシヘキシル基である場合はR2とR3は同時に

はメチル基を意味しない)を有する化合物。」

なお、以下では、上記特許請求の範囲に記載されているキサンチン誘導体を本願発明化合物ということとする。

これに対して、原査定の拒絶の理由で引用されたChem.Pharm.Bull.24(6)、1384-1386(1976)(以下、引用例1という。)、特に1386頁のTABLE Ⅰには、3、7-ジメチル-1-(5-オキソ-ヘキシル)-キサンチン(BL 191)の代謝産物である3、7-ジメチル-1-(5、6-ジヒドロキシ-ヘキシル)-キサンチン(以下この化合物を引例化合物という。)が環状3’、5’-ヌクレオチド ホスホジエステラーゼ(PDE)の活性を抑制する作用を有することが記載されている。

ところで、昭和54年11月30日に株式会社広川書店が発行したアメリカ医師会編、石館守三ほか監訳「医薬品の評価」(以下、引用例2という。)の651頁右欄の気管支拡張薬の項には、交感神経刺激薬や、キサンチン誘導体であるtheophylline属は気管支拡張薬として用いられ、epinephrineなどの交感神経刺激薬は、β2受容基に働き、気管支平滑筋を弛緩させ、また末梢血管をし緩させ、また、これらの薬物は、明らかにcyclic adenosine-3、5-monophosphate(CAMP)の生成を促進させると記載され、さらに、同書652頁右欄には、「theophillineやその誘導体は、経口、経直腸、非経口的に投与し、交感神経刺激薬が無効になったようなものに対し有効である。これは、β-受容基遮断薬の投与を受けている患者に対しても同様に効果がある。theophillineやその誘導体はあきらかに、CAMPを代謝するphosphodiesteraseを阻害する作用がある。」とも記載されている。

これによれば、引用例1のTABLE Ⅰの上記記載は、引例化合物が気管支平滑筋を弛緩させること、したがって、引例化合物が気管支痙攣鎮痙作用性を有していることをPDE活性抑制というパラメータによって表わしているものと認められる。

本願発明化合物と引例化合物とを比較すると、本願発明化合物ではR1が5、6-ジヒドロキシ-ヘキシルである場合には、R2及びR3がともにメチル基ではない点で相違していることが認められる。

しかしながら、R1が5、6-ジヒドロキシ-ヘキシルである場合には、R2及びR3のアルキル基の炭素数の違いによって、キサンチン類の気管支痙攣鎮痙作用がきわめて大幅に変化するものとは一般に認められない。また、R1が5、6-ジヒドロキシ-ヘキシルである場合は、R2及びR3がメチル基である化合物の気管支痙攣鎮痙作用に比べて、R2及びR3のいずれか一方がメチル基以外のアルキル基の化合物の気管支痙攣鎮痙作用が優れていると考えるに足る一般的な技術的根拠があるとも認められない。したがって、R2及びR3のアルキル基の炭素数があまり大きく相違していないときは、その気管支痙攣鎮痙作用もたいして相違していないであろうと予測するのが当業者の通常の考え方であると認められる。

しかるに、本願明細書の記載その他において、具体的な薬理作用データを示して、R1が5、6-ジヒドロキシ-ヘキシルである場合には、R2及びR3のいずれか一方がメチル基でさえなければ、その化合物の気管支痙攣鎮痙作用がきわめて優れていることが立証されているとも認められない。この点については、本願明細書98頁の第4表に、R1が4-8個の炭素原子および(ω、ω-1)位または(ω-1、ω-2)位の2個のビシナルヒドロキシル基を有する直鎖状アルキル基であり、R2がプロピル基またはブチル基でR3がメチル基である場合だけについて具体的なデータが開示されているが、これだけのデータによっては、R2及びR3のどちらか一方だけがメチル基でないときは、R2がプロピル基またはブチル基でR3がメチル基である場合と少なくとも同じ程度の薬理作用を有するとはいえないことは明らかなことである。

そうすると、本願発明化合物と引例化合物とは、単にR2及びR3が同時にメチル基ではないアルキル基であるという点でだけ相違しているにすぎず、また、その相違に基づいて気管支痙攣鎮痙作用について予想外の技術的効果をあげたものとも認められないのであるから、本願明細書の特許請求の範囲の第1項及び同第7項に記載された発明は、引用例1及び同2の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものであると認められる。

したがって、本願明細書の特許請求の範囲の第1項及び同第7項に記載された発明は、特許法第29条第2項の規定によって、特許を受けることができない。

よって、本願明細書の特許請求の範囲の第12項及び同第13項に記載されている発明についてさらに審理するまでもなく、本件審判の請求は理由がないので、上記結論のとおり、審決する。

平成5年4月30日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

平成3年審判第17293号

審決

ドイツ連邦共和国 フランクフルト・アム・マイン(番地なし)

請求人 ヘキスト・アクチエンゲゼルシヤフト

東京都千代田区麹町3丁目2番地 相互第一ビル すばる特許事務所

復代理人弁理士 佐藤辰男

東京都千代田区麹町3丁目2番地 相互第一ビル すばる特許事務所

復代理人弁理士 西村公佑

昭和57年特許願第165147号「ビシナルジヒドロキシアルキルキサンチン含有薬剤」拒絶査定に対する審判事件(昭和58年 4月22日出願公開、特開昭58-67687)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

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