大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成5年(行ケ)188号 判決 1996年6月26日

アメリカ合衆国テクサス州75006、キャロルタン、ウエスト・クロスビ・ロウド1215番

原告

マステク コーペレイシャン

代表者

ダグラス ジェイ ピュー

訴訟代理人弁理士

真田雄造

中島宣彦

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

大橋隆夫

飯高勉

及川泰嘉

伊藤三男

主文

特許庁が、平成4年審判第19244号事件について、平成5年6月25日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1980年6月2日を国際出願日とする特許出願(特願昭55-502115号)を原出願とする分割出願として、平成元年11月29日、名称を「動的等速呼出記憶装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、特許出願をした(平成1年特許願第307815号)が、平成4年6月26日に拒絶査定を受けたので、同年10月19日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成4年審判第19244号事件として審理したうえ、平成5年6月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年7月12日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

別添審決書写し記載の本願特許請求の範囲第1項記載のとおり。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭54-101228号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨、引用例の記載事項の認定及び本願発明と引用例発明の一致点、相違点の認定は認め、相違点の判断を争う。

審決は、本願発明と引用例発明との相違点の判断にあたり、「動的記憶セルのビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡する」方法について、本願発明の技術的意義を誤認して本願発明と引用例発明の相違点の判断を誤り、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  審決は、本願発明と引用例発明との相違点の判断において、「一方、本願発明についていえば、動的記憶セルのビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡するのに、電荷転送に因っているものの、説明はないがやはりプリチャージ用の電源は必要なのである(そうでないと最初の立ち上げ時や何等かの事故時などビット線の電荷が不足した時に動作不能となってしまう。だからこそ本願特許請求の範囲にも『主として』と記してあるのである。)。」(審決書6頁12~17行)と認定したうえ、「そうすると本願発明と引用例との違いは、電荷転送とプリチャージ用電源とのうちどちらを『主とし』どちらを『従とする』かの違いに帰することになり、そしてどちらを『主とし』どちらを『従とする』かは、それぞれの長所と短所とを比較検討しながら当業者が設計段階で決定する程度の事項というべきである。してみるとかかる相違は格別のものではない。」(同6頁18~23行)と判断しているが、以下に述べるとおり誤りである。

(1)  本願発明は、データ処理装置に用いられる記憶装置の一種に係るものである。この種の記憶装置においては、記憶セルにおける記憶コンデンサに対して論理を記憶させるための書込み動作が行われ、また、その読出し動作が行われる際、誤判定が生じないように、読出しの直前に、記憶セルの一対のビット線30とビット線38との電圧を同じ電圧(2.0〔V〕)に揃えておく、すなわち平衡化しておく必要がある。

本願発明においては、この電圧の平衡化は、ビット線30の側からビット線38の側への電荷転送、すなわちエネルギ移動を生じさせることによって行うものであり、電源により平衡化するものではない。

これに対し、引用例発明も本願発明と同種の記憶装置であり、電圧の平衡化を必要とするが、その方法は、本願発明とは異なり、電圧源VR(電圧2.0〔V〕、中間電位電源)を用いて行うものである。

審決は、本願発明において、ビット線30、38が第3の電圧状態に平衡化される際にラッチ接続部46を含めて「浮動状態」に置かれている点を正しく認識せず、ラッチ接続部46が引用例に示されるVR電位のごとく、「プリチャージ用の電源」として機能していると誤認したものである。

すなわち、本願発明においては、本願明細書及び図面の記載(甲第2号証15頁19~20行、同18頁7~16行、同23頁14~17行、甲第3号証の図面Fig2、甲第5号証7~9頁の第7項の記載)から明らかなように、メモリサイクル以外の期間においては、ラッチ接続部46は接地状態から切り離されて浮動状態になっているものである。したがって、上記平衡化の期間において、ラッチ接続部46からビット線30、38を平衡化するエネルギの授受は実質上存在しない。

その理由は、ラッチ接続部46が接地点に対して浮遊容量を持っていて、この浮遊容量を介してのエネルギ授受が存在するかも知れないからである。しかし、これは、審決に記述されているようなラッチ接続部46に電源が存在していることを意味するものではない。更にいえば、引用例に示されるようなVR電位から充電が行われるものではない。

また、本願発明において、平衡化時のラッチ接続点の電位が2Vになる理由は、次のように考えてよい。すなわち、電位(5V)のビット線30の浮遊容量に貯えられていたエネルギが電位(0V)のビット線38の浮遊容量に転送されるに当たって、ラッチ接続部46の浮遊容量にもエネルギを転送しなければならない。このために、ラッチ接続部46の電位が本来ならば2.5Vになるべきところを、ラッチ接続部46の浮遊容量の存在のために2Vになったものである。

(2)  本願発明の要旨には、「電荷転送を起こすことに主として因って」と示されており、審決は、この点をとらえて、電圧の平衡化を行う場合、本願発明においては、電荷転送が主であるとしても、従たるものとして電源が存在するものと認定判断している。

しかし、以下に述べるとおり、本願発明においては、審決が認定判断するようなプリチャージ用電源、すなわち中間電位電源は存在する余地がない。

まず、中間電位電源が存在しているとすれば、「両ビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡するようにする」場合に、これが「従なるもの」に留まるはずがない。なぜなら、引用例(甲第4号証)に示されるような中間電位電源は、ビット線30や38が充電されて保持している電荷に比べて、無限大の容量の電荷を持っているので、両ビット線の電位は中間電位電源によって与えられる電位に強制的に決定されてしまうからである。すなわち、「両ビット線の電圧を第3の電圧状態に平衡化するようにする」主体は、当該中間電位電源による「第3の電圧状態」への電圧決定強制作用であり、換言すれば、当該中間電位電源の存在である。したがって、当該中間電位電源は、「両ビット線の電圧を第3の電圧状態に平衡化するようにする」上で、「従となる」ことはできない。

また、本願発明の唯一の実施例においては、ビット線30と38との間がトランジスタ50と52とをそれぞれ導通状態にすることによって接続され、電圧の平衡化が行われる。すなわち、実施例においては、トランジスタ50と52との接続点が接続部46に接続されていることから、両ビット線を「接続部に接続して、前記対の両ビット線間に電荷転送を起こすことに主として因って」、「両ビット線の電圧を第3の電圧状態に平衡化する」ように構成されている。

仮に接続部46に上記中間電位電源VRが存在してし、たとすると、ビット線30又は38の電圧が当該中間電位電源VRの電圧に常時維持されることになってしまし、電圧が平衡状態に移行するに際して、ビット線30、38が前記「浮動状態」に置かれているということはできないから、本願発明の唯一の実施例について説明されていることと完全に矛盾し、実施例は全く動作しないことになる。

2  以上のとおり、審決は、本願発明において中間電位電源が存在するものと誤認し、また、中間電位電源が存在する場合、これを電圧の平衡化に際して従とすることはできないのに、主とするか従とするかは設計段階で決定する程度の事項であるとして、相違点の判断を誤ったものである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

1  審決の「本願発明についていえば、動的記憶セルのビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡するのに、電荷転送に因っているものの、説明はないがやはりプリチャージ用の電源は必要なのである(そうでないと最初の立ち上げ時や何等かの事故時などビット線の電荷が不足した時に動作不能となってしまう。だからこそ本願特許請求の範囲にも『主として』と記してあるのである。)。」との記載は、本願発明が、プリチャージ用電源を備えなければ、原理的に動作しないということではなく、本願発明の要旨には、「主として」とあること、本願明細書の記載からは、上記「主として」との趣旨がプリチャージ用電源を用いることを完全に排除しているとは読み取れないこと、及び、当分野では動作に信頼性等を確保するのが常識であることを総合的に考えると、本願発明は、プリチャージ用電源を備えるものを含むということである。

(1)  本願発明の要旨の「電荷転送を起こすことに主として因って・・・第3の電圧状態に平衡するようにする」との構成からは、本願発明が電荷転送のみによって平衡化を行うものであるとすることはできず、かえって、動作の安定性、高速性を図ることを常に技術命題とする当分野の技術的常識に照らして、引用例に見られるようなVR電位を、「従として」備えるものを包含するものと解さなければならない。

(2)  本願明細書に記載の実施例において、中間電位電源を備えるものとした場合、中間電位電源が、何らのスイッチも介することなく、センス増幅器44のラッチ接続部46に接続されるとすれば、該ラッチ接続部46の電位が固定されるから、センス増幅器44は、センス動作をすることができず、この場合には動作不能ということになろう。しかし、この点に関する原告の主張は一実施例に基づくものにすぎず、発明の要旨に基づかない主張である。すなわち、特許請求の範囲第1項の記載によれば、「接続部」は「共通のそして同時に複数個の他の動的記憶セルのビット線にも接続されている」というに留まるものであり、両ビット線が接続される接続部は、必ずしもセンス増幅器と関係のあるものでなければならない理由はない。したがって、本願発明には接続部に中間電位電源が接続されていたとしても動作するものがあるといえるから、本願発明は、中間電位電源を備えるものをも含むものである。

(3)  中間電位電源が存在する場合は、平衡化以前の両ビット線の電圧がどのような値であろうとも、平衡化後の両ビット線の電圧が、最終的に中間電位電源の持つ電圧に強制されることは認める。

しかし、本件明細書及び図面には、第3の電圧状態に平衡化するのに電荷転送がどのような作用・役割を果たした場合に「主として因って」というかに関する明確な定義ないしは記載は一切見当たらないから、原告主張のように、最終的な電圧を決定するものが「作用が大きい」ものとする、いうなれば「電圧」の視点のみに立つのは、他の視点のあることを看過したものであるから相当でなく、「主として因って」を「電荷の量」という視点で解しても何らの問題もない。

そして、両ビット線の電位を平衡化するのに影響を与える電荷の量でみると、一方の失った電荷の量と他方が得た電荷の量はほぼ等しいものであるから、高電位のビット線から低電位のビット線へ電荷が移動するだけで電位の平衡化は達成され、中間電位電源が存在したとしてもビット線間の電荷転送の影響ないし作用の方がより大きいということが可能である。したがって、両ビット線の電位を平衡化するにあたり、電荷転送が主たる要因であって、中間電位電源が従たる要因となりうる場合がある。

2  したがって、審決が、本願発明には中間電位電源が存在するものも含まれることを前提にして、電荷転送とプリチャージ用電源のどちらを「主とし」どちらを「従とする」かは、当業者が設計段階で決定する程度の事項であって、かかる相違は格別のものではないとした点に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  本願発明の要旨の「前記対の両ビット線及び前記複数個の他の動的記憶セルのビット線の間に電荷転送を起すことに主として因って」、「前記両ビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡するようにする」との構成によれば、本願発明においては、「両ビット線の電圧を第3の電圧状態に平衡するようにする」主たる要因となっているものが、「両ビット線の間に生ずる電荷転送である」ことは明らかである。

そこで、本願発明が、審決の認定判断するように、プリチャージ用電源すなわち中間電位電源をもつものを含むかどうか、また、上記電圧の平衡化に関して中間電位電源が「従として」作用することがあるかどうかについて検討する。

まず、中間電位電源が存在する場合は、平衡化以前の両ビット線の電圧がどのような値であろうとも、平衡化後の両ビット線の電圧が、最終的に中間電位電源の持つ電圧に強制されることは、当事者間に争いがない。

そうすると、仮に、本願発明に引用例発明のような中間電位電源が存在したとすると、たとえビット線間に電荷転送が行われたとしても、最終的にこの中間電位電源によりビット線の共通の電位すなわち第3の電圧状態が決定されることは明らかである。このように、中間電位電源が存在すれば、この電源電圧が強制的にビット線の電圧を決定してしまうから、中間電位電源が主となってビット線の電圧を決定するのであって、電荷転送が主となって電圧を決定しているということはできない。

また、本願発明の実施例についてみると、「記憶コンデンサの電荷を分離する。次いでこれ等のビット線は浮遊状態にさせられる。次いで平衡信号56を、各トランジスタ50、52のゲート端子に加え、各トランジスタ50、52を導通させ、ビット線30をビット線38にラッチ接続部46を経て接続する。この接続により電荷を各ビット線に共用し、これ等のビット線が平衡させられて、供給電圧及び地電位間のほぼ中間の電圧になる。このことは波形96、98の両方で示してある。この場合各波形96、98は、2Vの平衡電圧にもどる。」(甲第2号証18頁7~16行)、「各ビット線を浮動状態にしラッチ接続部を経て相互に接続し、これ等のビット線をこれ等のビット線間の電荷転送によつて平衡電圧にもどすようにする。」(同23頁14~17行)との各記載からして、両ビット線の電圧平衡化は、浮遊状態にある両ビット線間の電荷転送により行われるものとされており、また、本願明細書及び図面には他に積極的に電荷をもつ電源の存在を示唆する記載もないから、中間電位電源が介する余地はないものと認められる。

以上のとおり、中間電位電源のようなプリチャージ用電源が存在すれば、この電源によってビット線間の共通の電位すなわち第3の電圧状態が決定されてしまうのであるから、中間電位電源を備えたものは、本願発明の要旨の示す電荷転送を主因として電位の平衡化がなされるものということはできず、本願発明に包含されるものではないというべきである。したがって、本願発明が中間電位電源を備えるものを含むとの被告の主張は採用できない。

被告は、「主として因って」を原告主張のように電圧の視点のみで解するのではなく、電荷の量という視点で解しても何らの問題もなく、こう解すれば、中間電位電源が存在したとしても、ビット線間の電荷転送の影響ないし作用の方がより大きく、電荷転送が主たる要因であって、中間電位電源が従たる要因となりうる場合があると主張する。

確かに、本願発明の要旨の示すところによれば、主として電荷転送によって達成されるのは第3の電圧状態であるから、高電位のビット線と低電位のビット線とを接続すれば、共通の電圧(第3の電圧状態)となるまで電荷転送が起こることになる。しかし、中間電位電源が存在する場合、前記のとおり、中間電位電源はビット線に共通の電圧を強制的に決定するものであり、共通の電圧すなわち第3の電圧状態に平衡する要因としては、中間電位電源の存在は決定的なものである。すなわち、中間電位電源を備えていれば、第3の電圧状態を決定する要因としては、最終的な電圧を決定するまでの平衡化の過程で過渡的に生ずる電荷転送は無視しうるものと認められる。したがって、中間電位電源があっても、移動する電荷転送の量に着目し、それは電圧決定作用にとって主要因となりうる場合があるとする被告の主張は採用できない。

結局、本願発明は、引用例発明のような中間電位電源を備えるものを排除しているものと認められ、中間電位電源を備えているものをも含むとする審決の認定は誤りであるというべきであるから、電荷転送とプリチャージ用電源のどちらを「主とし」どちらを「従とする」かの相違は格別のものではないとした審決の判断も誤りであり、原告主張の取消事由は理由がある。

2  よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成4年審判第19244号

審決

アメリカ合衆国テクサス州75006、キャロルタン、ウエスト・クロスビ・ロウド 1215番

請求人 マステク、コーパレイシャン

東京都港区赤坂1丁目1番14号 溜池東急ビル 真田国際特許事務所

代理人弁理士 真田雄造

東京都港区赤坂1丁目1番14号 溜池東急ビル 真田国際特許事務所

代理人弁理士 中島宣彦

平成1年特許願第307815号「動的等速呼出記憶装置」拒絶査定に対する審判事件(平成3年7月29日出願公開、特開平3-173996)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1、 本願は、昭和55年6月2日を国際出願日とする特願昭55-502115号の一部を平成1年11月29日に分割して新たな出願としたものであって、その発明の要旨は、平成4年5月19日付け手続き補正書によって補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載のとおりの次の動的等速呼出装置の操作法にあるものと認められる。

「第1のデータ状態に対応する第1の電圧状態又は第2のデータ状態の対応する第2の電圧状態を動的記憶セル内に記憶し、

1対のビット線を第3の電圧状態にセットした後に、このビット線の一方に前記動的記憶セルを接続して、前記記憶セル内に前記第1電圧状態が記憶されているときは、前記記憶セルに接続されたビット線を第4の電圧状態に駆動し、又は前記記憶セル内に前記第2電圧状態が記憶されているときは、前記記憶セルに接続されたビット線を第5の電圧状態に駆動するが、前記対のビット線の他方のビット線を前記第3の電圧状態に実質的に維持し、

前記記憶セルを前記一方のビット線に接続した後に、前記両ビット線のうち低い方の電圧を持つビット線を低い電圧状態に駆動し、

前記記憶セルを前記一方のビット線に接続した後に、前記ビット線のうちの他方のビット線を高い電圧状態に駆動し、

前記記憶セルを、対応する前記ビット線が前記低い電圧状態に又は前記高い電圧状態に駆動された後に、前記対応するビット線から接続を切り、

前記対のビット線のうちの一方のビット線を前記低い電圧状態に駆動し、他方のビット線を前記高い電圧状態に駆動した後に、前記両ビット線を共通のそして同時に複数個の他の動的記憶セルのビット線にも接続されている接続部に接続して、前記対の両ビット線及び前記複数個の他の動的記憶セルのビット線の間に電荷転送を起こすことに主として因って、前記第3の電圧状態が前記第1の電圧状態と前記第2の電圧状態との間にあり、又前記第3の電圧状態が前記第4の電圧状態と前記第5の電圧状態との間にある場合に、前記両ビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡するようにする

ことから成る、動的等速呼出装置の操作法。」

2、 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭54-101228号公報(昭和54年8月9日出願公開。以下、引用例という)には、

「第1のデータ状態に対応する第1の電圧状態又は第2のデータ状態の対応する第2の電圧状態を動的記憶セル内に記憶し、

1対のビット線を第3の電圧状態にセットした後に、このビット線の一方に前記動的記憶セルを接続して、前記記憶セル内に前記第1電圧状態が記憶されているときは、前記記憶セルに接続されたビット線を第4の電圧状態に駆動し、又は前記記憶セル内に前記第2電圧状態が記憶されているときは、前記記憶セルに接続されたビット線を第5の電圧状態に駆動するが、前記対のビット線の他方のビット線を前記第3の電圧状態に実質的に維持し、

前記記憶セルを前記一方のビット線に接続した後に、前記両ビット線のうち低い方の電圧を持つビット線を低い電圧状態に駆動し、

前記記憶セルを前記一方のビット線に接続した後に、前記ビット線のうちの他方のビット線を高い電圧状態に駆動し、

前記記憶セルを、対応する前記ビット線が前記低い電圧状態に又は前記高い電圧状態に駆動された後に、前記対応するビット線から接続を切り、

前記対のビット線のうちの一方のビット線を前記低い電圧状態に駆動し、他方のビット線を前記高い電圧状態に駆動した後に、前記両ビット線を共通のそして同時に複数個の他の動的記憶セルのビット線にも接続されている接続部に接続して、前記対の両ビット線及び前記複数個の他の動的記憶セルのビット線の間に電源からプリチャージ電圧を補給することに因って、前記第3の電圧状態が前記第1の電圧状態と前記第2の電圧状態との間にあり、又前記第3の電圧状態が前記第4の電圧状態と前記第5の電圧状態との間にある場合に、前記両ビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡するようにする

ことから成る、動的等速呼出装置の操作法。」

が記載されている。

3、 そこで、本願発明と上記引用例に記載されたものとを対比すると、

「第1のデータ状態に対応する第1の電圧状態又は第2のデータ状態の対応する第2の電圧状態を動的記憶セル内に記憶し、

1対のビット線を第3の電圧状態にセットした後に、このビット線の一方に前記動的記憶セルを接続して、前記記憶セル内に前記第1電圧状態が記憶されているときは、前記記憶セルに接続されたビット線を第4の電圧状態に駆動し、又は前記記憶セル内に前記第2電圧状態が記憶されているときは、前記記憶セルに接続されたビット線を第5の電圧状態に駆動するが、前記対のビット線の他方のビット線を前記第3の電圧状態に実質的に維持し、

前記記憶セルを前記一方のビット線に接続した後に、前記両ビット線のうち低い方の電圧を持つビット線を低い電圧状態に駆動し、

前記記憶セルを前記一方のビット線に接続した後に、前記ビット線のうちの他方のビット線を高い電圧状態に駆動し、

前記記憶セルを、対応する前記ビット線が前記低い電圧状態に又は前記高い電圧状態に駆動された後に、前記対応するビット線から接続を切り、

前記対のビット線のうちの一方のビット線を前記低い電圧状態に駆動し、他方のビット線を前記高い電圧状態に駆動した後に、前記対の両ビット線及び前記複数個の他の動的記憶セルのビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡するようにする

ことから成る、動的等速呼出装置の操作法。」

である点で一致し、

対の両ビット線及び前記複数個の他の動的記憶セルのビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡するのに、

本願発明のものは、主として電荷転送に因っているのに対して、

引用例のものは、主としてVR電位から補給することに因っている点で相違している。

4、 そこでこの相違点について検討すると、

引用例のものは、動的記憶セルのビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡するのに、主としてVR電位から補給することに因っているものの、回路的にみるとビット線の間に電荷転送を起こすことも行っている(なぜなら、メモリセルヘのリフレッシュが終わった後も、ディジット線D、Dの各電位は一方が中間電位であるVR電位よりも高いのに対して他方はVRよりも低いから、プリチャージ時(φp=5V)にプリチャージトランジスタの導通により当然にビット線の間に電荷転送が起こるからである。)。

一方、本願発明についていえば、動的記憶セルのビット線の電圧を前記第3の電圧状態に平衡するのに、電荷転送に因っているものの、説明はないがやはりプリチャージ用の電源は必要なのである(そうでないと最初の立ち上げ時や何等かの事故時などビット線の電荷が不足した時に動作不能となってしまう。だからこそ本願特許請求の範囲にも「主として」と記してあるのである。)。

そうすると本願発明と引用例との違いは、電荷転送とプリチャージ用電源とのうちどちらを「主とし」どちらを「従とする」かの違いに帰することになり、そしてどちらを「主とし」どちらを「従とする」かは、それぞれの長所と短所とを比較検討しながら当業者が設計段階で決定する程度の事項というべきである。してみるとかかる相違は格別ものではない。

また、上記相違点の構成によって得られる本願発明の効果も当業者の予想し得る効果を超えるものとも認めることができない。

5、 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年6月25日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例