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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)220号 判決 1995年9月28日

東京都港区赤坂3丁目3番5号

原告

富士ゼロックス株式会社

同代表者代表取締役

宮原明

同訴訟代理人弁理士

小田富士雄

早川明

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

清川佑二

同指定代理人

舟田典秀

北川清伸

中村友之

吉野日出夫

幸長保次郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成1年審判第16341号事件について平成5年10日5日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和55年10月17日名称を「インクドナーフィールム」とする発明(以下「本願発明」という。)について、特許出願(昭和55年特許願第144415号)をしたところ、平成元年9月5日拒絶査定を受けたので、同年10月5日審判を請求し、平成1年審判第16341号事件として審理され、平成4年3月16日出願公告(平成4年特許出願公告第15111号)されたが、杉谷保子他2名より特許異議の申立てがあり、原告は、平成5年1月26日手続補正をしたところ、平成5年10月5日異議の申立ては理由があるとの決定と、手続補正を却下するとの決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年11月15日原告に送達された。

2  本願発明の特許請求の範囲

ロール状に形成されたインクドナーフィルムであって、電気的、光学的、あるいは磁気的に検知可能なマークを有し、このマークは、このマークを検知後に記録紙に対する記録動作を停止させる記録装置のマーク検出手段によって検知され、このマークを、少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように終端近傍に配置したことを特徴とするインクドナーフィルム(別紙図面1(一)参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項の特許請求の範囲記載のとおりである。

(2)<1>イ、 昭和47年実用新案登録願第2324号(昭和48年実用新案出願公開第81852号公報参照)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用例1」という。別紙図面2参照)には、

「感光紙としてロール感光紙を使用する複写機」(1頁5行)

「よってロール感光紙が全部消費されない限り知ることができず、最後に供給されるペーパーは使用目的寸法より異った寸法となりやすいため、複写機のコピー動作を正確に行うことができず、トラブルの一原因になっている。」(2頁3行ないし8行)

「また、上記ロール感光紙1は、第2図に示すようにその終端部のほぼ中央部に検出信号部たとえばスリット5が設けられている。一方、上記ロール感光紙1の搬送ローラ3、4との間の上方部位に検出器たとえばマイクロスイッチ6を配設し、その作動レバー6aの先端部を上記感光紙1の表面に圧接させ、作動レバー6aが上記スリット5と対応したときスリット5内に落ち込み、マイクロスイッチ6が作動するように構成している。しかして、上記マイクロスイッチ6はたとえば表示器7に接続され、上記マイクロスイッチ6が作動したときロール感光紙1の終端を表示するようにしている。たとえば、他の例として上記スリット5をあと2~3枚複写できる分の感光紙が残量している部位に設けることにより、上記マイクロスイッチ6が作動したとき、あと2~3枚分の感光紙が残っているということを表示することができる。」(4頁1行ないし18行)

「複写に伴なって感光紙1が消費され、しかる後スリット5がマイクロスイッチ6の作動レバー6aと対応すると、第3図に示すように上記スリット5内に作動レバー6aの先端部が落ち込み、マイクロスイッチ6が作動する。マイクロスイッチ6が作動すると、その信号が表示器7に供給され、ロール感光紙1の終端が表示される。たとえばあと何枚分の感光紙が残っているとか、もう殆んど感光紙が残っていないとかを表示する。なお、このときつまりマイクロスイッチ6が作動したとき、機械の動作(複写動作など)を同時に停止するようにしてもよい。以上のようにロール感光紙1の終端を簡単な構成で簡単かつ正確に検出することができ、しかもそれを表示することができる。」(4頁19行ないし5頁14行)

「また、前記実施例では検出器6としてマイクロスイッチを用いたが、たとえば第5図に示すように、光源8と受光素子9を用いてスリット5を光学的に検出するようにしてもよい。」(5頁20行ないし6頁3行)

「また、前記実施例の説明では基本的部分のみであり単位パイロット等による表示警告のみに止まらず給紙回路のオフなどを行なわせて強制的に爾後の運動サイクルを停止されるようにしてもよく、このようにすることにより特にリピートセット状態で多数枚コピー作製時に発生する事故の防止に効果がある。

以上詳述したようにこの考案によれば、ロール感光紙の終端を簡単かつ正確に検出することができ、しかもそれを表示することをもでき、よって最終の半端サイズのペーパが絶対給紙されるようなことがなく、きわめて便利で実用的効果の大なる複写機のロール感光紙終端検出装置を提供できるものである。」(6頁12行ないし7頁5行)

と記載されている。

ロ、 昭和55年特許出願公開第11805号公報(以下「引用例2」という。別紙図面3参照)には、「さらにリボンスプール2aの巻取り径が増大し、リボンスプール2bの巻取り径が減少し、該リボンスプール2bに巻かれたインクリボンの量が一行を印字するのに要する量に近くなると前記ニアエンド検出レバ4bの他端がマイクロスイッチ3bを動作し、ニアエンド信号を出力する。この印字ヘッド8は少なくとも1行分印字するとイニシャル位置に復帰するので、インクリボン1が全て巻戻される前に前記マイクロスイッチ3bの動作に応じて図示せぬ駆動機構が作動し、リボンスプール2aの駆動を停止し、リボンスプール2bを駆動する。これによりインクリボン1の巻取り方向が転換され、」(2頁右上欄20行ないし左下欄12行)

「また、この転換時期は最悪の場合印字ヘッドが1行分印字するまで復帰しないことがあるので、少なくともリボンスプールにまだ1行印字するのに要する量のインクリボンが残っている間に転換することが望ましいが、さらに早く転換することは不経済であることを除けば何ら差しつかえなく実施できる。」(3頁左下欄3行ないし10行)

と記載されている。

ハ、 昭和52年実用新案登録願第77098号(昭和54年実用新案出願公開第5440号公報参照)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用例3」という。別紙図面4参照)には、

「複写機等に用いるロール状記録媒体において、ロールの端末近くに比較的小さな第1の終了警告表示を設け、この第1の警告表示から適当な長さに亘って空白部分を置いて第2の終了警告表示を設けたことを特徴とする終了警告表示を設けたロール状記録媒体。」(1頁実用新案登録請求の範囲)

「特にいわゆるマルチコピーに於いては時として操作者は機械をはなれることもあるのでより長い警告を表示しておく必要がある。即ちこのような場合マルチコピーの初期に警告表示が出ればこの時点でコピーを中止することになり残余の紙がムダになるし、マルチコピーの途中で警告表示が現われ、操作者がこれを知らずにいると残余の仕上りコピーは使えないものとなる。」(2頁7行ないし15行)

「例えば1つの原稿から1枚のコピーをとる場合は操作者はいつも機械についているので第1の警告表示12をみて終了が近いことを知り、残余のコピーは端末終了を予測しながら行える。」(3頁19行ないし4頁3行)

「このようにすれば操作者は第1の警告表示22により残りのコピーの数を数え、10枚になったところでロール紙を交換することによって紙を全く無駄にすることがなくなる。」(6頁5行ないし9行)

と記載されている。

<2> そこで、本願発明と引用例1記載の考案とを比較する。

引用例1記載の考案には、「ロール状に形成された複写機用の感光紙であって、電気的、あるいは光学的に検知可能なスリットを有し」、「このスリットは、このスリットを検知後に検知を表示したり、あるいは、感光紙に対する複写動作を停止させる複写機のスリット検出手段によって検知され」、「このスリットを、少なくとも前記感光紙のあと2~3枚複写できる分の感光紙が残量している部位に設けるように終端近傍に配置した複写機用の感光紙。」が記載されているものと認められる。

さらに、引用例1記載の考案における「スリット」は、本願発明における「マーク」に相当しているものと認められる。

そうすると、両者は、

「ロール状に形成されたものであって、電気的、あるいは光学的に検知可能なマークを有し、

このマークは、マークを検知後に、装置の動作を停止させるマーク検出手段によって検知され、

このマークを、所定の長さよりも長い領域を有するように終端近傍に配置した、ロール状に形成されたもの。」

である点で一致しており、次の2点で相違しているものと認められる。

「相違点1:ロール状に形成されたものが、本願発明では、記録紙を有する記録装置のインクドナーフィルムであるのに対して、引用例1記載の考案では、複写機用の感光紙である点。

相違点2:所定の長さよりも長い領域を有するように終端近傍に配置したマークを、本願発明では、少なくとも記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように配置しているのに対して、引用例1記載の考案では、少なくとも感光紙のあと2~3枚複写できる分の感光紙が残量している部位に設けるように配置している点。」

<3> これらの相違点について検討する。

イ、 相違点1について

本願発明において、インクドナーフィルムは、明細書に記載されているように、熱転写記録装置等の記録装置に使用されるものであり、インクドナーフィルムのインク面と記録紙とを重ね合わせ、サーマルヘッドを用いて、インクドナーフィルムから記録紙ヘインクを選択的に熱転写し、情報の記録を行うものである。さらに、このインクドナーフィルムとしては、引用例2に記載されたインクリボンのように、副走査方向に数ライン分の発熱抵抗体を有したサーマルヘッドを主走査方向に走査し、その後記録紙を副走査方向に送ることで順次印字を行うシリアルプリンタ(線順次方式)用の幅の狭いインクリボンと、主走査方向1ライン分の発熱抵抗体を配したサーマルヘッドにより印字を行うラインプリンタ(面順次方式)用の幅の広い(A4対応で、幅が210mm以上)インクシートとが、存在しているものと認められる。

ところで、本特許願書添付の図面(別紙図面1(一))第1図、第2図及び図面中の寸法に関する明細書の記載からみて、本願発明のインクドナーフィルムとして、前記幅の広いインクシートが含まれることは、明らかである。

そして、この幅の広いインクシートからなるインクドナーフィルムは、同様の幅を有しており、かっ、始端から終端に向けて1ページ分づつ順次に画像(印刷像又は複写機)を形成するためのものである点で、複写機用の感光紙と共通しているものと認められる。

さらに、この共通していると認められる画像形成動作中に、終端を検出するために終端近傍にマークを配置するということに関しては、本願発明の幅の広いインクシートからなるインクドナーフィルムと引用例1記載の考案の複写機用の感光紙とで、格別の相違があるものとは認められない。

したがって、相違点1は、格別な相違とは認められない。

ロ、 相違点2について

引用例1には、「最後に供給されるペーパーは使用目的寸法より異った寸法となりやすいため、複写機のコピー動作を正確に行うことができず、トラブルの一原因になっている。」、「最終の半端サイズのペーパが絶対給紙されるようなことがなく、」と記載され、引用例2には、「転換時期は最悪の場合印字ヘッドが1行分印字するまで復帰しないことがあるので、少なくともリボンスプールにまだ一行分印字するのに要する量のインクリボンが残っている間に転換することが望ましい」と記載され、引用例3には、「このようにすれば操作者は第1の警告表示22により残りのコピーの数を数え、10枚になったところでロール紙を交換することによって紙を全く無駄にすることがなくなる。」と記載されている。

このように、記録動作中のロール状に形成されたインクリボン、あるいは、コピー動作中のロール状に形成された複写機用の感光紙において、それらの終端が、1行あるいは1ページの動作途中で、到来してしまうことのないようにすることは普通に配慮されていることと認められる。

したがって、終端を検出するために終端近傍に配置するマークを、本願発明のように、少なくとも記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように配置して、1ページの途中で記録動作が中断することがないようにすることも、当業者が容易に想到し得たことと認められる。

<4> 以上のとおりであるので、本願発明は、引用例1記載の考案、引用例2記載の発明、引用例3記載の考案に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の認定判断のうち、(1)は争う、(2)<1>、<2>は認める、<3>のイ、のうち、本願発明のインクドナーフィルムと引用例1記載の考案の複写機用の感光紙との共通点は認めるが、格別の相違が認められないとする判断は争う、<3>のロ、のうち、各引用例の記載事項は認めるが、これから相違点2に係る本願発明の構成が容易に想到し得たとする判断は争う。

審決は、本願発明の要旨の認定を誤り、かつ、相違点1及び2に対する判断を誤ったもので、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  本願発明の要旨認定の誤り

本願発明の要旨は、原告が平成元年1月26日付けの手続補正書で補正(以下「本件補正」という。)したように、「ロール状に形成されたインクドナーフィルムであって、電気的、光学的、あるいは磁気的に検知可能なマークを有し、このマークは、このマークを検知後に記録紙に対する記録動作を停止させる記録装置のマーク検出手段によって検知され、このマークを、少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように終端近傍に配置し、前記記録可能領域は、前記マーク検知後に少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さまで前記記録装置による記録紙への記録動作がなされるようにしてなることを特徴とするインクドナーフィルム」とすべきである。

審決は、本件補正につき、「前記記録可能領域は、前記マ-ク検知後に少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さまで前記記録装置による記録紙への記録動作がなされるようにしてなる」点は、具体的な目的を異にする構成要件を付加するものであり、実質上特許請求の範囲を変更するものとして、これを却下した。

しかしながら、本件補正において付加した構成要件は、「フィルム終端部近傍を物理的に識別可能とし、記録の中断が生じないようにしたインクドナーフィルムを提供する」(本願特許公告公報3欄4行ないし6行)目的を達成するため、「マーク検知後に記録される記録可能領域」を限定したものであって、具体的な目的を異にする構成要件を付加するものではない。

すなわち、本件補正前の特許請求の範囲にあっては、「このマークを、少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように終端近傍に配置し」と記載されているのみであるから、別紙図面1(二)に図示したように、マーク検知後に記録される部分には、マーク前のB領域も含まれるおそれがあったのに対し、上記構成を付加する補正をなすことにより、マーク検知後に記録される部分には、マーク前のB領域は含まれず、マーク後のA領域のみに限定され、「このマークを、少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように終端近傍に配置し」の意味が明確となり、上記目的を達するものである。

したがって、本件補正は、特許法159条が準用する64条(平成5年法律第26号による改正前の規定。以下同じ)に規定する要件を満たすものであって、本件補正却下決定は違法である。

しかるに、審決は、本件補正にかかる構成を無視して本願発明の要旨の認定を行ったものであって、その要旨の認定は誤りである。

(2)  相違点1についての判断の誤り

審決は、「相違点1は、格別な相違とは認められない。」と判断したが、これは誤りである。

すなわち、本願発明におけるインクドナーフィルムとは、「インクドナーフィルムのインク面と記録紙とを重ね合わせ、サーマルヘッドを用いて、インクドナーフィルムからインクを選択的に熱転写し、情報の記録を行うようになっている」(本願公告公報1欄15行ないし19行)ものであり、さらに「記録状態においては、ロール状に巻かれたインクドナーフィルムが記録部を経由して巻取ロールに巻き取られる」(同1欄21行ないし2欄1行)ものである。

これに対し、引用例1記載の考案における感光紙は、光が直接に感光紙上に照射され、この感光紙上に直接に像が形成されるものである。しかも、引用例1記載の考案の目的は機械内部に残留して各種のトラブルを発生させていた半端なサイズの発生の防止であることからすれば、この感光紙は、給紙後にカットされることが明らかであり、ロールに巻き取られるものではない。

(3)  相違点2についての判断の誤り

審決は、相違点2について、「当業者が容易に想到し得ることと認められる。」と判断したが、これは誤りである。

すなわち、本願発明におけるマークは、単に1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように終端近傍に配置しただけでなく、該マークの検知後に記録可能領域に記録が可能であるようにしたものである。このように構成することによって、マークの検知後でも記録がなされるので、記録の中断が生じないようにすることができる。

これに対し、引用例1ないし3記載の考案、発明には、「前記記録可能領域は、前記マーク検知後に少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さまで前記記録装置による記録紙への記録動作がなされるようにしてなる」ようにインクドナーフィルムを構成して、記録の中断が生じないようにするという本願発明の技術的思想は示唆さえされていない。すなわち、

<1> 本願発明のインクドナーフィルムは、記録部を間に挟んでロールから引き出されてロールへと巻き取られるので、マーク検出手段は、供給側のロールと記録部との間の短い間隔の中に配置せざるを得ず、必然的に記録部の近傍となる。

したがって、インクドナーフィルムにおいて記録の中断が生じないようにするには、マーク検知後記録が少なくとも1ページ分継続する必要があり、本願発明ではマーク検知後に記録可能である記録可能領域を(マークの後に)設けたことによりその目的を達成している。

<2> これに対し、引用例1記載の考案では、終端を検知するマークとして、第2図に示すように感光紙1のほぼ中央付近に終端までスリット5を、第4図に示すように感光紙1の側面縦方向に切欠部を、第6図、第7図に示すように色部を設けている。「スリット」「切欠部」「色部」は終端を検知するマークであるため、このマークを検知した後に記録が可能である領域は存在しない。引用例1には、「たとえば、他の例として上記スリット5をあと2~3枚分複写できる分の感光紙が残量している部位に設けることにより、上記マイクロスイッチ6が作動したとき、あと2~3枚分の感光紙が残っているということを表示することができる。」(4頁13行ないし18行)と記載されているが、これもスリットをマークとするものであるから、2~3枚分の感光紙はマークの前部分に相当し、本願発明の記録可能領域を示唆するものではない。

さらに、引用例1記載のロールは、カットされる感光紙であり、半端なサイズを生じさせないためには、カットされる以前にマーク検出手段を設ける必要があるから、マーク検出手段は記録部から相当離れた位置に配置せざるを得ない。したがって、たとえば、記録部から離れた位置にマーク検出手段を設けるとともに、記録可能領域をマーク前に設けることで記録の中断が生じないことが可能であったとしても、上記インクドナーフィルムの事情からそれをそのままインクドナーフィルムに適用することはできない。

<3> 引用例2には、オープンリール型のインクリボンが示されている。このオープンリール型のインクリボンは、「一方のリールに巻回されているインクリボンが終わりになると該インクリボンの巻取り方向を転換しなければならない」(1頁左下欄20行ないし右下欄3行)ものである。また、「しかしながら、前記転換動作は全く機械的に行なわれるため、印字動作中に前記動作が行なわれることがあった。このときインクリボンは0.5~1秒停止しておりこの間にインクリボンの同一場所が多数回印字されるため印字が薄くなったり、インクリボンに穴があいたりする欠点があった」(同頁右下欄8行ないし14行)ため、ニアエンド信号と印字ヘッドの復帰記号との論理積をとってインクリボンの巻取り方向を転換するようにした点が示されている。すなわち、引用例2記載の発明においては、エンド信号を検出するのは転換のタイミングを検出するものであり、1行分手前で検出することは印字ヘッドの復帰記号との論理積をとるのに必要とされるにすぎない。ここでは、記録の中断が生じないようにするという技術的思想は示唆さえされていない。

この点について、審決は、引用例2の「転換時期は最悪の場合印字ヘッドが1行分印字するまで復帰しないことがあるので、少なくともリボンスプールにまだ1行印字するのに要する量のリボンが残っている間に転換することが望ましい」との記載をもとに、あたかも本願発明を示唆しているかのように認定しているが、1行印字するのに要する量のインクリボンが残っている間に転換することは、記録の中断が生じないようにすることとは無関係である。

<4> 引用例3には、「このようにすれば操作者は第1の警告表示22により残りのコピーの数を数え、10枚になったところでロール紙を交換することによって紙を全く無駄にすることがなくなる」(6頁5行ないし9行)と記載されているにすぎない。

したがって、本願発明と比較すると、本願発明におけるマークが記録装置のマーク検出手段によって検知されるのに対し、引用例3記載の考案では、単に操作者が見るだけにすぎず、ましてや「前記記録可能領域は、前記マーク検知後に少なくとも前記記録紙の1ペ-ジ分の長さまで前記記録装置による記録紙への記録動作がなされるようにしてなる」ようにインクドナーフィルムを構成して、記録の中断が生じないようにするという本願発明の技術的思想は全く示されていない。

<5> 本願発明の作用効果の1つは、「記録途中で中断することなく、同一ページの記録内容を再送する必要がない」ことにある。

これに対し、引用例1記載の考案は、最終の半端サイズのペーパーが絶対給紙されるようなことがないというものであり、引用例2記載の発明は、印字のかすれやインクドナーフィルムの破損を防止するものであり、引用例3記載の考案は、記録紙の無駄をなくすというものであり、本願発明の作用効果を示唆するものではない。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定判断は正当であり、原告の主張は理由がない。

2(1)  本願発明の要旨認定の誤りについて

原告は、本件補正が却下されたことの違法性について主張する。

しかしながら、本願発明は、「フィルム終端部近傍を物理的に識別可能とし、記録の中断が生じないようにしたインクドナーフィルムを提供する」ことを目的としている。記録の中断が生じないようにするということは、マークを検知したときに記録装置により記録が行われているページの記録をそのページの終りまで記録動作を続けた後記録動作を停止させることにより達成されるもので、マーク検知後に記録装置による記録動作が行われるのは多くても1ページ分の長さまであれば記録の中断が生じないものである。

ところが、本件補正によれば、補正前の特許請求の範囲にあっては、「このマークを、少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように終端近傍に配置した」と記載されているのみであるのを、「前記記録可能領域は、前記マーク検知後に少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さまで前記記録装置による記録紙への記録動作がなされるようにしてなる」という構成を付加しようとするものであり、「マーク検知後に少なくとも1ページ分の長さまで記録装置による記録紙への記録動作がなされる」ということは、マークを検知した後1ページ以上の記録動作、たとえば、1.5ページ、2ページの記録動作を行うことを意味している。

このマーク検知後に1ページ以上の記録動作を記録装置により行うということは、記録の中断を防止するという本願発明の目的を達成するために、マーク検知後に多くても1ページ分の長さまで記録動作を記録装置により行うこととは異なっているため、「上記構成要件を附加する補正は、発明の具体的な目的を異にする構成要件を附加するものであり、実質上特許請求の範囲を変更するもの」として本件補正を却下したものであり、この却下の決定に誤りはない。

原告は、本件補正で付加した構成要件は、「マーク検出後に記録される記録可能領域を限定したもの」であるとし、これにより別紙図面1(=)に図示したように、マーク検出後に記録される部分には、マーク前のB領域は含まれず、マーク後のA領域のみに限定され、意味が明確になると主張する。

しかしながら、仮に本件補正が適法になされたものであるとしても、同補正で付加する構成要件のうち、「マーク検知後」というのは、マーク検知という動作を行った後という時間的関係を表すものであり、記録可能領域とマークとの位置関係の構成、つまり、マークに続いて記録可能領域がインクドナーフィルムに設けられている構成ではなく、公告時の特許請求の範囲と同様に、マーク検知後に記録される部分にはマーク前のB領域も含まれるので、本件補正により、マーク検知後に記録される部分にはマーク前のB領域は含まれず、マーク後のA領域のみに限定されたとする原告の主張は失当である。

(2)  相違点1についての判断の誤りについて

審決においても述べているように、インクドナーフィルムも、感光紙も始端から終端に向けて1ページ分づつ順次画像(印刷像または複写像)を形成するものとして共通している。

また、原告は、マーク配置の意味内容の相違点を述べているが、終端部において記録の中断が生ずることを防止する点で共通している。

(3)  相違点2についての判断の誤りについて

<1> 原告は、本願発明が記録の中断が生じないようにするのに対し、引用例1記載の考案は半端なサイズの発生を防止するもので、目的に関連性がないと主張する。

たしかに、引用例1記載の考案は、ロールペーパーが半端なサイズになることにより機械内部に残留して各種トラブルが発生するのを防止するものであるが、引用例1の「最後に給紙されるペーパーは使用目的寸法より異つた寸法となりやすいため、複写機のコピー動作を正確に行うことができず」(2頁4行ないし7行)という記載からみて、半端なサイズというのは使用目的寸法より短い寸法となることを意味しており、また、「最終の半端サイズのペーパが絶対給紙されるようなことがなく」(7頁2行、3行)という記載からみて、最終に給紙されるペーパーが絶対に半端サイズとはならず、本体の使用目的寸法となることで記録の中断を生じないことを意味している。そして、コピーも記録の一種であるので、本願発明と引用例1記載の考案とは、記録の方式は異なるものの、終端部において記録の中断が生ずることを防止する点で共通した目的を有しており、審決の判断に誤りはない。

また、原告は、インクドナーフィルムにおいて記録の中断が生じないようにするには、マーク検知後記録が少なくとも1ページ分継続する必要があり、本願発明は、まさにこのようなインクドナーフィルム特有の事情をもとになされたものであり、マークの検知後に記録が可能である記録可能領域を設けたことにより目的を達成したのに対し、引用例1記載の考案では、マークを検知した後に記録が可能である領域は存在しないと主張している。

しかしながら、「マークの検知後に記録が可能である記録可能領域を設けた」ことの意味は、マークを設けられた位置より後に記録可能領域を設けたことを意味するものではなく、マーク検知という動作を行った後に記録が可能である領域を設けたことを意味しており、引用例1には、マークを検知したとき、「あと2~3枚複写できる分の感光紙が残量」(4頁14行、15行)することが記載されていることから、引用例1記載の考案にも、マークの検知後に記録の一種である複写を行うための記録可能領域が存在している。そして、上記のように、引用例1には「最終の半端サイズのペーパが絶対給紙されるようなことがなく」(7頁2行、3行)という記載があるから、記録可能領域の最終ページにおいて記録の中断が生じないことが記載されている。

さらに、原告は、本願発明と引用例2記載の発明、引用例3記載の考案との相違点を述べており、引用例2記載の発明については、「1行印字するのに要する量のインクリボンが残っている間に転換することは、記録の中断が生じないようにすることとは無関係である。」と、引用例3記載の考案については、「記録の中断が生じないようにするという本願発明の技術的思想は全く示されていない。」と主張している。

しかしながら、引用例2には、「転換時期は最悪の場合印字ヘッドが1行分印字するまで復帰しないことがあるので、少なくともリボンスプールにまだ1行印字するのに要する量のリボンが残っている間に転換することが望ましい」(3頁左下欄4行ないし8行)と記載してあり、これは、1行分印字するとイニシャル位置に復帰する印字ヘッドが、1行の印字途中でインクリボンの終端に到来してしまうと復帰しないことがあるのを、ニアエンド検出時に少なくとも1行印字するのに要する量のインクリボンが残っていることにより、印字ヘッドによる1行分の記録を最後まで行い、印字ヘッドをイニシャル位置に復帰させることができるので、1行途中で記録の中断を防止できることである。

また、引用例3には、「このようにすれば操作者は第1の警告表示22により残りのコピーの数を数え、10枚になったところでロール紙を交換することによって紙を全く無駄にすることがなくなる」(6頁5行ないし9行)と記載されており、ロール端末近くに警告表示を設けることを記載している。審決では、引用例3には記録の中断を記載しているとは述べておらず、引用例1ないし3記載の考案、発明を勘案すれば、「記録動作中のロール状に形成されたインクリボン、あるいは、コピー動作中のロール状に形成された複写機用の感光紙において、それらの終端が、1行あるいは1ページの動作途中で、到来してしまうことのないようにすることは普通に配慮されていることと認められる。」としたのである。

したがって、引用例2記載の発明及び同3記載の考案には、記録方式の違い、1ページあるいは1行等の違いはあっても、記録の中断が生じないようにするという本願発明と同じ技術的思想が示されているのである。

<2> 原告は、作用効果について、本願発明の作用効果の一つは、「記録途中で中断することなく、同一ページの記録内容を再送する必要がない」ことにあると主張している。

しかしながら、引用例1記載の考案は、半端なサイズを生ずることにより記録の一種であるコピーが途中で中断するのを防止するために、最終の半端サイズのペーパーが絶対給紙されないように2~3枚分の複写できる分の感光紙が残量する部位に検出信号部を設けて最終ページの記録の中断が生ずるのを防ぐものであり、引用例2記載の発明は、1行途中での記録の中断を防止するためにニアエンド検出時に少なくとも1行印字するのに要する量のインクリボンが残っているので、印字ヘッドによる1行分の記録を最後まで行った後印字ヘッドをイニシャル位置に復帰させることができるという、1ページ分ではないが1行途中での記録の中断を防止するものである。

このように、引用例1記載の考案、引用例2記載の発明には、記録の中断に関するものがあるのであり、これらが本願発明の作用効果を示唆するものではないとする原告の主張は失当である。

(4)  したがって、本願発明は、引用例1記載の考案、引用例2記載の発明、引用例3記載の考案に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決の判断は正当である。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の特許請求の範囲)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決の取消事由について判断する。

1  成立に争いのない甲第2号証(平成4年特許出願公告第15111号公報)によれば、特許公告公報における本願発明の明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(1)  本願発明は、熱転写記録装置等の記録装置に使用するインクドナーフィルムに関する。(1欄13行、14行)

(2)  従来の熱転写記録装置では、記録が進行し記録部へ供給されるインクドナーフィルムの残りがわずかとなっても、これを扱者に表示する手段が設けられていなかった。このため、扱者は、実際に記録が不可能となるまでインクドナーフィルムの交換時期を検知することができず、迅速に記録を必要とする時期に、インクドナーフィルムの交換による記録の中断が生ずる場合があるという不都合があった。つまり、記録紙1ページ分の記録を行っているときに記録の中断が生じた場合、記録内容を再送する必要性が生じてしまう。

この記録装置がコンピュータやパーソナルコンピュータ等の中央制御装置の端末装置であるプリンタ装置である場合、扱者はインクドナーフィルムを交換した後、再度中央制御装置を操作しなければならなかったし、この記録装置がファクシミリ装置である場合、受信側の扱者は、インクドナーフィルムを交換した後、送信側に記録の中断が生じた旨を伝え、再送信の要請をしなければならなかった。(2欄2行ないし21行)

(3)  本願発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、フィルム終端部近傍を物理的に識別可能とし、記録の中断が生じないようにしたインクドナーフィルムを提供することを目的とし(3欄3行ないし6行)、特許請求の範囲記載の構成(1欄2行ないし11行)を採用した。

(4)  このように、本願発明によれば、インクドナーフィルムにエンドマークを設けたので、インクドナーフィルムの交換時期を警報ランプ等の表示手段で扱者に正確に知らせることができる。さらに、記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域がある状態でマークを検出するようにし、検知された時点において行われる記録を、その記録可能領域内にて完了させることができるので、記録が途中で中断することがなく、同一ページの記録内容を再送する必要がない。(4欄30行ないし39行)

2(1)  要旨認定の誤りについて

特許公告公報における特許請求の範囲に記載された本願発明の構成要件は、以下のとおりであることは当事者間に争いがない。

「ロール状に形成されたインクドナーフィルムであって、電気的、光学的、あるいは磁気的に検知可能なマークを有し、このマークは、このマークを検知後に記録紙に対する記録動作を停止させる記録装置のマーク検出手段によって検知され、このマークを、少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように終端近傍に配置したことを特徴とするインクドナーフィルム」

そして、本件補正は、上記の特許請求の範囲に、「前記記録可能領域は、前記マーク検知後に少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さまで前記記録装置による記録紙への記録動作がなされるようにしてなる」の構成要件を付加するものであることも当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第4号証(平成1年審判第16341号事件補正却下決定)によれば、本件補正の却下の理由は、本件補正前の明細書に記載された発明の目的は、「フィルム終端近傍を物理的に識別可能とし、記録の中断が生じないようにしたインクドナーフィルムを提供すること」であると認められるのみであって、本件補正により付加しようとする構成要件に対応する「マーク検知後に少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さまで前記記録装置による記録紙への記録動作がなされるようにしてなる」ことを目的としておらず、したがって、本件補正は、発明の目的を異にする構成要件を付加するものであり、実質上特許請求の範囲を変更するものであるというものである。

そこで検討すると、本件補正前の特許請求の範囲に記載された本願発明の構成要件には、「記録紙に対する記録動作はマーク検知後に停止させること」、「マークは少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように終端近傍に配置されていること」が記載されているから、これを合わせ読めば、マーク検知後にも記録が停止するまでは記録装置による記録紙への記録動作が継続されることが明らかであるといえる。

そして、前掲甲第2号証によれば、特許公告公報における本願明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、…記録の中断が生じないようにしたインクドナーフィルムを提供することを目的とする。」(3欄3行ないし6行)、「境界線13とエンドマーク14Aに対する検知位置との間隔は、使用される記録紙の1ページ分の長さよりも長く設定しているので、エンドマーク14Aが検知された時点において行われている記録は、記録可能領域12で完了させることができ、その後、記録動作を停止する。従って、同一ページの記録内容を再送する必要がない。」(3欄末行ないし4欄7行)、「さらに記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域が有る状態でマークを検出するようにし、検知された時点において行われる記録を、その記録可能領域内にて完了させることができるので、記録が途中で中断することがなく、同一ページの記録内容を再送する必要がない。」(4欄33行ないし39行)と記載されていることが認められる。

これらの記載によれば、本件補正前の本願発明においては、マークが検知された時点で行われている記録をそのページの最後まで続行し、その記録を完了することで記録の中断を防止し、同一ページの記録内容を再送する必要がないようにしたと解されるから、これをマーク検知後の記録紙への記録の長さの面からみれば、その長さは1ページ分の長きよりも長くなることはないといえる。

これに対し、本件補正にかかる発明は、「前記マーク検知後に少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さまで前記記録装置による記録紙への記録動作がなされるようにしてなる」、つまり、前記長さは「少なくとも1ページ分の長さまで」であるから、これを補正前の長さ、すなわち、「1ページ分の長さよりも長くない長さ」と比較すると、マーク検知後の記録の長さは、本件補正前後で明らかに異なるものということができる。

したがって、本件補正は、実質上本願発明の特許請求の範囲を変更するものと認められ、この補正を却下したことに違法はなく、補正前の特許請求の範囲の記載に基づいて本願発明の要旨を認定した審決に誤りはない。

なお、この点について原告は、本件補正は、マーク検知後に記録される記録可能領域を限定したものであるとし、本件補正前の特許請求の範囲では、マーク検知後に記録される部分には、マーク前のB領域も含まれるおそれがあったのに対し、本件補正によりマーク検知後に記録される部分には、マーク前のB領域は含まれず、マーク後のA領域のみに限定されることを明確にしたものである旨主張するが、本件補正が実質上特許請求の範囲を変更することは前記のとおりであって、その主張は採用できない。

したがって、要旨の認定についての審決の判断は正当である。

(2)  相違点1についての判断の誤りについて

原告は、本願発明のインクドナーフィルムと引用例1記載の考案の感光紙とは、前者はサーマルヘッドに用いて熱転写により情報の記録を行うものであり、かつ、記録部を経由した後ロール状に巻き取られるのに対し、後者は光の照射により直接像が形成され、かつ、給紙後にカットされる点で相違している旨主張する。

上記インクドナーフィルムと感光紙とは、それぞれ物品として原告主張のような相違点があることは、性質からいってそのとおりであると認められる。

しかしながら、本願発明のインクドナーフィルムと引用例1記載の考案の感光紙とは、ともに記録装置に用いられ、ロール状で、使用に際し巻き戻され、かつ、マークと検知装置によってその終端が検知されるようになっており、この点からみれば、両者は、技術的思想と構成において実質的に同一であり、両者の間に格別の相違はないということができる。

したがって、相違点1についての審決の判断に誤りはない。

(3)  相違点2についての判断の誤りについて

原告は、本願発明においては、マークの検知後でも記録がなされるので、記録の中断が生じないようにすることができるのに、引用例1ないし3記載の考案、発明には、記録の中断が生じないようにする点はいずれにも示唆さえされていないし、かつ、本願発明においては、記録を中断することなく、同一ページの記録内容を再送する必要がないという作用効果があるのに、引用例1ないし3記載の考案、発明には、この点も示唆されていない旨主張する。

ところで、原告の主張のうち、インクドナーフィルムの構成を「記録可能領域は、前記マーク検知後に少なくとも前記記録紙の1ページ分の長さまで前記記録装置による記録紙への記録動作がなされるようにしてなる」としている点は、却下された補正を前提とするものであるから失当である。

そこで、この点を除いたうえで、原告の主張を検討する。

<1> まず、引用例1ないし3記載の考案、発明には、記録の中断が生じないようにする点はいずれにも示唆さえされていないとの点について検討する。

引用例2記載の発明については、成立に争いのない甲第6号証(昭和55年特許出願公開第11805号公報)によれば、「従来のオープンリール型のインクリボン装置では、…(インクリボンの)転換動作は全く機械的に行なわれるため、印字動作中に前記転換動作が行なわれることがあった。このときインクリボンは0.5~1秒停止しておりこの間にインクリボンの同一場所が多数回印字されるため印字が薄くなったり、インクリボンに穴があいたりする欠点があった。…本発明は前記欠点を除去するためリボンスプールに巻かれたインクリボンの量が少なくとも1行印字するのに要する量よりも少なくなると、この後の非印字時に前記インクリボンの巻取り方向を転換する」(1頁右下欄3行ないし2頁左上欄4行)、「該リボンスプール2bに巻かれたインクリボンの量が一行を印字するのに要する量に近くなると前記ニアエンド検出レバ4bの他端がマイクロスイッチ3bを動作し、ニアエンド信号を出力する。この印字ヘッド8は少なくとも1行分印字するとイニシャル位置に復帰するので、インクリボン1が全て巻戻される前に前記マイクロスイッチ3bの動作に応じて図示せぬ駆動機構が動作し、リボンスプール2bを駆動する。これによりインクリボン1の巻取り方向が転換され」(2頁左下欄2行ないし12行)と記載されていることが認められ、この記載からすると、引用例2記載の発明においてインクリボンのニアエンドを検出してインクリボンの巻取り方向を転換するのは、印字動作中の転換動作を防止し、印字が薄くなったり、穴があいたりするのを防止するためであると解されるから、記録の中断が生じないようにすることを目的とするものではないと認められる。

また、引用例3には、記録の中断が生じないようにすることについての記載がないことは被告も認めるところであり、成立に争いのない甲第7号証(昭和52年実用新案登録願第77098号の願書に添付された明細書及び図面のマイクロフィルムの写し)を検討しても、引用例3にその点についての示唆があるとは認め難い。

しかしながら、引用例1についてみると、引用例1には、記録の中断が生じないようにすることを目的としている旨の直接の記載は認められないものの、成立に争いのない甲第5号証(昭和47年実用新案登録願第2324号の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写し)によれば、「ロール感光紙を使用した複写機…においては、ロール感光紙の使用可能範囲を検出して知ることは、正確な給紙を得るためには必要欠くべからざるものであるが、従来このような目的の装置は殆んど開発されておらず、よってロール感光紙が全部消費されない限り知ることができず、最後に給紙されるペーパーは使用目的寸法より異つた寸法となりやすいため、複写機のコピー動作を正確に行うことができず、トラブルの一原因となっている。」(1頁18行ないし2頁8行)、「この考案によれば、ロール感光紙の終端を簡単かつ正確に検出することができ、…最終の半端サイズのペーパが絶対給紙されるようなことがなく」(6頁19行ないし7頁8行)及び、終端検知により、「表示警告のみに止まらず…強制的に爾後の運転サイクルを停止されるようにしてもよく、」(6頁13行ないし16行)と記載されていることが認められる。この記載からすると、引用例1記載の複写機のロール感光紙終端検出装置においては、半端サイズのペーパーが給紙されないようにしており、この半端サイズとは短小なサイズの意味であることは明らかであり、短小なサイズの感光紙が給紙されることによる複写機のトラブルを防止し、さらに、爾後の運転サイクルを停止させるのであるから、複写の中断についても防止することであることは容易に理解し得るところである。

そうすると、引用例1には、引用例1記載の複写機のロール感光紙終端検出装置において記録の中断が生じないようにすることが示唆されており、引用例1記載の考案がこの目的になんら関連しないということはできず、原告の主張は採用することができない。

また、前掲甲第5号証によれば、引用例1には、「上記ロール感光紙1は、第2図に示すようにその終端部の略中央部に検出信号部たとえばスリット5が設けられている。…他の例として上記スリット5をあと2~3枚複写できる分の感光紙が残量している部位に設けることにより、上記マイクロスイッチ6が作動したとき、あと2~3枚分の感光紙が残っているということを表示することができる。」(4頁1行ないし18行)と記載されていることが認められ、この記載から、引用例1記載の複写機のロール感光紙終端検出装置においても、マーク検出後に複写可能な複写紙(本願発明の記録可能領域に相当する。)が残留することは明らかである。そして、この点は、本願発明においてマーク検知後に記録可能領域を設けたことと格別相違するものではないから、この点からも原告の主張は失当である。

したがって、引用例1には、複写機のロール感光紙終端検出装置において、記録の中断を防止する目的が示唆され、かつ、そのための構成として、本願発明の記録可能領域に相当する複写可能な2ないし3枚分の残留感光紙部分を有するようにマークを配置することが示されているから、少なくとも記録紙の1ページ分の長さよりも長い記録可能領域を有するように配置し、相違点2に係る構成を得ることは当業者が容易に想到し得たことというべきである。

<2> 次に、引用例1ないし3記載の考案、発明には、記録を中断することなく、同一ページの記録内容を再送する必要がないという作用効果が示唆されていないとの点について検討する。

原告主張の同一ページの記録内容を再送する必要がないという作用効果は、記録の中断を防止したことを作用効果の点から言い替えたにすぎないことは、前示1項認定の本願明細書の記載から明らかである。

そうすると、この作用効果は、引用例1記載の考案における記録の中断防止によって、同一ページの複写を再度する必要がないという作用効果と実質的に同じことをいうにすぎないから、格別なものとは認められず、この点についての原告の主張も採用することはできない。

以上のとおり、審決が相違点2についての判断に当たり、引用例1記載の考案の他、引用例2及び3記載の発明、考案をも引用した点は適切ではないが、引用例1記載の考案に基づいて本願発明の構成を得ることは当業者が容易に想到し得たことと判断した点において、正当であって、この点に関する審決の判断に誤りはない。

3  したがって、原告の審決の取消事由の主張は理由がない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

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別紙図面3

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別紙図面4

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