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東京高等裁判所 平成5年(行コ)122号 判決 1994年1月26日

静岡県浜松市海老塚一丁目六番六号

控訴人

高見征

静岡県浜松市大蒲町一一八番地の五

控訴人

高見征邦

静岡県浜松市海老塚二丁目一八番三〇号

控訴人

高見秀邦

右三名訴訟代理人弁護士

三井義廣

静岡県浜松市砂山町二一六番地の六

被控訴人

浜松東税務署長 仲根眞治

静岡県浜松市元目町一二〇番地の一

被控訴人

浜松西税務署長 安藤時和

右両名指定代理人

渡邉和義

佐藤謙一

迎一夫

小田嶋範幸

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  訴訟費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人高見征及び同高見秀邦と被控訴人浜松西税務署長との間で、浜松税務署長がいずれも昭和六一年六月一〇日付でした右控訴人らの昭和五九年分贈与税の各更正のうち、

(一) 控訴人高見征に対する更正については、課税価格六五四万三九五〇円、納付すべき税額二〇七万六五〇〇円を超える部分

(二) 控訴人高見秀邦に対する更正については、課税価格六〇七万六五二五円、納付すべき税額一八四万四二〇〇円を超える部分

をそれぞれ取り消す。

3  控訴人高見征邦と被控訴人浜松東税務署長との間で、浜松税務署長が昭和六一年六月一〇日付でした右控訴人の昭和五九年分贈与税の更正のうち、課税価格六〇七万六五二五円、納付すべき税額一八四万四二〇〇円を越える部分を取り消す。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二当事者の主張、証拠及び当裁判所の判断

当事者の主張及び当裁判所の判断(当裁判所も、控訴人らの本件請求は棄却すべきものと判断する。)は、第三で控訴人らの当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄に記載のとおりであり、証拠の関係は原審及び当審記録中の証拠目録記載のとおりである。

第三控訴人らの当審における主張に対する判断

一  他の評価実務(貸家建付地としての減額評価)との一貫性の欠如

1  控訴人らの主張

一画地評価は、その土地の現実の利用をもって基準とすべきであり、原判決のように、数筆の宅地が一体となって利用されるに至っていない段階であっても、一定の場合には一画地の宅地として評価することができるとするのは、他の評価実務と比較して特異な方法であって、一貫性がない。

すなわち、貸家建付地としての減額評価の場合には、客観的には貸家として利用されることが明らかであっても、現実に借家人が入居しなければ、貸家建付地としての減額評価はされず、自用地として評価されることになるのが実務の取扱いである。

2  被控訴人らの反論

貸家建付地としての減額評価の実務の取扱いが控訴人ら主張のとおりであることは認める。

しかし、評価基本通達が、貸家の敷地となっている宅地の価額は、自用宅地の価額から一定割合の金額を減じて評価することとしているのは、借家人が有している敷地利用権の価額を差し引いて評価するのが合理的であるからであるが、たとい評価すべき宅地上の建物が貸家用に建築されたものであるとしても、課税時期において現実に建物が貸し付けられていなければ、借家人の敷地利用権は存在しないのであるから、右宅地は自用地として取り扱われ、貸家建付地としての減額評価はされないのは当然である。

3  当裁判所の判断

評価基本通達が、貸家の敷地となっている宅地の価額は、自用宅地の価額から一定割合の金額を減じて評価することとしている理由は、被控訴人らが主張するとおりであると解されるが、借家人が現実に入居していない以上は借家人の敷地利用権は生じないことは明らかであって、減額評価すべき根拠はないことになる。いずれ借家人が入居することが確実であっても、このことには変わりがない。

したがって、右評価実務の取扱いと原判決の判示する一画地の宅地として評価すべき基準との間に一貫性がないということはできない。

二  C路線の取扱いについて

1  控訴人らの主張

原判決が、C路線を側方路線とし、本件評価土地を四方に路線がある土地として評価したことは誤りである。

すなわち、駅前共同ビルの敷地がC路線に一一メートル余の間口を開けることになったのは、駅前共同ビルに向かう人の流れを個連店にも集めることを期待した個連店グループの要望によるものであり、この開口部が設けられても本件評価土地には何らの利益ももたらさない。したがって、この路線の影響度を勘案すべきではない。

また、仮に本件評価土地をC路線を含めて四方に路線がある土地として評価するとしても、C路線を側方路線として評価するのは誤りであり、正面路線であるD路線と接続していない路線であるC路線は、裏面路線として評価すべきである。

さらに、C路線に対する間口距離は一一・八一一メートルであるが、奥行距離は五六八・〇五メートルであって、間口に対して奥行は四八倍であるから、このような場合には奥行長大補正率を乗じなければならない。評価基本通達によれば、本件の場合には右補正率は〇・九である。

2  被控訴人らの反論

本件評価土地においては、C路線をもって正面路線とすべきであるが、仮にC路線を正面路線と取り扱わないとしても、本件評価土地は現実にC路線に面している上に、本件贈与時点において、本件評価土地は、C路線に面していることによって極めて大きな経済効果を受け、土地の利用価値が発揮されていたのであるから、C路線の価額が本件評価土地の価額形成に大きく影響したことは明らかである。

また、控訴人ら主張のとおりC路線を裏面路線として評価しても、本件評価土地の一平方メートル当たりの価額は一二万三五五〇円となり、本件更正にかかる課税価格及び税額は、右一平方メートル当たりの価額に基づいて算出した課税価格及び税額の範囲内のものであるから、本件更正は適法である。

さらに、側方路線加算ないし二方路線加算は、主として、異なる系統の路線(街路)における人の流れを容易に吸収できることに着目して規定された評価方法であるが、これに対し、奥行長大補正率は、奥行が長大で間口との均衡がとれていない画地が、路線価算定の基準となった間口と奥行との均衡のとれた標準的な画地に比べて低下する利用効率の割合を、最も有効利用が期待される間口(すなわち正面」に対する奥行の割合を基として係数化したものである。したがって、奥行長大補正算定における利用効率の低下の認定に際しては、正面路線を基準として行われるべきものであり、側方路線価額ないし二方路線価額を算定する際には、側方路線ないし裏面路線に対する奥行長大補正は行うべきではない。このことは、評価基本通達の文理からも明らかであり、評価実務の取扱いも同様である。そして、D路線を正面とした場合で検討すると、D路線に対する間口と奥行との均衡はとれていると見るべきであり(間口距離九八・一六八メートル、奥行距離六八・三四メートル)、奥行長大補正を考慮する必要はない。

3  当裁判所の判断

本件評価土地は現実にC路線に面しているのであるから、その評価に当たってC路線の評価を無視することができないことは明らかである。しかも、原審における証人溝口英の証言及び控訴人高見征の本人尋問の結果によれば、駅前共同ビルの建築を計画していた当初は、C路線が浜松駅前商店街の中心の通りであって、浜松駅からの人の流れもC路線を中心としており、C路線が人通りが最も多かったこと、本件贈与がされた昭和五九年当時もこのような状況には変わりがなかったこと、そのため、共同開発グループとしては、駅前共同ビルの正面もC路線に向けて建築したいと考えたが、個連店グループの所有する土地がC路線に面する部分の大部分を占めるようになったので、D路線に正面を向けることにしたことが認められ、本件評価土地は、C路線に面していることによって多大の経済効果を受けているものというべきである。したがって、その影響度を勘案すべきではないとする控訴人らの主張は採用できない。

次に、D路線を正面路線とした場合には、C路線は、その位置からして側方路線であるというべきであり、正面路線と接続していないからといって、裏面路線であるとするのは相当ではない。

さらに、奥行長大補正のあり方については、被控訴人らの主張を相当として是認することができる。また、評価基本通達16項(2)が、側方路線影響加算について、「側方路線の路線価を正面路線価とみなし、その路線価に基づき計算した価額に付表2に定める加算率に乗じて計算した価額」と定め、同17項(2)が、二方路線影響加算について、「裏面路線の路線価を正面路線の路線価とみなし、その路線価に基づき計算した価額に付表3に定める加算率を乗じて計算した価額」と定めているからといって、その文理上、直ちに、正面路線価額に加算すべき側方路線価額ないし二方路線価額を算定する際に奥行長大補正を行うべきものであると解することはできない。そして、D路線を正面路線であるとして、この正面路線を基準として奥行長大補正を行う必要があるかどうかを考えると、D路線に対する間口(間口距離は九八・一六八メートル)と奥行(奥行距離は六八・三四メートル)の均衡はとれていることは明らかであり、奥行が長大な宅地であるとはいえない。したがって、奥行長大補正を行うべきではない。

三  C路線への開口部の評価について

1  控訴人らの主張

C路線への開口部は、個連店グループの要望により、駅前共同ビルに向かう人の流れを個連店グループの店舗にも集めるために設けられたものであって、本件評価土地のうち、右開口部付近の部分(駅前共同ビルの建物の東側の部分)は、D路線あるいはB路線への通り抜け道路として人の流れを作りだすために設けられたものであり、現実にもイトーヨーカ堂利用者のみならず不特定多数の者が通行している私道である。

評価基本通達23項は、私道が不特定多数の者の通行の用に供されているときは、その私道の価額は評価しない、と定めているから、右部分(八七〇・四〇平方メートル)は評価すべきではない。

2  被控訴人らの反論

本件贈与時点において、控訴人ら主張の部分を含め本件評価土地として一体利用することとされていたのであり、右部分だけを取り上げて私道であるとはいえない。

また、現実にイトーヨーカ堂は右部分を植樹地や駐輪場として利用して、建物の有効性を十分に引き出しており、また、B路線やC路線から正面路線へ向かわせるためにも利用されており、利用者の利便からも無駄なく利用している。このように、現在の利用状況からいっても、右部分は到底私道であるとは認め難く、建物敷地の一部と見るべきである。

3  当裁判所の判断

甲第七号証の二ないし六、同号証の一三及び乙第二号証によれば、控訴人らが私道であると主張する部分は、現在は、駅前共同ビルの周囲に位置し、右ビル等の利用者の通行にも利用されているが、植樹等もされて広場として整備された部分もあり(この部分は、乙第二号証の図面では「プラザ」という名称になっている。)、控訴人ら主張の部分全体として、単なる通路ではなく、右ビルの敷地の一部として一体として有効利用されているものと認められる。

また、甲第一一号証によれば、昭和五五年三月当時の計画においては、建物の東側の部分には、子供の遊び場、彫刻、催し物等のできる移動テント、プロムナード等を設置するとされていたことが認められる。

したがって、本件贈与当時の状況からはもとより、現在の状況からいっても、控訴人ら主張の部分が、不特定多数の者の通行の用に供されている私道であり、評価の対象にならない土地であるとは到底認め難い。

第四結論

以上のとおり、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋欣一 裁判官 矢崎秀一 裁判官 及川憲夫)

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