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東京高等裁判所 平成5年(行コ)149号 判決 1994年8月09日

控訴人(原告) 高陽タクシー株式会社

被控訴人(被告) 関東運輸局群馬陸運支局長

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成元年九月一九日にした控訴人の同年二月二八日付け一般乗用旅客運送事業の事業計画変更(事業用自動車の総数)認可申請に対する却下処分を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨。

第二事案の概要

次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由第二記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表九行目の括弧内を「以下、この申請を「本件申請」といい、右のような自動車の総数を増車する旨の同条項による事業計画変更認可申請を「増車申請」という。」に改め、同九枚目裏四行目の「後記」を削り、同五行目の「判例タイムズ七八九号七六頁」を「民集四六巻五号四三七頁」に改め、同九行目の「すべての」の前に「事前の告知、弁解、防御の機会を与えなければ」を、同一二枚目表四行目の「7(2)」の次に「、(3)」を、同一三枚目裏二行目冒頭に「(1)」を、同一四枚目裏三行目の「職業選択」の次に「の自由」を加え、同一五枚目裏五行目から同七行目までを次のとおり改める。

「(2) 控訴人は、後記(二)のとおり、増車基準7(2)に定める「特殊な需要に応ずる事案」で、かつ「公益上必要のある事案」に該当するものとして本件申請をしたものである。

増車基準7(2)は、特殊な需要に応ずる事案、公益上必要のある事案について「この基準の一部を適用しないことがある。」としているのであるから、被控訴人においては、本件申請のように増車基準7(2)に該当する事案であるとして増車申請がされたときには、その申請が<1> 右増車基準の一部を適用しない事案に該当するか否か、<2> 右事案に該当する場合に一部適用が除外されるのは右基準のうちどの範囲の部分かということについて、具体的基準を設定して客観的かつ合理的な審査手続の運営をすべきものである。ところが、本件申請の審査については、右<1>、<2>の点については右のような具体的基準は示されておらず、控訴人に対してそのような具体的基準の内容の説明もなかったから、控訴人としてはその点について的確な対応をすることができず、弁解、反論を行なう機会もなかったものである。

(3) したがって、本件申請について事前の告知、聴聞の手続を実施しないでした本件処分は憲法三一条、運送法一二二条の二に違反し、違法である。」

2  同一六枚目表八行目の「飲みに」を「飲酒に」に、同一七枚目表六行目の「これらのうち」を「また、運転代行を行っている自動車のうち」に、同一八枚目裏五行目の「被告は」から同八行目末尾までを次のとおり改める。「控訴人は右のとおりの理由から、増車基準7(2)に定める「特殊な需要に応ずる事案」で、かつ「公益上必要のある事案」に該当するとして本件申請をしたのに、被控訴人は、本件処分をするについて、本件申請が右「特殊な需要に応ずる事案」及び「公益上必要のある事案」に該当するか否かについての審査をしないで本件申請を増車基準7(2)に該当するものと認めなかった点において違法である。」

3  同二一枚目表一行目の「原告は、」の次に「本件申請当時保有していた車両と同様、本件申請において増車を申請している車両についても対人(一名につき)無制限の任意保険に加入する計画であったから、」を、同四六枚目表一〇行目の「昭和」の前に「関東運輸局長の」を加え、同四八枚目表四行目の「なお、本件に関するものは」を「(本件申請に関係があるのは」に改め、同七行目の末尾「)」を、同九行目の次に「(免許基準8及び9は次のとおりである。」を、同裏六行目の末尾に「)」を加える。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

憲法三一条の定める法定手続の保障は直接には刑事手続に関するものであるから、行政手続について当然その保障が及ぶと解することはできない。もとより、行政処分は適正な手続によって行われなければならないが、行政処分には多種多様なものがあるから、その行政手続に憲法三一条による保障が及ぶ場合であるか、それとも憲法上の要請としてでなく、立法政策上適正な手続が要請される場合であるか、仮に、憲法三一条による保障が及ぶ場合であるとしても、行政処分の相手方に事前の告知、聴聞の機会を与えなければ同条の法意に反することとなるものであるか否かということは、その行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、緊急性等を総合較量して決定されるべきものである。

運送法が聴聞について規定するのは一二二条の二であり、自動車運送事業の免許又は許可、同事業の停止又は免許若しくは取消、一般自動車運送業における基本的な運賃及び料金に関する認可について、地方運輸局長は、必要があると認めるときは、利害関係人又は参考人の出頭を求めて聴聞することができるものとされ(同条一項)、利害関係人の申請があるか、運輸大臣の指示があったときは聴聞しなければならないものとされている(同条二項)が、本件申請のような運送法一八条に基づく増車申請については、どのような行政手続によるべきか明文の規定はない。

そして、同法一八条二項は増車申請にかかる事業計画変更の認可の基準として一般自動車運送事業の免許(以下「事業免許」という。)の審査基準である同法六条を準用する。しかし、増車申請の認可は免許の場合と同様、憲法二二条一項にいう職業選択の自由にかかわりを有するものではあるが、多数のもののうちから特定少数のものを選択するような場合とは趣を異にするのみならず、新規の事業免許の許否の場合に比較すれば、右自由の制約とのかかわりの程度は格段に小さいものというべきである。加えて、運送法六条所定の基準の内容が抽象的であることから、これを具体化した審査基準として関東運輸局長は免許基準を、被控訴人は増車基準を定め、昭和六二年三月一四日付けでそれぞれ公示するとともに、群馬県ハイヤー協会を通じて関係事業者に対して周知させる方法をとっていたものである(乙一、二号証、二五ないし二八号証)が、右各基準の内容は合理的と考えられる上、その内容は明確かつ具体的であって、これにより申請者は増車申請の審査において検討される内容を具体的に知り得る状況にあり、右基準に即した主張、立証を行うことが可能な状態にあったというべきである。右のような点からすると、被控訴人において本件申請の許否の審査をするについて、控訴人に対し事前の告知、聴聞の機会を与えなかったからといって何ら違法ではないというべきであり、本件処分の手続が憲法三一条ないしその法意に反し、又は運送法一二二条の二に反し、適正な手続でないとする控訴人の主張はいずれも失当といわなければならない。

二  争点2について

1  増車基準7(2)は、「特殊な需要に応ずる事案、臨時増車その他特に公益上必要のある事案等この基準によることが適当でないと認められるものについては、この基準の一部を適用しないことがある。」としており、また、同基準7(3)は「免許申請の競願の場合、一括大量増車の場合においては、この基準の一部を適用しないことがある。」としている。

増車基準は増車申請の審査において、申請相互の間における審査の公平、迅速を確保することを目的とするものであるが、同基準7(2)、(3)に右のような内容が定められているのは、右基準7(2)、(3)に掲げられたような場合には、増車申請事案相互の間に競願関係が生ずる可能性が小さく、(A) 増車申請の対象とする需要が特殊であったり、短期間のものであるため一般タクシーの需要に与える影響が少ないとか、(B) 予め需給関係の調査を行い、当該区域を事業区域とする全事業者の申請に基づく等の理由から、当該審査に当たって地域の需給関係を考慮する必要性が小さく、申請者相互間の審査の公平に問題が生ずるおそれが少ないということによるものと認められる。また、右基準7(2)、(3)に該当事案が具体的にどのようなものであるかについて、被控訴人の通達等明文の内規はないが、関東運輸局群馬陸運支局においては、<1> 右基準7の(2)の「特殊な需要に応ずる事案」については、患者輸送用の寝台車、車椅子専用車、専属ハイヤー契約等の事案が、<2> 同7(2)の「臨時増車その他特に公益上必要のある事案」については国民体育大会等により一時的に発生する需要に応ずる事案が、<3> 同7の(3)の「一括大量増車の場合」については、急激な需要増加への対応又は政策目的のための当該区域を事業区域とする全事業者の対応による増車の事案がそれぞれ該当すると解されていることが認められる。(原審証人斉藤克己、弁論の全趣旨)

右<1>ないし<3>のような事例が増車基準7(2)、(3)に該当するという解釈は右7(2)、(3)の文言からしても、増車基準全体の趣旨からしても相当なものというべきである。

2  ところで、控訴人の本件申請の理由は原判決別紙「申請理由」のとおりであるが、要するに、高崎市においては、いわゆる白タク業者の違法なタクシー業務により、深夜における繁華街の交通秩序の混乱等種々の問題が発生しているが、白タク業者の多くは運転代行業の表看板を掲げているのが実情であり、これらの乗客輸送の需要を賄うためにはタクシー事業者の輸送の供給力を増加させることが妥当であるから、午後七時から午前三時までの時間帯に限定して運行するいわゆるブルーラインタクシーとしての増車を申請するというものであり、控訴人は、本件申請は増車基準7(2)に定める「特殊な需要に応ずる事案」で、かつ「公益上必要のある事案」に該当するものであると主張する。

そして、被控訴人は、本件申請は増車基準7(2)、(3)には該当しないものとした上、同基準3(1)、(2)、(3)、4(2)、(4)、5(準用される免許基準5(1))、6(同免許基準8、9)の基準に該当しないと判断し、本件処分をしたものである(原審証人斉藤克己、弁論の全趣旨)。

本件申請は増車申請の理由として高崎市内の夜間の繁華街等における白タク業者の横行を挙げるが、その申請の内容は、結局、午後七時から午前三時の時間帯に運行するタクシーの増車であり、当該区域を事業区域とする全事業者による一括大量増車の事案でもないのであるから、増車基準7(2)、(3)に該当する事例と解されている右1の<1>ないし<3>の事例とは全く異なるものであることは明らかである。加えて、増車基準7(2)、(3)が設けられているのは、右1認定の理由によるものというべきであるが、本件申請は、その内容からして、右1の(A)及び(B)の場合には該当せず、その審査を行うについて、地域の需給関係を考慮する必要性が小さく、申請者相互間の審査の公平に問題が生ずるおそれが少ない事案であるとは到底いえないというべきである。したがって、本件申請において増車申請の理由として白タク業者の横行による弊害の除去が掲げられているとしても、本件申請が増車基準7(2)及び(3)に該当しないとした被控訴人の判断は合理性があり、十分首肯し得るといわなければならない。

したがって、本件処分には、本件申請が増車基準7(2)に該当するものであるにもかかわらず、同基準7(2)を適用しなかった違法があるとする控訴人の主張は理由がない。

なお、控訴人は、関東運輸局内の他の陸運支局におけるいわゆるブルーラインタクシーの増車申請の取扱いと対比して不公平であると主張するけれども、いわゆるブルーラインタクシーは増大する東京圏における深夜時間帯の交通需要に対処するため、タクシーについて比較的需要の減少する土曜日及び日曜日の輸送力を深夜の輸送に振り替える手段として運行日、運行時間帯及び許可期間を限定して増車を認める一括大量増車の事案であり(甲四四号証、弁論の全趣旨)、本件申請とは全く事案を異にするものであるから、本件申請の取扱がブルーラインタクシーの増車基準の場合と対比して不公平であるとする主張は失当である。

三  争点3について

1  本件監査及び本件停止処分の経緯

本件監査及び本件停止処分の経緯については原判決二五枚目裏九行目から同二八枚目裏三行目まで(ただし、同二七枚目表四行目の「原告」の次に「本社石原営業所」を加え、同裏二行目の「甲二〇号証、」、同四行目の「そして」から同末行末尾までを削り、同二八枚目裏二行目の「原告は」から同三行目末尾までを「控訴人は被控訴人を被告として、本件停止処分及び付帯命令処分の取り消しを求める訴えを東京地方裁判所に提起した(同裁判所平成元年(行ウ)第四七号)が、平成元年三月二三日ころ右訴えを取下げた(甲五九、六〇号証)。」に改める。)のとおりであるから、これを引用する。

2  増車基準3(管理運営体制)の適合性

被控訴人が本件申請について増車基準3(管理運営体制)(1)ないし(3)に適合しないと認めたことが相当であることは原判決三四枚目裏二行目から同三五枚目裏五行目まで(ただし、同三五枚目表八行目及び同九行目の各「の資格を有する」を「に選任した」に改め、同末行の「主張するが」の次に「運行管理者、整備管理者に選任している以上、控訴人はその者に研修を受けさせなければならないのであり(運輸規則二五条の四、三一条の二)、」を加える。)のとおりであるから、これを引用する。

3  増車基準4(遵法精神)の適合性

本件申請が増車基準4(2)に適合しないことについては原判決三五枚目裏七行目から同三六枚目裏四行目まで(ただし、同三六枚目裏二行目、四行目の「同基準に」をいずれも「同基準にいう使用停止処分に」に改める。)のとおりであるから、これを引用する。

また、平成二年運輸省令第三一号による改正前の自動車運送事業等報告規則(昭和三九年運輸省令第二一号)二条は、毎事業年度の経過後百日以内に当該事業年度に係る営業報告書を提出しなければならないとしているが、控訴人が昭和六一年三月三〇日から昭和六二年三月二九日までの事業年度の営業報告書を提出したのは昭和六二年一〇月二三日であり(甲三九号証)、昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの事業年度の営業報告書を提出したのは本件処分後の平成元年五月二四日であって(甲四〇号証)、いずれも右規則の定める期間後に提出したものであり、また、控訴人は昭和六二年三月三〇日から同年九月三〇日までの分については営業報告書を提出していない(原審証人飯野伸)。昭和六二年当時控訴人が会社更生手続中で、裁判所の監督下にあり、同年五月二一日に更生計画が認可され、同年一〇月三一日に更生手続が終結し、決算時期が変更されたこと(甲一三号証、原審証人飯野伸)は、右の間の営業報告書を提出すべき義務を免れる理由となるものではない。したがって、本件申請が同基準4(4)に適合しないことは明らかというべきである。

4  増車基準5(資金計画)の適合性

本件申請書中の資金計画の項には、所要資金は五〇〇〇万円と記載されていたが、その資金調達方法としては「自己資金ならびに金融機関借入金」と記載されているだけで、資金計画が合理的でありかつ確実なものであることについての資料は全く提出されていなかった(甲一九号証、乙二九号証、三四号証)。したがって、本件申請は増車基準5が準用する免許基準5(1)に適合しないものと認められる。

5  増車基準6(損害賠償能力)の適合性

本件申請が増車基準6に適合しないことについては原判決三七枚目裏八行目から同三八枚目表三行目まで(ただし、同三八枚目表二行目の「損害賠償能力を有しているもの」を「同基準6が準用する免許基準8所定の任意保険等に加入する計画があると認めず、また、右計画がある場合と同等の損害賠償能力がある」に改める。)のとおりであるから、これを引用する。

6  以上によれば、本件申請が運送法六条一項四号に適合しないとして、これを却下した本件処分は相当というべきである。

したがって、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきである。

四  よって、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菊池信男 伊藤剛 高野伸)

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