大判例

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東京高等裁判所 平成6年(う)186号 判決

1 本件けん銃等は,司法警察員において,米海軍調査局特別調査官から任意提出を受けて領置したものであり,その手続自体には何らの違法も認められない。そこで,これに先立つ米海軍特別調査官らによる被告人からの押収手続に違法が認められるか,違法が認められた場合,その違法が司法警察員による領置手続までも違法ならしめるかについて,以下に検討する。

米海軍特別調査官の行う捜索差押手続に我が国の刑事訴訟法が直接適用されるか,疑問の余地なしとしないが,我が国の捜査機関の嘱託により,我が国の裁判官の発した捜索差押許可状に基づいて権限を行使するものである以上,我が国の刑事訴訟法に準拠して行うべきであるし,少なくとも,我が国の裁判所において,その結果取得された証拠物の刑事訴訟法上の証拠能力を判断するには,特別調査官らの行為が刑事訴訟法所定の手続に適合するか否かを検討すべきものと解するのが相当である。

ところで,刑事訴訟法110条は「差押状又は捜索状は,処分を受ける者にこれを示さなければならない」と規定し,右規定は,捜査機関において,裁判官の発する許可状に基づき差押又は捜索を行う場合に準用されている(同法222条1項)。その趣旨とするところは,原判決が正当に説示しているとおり,令状の存在とその内容を相手方に知らせて,手続の公正さを明示する一方,不服申立てのための便宜を与えて公正さを担保しようとするにあるものと解される。

本件捜索において,G特別調査官らは,被告人に対し,捜索差押許可状を呈示していないから,その手続が刑事訴訟法の前記条項に適合しないことは明らかである。

しかしながら,G特別調査官は,被告人に対し,日本の捜索差押許可状が発せられており,その令状を所持していること,これに基づき被告人の身体,居室及び郵便私書箱等を捜索することを告げている。そして,同調査官の原審証言によれば,令状自体を被告人に示さなかったのは,被告人の弁護人に交付する押収された物のリストには捜索差押許可状の写しが添付されるほか,被告人が日本語を読めず,令状を英訳して説明することも求めなかったためであるというのである。そして,本件捜索の経過は前示のとおりであって,被告人は,捜索を惑わせるように,Sのロッカーを自分のロッカーであるかのように言ったり,逆に,自分のロッカーにSの所持品が入っているから捜索するなと申し立てたりしているが,その全過程を通じ,捜索差押許可状の存在やこれに基づくG特別調査官らの捜索権限を争ったり,令状の呈示を求めるような言動は一切していないのである。

以上のような状況を総合すると,本件捜索差押許可令状が被告人に呈示されていなくても,G特別調査官の口頭での説明により,捜索差押許可状の内容はある程度被告人に了解されており,また,弁護人に交付される押収物のリストに捜索差押許可状の写しが添付されることにより不服申立ての道も残されているから,実質的には,刑事訴訟法222条1項,110条の要請はかなり満たされているといってよい。そして,右各条項が憲法の令状主義そのものに基づくものではなく,その趣旨を補充し,徹底するための規定であることを考え併せると,本件における令状不呈示の違法の程度は重大なものとはいい得ない。

2 次に,本件捜索は被告人の立会権をはく奪した状態で実施されたとの主張について検討するに,司法警察員等の捜査官が捜査段階において,証拠収集手続の一環として実施する捜索・差押については,現行刑事訴訟法上,必要があるときは被疑者を立ち会わせることができる旨の規定はある(刑事訴訟法222条6項)が,被疑者の立会権を直接認める規定はなく,刑事訴訟法222条が準用する同法114条2項が令状により司法警察員らが人の住居等の捜索を実施する場合に立ち会わせなければならない者として居住主などを列挙しているのは,捜索手続の公正さを担保しようとの趣旨に加え,捜索を受ける住居等を管理する者の権利保護をも含むものと解せられる。

これを本件についてみるに,確かに,被告人は,本件捜索手続の途中で米海軍基地の警備員によって手錠を掛けられて営倉に連行されており,本件けん銃等が被告人の当時使用していたと思われるロッカーから発見された時点で捜索に立ち会っていなかったことは,弁護人指摘のとおりである。

しかしながら,G特別調査官は,被告人方居室の管理人R・D・Eを同席させており,被告人は,本件捜索の開始当初から捜索に立ち会い,虚言をろうしてまで自分の主張すべきところについては主張し,G特別調査官らは,その都度,被告人の主張に沿った対応をしており,ことに,本件けん銃や実包が発見された一番左側のロッカーの南京錠が解錠された時点で,そのロッカーが被告人の使用するものでないとの被告人の申立てに対しては,その内部を捜索するのを止めて,わざわざ出張中の同居人Sに連絡し,確認をとっているのである。しかも,基地警備員が被告人に手錠を掛けて営倉に連行したのは,被告人が,捜索の途中,B大尉らから地位協定に基づく権利を告げられ,同大尉らが退室した後,特別調査官らから,後に関税法違反容疑に関して話をする機会を与える旨告げられたにもかかわらず,ベッドから立ち上がり,税関で押収されたけん銃が自分の物であるかどうか調べるとか,B大尉に同行した通訳人と話をさせるよう主張して譲らず,基地警備員の度重なる注意を無視したためであって,基地警備員らが被告人の居住主としての権利を侵害する意図のもとに手錠を掛けて営倉に連行したものではない。

右のような,捜索状況や,それに対する被告人の応対の状況に照らすと,本件捜索に当たり,被告人の権利は実質的にはほぼ満たされており,本件けん銃等が発見された時点で被告人が立ち会っていなかったのは自らの責めに帰すべき事由によるものであって,捜査官側による不当な権利侵害とは認め難い。

3 以上のとおり,特別調査官らによる立会権の侵害は認められず,また,捜索差押令状を呈示しなかった点は重大な違法とは言えないから,日本の司法警察員が特別調査官からこれらの証拠物を受け取った以降の手続を違法ならしめるものではない。したがって,これらの証拠物及びそれに関連して作成された鑑定書その他の証拠書類はいずれも証拠能力を有するものと認められ,これらの証拠によって被告人の有罪を認定した原判決に所論の違法はない。

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