大判例

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東京高等裁判所 平成6年(う)59号 判決

関係証拠に明らかな本件現場の状況,当時の時刻,被告人の様子などに照らし,パトカーで警ら中であったH,Sの両警察官が被告人の挙動に不審を抱いて職務質問を開始したことは相当であって,氏名,生年月日などを質問し,前科歴,盗難事件の有無などを無線で照会したことについても何ら問題はない。

無線照会の結果,覚せい剤事犯の前科歴が明らかとなったのであるから,被告人の挙動,応答態度などにも照らし,警察官らが,兇器や覚せい剤などの不法所持を疑って,被告人に対し職務質問を継続したことは当然の措置であったと認められるところ,被告人はまともに応答しようとせず,立ち去り際に,右手をズボンのポケットに突っ込んで何かを取り出そうとしたのである。この事実は被告人も認めて争わないのであるが,仮にこの動作が,被告人の言うとおり自転車の鍵を取り出そうとしたに過ぎなかったとしても,当時の状況にかんがみると,警察官らが,これを危険な兇器を取り出すか,あるいは覚せい剤などを投棄しようとする準備動作と判断して,とっさにこれを制止し,取り出そうとした物を確保しようとしてその手をつかみ抵抗する被告人の身体を押さえ付けた一連の行動は,職務質問に伴う危害防止ないし犯跡隠滅行為の防止のため警察官に許容される範囲内の行為であったということができる。被告人は,ポケットから自転車の鍵を取り出そうとした途端手をつかまれたと弁解するのであるが,とっさにポケットの中に持っていた本件覚せい剤在中の小銭入れを掌中につかんで,警察官の制止にもかかわらず,見付からぬように背後に隠そうとしたことは,被告人自身認めるところであって,右警察官の判断とその後の抑止の行動に不法のかどはない。

被告人の言い分によれば,被告人は仰向けに倒された際に,自由になった手を後ろへまわし,背中と路面の間に本件覚せい剤在中の小銭入れを隠したというのであるが,この言い分を前提とすれば,被告人は右小銭入れを身から離し,路上に投棄したものと評価される。したがって,これを見付けた警察官が拾いあげてチャックを開披した行為に何ら違法のかどはなく,その結果本件覚せい剤を発見し,係員による予試験を経て,被告人を覚せい剤所持の現行犯人と認めてその場で逮捕し,本件覚せい剤を押収した手続にも違法はないというべきであり,本件覚せい剤から派生するじごの証拠収集の手続にも違法はないことは明らかである。

また,警察官らの言うところによれば,もみ合ううちに被告人が小銭入れを左の尻ポケットに入れたと言うのであるが,この供述を前提としても,被告人は観念して覚せい剤が入っていることを自認し,警察官がポケットから小銭入れを取り出すことに異議を唱えず,開披することを承諾したものと評価されるから,本件覚せい剤の発見,現行犯人逮捕とそれに伴う捜索押収等のじごの手続に違法のかどがないことは,明らかである。

このような次第で,本件小銭入れを警察官が確保した態様にはっきりしない点があるものの,いずれの言い分を前提としても原判決が採用し有罪認定に供した本件覚せい剤をはじめとする一連の証拠の収集手続に違法のかどはなく,その他所論指摘の点につき,関係証拠を子細に検討しても,原審の訴訟手続に法令違反は認められない。

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