大判例

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東京高等裁判所 平成6年(う)596号 判決

所論は,要するに,原判決は,被告人に対する飲酒検査に基づき作成された酒酔い・酒気帯び鑑識カードに証拠能力を認め,被告人が酒気帯び運転をしたと認定したが,右飲酒検査は必要もないのに被告人に手錠を掛けたまま実施された違法なものであるから,その結果を記載した右鑑識カードには証拠能力がなく,これを事実認定の用に供した原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。

関係証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,

1 警視庁第八方面交通機動隊所属のS巡査とH巡査は,平成5年3月19日午前2時30分ころ,覆面パトロールカーに乗車して警ら中,新青梅街道上で被告人の運転する普通乗用自動車を認め,追尾する方法で被告人車の速度を測定したところ指定速度50キロメートル毎時のところを時速85.6キロメートルで進行していたことから,被告人車の停止を拡声器で再三指示したが,被告人はこれに従わずに逃走し,しかも転回禁止場所で2回転回し,新青梅街道からけやき通り,青梅街道を経てたかの街道を進行し,本件の飲酒運転場所とされる地点付近で駐車車両に衝突して停止するにいたったが,その間,再度指定速度40キロメートル毎時のところを時速103キロメートルで進行する速度違反を行い,赤信号を無視し,2回踏切で一時停止をしなかったなどの行為に出た上,衝突停止後も更にバックして逃走しようとし,両巡査から降車するように求められても直ちにこれに応じようとしなかった。そこで,両巡査は同日午前3時5分ころ,被告人車から降車した被告人を2回目の速度違反の現行犯人と認め,かつ逃走を防止する必要があると判断し,両手錠を掛けて逮捕した。

2 ところで,降車した被告人に酒臭がしたことから,両巡査は,被告人について飲酒検査をすることとし,パトロールカーの後部座席に被告人を座らせて速度測定記録書に署名指印させるなどしたのち,S巡査において,両手錠のまま,被告人に風船を膨らまさせて飲酒検知器を用いて呼気中のアルコール濃度を検査するとともに質問応答を求めるなどし,続いて車外に出てG巡査部長の応援を得て約10秒直立させたり,約10メートルを歩行させる検査をした。

3 これらの事実によれば,S及びH両巡査が,被告人を2回目の速度違反の現行犯人とし,逃走防止のために手錠を掛け,引き続いてその場で飲酒検査を実施したことが違法であるとは認められない。一般に,手錠の使用が慎重でなければならないことはもちろんであるが,S及びH両巡査が,前認定のように,停止の指示を無視して速度違反その他の交通違反を繰り返して逃走を続け,衝突して停止した後も容易に降車しようとしなかった被告人を逃走するおそれが強いものと判断し,手錠を掛けて逮捕したのは相当であったと認められ,かつ被告人に酒臭があった以上,酒酔い・酒気帯びの有無,程度を早急に明らかにするため,その状態で引き続き飲酒検査を実施したことはやむを得ない措置であったというべきである。所論は,飲酒検査の間被告人が逃走を企てたことはなかったことを強調するが,前記の逮捕に至る経緯からすれば,その段階で被告人に逃走のおそれが消滅していたとみることは相当でない。もっとも,被告人に対し最寄りの警察署等で手錠を外した状態で飲酒検査を行い得なかったかを論ずる余地はあると認められるけれども,そのことは,本件の飲酒検査を違法とするほどの事情とはなり得ないというべきである。なお,飲酒検査の実施に当たっては,直立能力,歩行能力の調査の正確性を期するために手錠の使用を避けることが望ましいとは言えるが,そのことも手錠を使用した飲酒検査を直ちに違法にするものとは解されない。

したがって,本件の飲酒検査が違法であるとは認められず,原判決が本件酒酔い・酒気帯び鑑識カードに証拠能力を認めて事実認定の資料に供したことは適法であり,原審の訴訟手続に所論の指摘する法令違反はなく,論旨は理由がない。

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