大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(ネ)3945号 判決 1995年7月26日

控訴人

村川綱一

ほか一名

被控訴人(原告)

小寺政子

ほか二名

主文

一  原判決中控訴人ら敗訴部分をいずれも取り消す。

二  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人ら

主文と同旨

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

第二主張

当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決三枚目裏六行目の「会社」の次に「(以下「控訴人太陽運送」という。)」を加え、同九行目から同四枚目表一行目までを

「(二) 控訴人らの主張

本件事故時、控訴人車の前方には、車両(二トンのロングアルミボデイトラツク。以下「先行車」という。)が走つていたが、先行車が急停車したため、控訴人村川は、先行車との追突を避けるため、急制動をかけるとともに、左側車線に進路を変更して先行車との衝突を回避した。ところが、亡泰正は、本件道路が車両通行量の多い幹線道路であつて、歩行者の横断が禁止されているのに、あえて本件道路に進入して横断し、急停車した先行車の前方から車線変更した控訴人車の前に飛び出して衝突したものであり、控訴人村川は、前方を注視していたが、先行車が死角になつていて衝突するまで亡泰正を発見できなかつたものであるから、結果回避義務は存在せず、控訴人村川に過失はない。また、以上のとおり、本件事故は、亡泰正の一方的な過失により発生したものであり、控訴人村川に過失はなく、かつ、控訴人車には構造上の欠陥及び機能の障害もなかつたから、控訴人太陽運送は、自賠法三条ただし書により免責されるべきである。」

と改める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  本件事故態様についての当裁判所の判断は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決四枚目表七行目から同五枚目表七行目までに記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決四枚目表七行目の「乙一、」の次に「二の一ないし一二、」を、同九行目の「とおり、」の次に「頭上をJRガードと東海道新幹線ガードとがほぼ平行に横切つており、」を、同一〇行目の「メートル」の次に「で、皇居方面寄りのJRガード下での車道幅員は、ガード支柱帯及び導流帯を除き一九・八五メートルで」を、同行目の「車線」の次に「(八・四五メートル)」をそれぞれ加え、同一一行目の「車線の幹線道路である」を「車線(一一・四〇メートル)、また、鍛冶橋方面寄りの東海道新幹線ガード下の車道幅員も、ほぼ右と同様の幹線道路で、車道の両側にはガードパイプの設けられた歩道があり、その幅員は皇居方面から鍛冶橋方面側が五・八〇メートル、鍛冶橋方面から皇居方面側が五・七〇メートルである。そして右両ガード間の中央部にはチヤツターバーによる中央分離帯が設けられている。」と、同裏一行目の「見通しは良く、」を「全体的には見通しは良いが、右両ガード下はやや薄暗い。JRガード下には、皇居方面から鍛冶橋方面の車道の第二車線と第三車線の間及びその反対車線の第二車線と第三車線の間にそれぞれガードを支える支柱が数本ずつ立ち並んでいる。」と、同行目の「交通量頻繁」を「車両の交通量は頻繁」とそれぞれ改め、同二行目の「終日」の次に「駐車禁止、」を、同三行目の「近いことから」の次に「、歩道上は」を、同四行目末尾の次に「本件事故は、右両ガード間の車道上で発生した。」をそれぞれ加え、同六行目の「進行中、別紙」を「時速約六〇キロで進行中、別紙図面<1>地点で前方約二七・七五メートルのJRガード下に位置する同図面地点を走行している先行車に気付いたが、同」と、同行目の「ところである」を「前記両ガード間に位置する」と、同七行目の「車両が」を「先行車が」と、同行目の「したため、前方の車両」を「し、先行車」とそれぞれ改め、同九行目の「ところ、」の次に「同図面<3>地点で前方約三・八〇メートルの同図面ア地点に先行車の前方から急に飛び出して来た亡泰正を発見したが、止まりきれず、同図面×点で」を加え、同行目から同一〇行目にかけての「別紙」を「同」と改める。

2  原判決五枚目表二行目の「いる。」の次に「なお、本件事故当時、交通量は少なめであつた。」を加え、同三行目の「道路を」を「道路には歩行者横断禁止の標識があり、歩道と車道の境にはガードパイプも設置されているのに、あえて」と改め、同行目の「向けて」の次に「車道の」を加える。

二  右認定事実に基づき、控訴人村川の過失の有無について検討する。控訴人車は、先行車が急停車した際、これに後続して停車することができず、しかも、控訴人車が停止したのは、先行車が停車した原判決別紙図面地点よりもさらに鍛冶橋方面寄りの同図面<5>地点であることから、先行車との車間距離を十分にとつていなかつたこと、制限時速五〇キロメートルの道路を時速約六〇キロメートルで進行していて、速度超過の状態であつたことが認められる。しかしながら、右の道路交通法違反の事実によつて亡泰正の死亡という結果が生じたものとは認められず、両者の間に因果関係があるものとは認められない。

すなわち、先行車は、亡泰正が第三車間に飛び出してきたので、急停車したものと推認されるが、控訴人村川は、先行車への追突を避けるため急制動をかけるとともに左側の第二車線に車線変更したところ、亡泰正が折悪く第三車線から第二車線に飛び出してきたため、これと衝突して本件事故に至つたもので、右衝突直前には亡泰正は先行車の前方にいて、控訴人村川からは死角になつていたものとみられること、本件事故現場付近は、上下合わせて七車線の車両の交通頻繁な幹線道路であり、歩行者横断禁止の規制があり、ガードパイプも設置されていて、歩行者が反対車線を横断し、中央分離帯を越えて自車線に飛び出してくるということは予測し難いことである上、本件事故現場付近は、車両の交通量が頻繁であり、しかも、JRガード下は薄暗く、かつ、ガード支柱も立ち並んでいて、控訴人村川は、これらに妨げられて、走行する車両の間を縫つて車道を横断してくる者を発見しにくい状況にあつたと認められることに照らすと、控訴人村川が第三車線を走行中に亡泰正が反対車線方向から車道を横断し、本件事故の直前には先行車の前に達していたのを発見し得なかつたとしても、やむを得ないところであり、控訴人村川にとつて亡泰正の飛出しは予見不可能であつたとみざるを得ないこと等を総合すれば、控訴人村川には本件事故が生じたことにつき過失があるものとは認められない。そして、右のとおり、本件事故は亡泰正の一方的な過失によるものであると認められること、弁論の全趣旨によれば、控訴人車に構造上の欠陥及び機能の障害がなかつたものと認められることに照らせば、控訴人太陽運送もまた自賠法三条ただし書により免責されるものというべきである。

三  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人らの請求は、いずれも棄却を免れない。

四  よつて、当裁判所の右判断と異なる原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人ら敗訴部分をいずれも取り消し、被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井健吾 吉戒修一 大工強)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例