東京高等裁判所 平成6年(ネ)4385号 判決 1995年7月25日
控訴人
井上定雄
被控訴人(原告)
谷口春子こと権春子
主文
一 原判決を次のように変更する。
1 控除人は、被控除人に対し、金一一九八万七〇三五円及びこれに対する昭和六一年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを四分し、その三を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
三 この判決の第一項の1は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二事案の概要
次のように訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第二事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決二枚目表四行目の「右方から左方に」を「左方から右方に」に、同四枚目裏二行目の「皮内出血」を「皮下出血」に、同五枚目表五行目の「交差道路」から同六行目までを「交差点手前で加害車両を発見しながら、あえて自転車を発進させているが、この場合、被控訴人は交差道路から進行する車両に特に注意すべきであるのにこれを怠り、前方を注視していなかつた点、並びに被控訴人の自転車にはライトが点燈していなかつた可能性が高い点を考慮して、三割の過失相殺を行うことを主張する。」に改める。
第三争点に対する判断
次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第三 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決五枚目表一一行目の「一七ないし二〇」を「一七ないし一九」に、同行目の「三〇、三二ないし」を「三〇ないし」に、同六枚目表一行目の「合計六回」から同三行目の「入院し」までを「外来による診療を受けたが、同年一一月下旬薬剤誘発肝炎で右病院内科に再入院し、同六二年一月一九日に頭蓋骨形成術目的で脳外科に転床し」に、同四行目の「一月二度」を「一か月に約二度」に、同裏四行目の「眼振あつたり」を「眼振があつたり」に改め、同七枚目表二、三行目の「平成三年一一月」の次に「及び平成四年三月」を加え、同八枚目裏四行目と同七行目の「硬膜下血腫」を「硬膜外血腫」に、同九枚目表一〇行目の「乙一」を「乙一八」に改める。
二 同裏五行目の「そして、」から同一〇枚目表七行目までを次のように改める。
「しかしながら、証人河村弘庸は、甲七の被控訴人の皮下出血の状況を撮影した写真を示されて、このような症状が本件事故によるものか否かを質問された際、『直接関係がない。血小板の減少により、ちよつとした打撲によつても皮下出血が生じるが、その原因は、結論からいうと分からない。肝機能障害がひどい状況になると、血小板が減少することもあるが、本件の場合、大分期間が経過しているので、結論的には、血液の専門家とも相談したが、原因は不明で、特に今回の外傷とは直接関係ない』と明確に証言(同証人調書一四ないし一六頁)している。また、同証人は、被控訴人の後遺障害として、<1>脳波に除波焦点が残る等の脳波異常、<2>中耳性のめまい発作、<3>嗅覚脱出、<4>右後頭神経痛、以上の四項目を挙げ、肝機能障害ないし血小板の減少を挙げていない(乙七、同証人調書六二ないし六六頁)。さらに、自算会新宿調査事務所は、平成六年四月二八日に、血小板の減少は認められるとしながらも、肝機能の低下は見られないことから、血小板減少の事実を後遺障害非該当と事前認定している(乙二一ないし二三)。
右事実によれば、仮に現在被控訴人に血小板減少の症状が存するとしても、本件事故との因果関係は不明であるといわざるを得ないうえ、他に、右症状が本件事故によるものであることを示す的確な証拠もないから、これを本件事故による後遺障害と認めることはできないものといわざるを得ない。」
三 同裏四行目の「数カ所にも」を「三カ所に」に、同八行目の「九級」を「一〇級」に改め、同一二枚目裏六行目の「六九九万六五二〇円」を「五三九万七三一五円」に、同七行目の「九級」を「一〇級」に、同八行目の「三五パーセント」を「二七パーセント」に、同一三枚目表三行目を「計算 309万3000×0.27×6.463=539万7315」に、同四行目の「九五〇万円」を「八六一万円」に、同七行目の「五五〇万円」を「四六一万円」に、同八行目の「二六三九万二七六八円」を「二三九〇万三五六三円」に改める。
四 同裏五行目の「進入した」の次に「が、その際、交差道路の右方向を注視して安全確認することを怠つた」を加え、同七行目の「一時停止」を「停止」に改め、同一四枚目表一行目の「注視」の次に「し、安全を確認」を加え、同七行目の次に次のように加える。
「なお、控訴人は、被控訴人が本件交差点にさしかかつた際、加害車両を発見しながら、あえて自転車を発進させたが、その際前方を注視していなかつた点、並びに被控訴人の自転車にはライトが点燈していなかつた可能性が高い点を考慮して、三割の過失相殺を行うべきことを主張する。
しかしながら、控訴人進行の道路には一時停止の標識が存在するのであるから、控訴人運転の加害車両が停止してくれるであろうと思つて自転車を発進、進行させた被控訴人の行為は、やや軽率ではあるものの、無理もない面も存するのであつて、これをもつて、一割を超えるほどの過失相殺の事由とすることはできないというべきである。
また、甲三三三の12には、被控訴人運転の自転車にはライトがついていなかつた旨の控訴人の供述記載部分があり、甲三三三の1には、事故後の実況見分時の状況として、発電機の回転部は前輪タイヤから離れており、これをタイヤに接着させてタイヤを回転させても、ライトが点燈しなかつた旨の記載がある。
しかし、被控訴人は本件事故当時、自転車のライトを点燈していたと供述しており、被控訴人は本件交差点手前で停止したことは前記認定のとおりであるから、控訴人がこれに気付かなかつたとしても必ずしも不自然ではないこと、本件事故の状況からすると、自転車には相当の外力が加わつたものと推認されるのであるから、実況見分の時の前記のような状況から直ちに本件事故前からライトが故障し、あるいは作動していなかつたと認めることはできないことに照らすと、被控訴人の自転車にはライトが点燈していなかつたものと断定することはできず、この点を理由として過失相殺を行うこともできない。
したがつて、控訴人の前記主張は採用し難い。」
五 同八、九行目の「二六三九万二七六八円」を「二三九〇万三五六三円」に、同裏一行目の「四〇三八万九五一八円」を「三七九〇万〇三一三円」に、同二行目の「三六三五万〇五六六円」を「三四一一万〇二八一円」に、同五行目の「一二七二万七三二〇円」を「一〇四八万七〇三五円」に改める。
第四結論
以上によれば、被控訴人の本件損害賠償請求は、金一一九八万七〇三五円及びその遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものとして棄却すべきである。
そうすると、原判決は一部失当であるから、原判決を主文第一項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木康之 小磯武男 伊東茂夫)