東京高等裁判所 平成6年(ネ)5621号 判決 1995年7月19日
沖縄県那覇市字栄原一丁目二七番一二号
控訴人
具志孝正
右訴訟代理人弁護士
和田隆二郎
同
木戸伸一
同
伊東元
同
安酸庸祐
同
遠藤幸子
東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
被控訴人
国
右代表者法務大臣
前田勲男
右指定代理人
浜秀樹
同
信太勲
同
仲大安勇
同
松田昌
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金一億円及びこれに対する平成二年一二月二二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文第一控訴人と同旨
第二事案の概要及び証拠
本件の事案の概要は、原判決に次の一のとおり付加し、争点に関する当審における控訴人の主張及びこれに対する被控訴人の認否を次の二とおり付加するほかは、原判決書「第二 事案の概要」記載のとおりであり、証拠の関係は、本件記録中の証拠関係目録(原審及び当審)記載のとおりであるから、これらをそれぞれ引用する。
一 原判決書三枚目表九行目の「原告の求めにより、」の次に、「当時新垣が所属していた所轄庁の長である」を加える。
二1(当審における控訴人の主張)
安谷屋は、自己に対する税務調査に関する事項が秘密にされることを希望せず、新垣が本件尋問事項につき証言することを承諾していた。したがって、安谷屋に対する税務調査の有無、内容等は、実質的な秘密として保護に値するものではない。
2(被控訴人の認否)
安谷屋の承諾については知らない。
税務調査の結果が私人間の紛争の場で開示されることになると、申告納税制度の下での税務行政の適正な執行を確保するという国家ないし公共の利益を保護することができなくなるから、仮に安谷屋の承諾があったとしても、税務調査の秘密性が失われるものではない。
第三争点に対する判断
当裁判所も、沖縄国税事務所長のした本件不許可に違法はなく、控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は原判決に次の一のとおり付加し、控訴人の当審における主張につき次の二のとおり判断を示すほかは、原判決書の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一1 原判決書九枚目表八行目の「明らかである」の次に、「(なお、本件尋問事項の第一項は、新垣の名は税務署所得税部門への在籍の有無を問うもので、尋問の導入部分に過ぎず、第二次訴訟の結論には関係ない事項であるから、証言拒絶の当否に論ずる意味もない。)」を加える。
2 原判決書一〇枚目表一行目の「真実であるということもできない」の次に「(控訴人が、安谷屋に大して新垣が税務調査をしたことの有無等を尋問事項として証人尋問申請をし、裁判所がこれを採用したこと自体、右事項が公知の事実でないことを物語るものである。)」を加える。
3 原判決書一一枚目表三枚目の「同法によれば、」の次に、「公務員の職務上の秘密を理由とする」を加える。
二 控訴人は、安谷屋が新垣を証人として尋問することを承諾している旨主張し、なるほど、甲第二ないし第二二号証(原本の存在及びその成立に争いがない。)によれば、安谷屋及び訴訟代理人は、新垣の尋問につき異議を述べず、かえって安谷屋は福岡高等裁判所那覇支部の審尋期日において、税務署の職員に証人となってもらうのは結構なことである旨陳述していることが認められる。したがって、安谷屋が税務調査を受けたこと及びその際に同人がどのような応答をしたかということについては、安谷屋自身が守秘義務によって保護されるべき利益を放棄しているといってよく、ここで申告納税制度の一般論を持ち出して守秘義務の解除を全面的に否定する被控訴人の主張は、いささか舌足らずの感がある。
しかしながら、申告納税制度の下での税務行政の適正な執行を確保する必要があることはいうまでもなく、税務調査の方法やその範囲(反面調査の要否ないしその実施の有無を含む)についても秘密を守る必要があることもまた明らかといってよい。本件尋問事項は、単に安谷屋の回答内容という単純な事実に限られるものではなく、いかなる場合に、いかなる事項について、いかなる方法によって調査を行うか等、税務調査の方法やその範囲に及ぶことが予測されるから税務職員の所属する所轄庁の長は、こうした観点から、証人尋問に際して秘密を開示することを許すかどうかを決することとなる。
右の点に加え、反面調査の被調査者が、将来、当人が当事者である訴訟において相手方から調査に関する証人尋問について承諾するか否かを迫られる可能性があるということになると、一般国民に反面調査への協力を躊躇させる結果となるおそれもあることをも考慮すると、新垣の証人尋問につき安谷屋の承諾があるからといって、沖縄国税事務所長のした本件不許可を違法であるということはできないし、本件不許可に裁量権の逸脱又は濫用があるともいえない。
第四結論
よって、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 田村洋三 裁判官 鈴木健太)