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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)21号 判決 1996年8月15日

大阪府門真市大字門真1006番地

原告

松下電器産業株式会社

同代表者代表取締役

森下洋一

同訴訟代理人弁理士

石原勝

滝本智之

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

常盤務

吉野日出夫

中村彰宏

幸長保次郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成2年審判第8998号事件について平成5年11月25日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年2月7日名称を「給湯機の制御回路」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和58年特許願第18382号)をしたところ、平成2年3月28日拒絶査定を受けたので、同年5月24日審判を請求し、平成2年審判第8998号事件として審理され、平成4年2月17日出願公告(平成4年特許出願公告第8695号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成5年11月25日異議の申立ては理由があるとの決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、平成6年1月13日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

加熱手段として燃焼器を有する給湯機の各種状態を検出する地震検出器やサーミスタ等のセンサーと、これらセンサーの信号を主制御手段に伝える検出回路と、この検出信号によって燃焼器の制御を行う制御手段とを有した給湯機本体装置と、内部にディジタル表示器を設けた遠隔操作部(リモコン)と、前記給湯機本体装置と前記リモコンとの間を接続するケーブル線とからなり、前記燃焼器が正常に燃焼中であることや、地震検出器等のセンサーが、ユーザの手による商品の再セットが必要であること、およびサーミスタ等のセンサーが給湯機の異常状態を検出したり、センサーや回路自身に故障が発生した際には、それらの情報を分類してリモコン部にシリアル信号として伝送するシリアル信号伝送部と、その内容を前記ディジタル表示器に数字または記号によって分類表示するデコーダ回路とを設け、かつその分類は、前記情報毎に区分したことを特徴とする給湯機の制御回路(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  これに対し、以下の各引用例には、次のように記載されている。

<1> 昭和57年特許出願公開第74520号公報(以下「引用例1」という。)には、加熱手段として燃焼器を有する給湯機の各種状態を検出するサーミスタ(TH)等のセンサーと、これらセンサーの信号を主制御手段(燃焼安全制御回路3)に伝える検出回路(比較器4等)と、この検出信号によって燃焼器の制御を行う制御手段(リレー1K、2K、3K)とを有した給湯機本体装置(給湯機の器具側)と、内部に表示器(待機ランプL1、点火ランプL2、警報ランプL3)を設けた遠隔操作部(リモート制御ボックス)と、前記給湯機本体装置と前記遠隔操作部(リモート制御ボックス)との間を接続するケーブル線(1)とからなり、前記燃焼器が正常に燃焼中であることや、サーミスタ等のセンサーが給湯機の異常状態を検出したりした際には、それらの情報をリモコン部に伝送してその内容を前記表示器に表示するようにした給湯機の制御回路。(別紙図面2参照)

<2> 昭和57年実用新案出願公開第125911号公報(以下「引用例2」という。)には、遠隔操作部(集中制御装置本体13)にディジタル表示器(室温表示器24)を設けること。(別紙図面3参照)

<3> 昭和54年特許出願公開第152335号公報(以下「引用例3」という。)には、1個の時刻表示器を利用して、運転状態表示、異常内容表示を自動的に選択表示するようにした空調装置の状態表示装置に関し、異常内容表示は、過電流検出器、巻線温度異常検出器、高低圧スイッチ異常検出器、およびヒータ加熱検出器が動作したとき、それを数字および記号(51C、49C、63PH、49H)により表示すること。(別紙図面4参照)

<4> 昭和57年特許出願公開第55406号公報(以下「引用例4」という。)には、原子力発電プラントのプロセス量監視装置に関し、各検出器に付設した現場信号処理装置に対し、パルス符号化した呼出信号を閉ループ状信号伝送路を介してシリアルに送り込み、各検出器からのプロセス量信号をシリアルなデータとして中央信号処理装置に導入するようにして、信号伝送路が単一のものでよく、使用するケーブル量が僅少ですむようにすること。

<5> 昭和55年特許出願公開第49650号公報(以下「引用例5」という。)には、電気回路(特に空気調和機の電気回路)の異常回路を検出する装置に係り、異常を検出して作動するリレーのb接点(63H、63L、49C、51C、52C、49F等)が異常を検出してオフ状態になると、その接点に関係する回路の異常をLED表示器に数字で表示するとともに、この数字表示器の数字に対応する回路を示した銘板をパネル面に配置し、異常回路の表示を数字でなすことにより、ランプ表示等による誤認等をなくすこと。(別紙図面5参照)

(3)  本願発明(前者)と引用例1記載の発明(後者)とを比較すると、両者は以下の点において相違するが、その他の点においては格別の差異は認められない。

<1> 前者は、遠隔操作部にディジタル表示器を設けているのに対して、後者は、ランプを設けている点。

<2> 前者は、センサーや回路自身に故障が発生した際にも表示するようにしているのに対して、後者は、それについて明らかでない点。

<3> 前者は、シリアル信号伝送部と、その内容をディジタル表示器に数字または記号によって分類表示するデコーダ回路を設けているのに対して、後者は、それらを備えていない点。

<4> 前者は、燃焼器が正常に燃焼中であることや、地震検出器等のセンサーが、ユーザの手による商品の再セットが必要であること、およびサーミスタ等のセンサーが給湯機の異常状態を検出したり、センサーや回路自身に故障が発生した際には、それらの情報を分類して、その内容をディジタル表示器に数字または記号によって分類表示し、かつその分類は、前記情報毎に区分したものとしているのに対して、後者は、そのようなものではない点。

(4)  前記各相違点について検討する。

<1> 相違点<1>については、遠隔操作部にディジタル表示器を設けることは、引用例2に示されており、引用例1に記載されたランプに代えてディジタル表示器を採用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

<2> 相違点<2>については、センサーや回路自身に故障が発生した際に表示することは、引用例5に明らかにされているから、そのような際にも表示することは、当業者が必要に応じて適宜になし得た程度のものと認められる。

<3> 相違点<3>については、シリアル信号伝送部を設けて、使用するケーブル量が僅少ですむようにすることは、引用例4に記載されており、また、ディジタル表示器に、数字または記号によって分類表示するためのデコーダ回路を設けることは周知の技術的事項であるから、この点は、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

<4> 相違点<4>については、燃焼器が正常に燃焼中であることを表示することは引用例1記載の発明でも行っており、地震検出器等が動作したとき、ユーザの手による再セットが必要であることは、燃焼器等において周知の事項であり、また、サーミスタ等のセンサーが装置の異常状態を検出したり、センサーや回路自身に故障が発生した際にこれを表示することは、引用例5記載の発明に明らかにされているから、それらの情報を、給湯機においてディジタル表示器に数字または記号によって分類表示することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる(ディジタル表示器に数字または記号によって分類表示すること自体は、引用例3および引用例5に明らかにされている。)。そして、その分類を情報毎に区分したものとして、どのような異常状態であるのか、またユーザの手による商品の再セットが必要であるものかどうかが、容易に分かるようにすることは当業者が通常行っていることであり、格別のものとは認められない。

(5)  また、相違点<1>ないし<5>を組合せたことによる本願発明の作用効果についてみても、引用例1ないし5記載の発明、考案および周知技術より予想し得た程度のものであり、格別のものとは認められない。

(6)  したがって、本願発明は、その出願前に公知になったものと認められる引用例1ないし5に記載された事項および周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の認定判断のうち、(1)(2)(3)は認める、(4)のうち<1>は争う(但し、引用例2の記載事項は認める。)、<2><3>は認める、<4>は争う、(5)(6)は争う。

審決は、相違点<1>、相違点<4>に対する判断を誤り、かつ本願発明の奏する作用効果についての予測困難性を看過した結果、本願発明が引用例<1>ないし<5>記載の発明、考案および周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論を導いたもので、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(相違点<1>に対する判断の誤り)

<1> 本願発明は、給湯機に関して、イ、燃焼器が正常に燃焼中であることを示す情報、ロ、地震検出器等のセンサーが、ユーザの手による商品の再セットが必要である原因が生じたことを示す各種の情報、ハ、サーミスタ等のセンサーが給湯機の異常状態を検出したり、センサーや回路自身に故障が発生して販売店等に修理を頼まなければならない原因が生じたことを示す各種の情報、すなわち、イ、ないしハ、に示す多くの情報を、スペース的に限られた遠隔操作部に、ユーザが分かり易いように表示するため、その表示器をディジタル表示器としている。

<2> これに対し、引用例1記載の発明は、遠隔操作部に複数の表示器(待機ランプL1、点火ランプL2、警報ランプL3)を設けており、それぞれのランプは、電源投入、点火、点火失敗という情報を1対1対応に表示する構成となっている。仮に、引用例1記載の遠隔操作部に給湯機に関する多数の情報を表示しなければならないとすれば、遠隔操作部のスペースを大きくとらねばならず実用的に困難であるとともに、ユーザにとって分かり難い表示となる。

また、引用例2には、審決が認定するように、「遠隔操作部(集中制御装置本体13)にディジタル表示器(室温表示器24)を設けること」が開示されている。このディジタル表示器24は室温という1つの情報のみを表示するものであって、引用例1記載の表示器のそれと同様の作用を有するにすぎない。そして、引用例2記載の考案において、各種運転状態を表示するためには、引用例1記載の発明と同様に、ランプ(運転表示灯)27、28、29、30、31が用いられている。

<3> 引用例1記載の表示器L1、L2、L3も引用例2記載の表示器24もともに、1つの情報のみを表示するものであるので、両者を組合せても、スペース的に限られた遠隔操作部に、多くの種類の情報を、ユーザが分かり易いように表示するために「遠隔操作部にディジタル表示器を設けた」本願発明に想到することは困難である。

<4> したがって、審決の「引用例1に記載されたランプに代えてディジタル表示器を採用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。」とする相違点<1>に対する判断は、誤りである。

(2)  取消事由2(相違点<4>に対する判断の誤り)

<1> 本願発明は、「給湯機のメンテ情報の表示を数字または記号等によつて行うことで、表示を見やすくするとともに、多くの種類を表示できるようにし、さらに、機器の内部不良も内容別に表示することによつて、販売店、販売会社等の修理時における効率を上げ、ひいてはユーザの負担も軽くすることを目的とするものである。さらに、対震装置の作動や、燃料切れといった、ユーザによって対処可能なメンテ情報と、販売店あるいはメーカの修理が必要な故障情報とをグループに区別し、ユーザに訴えやすくする」(本願発明の出願公告公報(以下「本願公報」という。)3欄20行ないし27行、平成4年11月30日付け補正書(以下「本件補正書」という。)3頁9行ないし20行)給湯機の制御回路を提供することを技術的課題の1つとしている。(以下「技術的課題(A)」という。)

本願発明は、技術的課題(A)を解決するために、審決が認定する相違点<4>で示される引用例1には開示されていない構成、すなわち「燃焼器が正常に燃焼中であることや、地震検出器等のセンサーが、ユーザの手による商品の再セットが必要であること、およびサーミスタ等のセンサーが給湯機の異常状態を検出したり、センサーや回路自身に故障が発生した際には、それらの情報を分類して、その内容をディジタル表示器に数字または記号によって分類表示し、かつその分類は、前記情報毎に区分したもの」とする構成を備えている。

すなわち、本願発明は、給湯機を使用するユーザの利便を考えるとともに、ユーザから修理依頼を受けた場合の販売店等の利便を考えて、遠隔操作部のディジタル表示器に数字または記号によって、次のイ、ないしハ、のグループに区分できる情報群が選択表示できるように構成されている。

イ、正常燃焼中であることを示す情報(実施例では「正常燃焼中」を「0」で表示)

ロ、ユーザの再セットにより対処可能な異常を示す各種情報(実施例では「灯油切れ失火」を「1」、「空タンク検出」を「2」、「地震検出」を「3」で表示)

ハ、販売店等による修理を要する異常を示す各種情報(実施例では、「サーミスタ短絡」を「4」、「サーミスタ断線」を「5」、「炎検出回路不良」を「6」で表示)

<2> これに対し、引用例1記載の発明は、ユーザが遠隔操作部の表示から、給湯機が正常運転しているか否かを知ることができるに留まる。審決も認定しているように、本願発明の上記相違点<4>に示されるような構成を有しておらず、そもそも表示によるユーザの利便性、ユーザからの修理依頼を受けた場合の販売店の利便性を考慮するといった技術的課題(A)を有していない。

<3> 引用例5記載の発明には、審決が認定するような構成が開示されているが、この発明は、専門技術者が電気回路異常箇所を検出するために用いるテスターに関する。専門技術者でないユーザが自ら使用することを前提に、ユーザにとって分かり易い表示を行おうとするものではなく、また、使用している機器そのものの電気回路の異常を示すものではないし、異常箇所をリアルタイムに表示しようとするものでもない。

<4> 審決は、「燃焼器が正常に燃焼中であることを表示することは引用例1記載の発明でも行っており」と判断しているが、引用例1記載の発明の表示は、本願発明の上記イ、のグループに属する情報のみに関するものであり、そもそも引用例1記載の発明は、上記本願発明の技術的課題(A)を全く有していない。

次に、審決は、「地震検出器等が動作したとき、ユーザの手による再セットが必要であることは、燃焼器等において周知の事項であり」と判断しているが、これは本願発明の上記ロ、のグループに属する情報に関することであるところ、単にかかる対処が必要であるという事実を示すに留まり、本願発明が問題としているディジタル表示器への分類表示という点について何ら言及されておらず、処理すべき内容を明確にし、ユーザの使い勝手を向上させるとする効果とは関係がない。ましてや、技術的課題(A)に相当する課題を全く有していないものである。

次に、審決は、「サーミスタ等のセンサーが装置の異常状態を検出したり、センサーや回路自身に故障が発生した際にこれを表示することは、引用例5記載の発明に明らかにされている」と判断しているが、これは本願発明の上記ハ、のグループに属する情報に関することであるところ、引用例5記載の技術は、専門技術者が電気回路異常箇所を検出するために用いるテスターに関するものである。専門技術者でないユーザ自ら使用することを前提に、分かり易い表示を行うことを目的としてはおらず、ユーザがその情報に基づいて対処し易くするものではなく、技術的課題(A)を全く有していない。また、引用例5記載の技術は、使用している機器そのものの電気回路の異常箇所を示すものではないし、異常箇所をリアルタイムに表示しようとするものでもない。

また、乙第2号証、第3号証記載のものは、調理器具本体の表示器、複写機本体の表示器に関するものであって、本願発明におけるような遠隔操作部の表示器に関するものではないので、これらの技術事項を参酌しても、引用例5記載の技術を本願発明に適用する契機にはならない。

以上のように、上記各引用例記載の発明は、上記イ、ないしハ、のグループに属する情報のうち、各々の部分的な情報に関する事項にすぎず、いずれも、本願発明の技術的課題(A)と同様の技術的課題を有するものはない。したがって、これらの各事項を関連付ける要素は存在せず、当業者にとっても、これらを組合せるという発想が生ずることは困難である。

乙第1号証の1、2記載の考案を周知技術として考慮するとしても、前記イ、ロ、ハ、の情報群のすべてを遠隔操作部のディジタル表示器に表示することについての示唆は存しない。

以上のことより、引用例1、引用例5記載の発明および周知技術を前提として、「それらの情報を、給湯機においてディジタル表示器に数字または記号によって分類表示することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる」とした審決の判断は、失当である。

なお、審決の「ディジタル表示器に数字または記号によって分類表示すること自体は、引用例3および引用例5に明らかにされている」との判断は正しいとしても、上記の理由により、審決の上記判断が失当であることに変わりはない。

<5> そして、審決がこれに続いて述べている「そして、その分類を情報毎に区分したものとして、どのような異常状態であるのか、またユーザの手による商品の再セットが必要であるものかどうかが、容易に判るようにすることは当業者が通常行っていることであり、格別のものとは認められない」とする判断も、具体的根拠が示されない推測に基づくものであって、失当である。

(3)  取消事由3(作用効果についての予測困難性)

<1> 本願発明は、技術的課題(A)を解決した給湯機の制御回路において、さらに、ディジタル表示器が設けられた遠隔操作部と給湯機本体との間の「信号伝送をシリアル信号伝送方式として、リモコンケーブルの芯数を減少すること」(本件公報3欄28行ないし30行)を技術的課題の1つとしている。(以下「技術的課題(B)」という。)

<2> 本願発明は、相違点<1>、相違点<4>に示される構成を有することにより、技術的課題(A)を解決し、「表示に数字や記号を用いるため表示が見やすくなり、また多くの種類の表示が少ない表示器で行え、トータルコストも向上する。さらに、給湯機の動作状態のみならず、ユーザに対処を即すメンテナンス情報と、自己の部品の故障等の情報とを区分して、表示するため、メンテ対応の説明をユーザにわかりやすく訴えることができ、かつ、万が一の部品故障時は、その分類記号を知ることで、修理に必要なものが予測できるため、ユーザをはじめ、販売店や販売会社での修理、サービス時のやりやすさが大きく向上する」(本願公報7欄18行ないし8欄2行、手続補正書6頁5行ないし14行)という格別の作用効果を奏する。

さらに、本願発明は、相違点<3>に示される構成を有することにより、技術的課題(B)を解決し、「シリアル信号伝送を用いているため、リモコンケーブルの芯線数に影響を与えずに、表示の種類を増やすことができる」という作用効果をも奏する。

<3> 本願発明のこのような作用効果は、本願発明特有の構成から生じるもので、引用例1ないし5記載の発明、考案および周知技術から予測できるものではない。

したがって、審決が「相違点<1>ないし<5>を組合せたことによる本願発明の作用効果についてみても、引用例1ないし5記載の発明、考案および周知技術より予想し得た程度のものであり、格別のものとは認められない」とした判断は、失当である。

(4)  このように、審決は、相違点<1>および相違点<4>に対する判断、本願発明の奏する作用効果についての判断を誤り、本願発明の進歩性についての判断を誤ったものである。

第3  請求の原因に対する認否および被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める、同4は争う。審決の認定判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

2(1)  取消事由1(相違点<1>に対する判断の誤り)について

<1> 引用例1記載の発明における表示器(待機ランプL1、点火ランプL2、警報ランプL3は、引用例1の記載によれば、次のように表示動作を行う。(3頁左上欄11行ないし右下欄11行)

イ、電源スイッチSWが投入されると、待機ランプL1が点灯する。この場合、点火ランプL2、警報ランプL3は点灯しない。

ロ、燃焼動作シーケンスにおいて、所定の時間内にパイロットバーナの点火が検出されると、点火ランプL2が点灯する。この場合、警報ランプL3は点灯しない。

ハ、燃焼動作シーケンスにおいて、所定の時間内にパイロットバーナの点火が検出されないと、警報ランプL3が点灯する。この場合、点火ランプL2は初めから点灯しない。

ニ、点火ランプL2が点灯している場合、異常信号が発生すると、警報ランプL3も点灯する。

ホ、上記ニ、の他の態様として、電圧の設定の仕方によっては、点火ランプL2が点灯している場合、異常信号が発生すると、警報ランプL3が点灯すると同時に、点火ランプL2は消灯する。

ヘ、上記ホ、の他の態様は、点火後に起こる断火時にも同様に行われ、警報ランプL3Mが点灯すると同時に、点火ランプL2が消灯する。

ト、表示ランプの数は、3つに限定されるものではなく、さらに多くの表示ランプを設けることにより、プリパージ動作等の表示を追加して行い得る。

してみると、引用例1に記載された表示器は、複数の表示ランプの点灯、消灯がいつ行われるか、どのような順序で動作するかを含めた、点灯、非点灯の組合せによって、給湯機の動作状態および異常状態に関する多数の情報を表示するものである。

<2> 引用例2記載の考案のディジタル表示器(室温表示器24)は、引用例2の記載によれば、A、B、Cの3部屋の設定室温および現在室温をA、B、Cの部屋選択キー21、22、23を押すことにより、1つの室温表示器24に、切替え表示するものである。つまり、A、B、Cの3部屋の設定室温および現在室温を表示するために、3部屋分の3つの室温表示器を設けなくても、3部屋分の1つの室温表示器24を設ければ足りるものである。

してみると、引用例2に記載されたディジタル表示器(室温表示器24)は、遠隔操作部(集中制御装置本体13)という限られたスペースに多数の情報をコンパクトに分かり易く表示するものである。

<3> 引用例1記載の発明において、遠隔操作部(リモート制御ボックス)の表示器には、極力、給湯機のある遠方の場所まで行かなくて済むように、給湯機の動作状態および異常状態に関するできるだけ多くの情報を表示しようとすることを前提としていることは、技術上自明のことである。

そして、引用例1には、ケーブル接続の各種の制約条件にもかかわらず、「プリパージ動作などの表示のためにさらに多くの表示ランプを点灯させる必要がある場合」(3頁右下欄6行ないし11行)にも言及されていることから、引用例1には、プリパージ動作等の表示のために、給湯機の動作状態に関する情報をさらに追加して表示しようとすることが記載または示唆されている。

この場合において、表示すべき情報の数が増加すれば、普通はそれだけ表示ランプの数が増加するが、一方では、遠隔操作部(リモート制御ボックス)には、表示ランプの取付面積に限りがあるという問題点が存することも、技術上自明のことである。

さらに、表示器の選択に際して、たとえば、表示ランプ、アナログ式表示器、ディジタル式表示器、液晶ディスプレイ等の各種の表示器の中からいずれかの表示器を選択して採用しようとする際には、各種の表示器の持つ特徴や、遠隔操作部の製品設計上の諸条件(製品の大きさ・重さ・形状・コスト、製造工程における費用対効果、ユーザの使い勝手を良くする配慮)等を考慮して、分かり易い良好な表示が得られるように行なおうとするのは、当業者が通常意図する事柄である。

そして、熱・空調機器に備えられる部屋内で用いられる遠隔操作部の表示器に関するものとして、引用例1記載の発明と技術分野の共通性を有する引用例2記載の考案について、引用例2には、前述のように、遠隔操作部という限られたスペースに多数の情報をコンパクトに分かり易く表示するために、「遠隔操作部(集中制御装置本体13)にディジタル表示器(室温表示器24)を設けること」が記載されている。

<4> してみると、引用例1に記載された遠隔操作部の表示ランプからなる表示器に代えて、技術分野の共通性を有する引用例2に記載された同じ遠隔操作部に設けられたディジタル表示器を採用することにより、相違点<1>に示される本願発明の構成を得ることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到し得たものにすぎない。

(2)  取消事由2(相違点<4>に対する判断の誤り)について

<1> 引用例1記載の表示器は、前述のように、複数の表示ランプの点灯、消灯がいつ行われるか、どのような順序で動作するかを含めた、点灯、非点灯の組合せによって、給湯機の動作状態および異常状態に関する多数の情報を表示するものであり、ユーザが遠隔操作部の表示ランプの点灯表示状態から判断し得る範囲内の給湯機の異常状態についての表示も行い得るものである。

つまり、引用例1に記載された表示器は、ユーザが対処可能なものと、販売店等による修理を要するものとの両方を含む異常状態に関する情報を表示している。

してみると、「引用例1記載の発明は、ユーザが遠隔操作部の表示から、給湯機が正常運転しているか否かを知ることができるに留まる」ものであるとする原告の主張は、当を得ない。

<2> 引用例5記載の「LED表示器」および「数字表示器」は、それぞれの有する機能に照らして判断すると、両者は同じものを指しており、ともに遠隔操作部に設けられてはいないものの、本願発明における「ディジタル表示器」に相当する。

特に、引用例5の、「なお、本発明による装置は、単に空気調和器のみならず、他のシーケンスのチェックにも使用出来ることは申すまでもない。」(3頁左下欄13行ないし15行)の記載からみて、引用例5記載の発明は、一般的なシーケンス回路の異常回路を検出する装置に関するものであって、給湯機の異常回路の検出にも適用できることは明らかであり、異常検出の要請は、ユーザにとっても当然必要なことである。

してみると、「引用例5記載の発明は、専門技術者が電気回路異常箇所を検出するために用いるテスターに関するものである」とする原告の主張は、当を得ない。

<3> そこで、上記引用例1および引用例5の記載内容に即した説明を踏まえて、審決の相違点<4>に対する判断について検討する。

イ、「燃焼器が正常に燃焼中であることを表示することは引用例1記載の発明でも行っており」との点について

引用例1には、その構成の一部として、「前記給湯機本体装置と前記遠隔操作部(リモート制御ボックス)との間を接続するケーブル線(1)とからなり、前記燃焼器が正常に燃焼中であることや、サーミスタ等のセンサーが給湯機の異常状態を検出したりした際には、それらの情報をリモコン部に伝送してその内容を前記表示器に表示するようにした」点が記載されているものと認められる。

つまり、引用例1記載の発明は、サーミスタ等のセンサーが給湯機の異常状態を検出したりした際には、ユーザが遠隔操作部の表示ランプの点灯表示状態から判断し得る範囲内の給湯機の異常状態についての表示、すなわち、ユーザが対処可能なものと、販売店等による修理を要するものとの両方を含む異常状態に関する情報の表示をしている。

ロ、「地震検出器等が動作したとき、ユーザの手による再セットが必要であることは、燃焼器等において周知の事項であり」との点について

地震が発生した際に、燃焼中の燃焼器の転倒により火災が発生するのを防止するために、地震検出器、および地震検出器の動作に応じて燃焼器を停止させる機構を備えることについては、燃焼器等の分野において周知の事項であり、引用例1記載の給湯機に地震検出器を備えることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る事項である。

地震検出器が動作して断火すると、引用例1記載の表示器の動作のうちの、点火後に警報ランプL3が点灯表示する場合に相当する表示を行う。ユーザは、地震発生とほぼ同時に警報ランプL3が点灯するので、地震検出器が動作し断火したことを知ることができる。ここで、地震検出器は給湯機の一部とみることができるから、地震検出器の動作に関する情報は、給湯機の動作状態に関する情報の1つであることは明らかである。

また、「地震検出器等が動作したとき、ユーザの手による再セットが必要であること」は、燃焼器等の分野においては周知の事項(必要ならば、昭和53年実用新案願第24455号(昭和54年実用新案出願公開第127571号公報)の願書に添付した明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第1号証の1)参照。なお、この昭和54年実用新案出願公開第127571号公報は、本願公告時に本願公報において、参考文献の欄に記載された。)であり、「地震検出器等が動作したこと」を表示しさえすれば、ユーザに対して地震検出器の再セットを促す表示となる。いい換えれば、ユーザに対して、再セットにより対処可能な異常情報を表示していることになる。

ハ、「サーミスタ等のセンサーが装置の異常状態を検出したり、センサーや回路自身に故障が発生した際にこれを表示することは、引用例5記載の発明に明らかにされている」との点について

熱・空調機器の異常回路を検出する装置として、引用例1と技術分野の共通性を有する引用例5には、審決が認定する構成が記載されている。

ここで、電気回路には、回路自体のみならず、回路を構成するセンサーも含まれるから、引用例5記載の発明は、センサーや回路自体に故障が発生した場合の異常情報を表示しているとみることができる。通常、この種の故障は、ユーザが簡単に修理できるようなものではないから、販売店等による修理を要する異常情報を表示していることになる。

ニ、そして、審決記載のように、「ディジタル表示器に数字または記号によって分類表示すること自体は、引用例3および引用例5に明らかにされている」。

<4> 以上の4点を併せて総合的に判断すると、引用例1に記載された遠隔操作部の表示器の表示内容として、上記イ、で述べた燃焼器が正常に燃焼中であることや、サーミスタ等のセンサーが給湯機の異常状態を検出したりした際の情報に加えて、上記ロ、で述べた地震検出器の動作状態に関するユーザの再セットにより対処可能な異常情報や、上記ハ、で述べた引用例5に記載された電気回路のセンサーや回路自体の故障に関する販売店による修理を要する異常情報をも含むものとし、かつ、これらの各種情報を、ディジタル表示器に数字または記号によって分類表示するように変更することにより、相違点<4>に示される本願発明の構成を得ることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到し得たものにすぎない。

そして、審決にも記載されているように、分類表示する際に、「その分類を情報毎に区分したものとして、どのような異常状態であるのか、またユーザの手による商品の再セットが必要であるものかどうかが、容易に判るようにすることは当業者が通常行っていることであり、格別のものとは認められない」。(なお、必要ならば、上記乙第1号証の1参照)

<5> 結局、相違点<4>に対する審決の認定判断に何ら誤りはなく、原告の主張は、失当である。

(3)  取消事由3(作用効果の予測困難性)について

本願発明の作用効果に関する認定は、審決に記載のとおりである。

原告が主張しているような、相違点<1>および相違点<4>に示される本願発明の構成による作用効果については、引用例1ないし5記載の発明、考案および周知技術に基づく作用効果を越えた特別の効果でもないし、これらの作用効果から予期し得ない効果でもない。

したがって、原告の主張は、失当である。

(4)  以上のとおり、審決のした本願発明の進歩性についての認定判断は、正当である。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、以下原告の主張について検討する。

1  成立に争いのない甲第2号証(本願公報)、第3号証(手続補正書)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成および作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(1)  本願発明は、給湯機の制御回路に関するもので、特に、リモコンに設けたディジタル表示器に、給湯機の運転状態を数字または記号で表示することを特徴とする。(本願公報1欄19行ないし22行)

(2)  従来の給湯機の制御回路において、その運転状態を表示する場合には、ランプまたはLEDによる表示が一般的で、しかもその内容は、運転スイッチの「入」「切」の状態、加熱手段の「運転」「停止」の状態といった、機器の正常な状態をモニターするだけのものが多かった。また、機器の異常状態やユーザへのメンテナンス(以下「メンテ」という。)情報を表示できるものにあっても、その内容は、表示器1個による「異常」表示ランプか、表示器2~3個による代表的なユーザに再セット操作を促すメンテ情報の表示を行う程度のものでしかなかった。

メンテ情報を複数個表示するものにあっても、その内容は、ユーザに注意を喚起し、ユーザに処理できるものに限られていた。したがって、機器内部の部品不良等による異常状態には、何の表示も行われず、機器が停止するか、あるいは不正規の動作を行うといった状態が発生する。こういった場合には、販売店、販売会社が修理を行うのであるが、機器のどこに故障があるのかを発見することは容易ではなく、それだけ時間と手間を要することになり、修理費も高くつくことになる。

まして、メンテ情報表示のないものや、1個の表示器によってのみ表示するものにおいては、さらにこういった問題が多く、なかには、ユーザで対処できる内容のものまで、販売店、販売会社に依頼してしまうことも少なくなかった。

そして、これらメンテ情報だけでなく、故障内容の表示も従来のように1現象について1個の表示器を対応させて行おうとすれば、表示器の数が多くなり、それだけスペースもとることになり、リモコンケーブルの芯数も増え、また、ユーザにとって見にくい表示となってしまう。さらに、故障内容を表示しようとする表示器には、それなりの説明も明記せねばならず、これは、その部品が当然故障するような印象をユーザに与えることとなり、商品の企画上あまり好ましいことではない。(本願公報2欄1行ないし3欄18行、手続補正書2頁4行ないし3頁8行)

(3)  本願発明は、このような従来の問題点に鑑み、給湯機のメンテ情報の表示を数字または記号等によって行うことで、表示を見易くするとともに、多くの種類を表示できるようにし、さらに、機器の内部不良も内容別に表示することによって、販売店、販売会社等の修理時における効率を上げ、ひいてはユーザの負担も軽くすることを目的とするものである。

さらに、対震装置の作動や、燃料切れといった、ユーザによって対処可能なメンテ情報と、販売店あるいはメーカの修理が必要な故障情報とをグループに区別し、ユーザに訴え易くするものである。(以上、原告主張の技術的課題(A))

また、表示器をリモコン部に設け、この間の信号伝送をシリアル信号伝送方式として、リモコンケーブルの芯数を減少することも目的とする。(原告主張の技術的課題(B))

本願発明は、このような目的のために、要旨記載の構成(手続補正書記載の特許請求の範囲)を採用した。(本願公報3欄20行ないし30行、手続補正書3頁9行ないし20行)

(4)  本願発明によれば、

<1> 表示に数字や記号を用いるため表示が見易くなり、また、多くの種類の表示が少ない表示器で行え、トータルコストも向上する。さらに、給湯機の動作状態のみならず、ユーザに対処を即すメンテ情報と、自己の部品の故障等の情報とを区分して表示するため、メンテ対応の説明をユーザに分かり易く訴えることができ、かつ、万が一の部品故障時は、その分類記号を知ることで、修理に必要なものが予測できるため、ユーザをはじめ、販売店や販売会社での修理、サービス時のやり易さが大きく向上する。

<2> さらに、リモコン部に表示器を設けているため、給湯機のような屋外設置の製品にはきわめて便利性が良い。また、シリアル信号伝送を用いているため、リモコンケーブルの芯線数に影響を与えずに、表示の種類を増やすことができる。(本願公報7欄18行ないし7行、手続補正書6頁5行ないし14行)

2  次に、原告主張の取消事由について検討する。

(1)  取消事由1(相違点<1>に対する判断の誤り)について

<1> 原告は、引用例1記載の表示器は給湯機が正常運転しているか否かを知らせる情報を示すのみであり、また、引用例2記載のディジタル表示器も室温を数字で知らせるという情報のみであって、本願発明のディジタル表示器のように多くの種類の情報を示すものではなく、両者を組合せても、本願発明の「遠隔操作部にディジタル表示器を設けた」構成を想到することは困難である旨主張する。

そこで検討するに、審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点について、「前者は、遠隔操作部にディジタル表示器を設けているのに対して、後者は、ランプを設けている点」を相違点<1>と認定し、また、燃焼器が正常燃焼中であること等の複数の情報を分類表示する等の点は相違点<4>として認定している。その上で、相違点<1>について、「遠隔操作部にディジタル表示器を設けることは、引用例2に示されており、引用例1に記載されたランプに代えてディジタル表示器を採用することは当業者が容易に想到し得たものと認められる」と判断したものである。そうすると、審決は、相違点<1>では、引用例1に記載された遠隔操作部に設けたランプを引用例2に記載された遠隔操作部に設けたディジタル表示器に代えることを限度に、その容易性の判断を行ったとみるのが相当である。

してみると、原告の主張は、審決が判断をしていない事項についての判断の誤りを主張するものであって、失当である。

<2> さらに、原告が主張する理由について検討してみても、引用例1記載の表示器は、待機ランプ、点火ランプ、警報ランプからなっており、かつ、成立に争いのない甲第4号証(昭和57年特許出願公開第74520号公報)によれば、引用例1には、名称を「給湯機のリモート制御装置」とする発明において、「なお上記の実施例では、3段階の電圧で3つの表示ランプを点灯させるように構成した場合を示したが、プリパージ動作などの表示のためにさらに多くの表示ランプを点灯させる必要がある場合には、表示ランプの数に対応した段階の電圧を印加するように構成すればよい。」(3頁右下欄6行ないし11行)と記載されていることが認められ、この記載からすると、ランプによる表示情報は、燃焼が正常に行われているか否かのみに限定されているものではないということができる。

また、引用例2記載の考案についても、成立に争いのない甲第5号証(昭和57年実用新案出願公開第125911号公報)によれば、引用例2には、名称を「セントラルヒーティングシステムの集中制御装置」とする考案において、複数の部屋の設定温度と現在温度を1個の表示器で各部屋毎にディジタル式に切換え表示する表示器が記載されていると認められ(第1図、第2図参照)、各部屋の設定温度と現在温度はいずれも室温という点では一致するとしても、表示される温度はそれぞれ異なる値をもった部屋毎に独立した情報であるから、それらを表示する表示器は複数の情報を表示する機能を備えたものであるということができる。

引用例1、引用例2記載の表示器がこのようなものであることを考慮すれば、引用例1記載の表示器に代えて、技術分野の共通性を有する引用例2記載の表示器を採用することは、当業者において格別の困難性を有することなく想到し得たものと認められ、審決が相違点<1>についてした、「遠隔操作部にディジタル表示器を設けることは、引用例2に示されており、引用例1に記載されたランプに代えてディジタル表示器を採用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる」との判断を誤りとすることはできない。

(2)  取消事由2(相違点<4>に対する判断の誤り)について

<1> 原告は、引用例1記載の発明は、「ユーザが遠隔操作部の表示から、給湯機が正常運転しているか否かを知ることができるに留まる」旨主張するが、引用例1記載の発明の表示情報がそのように限定されていると認められないことは、前示(1)<2>認定のとおりである。

<2> 次に、原告は、引用例5記載の発明は、「専門技術者が電気回路異常箇所を検出するために用いるテスターに関するもの」であり、「専門技術者でないユーザが自ら使用することを前提に、ユーザにとって分かり易い表示を行おうとするものではない」旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第8号証(昭和55年特許出願公開第49650号公報)によれば、引用例5には、名称を「異常回路表示装置」とする発明において、「箱体をなしたケース(1)の前面パネル(2)には異常発生回路の番号を示すLED型表示器(3)および電源の開閉と、表示器の数字をリセットするスイッチ(5)があり、さらに表示器の示す番号(数)と、シーケンス回路と対応するチェック用の銘板(4)があり、」(2頁左上欄6行ないし11行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、引用例5記載の発明は、異常発生回路の番号をLED型表示器で表示するとともに、この数字に対応する回路を示した銘板をパネル面に配置したのであるから、ユーザは表示された数字すなわちディジタル表示から回路に異常のあることを容易に理解することができると解される。

なお、同号証によれば、続いて「箱体の後部にはチェック回路に一時的に接続するための、接続具(CL)(クリップ等)やコード等が必要な数だけ外方に引出されている。」(2頁左上欄11行ないし14行)と記載されていることが認められ、引用例5記載の異常回路発生装置はチェック回路に一時的に接続するものであるけれども、その表示装置がチェック回路に一時的にのみ接続可能なものであるとする解すべき理由は認められず、その表示装置をチェック回路に接続した状態でみれば、何ら高度な技術知識を要することなく、かつ、リアルタイムで故障箇所(異常回路)を知ることができるものとなると認められる。

<3> 次に、原告は、引用例1、引用例5記載の発明および周知事項のいずれにも、本願発明のイ、ないしハ、の情報群のすべてを遠隔操作部のディジタル表示器に表示することについて記載または示唆されていない旨主張する。

たしかに、各引用例には、本願発明のイ、ないしハ、の情報群のすべてを遠隔操作部のディジタル表示器に表示することについては記載されていない。

しかしながら、引用例1には、燃焼器が正常に燃焼中であることを表示することが、引用例5には、電気回路における異常を検出し、異常回路を表示することが記載されていることは当事者間に争いがなく、引用例5記載の発明について、その際センサーの異常も結局は回路の異常として検出できることは明らかである。

また、地震検出器等が作動したとき、燃焼器を再セットする必要があることはむしろ当然のことであるといえるし、成立に争いのない乙第1号証の1(昭和53年実用新案願第24455号(昭和54年実用新案出願公開第127571号公報)の願書に添付した明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写し)によれば、名称を「デイジタル式時計を備えた電気機器」とする考案において、「対震装置7が動作するとデイジタル制御装置3から対震装置動作表示信号が表示器制御回路5に供給される。しかして、表示器制御回路5によつてデイジタル式時計表示器6のセグメント表示素子6c、6d、6g、6hが制御され、リセツトの要求すなわち「Sind」が表示される。」(6頁18行ないし7頁4行)と記載されていることが認められ、この記載からして、地震検出器の動作を表示することも従来周知のことと認められる。

また、引用例1記載のランプに代えてディジタル表示器を採用することは、前示(1)<3>認定のように当業者が容易に想到し得たものであり、さらに、ディジタル表示器において本願発明でいう分類表示を行うことは、引用例3記載の発明において、「1個の時刻表示器を利用して運転状態表示、異常内容表示を自動的に選択表示するようにした空調装置の状態表示装置に関し、異常内容表示は、過電流検出器、巻線温度異常検出器、高低圧スイッチ異常検出器、およびヒータ加熱検出器が動作したとき、それを数字および記号(51C、49C、63PH、49H)により表示すること」が示されていることは当事者間に争いがないし、引用例5記載の発明においても、前示<2>認定のとおり、示されている。

また、その分類表示されたものを情報毎に区分して、どのような異常状態にあるのか、ユーザの手による商品の再セットが必要であるものかどうかが容易に分かるようにすることも当業者が通常行っていることであると認められる。このことは、たとえば前掲乙第1号証の1の明細書に、「燃焼装置1の作動中に燃焼モータが停止したり、過熱防止回路が作動するとデイジタル制御装置3からサービスコール表示信号が表示器制御回路5に供給される。しかして表示器制御回路5によつてデイジタル式時計表示器6のセグメント表示素子6d、6g、6hが制御され、サービスコールすなわち「IJ0」が表示される。又、石油タンク2が油切れになつたときはデイジタル制御装置3から油切れ表示信号が表示器制御回路5に供給される。しかして表示器制御回路5によつてデイジタル式時計表示器6のセグメント表示素子6d、6g、6hが制御され、油切れすなわち「0IL」が表示される。さらに対震装置7が動作するとデイジタル制御装置3から対震装置動作表示信号が表示器制御回路5に供給される。しかして、表示器制御回路5によつてデイジタル式時計表示器6のセグメント表示素子6c、6d、6g、6hが制御され、リセツトの要求すなわち「Sind」が表示される。」(6頁5行ないし7頁4行)、「この考案によれば電気機器にデイジタル式時計表示器を備え、その表示器で電気機器の各種異常状態を区別して表示させるようにしているので、機器の各種異常状態を確実に表示させることができ、」(8頁8行ないし12行)と記載されているとおりである。

<4> 原告は、本願発明は、技術的課題(A)を解決するため、相違点<4>に係る構成を採用したものであるが、引用例1及び5記載の発明は、これと同様の技術的課題を有するものではないから、引用例1記載の発明に引用例5記載の発明を組み合わせることを発想することは困難である旨主張する。

たしかに、前掲甲第4号証によれば、引用例1には、本願発明の技術的課題(A)を解決することについての直接的な記載は存しないことが認められる。しかしながら、前掲甲第8号証によれば、引用例5記載の発明は、空気調和機において、電気回路に異常が発生して装置全体が停止しても、どの回路に異常が発生したのか知ることが非常に困難で多大な人員と日時を要するという不具合を解決し、異常を発生した回路を的確・迅速に検知可能とする装置を提供することを技術的課題とするものであると認められ、そのために、異常発生回路の番号をLED型表示器で表示するとともに、この数字に対応する回路を示した銘板をパネル面に配置した構成を採用したことは、前述のとおりであり、また、成立に争いのない甲第6号証(昭和54年特許出願公開第152335号公報)によれば、引用例3記載の発明は、空調装置の運転状態及び異常状態を各々別個の表示器により表示していた欠点を改良して運転状態表示及び異常状態表示を自動的に選択表示するようにした空調装置の状態表示装置を提供することを技術的課題として、前記<2>認定の構成を採用したものであると認められる。さらに、成立に争いのない乙第2号証の1(昭和53年実用新案登録出願161440号の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写し)によれば、同明細書には、使用者が調理器具の故障発生時、サービス機関に連絡をとって故障原因の調査及び故障修理を依頼した場合、多くの時間と費用が必要となることを解決し、故障原因を的確に把握し得、故障修理を迅速かつ安価に行うことができる装置を提供することを技術的課題とした、熱源部、調節部等の故障の自己診断機能を有する調理器具が記載されていることが認められ、成立に争いのない乙第3号証(昭和52年特許出願公開第66432号公報)によれば、同明細書には、複写機の故障時における修理点検の困難さを解決することを技術的課題とする、複写機の状態検出手段を備えた表示装置であって、ユーザはこの表示装置を見て機械の故障を知ると同時にメーカーのサービス部門に連絡することにより速やかに適切な措置がとられ、サービス時間が短縮されることが記載されていることが認められる。

以上の認定事実によれば、本出願当時、故障発生時にユーザにおいて故障の原因を知らせ、対応できない時はサービス機関に故障の修理を依頼する必要のある電気器具において、必要な故障情報を分かり易く表示し、販売店等の修理効率を向上させるようにすることは、当業者において周知の技術的課題であったというべきであり、引用例1にそのような技術的課題が記載されていなくとも、この周知の技術的課題を解決するため、当業者が引用例1記載の発明において、引用例3及び5記載の発明を適用してみようとすることに格別の困難は存しないというべきである。

<5> 以上によれば、審決が相違点<4>についてした、「燃焼器が正常に燃焼中であることを表示することは引用例1記載の発明でも行っており、地震検出器等が動作したとき、ユーザの手による再セットが必要であることは、燃焼器等において周知の事項であり、また、サーミスタ等のセンサーが装置の異常状態を検出したり、センサーや回路自身に故障が発生した際にこれを表示することは、引用例5記載の発明に明らかにされているから、それらの情報を、給湯機においてディジタル表示器に数字または記号によって分類表示することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる(ディジタル表示器に数字または記号によって分類表示すること自体は、引用例3および引用例5に明らかにされている。)。そして、その分類を情報毎に区分したものとして、どのような異常状態であるのか、またユーザの手による商品の再セットが必要であるものかどうかが、容易に分かるようにすることは当業者が通常行っていることであり、格別のものとは認められない」との判断に誤りがあるということはできない。

(3)  取消事由3(作用効果の予測困難性)について

本願明細書には、本願発明の奏する作用効果として、前記1(4)のとおり記載されているところ、原告は、本願発明は、相違点<1>及び<4>に係る構成を採用したことにより、技術的課題(A)を解決し、前記1(4)<1>記載の作用効果を奏し、相違点<3>に係る構成を採用したことにより、技術的課題(B)を解決し、前記1(4)<2>記載の作用効果を奏するものであり、このような作用効果は、本願発明特有の構成から生じるものであって、引用例1ないし5記載の発明及び周知技術から予測できないものである旨主張する。

しかしながら、当業者であれば、引用例1記載の発明において、引用例3及び5記載の発明を適用してみようとすることに格別の困難は存しないことは前述のとおりであり、その結果前記1(4)<1>記載の作用効果を奏することは予測可能な作用効果にすぎず、また、引用例1記載の発明において、引用例4記載の発明及び周知技術を適用して相違点<3>に係る構成を得ることが容易であることは、原告も認めて争わないところであり、その結果前記1(4)<2>記載の作用効果を奏することは、当業者であれば、当然に予測できる事項であるから、これらをもって、本願発明に特有の当業者に予測できない作用効果ということはできない。

したがって、本願発明の奏する作用効果は、「引用例1ないし5記載の発明、考案および周知技術より予測し得た程度のものであり、格別のものは認められない」とした審決の判断は、正当であると認められる。

3  そうすると、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

別紙図面 1

第1図は従来の石油給湯機の表示パネル部構成図、第2図は本発明の一実施例に掛る石油給湯機の縦断面図、第3図は同制御回路プロツク図、第4図は同リモコン外観図、第5図は同マイクロコンピユータの概略フローチヤート、第6図は同リモコンケープル線の伝送信号図である。

10……熱交換器、13……燃焼装置(加熱手段)、16……サーミスタ(センサー)、17……空タンク検出電極(センサー)、18……炎検出素子(センサー)、19……地震検出素子(センサー)、20……リモコン(遠隔操作部)、23……マイクロコンピユータ(制御手段)、24……(信号)検出回路、26……パーナ(加熱手段)制御手段、33……(デイジタル)表示器。

<省略>

別紙図面 2

第1図は従来のリモート制図板及の回路図、第2図はこの発明の一実施例によるリモート制図板及の回路図である。

1…ケーブル、2…図面電板回路、3…「」「」安全制卸回路、4…比較器、7…点火信号発生回路、8…「」「」信号発生回路、E…交流電源、SW…電源スイツチ、S1…スタートスイツチ、L1…「」「」ランプ、L2…点火ランプ、L3…電板ランプ。

<省略>

別紙図面 3

第1図は、従来のセントラルヒーテイングシステムの集中制御装置の一例を示すシステム構成図。第2図は本考案の一実施例を示すセントラルヒーテイングシステムの集中制御装置のシステム構成図。第3図は第2図の集中制御装置を構成するマイクロコンビユータの出力部の論理回路を示すもので、凍結防止運転表示灯が点灯している状態を示す。

<1>、<2>、<3>は放熱機、<4>は循環ポンプ、<5>はボイラー、<6>は配管、<7>、<8>、<9>は室温感温部、<10>、<11>、<12>は室温信号伝送ケーブル、<13>は集中制御装置本体、<14>、<15>、<16>は放熱機運転制御信号伝送ケーブル、<17>は循環水温感温部、<18>は循環水温信号伝送ケープル、<19>は循環ポンプ運転制御信号伝送ケーブル、<20>はボイラー運転制御信号伝送ケーブル、<21>、<22>、<23>は部屋選択キー、<24>は室温表示管、<25>は室温設定キー、<26>は運転切換キー、<27>、<28>、<29>、<30>、<31>は運転表示灯、<32>は凍結防止運転表示灯、<33>はインバーク、<34>は3-インプツトアンド回路、<35>は2-インプツトオア回路、<36>、<37>は2-インプツトアンド回路、<38>は放熱機運転リレー。

<省略>

<省略>

別紙図面 4

第1図は、表示の変化説明図

第2図は、時刻表示の説明図

第3図~第13図は、空調装置の運転状態表示の説明図

第14図は、異常表示の変化説明図

第15図~第18図は、異常表示の説明図

第19図は、プロック図

1~4…異常検出器 3…故障選択回路 14…表示選択回路 15…時刻表示器 16…時計 19…状態検出回路

<省略>

<省略>

別紙図面 5

第1図はレーケンス回路における異常により「」「」が停止することを「」「」するための「」「」面「」図、第2図は本発明による一実施例の外例を示ナ斜規図、第3図は実施例による電気回路図、第4図はインバータ部の電気回の路図かでめる。

(1)-----ケース

(2)-----図面バネル

(3)-----LED表示図

(4)-----チエフタ用銘板

(6)-----スイァナ

(NO.1~NO.3)---異常検出用b検点

(T)-----板子

(INV1~INV8)---インパータ部

(IC1~IC4)---フッチ用IC(8N7476部)

(IC5~IC11、IC16)---2入力NANDグート(8N7400部)。

(IC12~IC14、IC17)---4入力NANDグート(8N7440部)

(IC15)---7セグメント・ドフイバ(8N7447部)

LED---7セダメント表示図

(IC18)---8板子レギユレーダ

(Ror)----電洩口

(CL1~CL9)--被異常(クリッデ)

(R)---電洩口

(BT)---リレーコイル

(TF)---変圧口

<省略>

<省略>

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