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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)268号 判決 1998年3月11日

東京都新宿区市谷加賀町1丁目1番1号

原告

大日本印刷株式会社

代表者代表取締役

北島義俊

訴訟代理人弁理士

韮澤弘

阿部龍吉

蛭川昌信

白井博樹

内田亘彦

菅井英雄

青木健二

米澤明

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

川上義行

石井勝徳

後藤千恵子

小川宗一

主文

特許庁が、平成4年審判第4386号事件について、平成6年9月20日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨。

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年9月3日、名称を「ホログラムラベル」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、実用新案登録出願(実願昭60-134990号)をしたが、平成4年1月23日に拒絶査定を受けたので、同年3月18日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成4年審判第4386号事件として審理したうえ、平成6年9月20日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月2日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

ホログラム形成層、反射性金属薄膜層、および接着剤層が順次積層してあるホログラムラベルにおいて、前記接着剤層が、接着性を有する合成樹脂と、前記合成樹脂を脆質化させる無機質微粉末とからなる脆質接着剤層であることを特徴とするホログラムラベル。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案が、その出願前に公知の特開昭59-88780号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載された考案を「引用例考案1」という。)及び実願昭57-200685号のマイクロフイルム(実開昭59-102373号、以下「引用例2」といい、そこに記載された考案を「引用例考案2」という。)に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものであるので、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願考案の要旨の認定、引用例1及び2の記載事項の認定(審決書3頁3~6行を除く。)、本願考案と引用例考案1との一致点及び相違点の認定、引用例考案1及び2の技術目的の認定(審決書4頁9~20行)は、認めるが、その余は争う。

審決は、引用例考案2の技術内容の認定を誤った結果、相違点についての判断を誤り(取消事由1)、本願考案の有する格別の作用効果を看過したものである(取消事由2)から、違法として取り消されなければならない。

1  相違点についての判断誤り(取消事由1)

審決は、引用例考案2について、「紙質基板、押印又はサインが形成される多孔質層、透明プラスチックフィルムからなるシールが順次積層してなる帳票」(審決書3頁3~6行)と認定しているが、引用例考案2では、多孔質層と透明プラスチックフィルムからなるシールの間に接着剤層が介在しているから、審決の上記認定は誤りである。

すなわち、引用例2(甲第6号証)末尾第1図の考案は、紙質基板の押印欄又はサイン欄上面にインキに対して着肉吸収性の良好な多孔質層が塗布され、この無機顔料を含む多孔質層に押印又はサインされたインキが浸透してインキ層を形成し、透明プラスチックフィルムからなるシールがインキ層を覆うようにして貼着されてインキ層を保護するものであるから、多孔質層と透明プラスチックフィルムからなるシールとの間には、図示されていない接着剤層が介在しているものであり、多孔質層はそれ自身として2つの層(紙質基板とシール)間を接着させる作用を持たないのである。

そして、引用例考案2では、偽造又は改ざんを防止すべき情報(押印又はサイン)を担持する層、すなわち多孔質層が、剥離しようとする際に2層に分離され、一方の多孔質層が、シールに付着してその除去が困難なため、これを再使用すると元の押印又はサインが残っていて見えてしまうことにより再使用を防止するものである。

これに対し、本願考案では、接着性を有する合成樹脂と、前記合成樹脂を脆質化させる無機質微粉末とからなる脆質接着剤層は、ホログラム形成層と反射性金属薄膜層からなるホログラムと被貼着体との間に介在して、ホログラムを被貼着体の表面に接着させる作用を有するものであり、また、この脆質接着剤層は、その層間で剥離したり、ホログラム形成層等の被膜の破断を起こさせることにより、偽造又は改ざんを防止するものである。そして、この脆質接着剤層自体は、改ざんを防止すべき情報(ホログラムに記録された情報)を担持する層ではない。

そうすると、仮に、当業者が偽造又は改ざんを防止する目的で、引用例考案1のホログラムシールに引用例考案2の情報担持層であり接着性を有しない多孔質層を適用する場合には、引用例考案1のホログラムシールの情報担持層である熱可塑性材料層6、7又は反射性箔10に適用すべきであり、何ら直接的に偽造、改ざんを防止すべき情報を担持していない接着剤層14に適用する理由はない。

したがって、審決が、「偽造または改ざんを防止する目的で、甲第1号証に示唆されたホログラムシールに甲第3号証に記載の無機顔料を含む多孔質層を採択してみる程度のことは当業者ならば容易に想到しうるものというべきである。そして、無機顔料を含む多孔質層をホログラムラベルに採択するに際して、特にその接着剤層を対象とした点についても・・・この点は単なる設計事項といわざるをえない。」(審決書5頁1~10行)と判断したことも、誤りである。

2  作用効果の看過(取消事由2)

本願考案は、接着性を有する合成樹脂と、前記合成樹脂を脆質化させる無機質微粉末とからなる脆質接着剤層を、従来公知のホログラムラベルの接着剤層に用いたものであり、このことにより、ホログラムラベルをはがそうとすると脆質接着剤層の層間で剥離したり、あるいは脆質接着剤層の部分からホログラムラベル全体が破断してしまうので、ラベルをそのままはがすことを困難とし、また、はがしたものはラベルの一部であって脆質接着剤層の一部は失われているので、他の被貼着体に貼りつけることができないという作用効果(第1の作用効果)を奏する。さらに、脆質接着剤層の表面は無機質微粉末により凹凸状となっており、再度他の被貼着体に貼ったとしても、その表面の凹凸がホログラム形成層及び反射性金属薄膜層に歪みを生じさせ、ホログラムの再生像が不明瞭となってしまい、正当に貼られたホログラムであるか否かが容易に判別でき、偽造防止という作用効果(第2の作用効果)をも奏する。これらの効果は、引用例1及び2のいずれにも記載されておらず、その示唆もない。

したがって、審決が、「無機顔料を含む多孔質層をホログラムラベルに採択するに際して、特にその接着剤層を対象とした点についても、作用効果上格別の効果を生ずるとはいえず、この点は単なる設計事項といわざるをえない。」(審決書5頁6~10行)と判断したことは、誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

引用例考案2では、シールを剥離した際、多孔質層が層間剥離によって2層に分離されて元に戻らなくなり、改ざん防止に役立つという技術思想が開示されているから、こうした技術思想を、シールを剥離して偽造、改ざんを行うことを防止するという点で技術的に共通する引用例考案1のホログラムシールに転用してみる程度のことは、当業者ならば容易に想到し得るものである。

そして、その対象となる層は、引用例考案1の熱可塑性材料層及び反射性箔だけに限られるものではなく、接着剤層も当然その対象の中に含まれるから、当業者ならば、実施に際して、接着剤層に対しても多孔質層の採択を試み得るとみるのがむしろ自然である。

原告は、引用例考案2では、多孔質層と透明プラスチックフィルムからなるシールの間に接着剤層が介在しているから、多孔質層はそれ自身として2つの層(紙質基板とシール)間を接着させる作用を持たず、このような多孔質層を接着剤層に適用する理由はない旨主張する。

引用例考案2のシールに接着剤層が設けられていることは認めるが、この接着剤層は、少なくとも、当該シールを紙質基板の多孔質層の周辺領域(接着性がない。)に貼着するために必要なものである。したがって、多孔質層とシールの間に接着剤層が介在しているという理由によって、直ちに多孔質層が紙質基板とシールとの層間を接着させる作用を有しないということはできない。

そして、剥離層が、本来、粘着性の接着剤に対して剥離を容易にするために用いられるものであることを考慮すると、引用例2(甲第6号証)の第3図の実施例で用いられている多孔質層では、その下層に剥離層が設けられているのであるから、多孔質層自体が粘着性に富んだ接着性材料で構成されていることは明らかである。また、印刷インキと接着剤とは、使用する樹脂成分において差異はなく、いずれも付着性に富んだ樹脂成分を用いるものであるところ、引用例考案2の多孔質層を形成する印刷インキのビヒクルは、アマニ油のような油状のものではなく、少なくとも接着剤機能を有する接着性の樹脂であるとみるのが相応であり、具体的には、加熱によって粘着性が発現するホットメルト型接着剤や溶剤を湿潤することによって粘着性が再生する再湿型接着剤を包含するものといえる。なお、特開昭51-78398号公報(乙第3号証)には、粘着層を設けることなくリーフ基材自体が接着性を有する接着剤層である場合も示唆されている。

したがって、引用例考案2の多孔質層は、シール及び紙質基板に対して接着作用を有するものであり、このような多孔質層を引用例考案1の接着剤層に適用することは、きわめて自然なことである。

また、原告は、当業者が引用例考案1に引用例考案2の情報担持層である多孔質層を適用する場合には、引用例考案1のホログラムシールの情報担持層である熱可塑性材料層又は反射性箔に適用すべきであり、何ら直接的に偽造、改ざんを防止すべき情報を担持していない接着剤層に適用する理由はないと主張するが、多孔質層が偽造、改ざんを防止すべき情報を直接担持する層であろうとなかろうと、いずれの場合でも、多孔質層が層間剥離により2層に分離されてしまえば、再貼着しようとしても元に戻らなくなり、その結果、偽造、改ざん防止に役立つのであるから、当該多孔質層を引用例考案1のホログラムシールに適用する際には、必ずしも情報担持層を対象とする必然性はない。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書5頁1~10行)に、誤りはない。

2  取消事由2について

以上のとおり、引用例考案1のホログラムシールに、引用例考案2の多孔質層に関する技術思想を転用し、特にホログラムシールの接着剤層に適用することによって、本願考案の、「接着性を有する合成樹脂と、前記合成樹脂を脆質化させる無機質微粉末とからなる脆質接着剤層」の構成を得ることができるものといえる。

そして、原告が主張する第1の作用効果は、引用例考案2の多孔質層がもともと奏する効果であって、ホログラムラベルにおける特有の効果とみることはできず、また、第2の作用効果についても、多孔質層がもともと奏する効果に基づいて奏される効果の程度であって、ホログラムラベルにおける特有の効果とみることはできないから、結局、本願考案の脆質接着剤層の効果は、格別の効果とはいえない。

したがって、この点に関する審決の判断(審決書5頁6~10行)に、誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点の判断誤り)について

(1)  審決の理由中、本願考案及び引用例考案1とが、「前者においては、接着剤層が接着性を有する合成樹脂と前記合成樹脂を脆質化させる無機微粉末とからなる脆質接着剤層であるのに対して、後者においては、接着剤層がこうした脆質層である旨の記載が特にない点で異なり、その余の点で一致している」(審決書4頁2~7行)ことは、当事者間に争いがない。

また、「押印又はサインの偽造、改ざんをおこなう目的で貼着してあるシールを剥離した場合、基板の表面剥離強度と較べて無機顔料を含む多孔質層の強度が十分に弱いため多孔質層が2層に分離し、シールの再使用が困難となり、結局、押印又はサインの改ざんを不可能とする技術思想が甲第3号証に記載されているように本出願前知られており、しかも甲第1号証も甲第3号証も共に貼着してあるシールを剥離して偽造、改ざんを行うことを防止する点で両者は技術的に共通の分野に属するものということができる。」(審決書4頁9~20行)ことも、当事者間に争いがない。

そうすると、貼着してあるラベル、シールを剥離して偽造、改ざんを行うことを防止するという、本願出願前から公知の一般的な技術課題の解決のために、引用例考案2が開示する解決手段、すなわち無機顔料を含み2層に分離する多孔質層を、引用例考案1のホログラムシールに適用してみる程度のことは、当業者にとってきわめて容易に想到し得るところといわなければならない。

したがって、審決が、「偽造または改ざんを防止する目的で、甲第1号証に示唆されたホログラムシールに甲第3号証に記載の無機顔料を含む多孔質層を採択してみる程度のことは当業者ならば容易に想到しうるものというべきである。」(審決書5頁1~5行)と判断したことに、誤りはない。

(2)  この引用例考案2が開示する多孔質層に関して、引用例2(甲第6号証)には、「この考案は押印欄又はサイン欄を有する帳票において、該押印欄又はサイン欄に、インキに対して着肉吸収性の良好な多孔質層を直接又は剥離層を介して積層したことを特徴とする」(同号証明細書3頁12~16行)、「この多孔質層2としては炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、アルミナ白、けい酸カルシウム等の吸油・吸水性体質顔料を含む顔料箔又はインキが用いられ」(同4頁5~8行)、「押印欄又はサイン欄をシールしたのちに、他人が押印又はサインの偽造、改ざんをおこなうためにシール4を剥離した場合、紙質基板1の表面剥離強度と較べて多孔質層2の強度が十分に弱いため多孔質層2が2層に分離し、一方がシール4と付着し、他方が紙質基板1に残った状態となり、これと同時にインキ層3も同様に分離する。したがって、シール4の再使用が困難となり、又紙質基板1上に残ったインキ層3も印字が乱れるだけでなく、多孔質層2を残しながらインキを削除することは不可能となり、押印又はサインの改ざんが困難となる。」(同5頁1~13行)と記載され、引用例2末尾第1図には、上記記載に相当する実施例が示されている。

これらの記載等によれば、引用例考案2においては、貼着してあるラベル、シールを剥離して偽造、改ざんを行うことの防止という技術課題の解決のために、押印欄又はサイン欄に、無機顔料を含みインキに対して着肉吸収性の良好な多孔質層を層として設け、これを直接又は剥離層を介して積層したものであり、押印欄又はサイン欄をシールした後に、他人が押印又はサインの偽造、改ざんを行うためにシールを剥離した場合には、当該多孔質層自体が2層に分離し、一方がシールと付着し、他方が紙質基板に残った状態となることにより、押印又はサインの改ざんを防止するものと認められる。そうすると、この多孔質層は、紙質基板に対して塗布されて付着したものではあるが、その材質・効用からみて、シールと紙質基板という2つの層間を接着させる作用を有するものではないと認めるのが相当である。

ところで、引用例1(甲第5号証)の第8図及び「書類1上に保持されたホログラム積層体6、7、10は2,000オングストロームほどの薄さにもなりうる。この積層体は、ホログラフイ・シールを書類1からどこかに移そうとした場合、材料を一緒に保持できないほどもろいものであることが望ましい。」(同号証5頁右上欄14~19行)との記載によれば、引用例考案1は、ホログラムが形成されている熱可塑性材料層、反射箔及びホットメルト接着剤が順次積層してなるホログラムシールであると認められる。

このような積層体である引用例考案1のホログラムシールに対し、偽造、改ざんの防止の観点から、引用例考案2に開示された多孔質層を適用しようとする場合、当業者としては多孔質層をそのまま一つの「層」として付加するのが自然な考えであり、その具体的位置としては、ホログラムが形成されている熱可塑性材料層と反射箔の間か、反射箔とホットメルト接着剤層の間の2つの場合が想定され、いずれの場合も、他人が押印又はサインの偽造、改ざんを行うためにシールを剥離すれば、当該多孔質層が2層に分離することにより、本願考案と同様にラベルの再使用を困難とするものである。

そして、引用例2には、引用例考案1のホットメルト接着剤層のような接着剤層に多孔質層を適用し、この接着剤層自体を脆質化させる旨の記載及び示唆は認められないから、引用例2に接した当業者が、本願考案の「接着剤層が、接着性を有する合成樹脂と、前記合成樹脂を脆質化させる無機質微粉末とからなる脆質接着層」を想到することは、困難といわなければならない。

被告は、引用例考案2において、多孔質層とシールの間に接着剤層が介在しているという理由によって、直ちに多孔質層が紙質基板とシールとの層間を接着させる作用を有しないということはできないし、剥離層が、本来、粘着性の接着剤に対して剥離を容易にするために用いられるものであることを考慮すると、引用例考案2の多孔質層は、粘着性に富んだ接着性材料で構成されていることが明らかであるから、このような接着作用を有する多孔質層を引用例考案1の接着剤層に適用することは、きわめて自然であると主張する。

しかし、前示のとおり、引用例考案2の多孔質層は、紙質基板上に塗布されて付着されるものであって、その材質・効用からみて、シールと紙質基板という2つの層間を接着させる作用を有するものではなく、しかも、引用例考案2において、透明プラスチックフィルムからなるシールに接着剤層が設けられていることは、被告も認めるところであり、多孔質層中のインキ層はこの接着剤層を有するシールによって覆われて保護されているから、シールとの接着のために多孔質層自体が粘着性に富んだ接着材料から構成されるべき技術的必要性は認められない。また、引用例考案2において、剥離層がある場合は多孔質層全体が紙質基板に付着せずシールとともに剥離し、剥離層がない場合は多孔質層が前記のとおり2層に分離するものであるが、このような状況はいずれも、シールに接着剤層が設けられ多孔質層に紙質基板への付着性があれば当然生ずるものと認められるから、多孔質層の下層に剥離層が存在することが、多孔質層自体が粘着性に富んだ接着材料から構成されることの技術的根拠となるものでないことは明らかである。したがって、被告の上記主張は採用できない。

被告が、粘着層を設けることなくリーフ基材自体が接着性を有する接着剤層である場合を示唆しているとして引用する特開昭51-78398号公報(乙第3号証)には、「該リーフ基材が台紙上に密着層合される事が必要であるが、前述した系に於いて、該リーフ基材自体が接着性を有するのであれば問題は無いが、接着性を持たない場合は更にこの為の手段が必要となる。従って、該リーフ基材に接着性付与のために粘着剤を設けるものである。」(同号証3頁右下欄13行~4頁左上欄2行)との記載があるが、この記載及び同公報第1~3図にれば、当該発明の実施例においては、通常、リーフ基材の下層には粘着剤層が設けられており、リーフ基材自体が接着性を有するのは粘着剤層が存在しない例外的な場合であると認められるから、この記載のみによって、当業者が、引用例考案1の接着剤層自体に対して多孔質層の採択を試み得ると解することは困難である。

また、被告は、引用例考案2の多孔質層を形成する印刷インキのビヒクルは、アマニ油のような油状のものではなく、少なくとも接着剤機能を有する接着性の樹脂であるとみるのが相応であり、具体的には、加熱によって粘着性が発現するホットメルト型接着剤や溶剤を湿潤することによって粘着性が再生する再湿型接着剤を包含すると主張する。

しかし、本件全証拠によるも、引用例考案2の多孔質層を形成するような一般の印刷インキが、透明プラスチックフィルムからなるシールをも接着するような粘着性に富んだものであるとは認められず、また、技術常識上、印刷後いつまでも粘着性の状態が継続すれば、印刷された部分が他の紙片等に付着することとなって、使用上不便であることは明らかであるから、通常の印刷インキは、少なくとも印刷後には、層間接着性を有しないと解するのが相当である。しかも、引用例2において、その多孔質層が、加熱によって粘着性が発現するホットメルト型接着剤や溶剤を湿潤することによって粘着性が再生する再湿型接着剤を包含するものであることを示唆する記載は全く認められないから、被告の上記主張は、証拠に基づかない独断的な見解といわなければならない。

以上のとおり、引用例考案2には、2層に分離する多孔質層は開示されているものの、積層体において接着剤層自体を脆質化させる旨の記載又は示唆は認められず、このことが、引用例考案1及び2に基づいて本願考案がきわめて容易に考案できたとする審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。

2  よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成4年審判第4386号

審決

東京都新宿区市谷加賀町1丁目1番1号

請求人 大日本印刷株式会社

東京都新宿区市谷加賀町1丁目1番1号 大日本印刷株式会社 知的財産権本部内

代理人弁理士 小西淳美

昭和60年実用新案登録願第134990号「ホログラムラベル」拒絶査定に対する審判事件(平成5年8月13日出願公告、実公平5-31671)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

(手続の経緯、本願考案の要旨)

本願は、昭和60年9月3日に出願されたものであって、その考案の要旨は、当審において出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その登録請求の範囲に記載されたとおりの「ボログラム形成層、反射性金属薄膜層、および接着剤層が順次積層してあるホログラムラベルにおいて、前記接着剤層が、接着性を有する合成樹脂と、前記合成樹脂を脆質化させる無機質微粉末とからなる脆質接着剤層であることを特徴とするホログラムラベル。」にあると認められる。

(引用例)

これに対して、当審における登録異議申立人、凸版印刷株式会社が甲第1号証として提出した特開昭59-88780号公報(昭和59年5月22日出願公開)には、「ホログラムが形成されている熱可塑性材料層、反射箔、およびホットメルト接着剤が順次積層してなるホログラムシール」が示唆されており、また、同じく甲第3号証として提出した実願昭57-200685号(実開昭59-102373号公報)のマイクロフィルム(昭和59年7月10日出願公開)には、「紙質基板、押印又はサインが形成される多孔質層、透明プラスチックフィルムからなるシールが順次積層してなる帳票」、「多孔質層としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、アルミナ白、けい酸カルシウム等の吸油・吸水性体質顔料を含む顔料箔又はインキが用いられ」、更に、「他人が押印又はサインの偽造、改ざんをおこなうためにシールを剥離した場合、紙質基板の表面剥離強度と較べて多孔質層の強度が十分に弱いため多孔質層が2層に分離し、一方がシールと付着し、他方が紙質基板に残った状態となり、…したがって、シールの再使用が困難となり…押印又はサインの改ざんが困難になる」ことが記載されている。

(対比)

そこで、本願考案と甲第1号証に記載の技術内容とを比較すると、甲第1号証に記載された「シール」は本願考案の「ラベル」と実質的に同一であるから、両者は、ホログラムラベルにおいて、前者においては、接着剤層が接着性を有する合成樹脂と前記合成樹脂を脆質化させる無機微粉末とからなる脆質接着剤層であるのに対して、後者においては、接着剤層がこうした脆質層である旨の記載が特にない点で異なり、その余の点で一致している。

(当審の判断)

よって、上記相違点について検討すると、押印又はサインの偽造、改ざんをおこなう目的で貼着してあるシールを剥離した場合、基板の表面剥離強度と較べて無機顔料を含む多孔質層の強度が十分に弱いため多孔質層が2層に分離し、シールの再使用が困難となり、結局、押印又はサインの改ざんを不可能とする技術思想が甲第3号証に記載されているように本出願前知られており、しかも甲第1号証も甲第3号証も共に貼着してあるシールを剥離して偽造、改ざんを行うことを防止する点で両者は技術的に共通の分野に属するものということができる。

してみると、偽造または改ざんを防止する目的で、甲第1号証に示唆されたホログラムシールに甲第3号証に記載の無機顔料を含む多孔質層を採択してみる程度のことは当業者ならば容易に想到しうるものというべきである。

そして、無機顔料を含む多孔質層をホログラムラベルに採択するに際して、特にその接着剤層を対象とした点についても、作用効果上格別の効果を生ずるとはいえず、この点は単なる設計事項といわざるをえない。

(むすび)

以上のとおりであるから、結局、本願考案は、甲第1号証及び甲第3号証に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年9月20日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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