東京高等裁判所 平成6年(行コ)11号 判決 1994年6月15日
東京都目黒区上目黒三丁目三七番一九-二〇一号
控訴人
坂口豊幸
右訴訟代理人弁護士
多賀健次郎
同
中馬義直
同
鳥飼重和
同
舟木亮一
東京都目黒区東山三丁目二四番一三号
被控訴人
目黒税務署長 中村直記
右指定代理人
比佐和枝
同
佐藤謙一
同
石津佶延
同
内野茂
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、平成二年七月三一日をもって控訴人に対してした、控訴人の平成元年分所得税の分離長期譲渡所得の金額を金五四七一万九〇〇〇円とする再更正のうち金一二三五万九七七八円を越える部分、納付すべき税額を金一一五一万三三〇〇円とする再更正のうち金二三〇万五三〇〇円を越える部分及び過少申告加算税金一二二万五五〇〇円の賦課決定を取消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
控訴棄却
第二当事者の主張
原判決「事実及び理由」(「事実」の誤記と認める。)第二記載のとおりであるからこれを引用する。
第三証拠
原審証拠目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきものと考えるが、その理由は原判決二四頁六行目冒頭から八行目末尾までを以下のとおり訂正するほかは、原判決理由記載のとおりであるからこれを引用する。
「また、夫名義の資産形成に対する妻の貢献が顕在化するまでの間、妻が夫名義の財産に対しなんらかの潜在的な持分を有するとしても、それは未だ持分割合も定まっていない抽象的な権利というべきものであり(右資産形成の態様には種々様々なものがありうるし、夫婦の財産は通常複数のものから成るものであるから、それらのすべてについて一律に妻が二分の一の共有持分を有するとみることはできない。)、現実の財産分与手続がされて初めて具体的な権利として確定するものである。したがって、財産分与が単に右潜在的持分を顕在化させ、それを正式に帰属させるだけの手続とはいえないのであって、財産分与によって初めて夫名義の財産に対する妻の所有権又は共有持分が発生するといわざるを得ないから、そこに資産の譲渡と目される実質があることは明らかである。
なお、控訴人は、本件不動産について志満子が二分の一の共有持分を有するとの前提で本件調停に応じたものであるから、本件不動産の全部が財産分与の対象となるとすれば、本件調停は錯誤により無効であると主張する。
しかし、前記認定のように、志満子が本件土地の借地権や旧建物の取得について経済的に相当の貢献をしたとか、同女がこれら財産を所有する意思を有していたとかの控訴人の主張事実はこれを認めがたいし、原審証人坂口志満子の証言によれば、控訴人は、本件調停期日において、本件不動産についての志満子の共有持分を認めないばかりか、本件不動産はすべて自分の力で取得したものであるなどと発言していたことが認められるのであるから、控訴人がその主張するように、本件不動産について志満子が二分の一の共有持分を有するとの前提で本件調停に応じたとは認めがたく、右錯誤の主張は理由がない。」
二 よって、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について同法九五条及び八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高橋欣一 裁判官 矢崎秀一 裁判官 及川憲夫)