東京高等裁判所 平成6年(行コ)202号 判決 1997年4月23日
埼玉県所沢市緑町一丁目二〇番一-九〇六号
控訴人
今泉隆平
右訴訟代理人弁護士
岡田和樹
同
高橋融
同
小部正治
東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
被控訴人
国
右代表者法務大臣
松浦功
埼玉県所沢市並木一丁目七番
被控訴人
所沢税務署長 豊森保
右両名訴訟代理人弁護士
岩渕正紀
右両名指定代理人
小尾仁
同
田部井敏雄
同
田中昇
同
山田文恵
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
(主位的請求)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人国は、控訴人に対し、五八七九万八八〇〇円及びこれに対する昭和六三年一一月三日から還付のための支払い決定の日まで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。
3 被控訴人所沢税務署長が、控訴人に対し、昭和六三年一二月一三日付けでした昭和六二年度の所得税についての過少申告加算税五二三万円及び重加算税七〇二八万七〇〇〇円の各賦課決定は無効であることを確認する。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
(予備的請求)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人所沢税務署長が、控訴人に対し、昭和六三年一二月一三日付けでした昭和六二年度の所得税についての過少申告加算税五二三万円及び重加算税七〇二八万七〇〇〇円の各賦課決定を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
主文同旨
第二事案の概要
事案の概要は、次のとおり賦課、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二枚目裏八行目冒頭の「告は無効であり」を、「告は明白かつ重大な錯誤によるもので無効であり」と改める。
2 原判決二枚目裏一一行目の「本件賦課決定の取消し」を、「本件賦課決定の違法を理由にその取消し」と改める。
3 原判決四枚目裏一一行目の「本件賦課決定」を、「本件過少申告加算税及び本件重加算税の本件賦課決定」と改める。
4 原判決七枚目表一行目の「できる」を、「できた」と改める。
5 原判決七枚目表四行目の冒頭に、「甲、乙、丙土地につき、」を加える。
6 原判決七枚目表五行目の「本件修正申告は」の次に、「過少申告加算税を課さない」を加える。
7 原判決七枚目表九行目の「仮装されたものであり、」の次に、「重加算税を課すべき」を加える。
8 原判決九枚目裏一〇行目の「基礎となる」を、「基礎とした」と改める。
9 原判決一一枚目表四行目の「反してなされた」の次に、「、明白かつ重大な錯誤による」を加える。
10 原判決一一枚目表五行目の「本件賦課決定は違法で」の次に、「取り消すべきもので」を加える。
11 原判決一一枚目表七行目の「本件の争点は」を、「本件の事実上の争点は」と改める。
12 原判決一一枚目表八行目の「仮装か否か」の次に、「ということであり(控訴人は、この点につき、塩沢町への現金と美術品の寄附が事実か否かが真の争点である旨主張する。この点については後に判断を示す。)」を加える。
13 原判決一一枚目表八行目の「前提として、」の次に、「法律上の争点は、」を加える。
14 原判決一一枚目表八行目の「本件修正申告が」の次に、「明白かつ重大な錯誤によるものとして」を加える。
15 原判決一一枚目表九行目冒頭の「否か、」の次に、「仮に本件修正申告が有効であるとして、」を加える。
16 原判決一三枚目表一行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「 右のとおり本件土地は一括譲渡されていない。
仮に、昭和六一年六月中に控訴人と富士建設の間に本件土地の売買契約が成立したとしても、それは所得税法上の譲渡に当たらない。
また、仮に、右同月に控訴人と富士建設の間に本件土地の一括売買契約が成立したとしても、その後の同年九月一〇日付けの甲土地の売買契約と乙・丙土地についての協定によって、右契約は合意解約された。
また、控訴人とみのり管工との丙土地の売買は、控訴人から塩沢町へ丙土地が寄附された昭和六二年三月九日までに合意解除された。」
17 原判決一五枚目表九行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「 控訴人の丙土地の寄附は仮装ではなく、かつ、控訴人に寄附を仮装する故意はなかった。
塩沢町の議会の議決は、丙土地の負担付寄附を受けることの承認であり、公定力のある行政行為であった。
本件での真の争点は、修正申告にいう、控訴人から塩沢町に対する「現金五億八四八万円及び南洋美術品(七〇〇〇万円相当)の寄附が事実か否か」である。
控訴人に塩沢町に対する現金及び美術品の寄付の意志がなかったことは明らかで、塩沢町にも現金及び美術品の寄付を受ける意思などなかったことは疑う余地がない。」
18 原判決一五枚目表一〇行目の「本件修正申告が」の次に、「明白かつ重大な錯誤によるものとして」を加える。
19 原判決一八枚目裏一行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「5(一) 本件過少申告加算税には、控訴人が、甲土地の譲渡所得を昭和六一年の所得として申告・納税し、昭和六二年の所得として申告しなかった分が含まれている。
しかしながら、甲土地を昭和六一年に譲渡した控訴人が、これを昭和六一年の譲渡所得として申告したのは当然で、しなければ「無申告」として問題にされたことは疑う余地がない。
したがって、控訴人が甲土地の譲渡所得を昭和六二年の所得として申告しなかったことも当然であって、そのことに「正当な理由」があることは明らかである。
(二) 通則法六八条一項の「当該基礎となるべき税額」の算定に違法がある。
本件重加算税においては、「現金五億八八四万円と南洋美術品の寄附」が「隠ぺいし又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるもの」に該当するされている。しかしながら、被控訴人の主張によれば、「現金五億八八四万円と南洋美術品の寄附」が丙土地の寄附の仮装行為の一部であることは明らかであり、「隠ぺいし又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるもの」には該当しない。
(三) 本件では、昭和六一年の所得税として納付済みの甲土地の譲渡所得についても、重加算税が課される結果となっている。
しかし、右納付済みの部分について申告しないことに「正当な理由」があることは、右の述べたとおりであり、この部分に重加算税を課すほどの違法性はない。
仮に、控訴人が、昭和六二年の所得税の申告に際して、丙土地は寄付したとして申告せず、甲・乙土地の譲渡所得のみを申告した場合、その納付すべき税額は三億九一四八万五〇〇〇円である。
その場合、修正申告によって納付すべき額(四億四六八六万八〇〇円)との差額は、五五三七万五八〇〇円となる。これが申告不足額になる。仮にこの全額が重加算税の対象となったとしても、その額は一九三八万一五〇〇円にすぎない。控訴人は、甲土地の所得を一年早く申告し、納税したために、結果的に、五〇〇〇万円も多い重加算税を課せられたのである。
この賦課決定は、権限の濫用・逸脱として違法である。」
第四争点に対する判断
当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一八枚目裏七行目から三二枚目表九行目までを削除する。
2 原判決一八枚目裏六行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「(一) 控訴人は、昭和六一年六月頃、富士建設に対し、面積が二〇〇〇平方メートル以上の本件土地を三・三平方メートル当たり一五〇万円で売却する約束をした。
本件土地を三・三メートル当たり一五〇万円で売却することは、控訴人の強い希望であった。
しかし、控訴人の希望する右売却価格では国土法による勧告を受けることが予想されたため、控訴人は、富士建設との間で、同月二五日付けの「土地売買に関する準備書面」と題する書面(乙五号証、以下、「本件準備書面」という。)を作成した。
本件準備書面では、<1> 控訴人は富士建設に本件土地を代金二四億八六〇四万円で譲渡すること、<2> 控訴人は、富士建設があらかじめ本件土地を三区画に分割した上で譲渡手続きをすることを認めること、<3> 本件土地売買の決済を昭和六一年一一月中に完了すること、<4> 同日、富士建設が、物件購入準備金として五〇〇〇万円を控訴人名義の預金口座に預託すること等が約された。
同日、控訴人は、富士建設から本件土地の売買準備金として五〇〇〇万円の預託を受けた。
右のとおり、本件準備書面に本件土地を三分割することが記載されたのは、国土法による勧告がなされたとき、その国土法による規制を回避するためであった。
控訴人と富士建設は、本件土地の譲渡につき国土法に基づく届出を行ったが、売買価格を三・三平方メートル当たり一三〇万円以下とするように勧告を受けたため、右届出を取り下げた。
(二) 本件土地は、昭和六一年八月一二日、土地の面積が二〇〇〇平方メートル未満となるように、甲土地、乙土地及び丙土地に分筆された。その形状・位置関係は、おおむね原判決別紙図面のとおりである。
右分筆は、これによって乙・丙土地が直接公道に接しなくなることからも明らかなように、本件土地を三分割してそれぞれ独立の土地として有効利用することを目的としたものではなく(公図上は、公道から乙・丙土地への道路敷部分の土地も分筆されたが、実際に道路としての築造は行われなかった。)、本件準備書面の合意内容に添って、控訴人が富士建設に対し、本件土地の全部を、国土法による規制を回避した上、譲渡するための便法としてなされたものであった。
富士建設は、右分筆が国土法による規制を回避するためのものではないことを示すためには、右三区画を年次を変えて取り引きする、あるいは、その購入者の一部の名義を富士建設以外の者に変えることなども考えていた。
(三) 控訴人は、昭和六一年九月一〇日、富士建設に対し、本件土地のうち甲土地を代金八億二八六九万円(本件準備書面で約定の三・三平方メートル当たり一五〇万円)」で売却した。
同日、富士建設から控訴人に対し、前記預託された五〇〇〇万円の準備金を含む一億六五七三万円が手付金として支払われ、残金六億六二九五万二〇〇〇円は同月三〇日に支払われた。
同月二〇日、甲土地につき、農地転用の届出がされ、同月三〇日、富士建設に所有権移転登記がされた。同日、富士建設は甲土地に債権額を六億五〇〇〇万円とする抵当権を設定したが、昭和六二年一月二〇日、甲土地を株式会社武田工務店に転売し、同日、右抵当権設定登記を抹消した。
(甲四、五号証、乙六、九、一〇号証)
(四) 甲土地につき売買決済が行われた昭和六一年九月三〇日、控訴人と富士建設は、乙・丙土地につき、別途、「土地に関する協定書」(乙六〇号証の二、以下、「本件協定書」という。)を取り交わした。
本件協定書では、<1> 控訴人は、乙・丙土地を担保として、銀行から一六億五七三五万円を借り入れ、富士建設はその債務につき連帯保証すること、<2> 控訴人は、富士建設又は富士建設の指定した者に、丙土地を、昭和六二年六月末日までに代金八億二八八四万円で、乙土地を、同年一二月末日までに代金八億二八五一万円で、それぞれ売り渡すこと、<3> 乙・丙土地の売買代金の決済は、控訴人の<1>による銀行への債務を買主が代位弁済する方法で行うことなどが合意された。
(五) 控訴人は、昭和六一年一〇月三一日、インターナショナル・ファクタリング株式会社から八億二八八四万円を借り入れ、丙土地に同額の債権額の抵当権を設定した(甲土地と共同担保)。
控訴人は、同年一一月二九日、株式会社三菱銀行から八億三〇〇〇万円を借り入れ、乙土地に同額を極度額とする根抵当権を設定した。控訴人は、同日、富士建設に対し、右借入金八億三〇〇〇万円の中から、本件協定書による乙土地の代金八億二八五一万円との差額に相当する一四九万円を支払った。
(甲一、一三号証、乙一一ないし一三号証、四一号証の一、二、四二号証の一、二、四三ないし四五号証)。
(六) 右(四)、(五)の操作により、控訴人は、富士建設と昭和六一年六月頃の本件準備書面で合意した、同年一一月中に本件土地のすべての決済を完了することの実質・経済的な目的を遂げた。
(七)(1) 富士建設の希望で、丙土地の売買は年次を変えて昭和六二年になって行うこととなった。
控訴人は、富士建設(契約書上の名義はみのり管工株式会社(以下、「みのり管工」という。))に対し、昭和六二年一月八日、丙土地を代金八億二八八四万円で売り渡した(乙七号証)。みのり管工は水道関係の業務をしている会社で、その代表者は、富士建設の代表者の弟であった。富士建設は、丙土地が工・乙土地に挟まれた真中の土地であるため、甲土地に引き続き丙土地も自己名義で取得すれば、本件土地の三分割が国土法の規制を免れる意図のものであることが明らかとなると考え、丙土地の買主として、みのり管工の名義借りをしたもので、実質的な買主は富士建設であった。
富士建設は、丙土地の転売先を捜し(乙二三号証)、転売先である武田住宅総合サービス株式会社との間で、同月二〇日、売主をみのり管工とし、買主を武田住宅総合サービス、代金を一〇億七七〇〇万円とする、丙土地の売買契約を締結した(乙二四号証)。
同日、武田住宅総合サービスから、富士建設に対し、手付金として二億一〇〇〇万円が支払われた。富士建設は右金員のうち二億円を控訴人のインターナショナル・ファクタリングに対する前記債務の弁済に当てた(乙一四、一六号証)。
(2) ところが、同年二月頃、突然、控訴人から富士建設に対し、丙土地を塩沢町に寄附したい旨の申し出があった。富士建設は困惑したが、塩沢町が寄附を受けた土地を富士建設に売却してくれるのであれば差し支えないと考え、その旨回答した。
(3) 同年二月二一日、控訴人から塩沢町に対し、丙土地の寄附採納申請がなされた(甲一一号証)。
(4) 同年二月二六日、控訴人と塩沢町(町長小野澤一吉)との間で、塩沢町は控訴人から寄附を受ける丙土地の売却代金で、控訴人所有の南洋美術品等を購入すること等を内容とする覚書を作成した(甲二一号証)。右南洋美術品は、控訴人が昭和六一年七月一〇日頃、七〇〇〇万円で購入したものであり(乙三七号証)、当初、塩沢町に寄付することを考えていたものであった。
後に、塩沢町は右南洋美術品の購入代金を三億二〇〇〇万円と決定した。右南洋美術品は、昭和六二年三月三一日頃、塩沢町に納入された。
(5) 塩沢町職員は、丙土地の寄附につき、同年三月二日、控訴人、丙土地の抵当権者であるインターナショナル・ファクタリングの親会社である太陽神戸銀行職員らと話し合い、<1> すでに、控訴人とみのり管工との間で丙土地の売買契約書が取り交わされているので、塩沢町へ寄附後もこれに添った処理をすること、<2> 塩沢町は、議会の議決を受けて丙土地の寄附を受け、所有権移転登記を経た後、控訴人に委任して丙土地をみのり管工へ売り渡すこと、<3> みのり管工は武田住宅総合サービスに丙土地を転売するので、塩沢町は武田住宅総合サービスに対し、所有権移転登記をすること、<4> 右各所有権移転登記は同年三月二四日に行うこと等を合意した(乙二六号証)。
(6) 塩沢町は、同年三月六日、丙土地の寄附採納の議会議決を行った(甲二二号証)。同月七日、右(5)の合意に基づき、塩沢町から控訴人宛に、丙土地を売却するについての委任状(乙二七号証)が交付された。
同年三月九日、丙土地につき、控訴人から塩沢町に対する、同月六日寄附を原因とする所有権移転登記がなされ、同月一三日、農地転用の届出がされた。
同年三月一八日、売主塩沢町と買主富士建設との間で、みのり管工を名義上の買主として、丙土地につき代金を八億二八八四万円とする売買契約書が作成された(甲一二号証)。控訴人がこの契約上の塩沢町側の立会人となった。右代金額は、同年一月八日に、控訴人とみのり管工との間で交わされた「土地売買契約書」(乙七号証)の代金額と同額であった。
富士建設は、控訴人の要望に従い、右の塩沢町を介入させた迂回した手続きを経由することにより、結局、控訴人との当初の合意(乙七号証)どうりの内容で、丙土地を買い受けることとなった。
富士建設は、控訴人の右要望に沿う処理に協力したのみで、武田住宅総合サービスとの契約は、従前の同年一月二〇日付けの契約(乙二四号証)をそのまま生かすこととした。
(7) 丙土地についての、塩沢町からみのり管工、みのり管工から武田住宅総合サービスへの売買の代金決済、所有権移転登記手続等は、同年三月二四日になされることになっていた。
ところが、同月一九日、控訴人から塩沢町に、丙土地の代金の一部として五億〇八八四万円の振り込みがあり(乙三一号証)、残代金三億二〇〇〇万円は、控訴人が塩沢町に売り渡す南洋美術品の代金三億二〇〇〇万円と相殺した旨の連絡があると同時に、みのり管工から塩沢町に支払われる丙土地の代金八億二八八四万円をこれに設定されている抵当権の抹消費用として流用させてもらいたい旨の依頼があった。塩沢町職員はこれを承諾した。
(8) 同年三月二四日、控訴人、塩沢町職員、みのり管工の代理人として富士建設の代表者、武田住宅総合サービスの関係者、インターナショナル・ファクタリングの関係者等が集まり、丙土地売買の代金の決済等を行った。
当日、武田住宅総合サービスは、富士建設に対し、丙土地の売買残代金八億六七〇〇万円(代金一〇億七七〇〇万円から手付金二億〇一〇〇万円を差し引いた額)を数通の銀行小切手に分割して支払った(乙四七号証の二)。
富士建設は、インターナショナル・ファクタリングに対し、塩沢町との丙土地の売買代金額八億二八八四万円(これは、丙・甲土地を担保とする、控訴人のインターナショナル・ファクタリングに対する債務額と同額)から、先に控訴人のインターナショナル・ファクタリングに対する債務の一部として弁済した二億円を差し引いた六億二八八四万円を、武田住宅総合サービスから受領した同額の銀行小切手をもって支払った(乙四六号証の二)。富士建設は、これにより塩沢町に対する売買代金を完済したものと考えた。
塩沢町は、控訴人が塩沢町から南洋美術品の代金として三億二〇〇〇万円を受領した旨の「受領証」を用意してその席に臨み、これに控訴人の署名押印をもらい(甲二〇号証)、右代金を支払ったこととすることによって、これと控訴人から丙土地の売買残代金三億二〇〇〇万円(みのり管工との売買代金八億二八八四万円から控訴人より先に振り込みのあった五億〇八八四万円を差し引いた額)の代位弁済を受けたとすることとを、相殺処理したとする書類上の形式を整えた。実際には、塩沢町は、同日、南洋美術品の購入費として第四銀行塩沢支店の塩沢町の当座預金口座から三億二〇〇〇万円を小切手で引き出し、同日、その小切手を丙土地の売買残代金の支払い分として同支店の塩沢町の普通預金口座に入金するという内部的な帳簿上の操作を行った(乙甲三三号証の一ないし三、三四号証)。
塩沢町は、これにより、丙土地の売買代金を控訴人から代位弁済を受けたものと処理した(乙三五号証)。
以上により、当事者間の丙土地の売買をめぐる代金決済は、異議なく終了した。
同日、丙土地につき、塩沢町は所有権移転登記に必要な書類を控訴人に渡し、塩沢町から武田住宅総合サービスに対する所有権移転登記がなされ、また、インターナショナル・ファクタリングを抵当権者・控訴人を債務者とする抵当権も抹消された。
(9) 以上の処理で、控訴人は、丙土地の所有権を富士建設を経由して最終的に武田住宅総合サービスに移転し、その対価として、富士建設を経由して本件準備書面及び本件協定書で富士建設と合意した代金額八億二八八四万円を所得するとともに、塩沢町に現金五億八八四万円と南洋美術品(七〇〇〇万円相当)の所有権を移転したことになった。
(八) 控訴人は、昭和六二年五月一四日、乙土地につき農地転用の届出をし、同月二〇日、富士建設に対し、乙土地を本件協定書で合意した代金八億二八五一万円で売却し、同日、富士建設に所有権移転登記をした。
富士建設は、同年六月二四日、乙土地を株式会社穴吹工務店に転売し、その代金の内から、本件協定書で合意したとおり、控訴人の右(五)認定の三菱銀行に対する債務を代位弁済し、控訴人との乙土地の売買代金を決済を終えた。
なお、三菱銀行を根抵当権者とする乙土地についての根抵当権は、同年九月三〇日、抹消された。(甲一、一三号証、乙一一ないし一三号証、四一号証の一、二、四二号証の一、二、四三ないし四五号証)
右のとおり認められる。
2 右認定の事実によれば、控訴人は、富士建設と昭和六一年六月頃の本件準備書面で、同年一一月中に本件土地のすべてを代金総額二四億八六〇四万円(坪単価一五〇万円)で売買し、その決済を完了することを合意していたところ、本件土地を甲・乙・丙土地に分筆したのは、本件土地を国土法による規制を回避して一括して右坪単価で売買するための便法にすぎず、控訴人は、同年九月三〇日に分筆後の甲土地を富士建設に代金八億二八六九万円で売り渡した後、同年一〇月三一日、丙土地を担保に(甲土地と共同担保)、インターナショナル・ファクタリングから八億二八八四万円を借り入れ、さらに、同年一一月二九日、乙土地を担保に三菱銀行から実質的に八億二八五一万円を借り入れることによって、本件準備書面で合意した、同年一一月中には本件土地のすべてを代金総額二四億八六〇四万円で売買することの実質的・経済的な目的を遂げ、その後、控訴人は、丙土地については、富士建設(そのダミーであるみのり管工)に対し遅くとも昭和六二年三月二四日までに、乙土地については、富士建設に対し同年五月二〇日、それぞれ売り渡し、その売買代金(富士建設の転売代金)をもって、インターナショナル・ファクタリング及び三菱銀行に対する右各債務を弁済することにより、昭和六二年中には、本件準備書面で意図した本件土地の売買を完了したものというべきである。
右のとおりであり、本件土地は、控訴人から富士建設に一括譲渡するために、便宜、甲・乙・丙土地に分筆され、それが順次富士建設に譲渡されることにより、一括譲渡の目的が遂げられたものというべきで、本件の争点の限りにおいていえば、本件土地は富士建設に対し一括譲渡されたものというべきである。
以上説示のとおりであり、争点1についての控訴人の新たな主張は理由がない。
二 争点2について
前認定のとおり、控訴人が塩沢町に丙土地の寄附採納申請をした昭和六二年二月の時点では、控訴人はすでに丙土地を富士建設(名義上、みのり管工)に売却済みであったのであり、現に、控訴人は、「丙土地の寄附」に当たって、同年三月、塩沢町に対し、控訴人とみのり管工との間ですでに丙土地の売買契約書が取り交わされているので、塩沢町へ寄附後もこれに添った処理をするように申し入れていること、塩沢町が寄附を受けたという後においても、丙土地の処分については、所有者であるべきはずの塩沢町の意志は全く働いておらず、塩沢町は控訴人の指示のままに、丙土地の寄附を受けた後、これを控訴人から富士建設への売買と同一条件でみのり管工へ売却し、その代金の決済をめぐっては、控訴人との間で不明朗といわざるを得ない帳簿上の操作を行っているにすぎないこと等に鑑みれば、控訴人の丙土地の塩沢町への寄附というものが、控訴人から富士建設への売買の中間に、控訴人の意思に基づき形式的に介在させられた実体のない仮装のものであったこと、すなわち、控訴人から塩沢町への寄附、塩沢町からみのり管工への売買という形式を仮装するためのものであったことは明らかといわなければならない。
なお、控訴人は、本件での真の争点は、修正申告にいう、控訴人から塩沢町に対する「現金五億〇八八四万円及び南洋美術品(七〇〇〇万円相当)の寄附が事実か否か」である旨主張する。
前記認定の本件における事実の経緯に照らせば、控訴人から富士建設に対する本件土地の一括譲渡の過程において、控訴人が修正申告した、控訴人から塩沢町に対する現金五億〇八八四万円及び南洋美術品(七〇〇〇万円相当)の寄附の事実があったといえることは明らかである。
右のとおりであって、争点2についての控訴人の新たな主張も理由がない。」
3 原判決三五枚目表九行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「五 争点5(控訴人の当審における新たな主張)について
1 争点5(一)について
控訴人は、甲土地の譲渡所得を昭和六一年分の所得として申告・納税したのであるから、昭和六二年分の所得として申告しなかったのは当然で、そのことに「正当な理由」がある旨主張する。
しかしながら、控訴人は、本件土地の一括譲渡による国土法の規制を免れる目的で、本件土地を三区画に分筆し、本来は本件土地の譲渡所得を一括譲渡として昭和六二年分として確定申告すべきなのに、甲・乙土地につき、個々の区画の譲渡であるとして昭和六一年分と昭和六二年分に区分して確定申告したひとつとして、甲土地の譲渡所得を昭和六一年分の所得として申告・納税したにすぎないから、それを昭和六二年分の所得として申告しなかったことの「正当な理由」となし得ないことは明らかといわなければならない。
2 争点5(二)について
控訴人は、「現金五億〇八八四万円と南洋美術品の寄附」は丙土地の寄附の仮装行為の一部であることは明らかであり、「隠ぺいし又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるもの」に該当しない旨主張する。
しかしながら、本件修正申告において、仮装したものとされたのは控訴人の塩沢町への丙土地の寄附であり、現金五億〇八八四万円と南洋美術品の寄附はなされたものとされたのであるから、これを「隠ぺいし又は仮装されていないものに基くことが明らかであるもの」として、通則法六八条一項の「当該基礎となるべき税額」の算定をしたことに違法はないといわなければならない。
3 争点5(三)について
控訴人が、争点5(三)において主張する点は、仮定の議論であり、かつ、控訴人が甲土地の譲渡所得を昭和六二年分の所得として申告しなかった「正当な理由」があるといえないことは右の判断したとおりであるから、右主張は理由がない。」
第五結論
よって、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野寺規夫 裁判官 清野寛甫 裁判官 坂本慶一)