大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(行コ)28号 判決 1994年6月29日

東京都三鷹市井の頭三丁目三三番二号

控訴人

武藤郁子

右訴訟代理人弁護士

宮下啓子

宮下明弘

東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号

被控訴人

武蔵野税務署長 青山泰三

右訴訟代理人弁護士

中村勲

右指定代理人

小池晴彦

時田敏彦

齋藤春治

鍋内幸一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成二年七月三一日付けでした控訴人の平成元年分の所得税についての更正のうち、譲渡所得金額二四八六万九九九円及び納付すべき税額四九三万二〇〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分

(ただし、いずれも平成二年一二月二六日付けの被控訴人の異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二当事者の主張、証拠及び当裁判所の判断

当事者の主張及び当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄に記載のとおりであり、証拠の関係は、原審記録中の証拠目録に記載のとおりである。

一  原判決五枚目表六行目に「本件契約」とあるのを「本件土地の売買契約」と改める。

二  同六枚目表四行目及び六行目の「本件更正」の次に「(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)」を加える。

三  同一〇枚目裏九行目に「原告ら」とあるのを「控訴人」と改める。

四  同一二枚目表九行目から一〇行目に「かんがみるべき」とあるのを「考慮すべき」と改める。

五  同一二枚目裏五行目から六行目にかけて「本件土地を売却するための準備行為の一環として」とあるのを「これを」と改め、六行目の「了解していたものというべきである」の次に「(本件駐車場事業を停止したことを了解していなくとも、家屋の解体費用等は支払わざるを得なかったものと考えられるが、控訴人は、伊井を被告として本件土地の所有名義を被相続人に移転することを求める訴訟は直ちに提起しているのに、本件駐車場事業を継続するための手段は何ら取っていないのであるから、やはり右事業を停止すること自体は了解していたものと認められる。)」を加える。

六  同一三枚目表四行目から同裏五行目までを次のとおり改める。

「 しかしながら、事業用資産を買い換えるためには、その準備として、これを事業の用に供することを停止する必要がある場合があるとしても、右供用停止後も事業用資産としての性質を失わないというためには、買換えを図る目的による供用停止後譲渡までの期間が、買換えの準備をするために要する客観的に相当の期間内でなければならないと解される。そして、前記のとおり、本件駐車場の設備等からすれば、その事業停止後、これを譲渡するための準備にそれほどの時間を要するとは考えられない。駐車場利用者との契約関係の解消も何ら困難ではなく、短期間に可能であるのが通例である。したがって、控訴人としては、本件土地の売却についてある程度の目処がついた時点で本件駐車場事業の停止をしても何ら支障はなかったはずである。ところが、控訴人は、昭和六二年七月の時点における本件駐車場事業の停止を了解し、事業を再開する試みも全くしていないのであるが、右時点における事業の停止は、買換えの準備をするために客観的に必要であったと認めることはできない。以上のような理由によって、本件事業停止から売却までの約一年九か月という期間は、買換えの準備をするために要する客観的に相当な期間であるということはできない。なお、本件土地の売却の準備として、控訴人が主張するように、境界確定、測量、分筆、遺産分割協議、国土利用計画法に基づく届け出等が必要であり、これらの手続に相当の期間を要することは明らかであるが、これらの売却準備行為や遺産分割協議は、本件駐車場事業を停止した後でなければできないというものではないから、供用停止後譲渡までの買換えの準備に要する客観的に相当な期間とはどの程度の期間であるかを考えるに当たって、これらの手続きに要する期間を考慮する必要はない。

また、控訴人は、遺産分割調停成立後に本件土地を売却する予定であったので、新たに事業に供さなかった旨主張するが、右のとおり、本件土地を売却するためには昭和六二年七月の時点で本件駐車場事業を停止しなければならない事情は全くなかったのに、控訴人がこの時点における事業停止を了解し、再開の試みをしていないことからすると、控訴人には当初から本件駐車場事業を継続する意思はなかったものと推認される。控訴人の右主張は、前提を欠くものであり、失当である。」

第三結論

以上のとおり、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本訴控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋欣一 裁判官 矢崎秀一 裁判官 浅香紀久雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例