東京高等裁判所 平成6年(行コ)50号 判決 1995年1月30日
神奈川県平塚市花水台三九番二〇号
平成六年(行コ)第五〇号事件控訴人
内藤正彦
(以下単に「控訴人」という。)
神奈川県鎌倉市津西二丁目一一番一号四
平成六年(行コ)第五一号事件控訴人
内藤功子
(以下単に「控訴人」という。)
神奈川県平塚市代官町三番一七号アマヤビル五〇一
平成六年(行コ)第五四号事件控訴人
内藤直樹
(以下単に「控訴人」という。)
右控訴人ら訴訟代理人弁護士
平林正三
同
田口哲朗
同
山田裕明
神奈川県平塚市松風町二番三〇号
平成六年(行コ)第五〇号事件被控訴人・同五四号事件被控訴人
平塚税務署長
(以下単に「被控訴人」という。)
神野正男
神奈川県鎌倉市佐助一丁目九番三〇号
平成六年(行コ)第五一号事件被控訴人
神奈川税務署長事務承継者
(以下単に「被控訴人」という。)
鎌倉税務署長 澤内弘道
右被控訴人ら指定代理人
比佐和枝
同
田部井敏雄
同
小笠原英之
同
戸田信之
同
渡辺進
主文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 平成六年(行コ)第五〇号事件
1 控訴人内藤正彦(以下控訴人「正彦」という。)
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人平塚税務署長が控訴人正彦に対し、平成元年九月二七日、控訴人正彦の昭和六二年分の所得税についてした更正処分のうち、分離長期譲渡所得の金額八一二八万四〇二五円を超える部分及び過少申告加算税賦課処分を取り消す。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人平塚税務署長の負担とする。
2 被控訴人平塚税務署長
本件控訴を棄却する。
二 平成六年(行コ)第五一号事件
1 控訴人内藤功子(以下控訴人「功子」という。)
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被事務承継者神奈川税務署長が控訴人功子に対し、平成二年七月三一日、控訴人功子の昭和六二年分の所得税についてした更正処分のうち、分離長期譲渡所得の金額八一二八万四〇二五円を超える部分及び過少申告加算税賦課処分を取り消す。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人鎌倉税務署長の負担とする。
2 被控訴人鎌倉税務署長
本件控訴を棄却する。
三 平成六年(行コ)第五四号事件
1 控訴人内藤直樹(以下控訴人「直樹」という。)
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人平塚税務署長が控訴人直樹に対し、平成元年九月二七日、控訴人直樹の昭和六二年分の所得税についてした更正処分のうち、分離長期譲渡所得の金額二六四六万三八〇六円を超える部分及び過少申告加算税賦課処分を取り消す。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人平塚税務署長の負担とする。
2 被控訴人平塚税務署長
本件控訴を棄却する。
第二事案の概要
本件事案の概要は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」(原判決二枚目裏一一行目から同一二枚目表六行目まで)に記載のとおりであるから、これをここに引用する。)
一 控訴人らの主張
1 本件遺産分割の実質的内容が換価分割であるか代償分割であるかを判断するに当たっては、亡内藤治貞の共同相続人である内藤榮子、内藤脩治、内藤靖治及び内藤嘉明(内藤榮子ら四名)の受けた生前贈与の有無、内容を考慮すべきである。内藤榮子ら四名が生前贈与を受けた財産の評価額は土地の合計額だけで原判決別紙物件目録記載の土地建物(本件物件)の評価額の約六割に相当するのであり、これらの点などが考慮されて本件遺産分割協議書の作成に至ったのであるから、代償金の金額や本件物件の売買価額だけでなく右生前贈与の内容等の実質に着目して、本件遺産分割を換価分割と判断すべきである。
2 代償分割であると認定するためには、代償分割の実益があることが必要である。代償分割をした後に不動産を売却すると本件に表れたような課税上の不利益を被るのであるから、その不利益を被ってまで取得者に不動産を保有する利益がある場合にはじめて代償分割と認めるべきである。本件では、遺産分割協議書の作成と不動産の売却とが同時であり、控訴人らは不動産を保有する利益、したがって代償分割をする利益を全く有していなかったのであるから、代償分割と認定されるべきではない。
3 本件遺産分割は、その内容を代償分割と考えると、控訴人ら及び内藤洋子(控訴人ら四名)の認識していた代償金四〇〇〇万円と内容榮子ら四名の認識していた代償金七八〇〇万円とが一致していないから、共同相続人の意思の不一致による協議不成立もしくは錯誤による無効とならざるをえないので、これを換価分割と考えるべきである。すなわち、共同相続人の内部関係では不動産の売却代金のうち四〇〇〇万円を内藤榮子ら四名が取得するという遺産分割協議が成立したが、不動産の買主との外部関係においては売主である内藤榮子ら四名が買主と極秘で交渉して三八〇〇万円の裏金を取得したものと認定すべきである。
二 被控訴人らの主張
控訴人らの前記1ないし3の主張はいずれもこれを否認ないし争う。
第三証拠関係
証拠の関係は、原審及び当審記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
第四争点に対する判断
当裁判所は、控訴人らの本訴各請求はいずれも理由がなくこれらを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の事実及び理由中の「第三、争点に対する判断」に記載の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
一 原判決一三枚目表五行目の「三〇〇〇万円」を「六〇〇〇万円」と同六行目の「六〇〇〇万円」を「三〇〇〇万円」と、同一〇行目の「その後」から同行目の「欲しい」までを「内藤榮子ら四名から約二か月後の昭和六一年八月末ころ右金額を四〇〇〇万円に、さらに同年一〇月ないし一二月ころ右金額を六〇〇〇万円にそれぞれ増額して欲しい」とそれぞれ改め、同一三枚目裏三行目の「おいては、」の次に「共同相続人全員が売主となって」を加える。
二 同一三枚目裏一一行目の「もと」の次に「それぞれ」を、同一四枚目表七行目の「ものである」の次に「(項六八号証、乙四号証、八号証の一、二、原審における証人内藤脩治の証言によれば、内藤脩治は本訴物件に隣接して平塚市明石町二四番一二宅地一四三・一四平方メートルを所有していたが、本訴の調定が不成立になる前の昭和六一年五月二四日すでに右隣接地を勝詠産業株式会社に対し代金一坪当たり約一五〇万円で売却しており、調定不成立の当時控訴人ら四名による本件物件の売却とは何らの利害関係も無くなっていたことが認められ、右事情に照らすと、内藤榮子ら四名が、本件物件が売却された場合に代償金三〇〇〇万円、売却されない場合により高額の代償金六〇〇〇万円の支払を求める案を提示するということは極めて不合理であり理解しがたい。)」をそれぞれ加え、同九行目の「また」から同一一行目の「こと」までを「また原審において証人内藤脩治は、調定不成立が宣せられた直後にしかも右のような内容の提案をしたことはなかったと明確に否定している上、同証人が右のような不合理な提案をしたのではないかと窺われる特別の事情も見当たらないこと(控訴人正彦は原審において、内藤脩治が前記隣接地を有利な条件で処分するため控訴人ら四名に早く本件物件を売却させようとして右のような奇異な提案をしたかの如く供述するが、当時すでに右隣接地の処分が済んでおり、内藤脩治が本件物件の売却と利害関係を有していなかったことは前記のとおりである。)」と改める。
三 同一五枚目表七行目の「また、」の次に「原審における控訴人正彦本人尋問の結果」を加え、同行目の「によれば、」を「、八号証の一ないし五を総合すると、」と改め、同一五枚目裏一行目の「なされ」の次に「(項五五号証によれば、調定不成立(同年七月一日)『以前にも当事者の一人から類似の提案がなされたことがあった。)」を、同一〇行目の「こと、」の次に「控訴人ら四名は、内藤榮子ら四名との間で成立した代償金合計四〇〇〇万円の支払合意が再び崩れることを恐れて、本件物件を遺産分割協議が成立した同じ日に大貫茂に代金四億円で売却することを内藤榮子ら四名に隠していたこと、」を同一六枚目表六行目の「取得し、」の次に「控訴人ら四名が本件物件をいつ、だれに、いくらで売却するかに関係なく、」をそれぞれ加え、同七行目の「金銭」を「代償金四〇〇〇万円」とそれぞれ改める。
四 同一六枚目裏八行目の末尾に続けて「そして右三八〇〇万円が売買代金の一部であるとか、右三八〇〇万円が代金の一部であるとして内藤榮子ら四名も本件物件の売主になるものと認めることはできない。」を加え、同八行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「控訴人らは、当審において、本件遺産分割は、代償金の額について共同相続人全員の認識が一致していないから、不成立ないし錯誤により無効であると主張する。しかし前記認定のとおり、控訴人ら四名及び内藤榮子ら四名の共同相続人間において、亡内藤治貞の遺産である本件物件について、控訴人ら四名がこれを取得しその代償として内藤榮子ら四名に対し四〇〇〇万円を支払うとの遺産分割協議が成立し、控訴人ら四名は、右分割協議の内容に基づき、本件物件を取得して内藤榮子ら四名に対し代償金四〇〇〇万円のみを支払い、同人らとの間で何ら紛争なくすでにその履行を完了しているものであり、控訴人ら四名にとっては、代償金の額につき認識と事実との間に何ら不一致がないから、本件遺産分割協議につき不成立ないし要素の錯誤があったとはいえない。したがって、控訴人らの右主張は理由がない。
また、控訴人らは、代償分割であるか換価分割であるかを判断するにあたっては、内藤榮子ら四名が受けた生前贈与の有無等を考慮すべきであると主張する。しかしながら本件においては、右生前贈与の有無、評価等をめぐって共同相続人の各意見が対立し、約三年間にわたる調定においてもその調定ができず各意見が食い違ったままでその確定をすることなく本件遺産分割協議の成立に至ったものであるから、生前贈与の有無等を認定しこれを考慮して遺産分割の内容につき代償分割であるか換価分割であるかを判断することは、各共同相続人の認識と齟齬をきたし相当でない。そして生前贈与の有無、評価額等を明らかにしこれを含めて内藤榮子ら四名の取得した代償金と控訴人ら四名の取得した本件物件の価額とを対比し、両者のつりあいが取れているからといって、直ちに換価分割にあたると認定すべきものでもない。
更に控訴人らは、代償分割をした後に不動産を売却すると課税上の不利益を被るのであるから、その不利益を被ってまで不動産の取得者にこれを保有する利益がある場合にはじめて代償分割と認定されるべきである旨主張するが、控訴人ら四名は、本件遺産分割協議の成立により、本件物件の所有権を完全に取得し、内藤榮子ら四名の関与を排除して、控訴人ら四名の自由意思でこれを保有し続けるか売却処分するかを決め、また、控訴人ら四名が定めた任意の時期に、任意の価額で本件物件を処分することができることとなったものであるから、控訴人ら四名には本件物件を保有する利益があったものというべきである。結果的に、控訴人ら四名が本件遺産分割協議の成立と同じ日に本件物件を処分したとしても、それは控訴人らがその自由意思により処分の時期を選択した結果にすぎず、それをもって、控訴人ら四名に本件物件を保有する利益がなかったとはいえない。」
第五結論
よって、原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 丹宗朝子 裁判官 新村正人 裁判官 市川頼明)