東京高等裁判所 平成7年(ネ)1138号・平8年(ネ)364号 判決
民事調停規則六条四項が準用する民事訴訟法一一二条、民事訴訟規則二条の二は、担保を供する方法として、銀行等との間において支払保証委託契約を締結することを認めるが、この支払保証委託契約は、担保を供することを命じられた者が将来担保権利者に対し負担することのあるべき債務につき銀行等に保証を委託するものであって、金銭や有価証券の供託による担保提供が物的担保(民事訴訟法一一三条参照)を供するものであるのに対し、いわば人的担保を供するものである。また、右供託の方法による担保の提供は担保提供義務者以外の第三者によることも許されると解されるが、この場合、右第三者は、供託した金銭等につき質権と同一の負担を受けるのみであって、自ら担保権利者に対し債務を負担するものではない。そして、支払保証委託契約締結による担保の提供についても、本件のように第三者がこれをすることも許されると解され、現に実務において行われていることは当裁判所に顕著であるところ、被控訴人らは、その場合、支払保証委託契約を締結した第三者(本件における控訴人。以下、括弧内に本件においてその立場にある者を示すことがある。)は担保権利者(被控訴人ら)に対し保証債務を負担することになると主張する。
しかしながら、右主張のように解すると、右第三者(控訴人)は、支払保証委託契約に定められた限度額の範囲内では、同契約を離れて、担保権利者(被控訴人ら)から直接保証債務の履行を求められ、その一般財産に対して強制執行を受けることもあり得ることになり、前記の第三者による供託の場合に比し、その立場が著しく異なることになる反面、銀行等は、本来の担保提供義務者(八木)の債務ではなく、右のような第三者(控訴人)の債務を保証することとなる。右のような結果は、第三者による支払保証委託契約を締結する当事者の意思はもとより、これによる立担保を認める裁判所の決定の趣旨に合致するとは到底考えられない。また、前記の民事訴訟法や民事訴訟規則の規定が、第三者が担保権利者に対し保証債務を負担し、銀行等がこれを更に保証することを予定しているとは解し難い(第三者による支払保証委託契約の場合に、民事訴訟規則二条の二第一項一号の「担保を供すべきことを命じられた者」を当該契約を締結した第三者であると解すると、担保権利者は、その権利実行のためには常に右第三者に対し同号に定める債務名義等を取得する必要が生じる。)。したがって、第三者による支払保証委託契約の趣旨は、第三者(控訴人)が、銀行等に対し、執行停止の申立て等をした本来の担保提供義務者(八木)に代わって、その者が将来担保権利者(被控訴人ら)に対し負担することのあるべき債務を保証することを委託するものであり、この場合も、民事訴訟規則二条の二第一項一号にいう「担保を供すべきことを命じられた者」は、本来の担保提供義務者(八木)がこれに当たるというべきである。
もっとも、乙二号証及び三号証によると、本件保証委託契約書においては控訴人が「保証委託者(担保提供義務者)」として表示されており、控訴人が担保提供義務者であることを前提としているようにも見られるが、もともと第三者による支払保証委託契約の締結は民事訴訟法や民事訴訟規則が当然予定していたものではなく、右契約書の様式も、第三者による支払保証委託契約のために特別に作成されたものではなく、一般の契約と共通のものであることは当裁判所に顕著であるから、右の契約書の記載も、本件保証委託契約について前記のように解する妨げとはならない。
(荒井史男 田村洋三 鈴木健太)