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東京高等裁判所 平成7年(ラ)1006号 決定 1995年10月30日

抗告人

亡宇田川千雅子相続財産

右相続財産管理人

弁護士

竹内一男

相手方

東建ビジネス株式会社

右代表者代表清算人

田中至

主文

一  本件執行抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件執行抗告の趣旨は、「原決定を取り消し、債権者の債権差押命令申立てを棄却する」との裁判を求めるというものであり、その執行抗告の理由は、別紙執行抗告状及び抗告理由書に記載のとおりであり、要するに、相続人不存在の相続財産管理人は、一般債権者に対しては、担保権を有する債権者への弁済後に債権額の割合に応じて配当弁済をすることが義務付けられているから(民法九五七条二項、九二九条、九三四条)、本件債権者の一般債権は右配当手続によってのみ弁済を受けることができるのであり、本件債権差押手続によって弁済を受けることは違法であるというものである。

二  そこで、判断するに、本件記録によれば、宇田川千雅子(以下「宇田川」という。)は、平成三年一二月二四日に死亡し、東京家庭裁判所において、平成四年九月一日、同人の相続財産管理人として抗告人が選任されたこと、抗告人は、同年一二月二四日付け官報において、宇田川の相続人のあることが不明であるから一切の相続債権者及び受遺者は公告掲載の日の翌日から二か月以内に請求の申出をするよう公告したこと、原裁判所は、右公告期間満了後である平成七年七月一三日、相手方の宇田川の相続財産に対する、東京地方裁判所平成七年ワ第四八一九号貸金請求事件の執行力のある確定判決を債務名義として、右相続財産が有する第三債務者亜土部建設株式会社他一二名に対する各賃料債権について本件差押命令を発したことが認められる。

ところで、相続人不存在の場合の相続財産は、相続財産法人として相続財産管理人がその財産の清算手続を行うものとされており、相続債権者及び受遺者に対し、請求申出の公告等をし、右手続終了後(公告期間満了後)に、まず優先権を有する債権者への弁済をし、その後に一般債権者に対して債権額の割合に応じて、その後に受遺者に対して弁済をする旨、相続財産の額が債権額に満たないときにはそれぞれの債権額の割合に応じて配当弁済をする等その手続が定められており(民法九五七条、九二九条)、一般債権者の間において公平を期する手続が定められ、また、相続財産管理人は、不当な弁済をして損害を与えた場合には損害賠償義務を負うものとされている(同九三四条)。

しかし、前記公告期間満了前は、相続財産管理人は相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができるから(九五七条二項、九二八条)、民事執行法三九条一項八号を類推して、右期間満了に至るまで執行手続を停止すべきではあるが、右期間満了後は、債務名義を得ている一般債権者がその権利行使のために強制執行手続をすることについて、これを許されないものと解すべき根拠はなんらない。このことは、強制執行はその開始後に債務者が死亡し債務者の相続人の存在又はその所在が明らかでない場合においても続行することを予定している規定があり(民事執行法四一条)、強制執行開始前に債務者が死亡し、債務者の相続財産管理人が選任された場合に相続財産管理人に対する承継執行文の付与を禁止する規定がないことに照らせば、民事執行法上、相続財産管理法人に帰属する相続財産に対しても相続債権者が強制執行をしてその権利の実現を図ることができることが予定されているものというべきである。

なお、抗告人は、一般債権者の債権差押手続を認めることによって、他の一般債権者に対して相続財産をもって債権を完済できない場合に債権額の割合による配当をして一般債権者の公平を期している民法の前記諸規定を無意味にする旨主張するが、相続財産管理人は、かように一般債権者が個別に相続財産に対する強制執行によって権利の実現を図る場合においては、相続財産をもって債務を完済できないことが明らかになり、公平に弁済して清算すべき義務の履行が不可能になった場合には、直ちに破産申立てをすることが要請されており(破産法一三六条二項)、一般債権者の個別執行による偏頗な弁済の結果が生じるおそれのあるときは破産手続に委ねることを法が予定しているものと考えるのが相当である。

三  以上によれば、原裁判所が宇田川の相続財産の有する債権を差し押さえた点になんら違法はなく、その他、本件記録によっても本件差押命令に違法な点は見当たらない。したがって、本件執行抗告は理由がなく、棄却されるべきである。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官鬼頭季郎 裁判官林道春 裁判官三村晶子)

別紙執行抗告状<省略>

別紙抗告理由書<省略>

別紙債務一覧表<省略>

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